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異世界恋愛オムニバス  作者: カレーピラフ
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図書室

 昇降口から外を眺めていると自然とため息が出た。


「はぁ……雨かぁ。傘、持ってくるんだった」


 朝の時点で曇り空だったのだけれど、少し寝坊してしまい天気予報を確認している余裕はなく遅刻ぎりぎりの登校だったのだ。


 ぼんやりと空を見ながら雨足が弱まるのを見計らっていると、後ろから声をかけられた。


「今から帰り?」


「はい。でも、傘を忘れてしまって」


 彼は魔法科の授業でお世話になっている先輩。優しくて魔法も上手で女子からの憧れの的だ。


「一緒に入ってく?って言いたいところなんだけど、生憎僕も傘を持っていなくてね。ごめんよ」


「い、いえ!先輩が謝る事ではないです!」


「あ、そうだ」


 先輩は何かを閃いたのか、魔法を展開し始めた。


天候(ウェザー)操作(オペレーション)!!!」


 先輩が空に向け手をかざすと、立ち込めていた雨雲に、この辺り一帯だけぽっかりと晴れ間が出来た。


「さあ、これで一緒に帰れるね」


 私に向かって微笑んだ先輩に胸がときめき張り裂けそうになる。


「は、はい!」


 魔法で作られたこの瞬間の晴れ間は、先輩が私のためだけに作ってくれたのだと思うといつにも増して輝いて見えた。





 …………。


 アキラは読んでいた恋愛小説をパタンと閉じた。


「いろいろ言いたいことはあるが、天気を変えるなんて大魔法、もっと別の使い道はなかったのだろうか」


 ツッコミを入れつつ現実逃避をする。なぜこんなファンタジーラブコメ小説を読んでいたかというと、アキラはここ最近気になっている同学年の女の子がいるのだが、その子はよく本を読んでいて今日の放課後も図書室にいるかと下心丸出しで図書室に寄ると、案の定その女の子を発見。


 本を探すフリをしつつどうやって話しかけようかとアキラがウロウロしていると、向こうから気付いて話しかけてきてくれたのだ。決して不審者に思われたからではないと思いたい。


「なにか探しているの?」


 落ち着いた声色のその女の子は、灰色掛かった金糸のようなシュートカットで耳が長く尖っているエルフよりは丸く短いが人間と比べると長めの耳に、ずっと目を合わせていると吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る翡翠色の切れ長の瞳、スッと通った鼻筋に肌が透き通るような白色のため紅く浮き上がった妙に艶めかしい唇をした、美人の中に少しあどけなさを含んだハーフエルフと呼称される種族であった。


 エルフとは男女ともに整った容姿をしており、それ故なのかプライドの高い者が多い。


 ハーフエルフの彼女は、そのCG染みた容姿のエルフに人間の血が混ざることで、整っていることに違いはないが親しみやすさを覚える顔立ちをしている。


「あー、リサ。図書室で会うなんて偶然だね。うん、普段あんまり本を読まないんだけど、たまには読んでみようかと思って。何かオススメってある?」


 アキラは、あなた目当てに図書室に来ましたとも言えず、とりあえず当たり障りのない返答をした。


「うーん、私が普段読んでいるのはあまり勧められないなぁ……あ、この作者は最近人気らしい」


 そう言われて借りてきたのがアキラが先ほど読んでいた小説『憧れの先輩に恋の魔法をかけられて』だ。


 登場人物が下級生から人気の先輩という時点で、同性のアキラからするとなんだかハッキリと言えない不快感のようなものがあったのだが、勧めてもらった手前読んで感想を伝えるのが礼儀だと思い、砂糖を吐きそうになりながらなんとか読み切ったのだった。


 翌日の放課後、再び図書室で待ち伏s…ではなく、借りた本の返却に向かうと、既に席に座り本を読んでいたリサがアキラに気付き本を閉じて近くに寄る。


「あら。昨日の本はもう読み終わったの?」


「うん、昨日帰った後ずっと読んじゃってさ」


「へぇ~。そんなに面白かったの?」


「そうだね…なんというか、女の子はこういうのに憧れたりするのかなぁって勉強にはなったかな」


「そうなの。私は読んだことないのだけれど、面白かったのなら良かったわ」


「えぇ!?オススメじゃなかったの?」


「言ったでしょう?この作者は最近人気()()()って」


 フフっと悪戯に成功したように微笑むリサにアキラは内心ドキドキしつつ不貞腐れたようなフリをして返事をする。


「リサが勧めてくれたから読んだのに……じゃあさっきまで読んでたのはどんな本なの?」


「ん?これ?」


 そう言ってリサは手にしていた本の表紙をアキラに向ける。


「なになに…『魔法発動における詠唱・無詠唱によるそれぞれの利点と欠点』…?」


 異世界と呼ばれる、隣に存在していたが決して交わることのなかったアキラの住む世界と裏表の関係にあった別の世界とが部分的に繋がり数十年経ち、異世界交流も行われるようになり、こうして海外どころか異世界留学が始まって数年。こちらの世界に来てまだ1年足らずのアキラは魔法という学科を学びやっとマッチ棒のような火を指先に灯せるようになったばかりで、詠唱という魔法を発動させるために最適化された呪文も短文のものしかまだ習っていなく、無詠唱なんていうのは何か聞いたことがあるといった認識だ。


「私もいつか戦闘で役立つかと思い無詠唱の練習をしているのだけれど、冒険者のようにダンジョンに潜ったりして魔物と戦ったりするのなら急な遭遇戦にも対応できるように無詠唱を覚えておくべきなのは間違いがないのだけれど、軍や警備のような対人戦が必要になり相手がしっかりと防具を着込んでいるようなら威力の弱い無詠唱魔法を放つよりも、時間を掛けてでも前衛を信じて火力のあるきちんとした詠唱魔法を放つべきなのかしら?軍で言えば更に大規模戦にでもなるのであれば効果範囲の広い大規模な詠唱魔法を-----・・・…


 こんな可憐な外見をしているリサなのだが、将来は魔法を活かした職業に就くことを前提に考えているのだとアキラは再確認し、片思いの相手を遠い存在に感じてしまうが、いつかは自分だってと弱気になっていまう自分を奮い立たせるのだった。

これを書いている間はずっとニヤニヤしてて楽しいです。

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