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番外編 ワールズレコード022:合成と精製

「――こういうこと聞くとアレだけどよ。お前らあの時もナンパみたいなマネしてたが……あの紋章の力をなんつーか、そういうこと(・・・・・・)に使ったりはしなかったんだろうな? こう、無理やりっつーか……」


「そういうことって……うーわ! イルヴィスクンってば発想が鬼畜ーぅ!」


「うぇーい鬼畜ーぅ!」


 おいやめろ。

 俺だってこんなこと聞かずに済むならそれにこしたことはないっての。


「はっ、そんなくだらねーことしねぇよ。……つか、俺らなら必要もないしな」


「そーそー! だいたいそれの何が楽しいのってヤツじゃん? 声かけてー、仲良くなってー、そーいう過程っての? 大事だと思っちゃうよねーやっぱり?」


「それ! 分かりみの深さえぐくね? つか言ったっしょ、『俺らそういうの許せないー』的な?」


 いやあれ煽りとかじゃなくて本音かよ。

 トリアとは違う意味で、良くも悪くも裏表のないヤツらなのかもしれんな。


 ……あくまでも、『良く』も『悪く』も、だ。


「んで? イルヴィスクンが聞きたかったことってそれなん?」


「あー、いや違うな、すまん。本当に聞きたかったのは……」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ワールズレコード022:合成と精製

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……と、まぁそんな感じでな、やっぱアイツらにあの紋章を施したのはマジューリカさんで間違いなさそうだ」


 トリア相手にそんな話をしながら、孤児院のキッチンを借りてデッドスパイスの毒抜きにとりかかる。


 安全とはいえ毒を扱う以上、念のために普段働いているサラやリラも含め、他のヤツらには部屋を外してもらっている。

 今ここに居るのは俺とトリアの二人だけだ。


「……ねぇおっちゃん? なんで今の話だけで、それがマジューリカさんだって分かったの?」


「え!? いやまぁそいつは……」


 シグのヤツが『ボンッキュッボンッ』とか言ってたんで分かりました。

 ……いや言えないよ? 言えないともさ。


 その辺はぼかしておいたんだが……。


「あーっと、あれだ。…………培われた冒険者の勘というか……」


「あ! 嘘ついた! もー! どうせおっぱいが大きかったとかそんな話してたんでしょ! おっちゃんのえっち!! 皆にもそう言っちゃうからね!!」


「おいまてまてって! 別に俺からそう話題を振ったワケじゃなくてだな……!!」


 ……なんでコイツこういう時の勘は抜群なの?

 おっさんちょっと背筋が寒くなるレベルよホント。



 ……

 …………

 ……………………


 手のひらに収まる小瓶の中に詰め込まれた、赤紫の小さな粒。

 この小瓶こそがマッドネスクッカーから手に入れた『デッドスパイス』だ。


 あとはちょうどいい大きさの桶に……。


「あ、きれい! えっと、これって『蛍水』だよね?」


 桶の中できらきらと光る水。

 それを見たトリアが、ちらりとこちらに視線を向けながら問いかけてきた。


「お、知ってたか、まぁ有名だしな。そんでもって、こいつは昨日の夜にあらかじめ窓際に置いといて、もう月や星の光を『転写』してある状態だ」


 蛍水は水面に映った光をそのまま蓄える習性がある。

 月の光は特にマナとの相性が良いらしく、こうすることによってマナの通りが良くなるって話だ。


 ……話だっていうか、俺も以前、偶然デッドスパイスを手に入れた時、一人で試してみたことがあるからな。

 流石に今回、ぶっつけ本番で毒をどうのってワケじゃあない。


「そんでだ、蛍水の中にこのデッドスパイスを……ざざーっと」


「うえぇ!? 猛毒なんでしょ!? そんな雑に扱って大丈夫なの!?」


「大丈夫だって、デッドスパイスの毒は胃酸に反応するんだよ。っつーワケで触ったぐらいじゃ影響はない。……一応言っておくが、間違っても口に入れたり飲み込んだりすんなよ?」


「もーしないよ! そんな子供みたいな扱いしてー!!」


 ポカポカと抗議をしてくるトリア。

 ふはは、効かん効かん! ガントレットがなけりゃ可愛いもんだね。


「悪かった悪かったって。……さてとトリア、スパイスが沈んでるこの蛍水に手を浸して……そう、それでいい。そのまま瞬間的に、ある程度一気にマナを流し込んでやってくれるか?」


「えっと、こう? こんな感じ? ……え、これだけでいいの?」


「あぁ、デッドスパイスの毒は『大きくて瞬間的なマナ』に弱いのさ。浸透した蛍水を通して、スパイスにもマナを流し込んでやるって寸法だな。あとはそれを繰り返してくれりゃあいい」


 助手にトリアを選んだのはそのためだ。

 俺を除いた中じゃコイツが一番、多量のマナを一気に放出するのに長けているからな。


 もちろん、俺がやってもいいんだが……この食材の量だからなぁ……。

 仕込みにも時間がかかるだろうし、ま、分担作業ってヤツだね。

 やっぱ大事よそういうの。


「おぉ……なんかぱちぱちいってるね! ……ちょっとポップコーンみたいでおいしそうかも?」


 ……いや、まぁ気持ちは分からんでもないが……頼むから、本当に『味見ー!』とか言いながら口に含んだりしてくれるなよ?




「――ねぇおっちゃーん! もうぱちぱちいわなくなったんだけどー?」


「お、そうか。ありがとな?」


「えへへー、まぁボクってば、やっぱり家庭的なところもあるからね!!」


 家庭的ね、まいいさ。

 上機嫌なトリアの頭をぐりぐりと撫でてやる。


「けど……水の中に入れてあったのに、なんだかカサカサになっちゃったね?」


「毒が抜けた証拠だよ。蛍水はそのまま流して捨てちまっていいぞ。毒は無いがえぐみ(・・・)が残って、料理なんかには使えんからな」


「はーい、じゃばーっと……」


 流し台で桶を傾けるトリアの横で、パチンとコンロに火をつける。

 空いているフライパンを用意し、そのままそこへ、トリアの言うカサカサになったデッドスパイスをざらざらっと投入。


「あとはこうして、乾煎りで余分な水分を飛ばしてっと……」


「ふわぁ……! なんかいいにおいしてきた……!」


「だろー? これが終わったらしばらく冷ましてから、ペッパーミルなんかで胡椒と同じようにで挽いてやれば完成だ」


 ま、それはロックラビットの下処理が終わってからでいいだろう。


「んふふー、明日が楽しみだなー! でもさ、おっちゃんよくこんなこと知ってたね? 毒抜きとか……」


「あぁ、そいつは以前リィンね……じゃない、リィンさんに教えてもらったんだよ」


 あの時は『なんだか良さげなモン見つけたんだけど!』って持ってったら『それ毒だよ?』ときたもんだ。

 食えるとわかるまでは割とショックだったねホント。


「ちなみに、こんな風に魔術なんかの儀式を介さず、異なる素材同士をかけ合わせたりして目的のアイテムなんかを作り出すことを、『合成』とか『精製』とかって言うらしいぞ」


「あ! 『アイテム合成』って聞いたことある!」


 より正確に言えば、素材同士の掛け合わせにより、まったく新しい効果や特性を生み出すことを『合成』。元からある効果や特性から、余分なものをそぎ落とすことを『精製』というらしい。


 となると……今回の場合は精製の方になるのかね。

 ねぇちゃんところの魔法薬も、そうやって合成や精製を駆使して作られてるそうだ。



「まぁ世の中にゃ、『中に必要なアイテムを放り込むだけで、自動的に合成や精製をしてくれます』ってな感じの、便利な壺みたいなもんもあるらしいけどな」


「え、何それめっちゃ便利じゃん! それがあったらボクも楽ができたのに……」


「いやでもどっちにしろ素材は必要になるうえに、あれたまに失敗するらしいんだよ。……確か、『合成事故』とか言ってたか? リィンさんもあんまりにオススメされるもんだからお試し期間でレンタルしたことがあるらしいんだが……」


「らしいんだが……?」


「……魔法薬の元を作ろうとしてんのに、なんか不気味なヘドロみたいなモンが出てきたらしい……」


「えぇ……?」

 

 他にもなんだか得体の知れん良く分からんモノができたりするそうだ。

 レンタル業者は『1%の確立でどうの』とか『それを目的としてる人もいるんですよ』とか、のたまってたらしいが……。


 いや百回に一回わけのわからんもんが出てくる壺とか、それ最早事故っつーか嫌がらせのレベルよ?

 割とマジでな。

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