番外編 ワールズレコード021:呪法
夢幻の箱庭(仮)。
俺は話し合いをするために、アルティラ達をそこへ招いていた。
「ベリルドアラクニアによって操られていた他の冒険者達……、彼らも私達と同じように、無事目覚め始めているそうだ」
「でもよかったのイルヴィス? 色々と申し出たりすれば、もう少し評判なんかも変わったと思うけど……」
「つってもなぁ……ここのことを大っぴらにしたくない以上、どうしても『どうやってあの人数を運んだんだ』って話になっちまうだろ?」
アルティラたち以外の冒険者は後日、ゲートを使ってデルフォレストの浅層へと移動させておき、その上で、ギルドに報告をしてある。
それが順次、棺運びなんかによって回収されてるってワケだ。
……おっさんひとりじゃあ結構キツイ作業だったねホント。
とはいえ、流石にアイツらにそれを手伝わせるワケにもいかんからなぁ……。
亡骸が綺麗な状態だったことが、せめてもの救いだったね……。
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ワールズレコード021:呪法
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「……しかし『呪い』か。こう言っちゃなんだが、タイムリーと言うかなんというか……あの人からは、何か聞いてねぇのか?」
食事を終え、軽くくつろいでる途中、ふとそんな言葉が口をつく。
「えっと、私もそう思って話を聞いてみたんだが、私の呪いは複雑すぎるようで……その、あうぅ……」
解呪の方法なんかは分からずじまいってワケか。
あーほら、そんなしょぼんとすんじゃねぇってのに……。
「あの人って言うと、蘇生屋さんのことよね? ……今思い出しても、なんて言うか……あ、もちろん悪い人じゃないんだけど……」
「ミルティーヌ達はまだマシだっつの。……オレ達なんか、蘇生してすぐにアレだぜ?」
「正直……ちょっと辛かった……。主にテンションと、たまに来るアレが……」
まぁ……あの人には悪いが、分からんでもないと思ってしまう。
そんなことを考えながら、俺は蘇生屋をたずねた時のことを思い出していた。
……………………
…………
……
「――ではこちらにどうぞ、中で先生がお待ちです」
女性に促されて、案内された部屋へと足を踏み入れる。
するとそこには、頭に魔物の骨をのせた、やせ細った男が鎮座していた。
俺と同じか……少し年上ぐらいか?
目の下の隈とこけた頬、袖なんかから見えるガリガリの手足。
とてもじゃないが、元気ハツラツって感じには――。
「はっはっはっ!!!!! 君たちがエテリナの紹介で来たと言う冒険者だね!!!! 私はメルディナッハ、見ての通りの蘇生屋だよ!!!!」
…………えぇ……?
いやなんつーか……これまた『濃い』のが来たなぁ……。
なんなの? おっさんの周りこういうヤツらが集まる呪いでもかかってんの?
……あーほら、ミルティーヌのヤツも戸惑ってるじゃねぇか。
「まぁかけたまえ!! ――さて早速、君たちのお仲間の話なのだが……ごっはあぁっ!!!!!」
「「わあああああっ!!!!??」」
おい急に血ぃ吐きだしたぞ!?
一体何が……!?
「ごふ……いやぁすまないすまない!!!! 私は見ての通り健康力が高すぎてね!! 逆にこうして、度々吐血をしてしまうぐらいなのだよ、はっはっはっ!!!!」
「いや健康力って単語も初耳だし、血ぃ吐くんならそれもうただの不健康なんじゃねぇの!!? ねぇ!!?」
……
…………
……………………
「――つまり、蘇生には時間がかかっちゃうってことですか?」
メルディナッハから説明を受け、ミルティーヌが質問する。
どうやらあのベリルドアラクニアの糸が、神経なんかに残っちまってることが原因らしいが……。
「うむ……だが心配はいらないよ!! 私の呪法『バイタルソナー』によれば、時間はかかるが難しい処置では無いと分かっているからね!!!」
「呪法? っつーと……センセーは魔法使いじゃないんすか?」
「うむ!! 私の蘇生は契約魔法によるものだが、本来は呪法が本分なのだよ!!」
「なるほど……。いや、恥ずかしい話、俺も最近になって魔法なんかのことを少し勉強しはじめましてね……」
「おお、それは素晴らしいことだ!!! 流石はエテリナの見込んだ男だな!!! 今日は他に依頼者もいないし……折角だ!!! 私も呪法について、色々と教鞭を執ろうではないか!!」
「うぇ!!? いやそんな……」
「なぁに遠慮は無用だとも!!! 待っていたまえ、今コーヒーでも入れてこよう!!! はっはっは……ごふ……!!!!」
高らかな笑い声と若干の血しぶきをあげながら、センセーは部屋を後にする。
「……イルヴィス?」
「……いやなんつーかその……すまん」
「まず初めにだが、『呪い』というものがあることは知っているね!!」
「あーと、そりゃ知ってますが……」
「うむうむ!! あれは装備の紐付けによって人のマナ……つまりは間接的に『魂』と繋がることにより強力な効果を発揮するのだが……その分!! 魂に負担がかかり、デメリットも生み出されてしまうという仕組みなのだよ!!!」
デメリットっつーと……紐付けした装備品をスロットから解放できなかったり、継続的にデバフの様な効果がでちまうっつうアレだな。
「だがやはり魂に負担がかかるということは、それだけ自身への影響も大きい……!! そこで生み出されたのが『呪法』だ!!!!」
大げさな動きと共に説明を続けるセンセー。
頼むから、またいきなり吐血とかは勘弁してくれよ……。
「呪法というのはだね!! 魔術から派生した『呪術』……つまり、『呪文』や『呪印』などによって、アイテムや装備品を介することなく、呪いのデメリットを含む効果を使いこなす技術なのだ!!!!」
「使いこなす……ですか?」
「うむ!! 例えば『肉体強化の効率と引き換えに、魔力変換の効率を上げる』などといったところだね!!」
あー、確かにそんなスキルを持ってるやつは見たことがある。
あれ呪法だったのか。
「ちなみに、そういった呪法は魂との繋がりを必要としないため、いわゆる『解呪』を必要としない!! いわば『カジュアルな呪い』とでも呼ぶべきものとなっているのだ!!!」
カジュアルな呪いってワードがすでにカジュアル感ゼロなんだが……。
その辺はまぁ言及しないでおくとして、なるほどな。だからこそ『使いこなす』、なんだな。
「だがしかし……!! 呪学者の中には、その『逆』を追求しようとする者も少なくない!!」
「逆? っつーと……」
「『装備』の概念があるだろう!! あれは『防犯』のために生み出されたものなのだが……最近の研究では古代文明でも、同じように装備の概念があったことが分かってきた!!」
相変わらず仰々しい仕草で、説明を続けていく。
「そしてだ!! 呪いというのは基本的に、ダンジョンから見つかるアイテムによって引き起こされるものだが……その中には、古代文明によって作られたと思われるものも多い!! 恐らく、彼らも同じようなことを考えていたのだろう!!」
「……! なるほどな。だから『逆』か……」
「? えっと……イルヴィスどういうこと?」
「つまりそうだな……『デメリットを抑える』ことよりも、『デメリットがあってもいいからその分強力な効果』を優先して追及する奴がいたってことだろ。……今も昔もな」
「うむその通りだ! 理解が早くて実に結構!! そう考えれば、意図的に追及されたそれらを『呪い』というのは相応しくないのかもしれんが……まぁ発見時の名残として、今もその名称が使われているワケだな!!」
改めて、呪法によってデメリットを『無くす』、じゃあなく『使いこなす』っつってたのもそういうことなんだろうね。
「だがそういった強力な呪法にはやはり、呪いと同じように『解呪』などが必要になってしまう!! 私としては――ぐあああぁぁああぁぁぁああぁぁっっっ!!!!??」
急に叫び声をあげるセンセー。
そのまま椅子から転がり落ちるように、床に突っ伏してしまう。
「センセー!? 一体何が……!?」
「はっはっは……!! なぁに大丈夫だ、大したことじゃない……!!」
「いやでも……」
「ふふ、本当に大したことではないさ……!! ただこのように呪法の話をするのは久しぶりなものでね……!! 興奮しすぎて、足の小指をつってしまっただけだ……!!」
……いや本当に大したことねぇな!?
俺は心の中でつい、そんな風にツッコミを入れてしまう。
そして、エテリナの言う『ちょっと変わってる』はもう二度と信用せんぞ、なんてことを胸に誓ったりしていた。




