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第10話 以後、お見知りおきを

「えへへ、一昨日の誕生祭、とっても楽しかったですね!」


「ふふ、そうだな。そういえば、異世界の勇者が元いた場所では、私たちと違ってそれぞれ個人の生まれた日を祝っていた、なんて話もあるな」


「にゃふー! 『誕生日』ってヤツだねー? そしたらもう毎日パーティってカンジ? ねーオジサン?」


「いや流石に向こうでも、関係ないヤツの誕生日までは祝ったりしないんじゃねぇの? そりゃまぁ、友人が365人でもいりゃあ話は別なのかもしれんが……」





「………………俺みたいに、男友達がいない人間には特に関係のない話だ……」


 ベッドに突っ伏しながらそう呟いてみる。

 どうせ、どうせ俺は……。


「にゃー、これはまだダメそうかなってカンジ?」


「昨日から度々こうなっているからな……。ほらイルヴィスいつまでもふて寝していないで、しっかりしないか」


「うぅ……けどクヨウぅ……俺は、俺は……」


「はーいおじさまー? ハクがなでなでしてあげますからねー? ハクのこと、おかあさんだって思ってくれてもいいんですよー?」


 ……流石にそれは色々とヤバい。

 ヤバいんだが……あぁ、なでられるのは心地いい……。


「……にゃふふ、ねぇオジサン? ほんとーにオジサンってオトコノヒトのお友達少ないのかなー?」


 そんな中、耳元でエテリナが囁いてきた。


「例えばー、元々あの孤児院にいて、今はアンリアットにいない人とか! その中にー、オジサンと仲良しさんだった人もいたんじゃない?」


「え……? そりゃあまぁ……」


 マーテットや、ほかにも数人……。

 金のこともそうだが、ばーさんは『孤児院(ここ)のことを大切に思ってくれるのは嬉しいけど、今の生活を優先して大事にしな』ってスタンスだからな。


 特に結婚なんかしてたりすると、なかなかこっちに顔を出すのは難しいってヤツも多いだろうが……。


「つっても、ガングリッドみたいに腹を割って話せるのは数人ぐらいで……」


「本当に? 本当に数人だけ? ほらほらよーく思いだしてみて? ……他の人とも今よーく考えてみると、そんな風に仲良くしてたこともあったんじゃない?」


「そ、そういや……そう、だった、かも……?」


「でしょー? にゃふふ、それじゃあもう、その人たちはお友達としてー……ほらほら、もっともーっとよーく思いだしてみて? 他にもそういう経験ってー、あったんじゃないかなー?」


「思いだす……。じゃ、じゃあ例えば、荷物運びをしてた時に、一度だけ一緒になったパーティで良くしてくれた人なんかも……?」


「にゃにゃ!? それはもう間違いなくお友達だねー! なんだぁ、オジサンお友達たくさんいるってカンジ? にゃふふふ……!」


「そ、そうか? ……そっかぁ、なんだよもー、はは! いやおっさんもよ? 薄々はほれ、そうなんじゃないかなーとか思ったりしてたんだぜ? けど自分からそうやって言うのもさぁ――」



「……あれはなんというか、最早ある意味、洗脳の類では無いのか?」


「あはは……。でも、おじさまが元気になってよかったです。……それに、単純なおじさまもかわいいですし、ふふ……っ」





「しかし……ベレテスといったか、結局あの男の目的はなんだったのだ?」


「っと、そうか、誕生祭の準備やらなんやらでずっとばたついてたからな」


 そのへんの話も、落ち着いてからきちんと話そうと思ってたところだ。


「トリアとネルネはまだ来てないが……一足先に、お前達には話しておくか。食材調達の二日目、レンには別行動をとってもらってたろ?」


 レンは独自の情報網を持っているからな。

 色々と、情報なんかを集めてもらっていた。


「まず今回の件、状況を納める方法は大きく分けりゃ三つあった。一つは、あのチンピラどもとベレテスとの繋がりを証明して、芋づる式に牢屋にでもぶちこむことだ……が、正直そいつは難しいだろうな」


「『闇クエスト』か……。そういった仕事を斡旋する組織があると噂には聞くが……」


「んで、もう一つは『孤児院をどうにかしよう』なんて考えを無くさせる方法だな」


「えと……今回実行したのはそれですよね?」


 まぁそういうことだ。

 しばらくは警戒するに越したことはないが……あんだけ脅してやったんだ、恐らくもう手を出してくることはないだろう。


「にゃふふ、それなら三つ目はー……まさに今クーよんが口にした疑問、あのベレテスって人の『目的そのもの』をなんとかしちゃうって方法かな?」


「流石、その通りだよ。……レンが集めてくれた情報から、ベレテスの目的に目星はついてたんだ。本来なら、三つ目のやり方ができれば一番だったんだがなぁ」


「というと……?」


「まず少し前に、とある資産家の爺さんが破産しちまったらしいんだよ。その上で、まぁぽっくり逝っちまったらしくてな。財産なんかもほとんど残っちゃいなかったらしい」


「ふむ……聞かない話では無いが……」


「……が、死んだ後になってどこぞに財産を隠してることが判明したらしくてな、さらにそのカギを握ってるのが爺さんの『隠し子』だって話が出てるみたいなんだよ」


「……にゃふふ、なるほどねー? つまりその隠し子が『どこかの孤児院に預けられてる』ってカンジかな?」


「ま、そういうことだな。つっても、その肝心のどこの孤児院かって部分までは判明してないみたいだが……んでな、その隠し財産の中に『とあるモノ』が含まれてるって噂があるのさ」


「とあるモノ……ですか?」


 小さく首をかしげるハク。

 それが、その『とあるモノ』こそが、俺が落ち着いてから話をしようと考えていた理由。



「――ミストルノ手記帳『写本』、しかもアンカット(・・・・・)を二冊だ」



 それだけで価値にすりゃ数億は下らんだろう。

 だが俺達にとっちゃ――。




 ――不意に部屋に呼び鈴の音が鳴り響いた。


 トリア……じゃあないだろうな、アイツならきちんと呼び鈴を鳴らすなんて殊勝なことはせんはずだ。

 なんてことを考えながら玄関を開ける。


 するとそこにはフーと……もう一人の小柄な少女。

 見覚えは……。


「……おほほ、イルヴィスさん? 少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「フー? どしたよ急に……というか、なんだよその喋り方は」


「おほほ、な、なにをおっしゃってはりますですのん? ウチ……やなくて、私はいつもこんな感じですまっしゃろ? おほほほほ……」


 いやもうなんかむちゃくちゃになっとるぞ。

 無理すんなってのに。


「――イルヴィス・スコードさんですね?」


「っと、あぁそうだが……あーと、そちらさんは?」


「申し遅れました。私は、『冒険者ギルドシルヴァーネ共和国国家大本部統括』メイズ・マナージマンと申します。以後、お見知りおきを」


 国家大本部統括……? っつーと……。

 ……ぐえー!? この国の冒険者ギルドのトップじゃねぇか!? なんでこんなおっさんの家に……!?


 隠してることは多々あるが、やましいことは何も……。




「――おっちゃん大変!! 大変だよ!!」


 とりあえずフー達を部屋に通した瞬間、ばたんとドアを蹴破る勢いでトリアがやってきた。

 コイツはホントに……おっさんちのドアだって無敵じゃないんだよ?


「と、トリア……き、気持ちは分かるけど、少し落ち着かないと……。お、お客さんも来てるみたいだし……」


「あ、ほんとだ!? えと、こんにちは、ごめんなさい……」


「いえ、かまいませんよ。…………恐らく、関係のない話ではないでしょうから」


 ……? どういう……?


「それで二人とも。そんなに息を切らして、いったいどうしたというのだ?」


「あ、そ、それが……。い、今そこで、号外の新聞が出てたんだ……。こ、これなんだけど……」


「――『大陸の楔』が……『大陸の楔』が一本消滅しちゃったって……!!」


「なっ!? あの馬鹿でかいもんが消滅しただぁ!?」


 渡された新聞に目を通す。

 ……確かにはっきりと、『ガルダーラにある大陸の楔が消滅した』という記事が記されている。



「こいつは……」


「――いずれ、こうなっていくだろうと予想はしていました。……イルヴィスさん、あなたのそれ(・・)と同じように」


 まるで、記事の内容を知っていたかのような反応を見せるメイズ。

 そのまま視線を向けるのは俺の……。


「改めて、お話があります。『無限の箱庭』と……イルヴィスさん、あなたの『スーパー大器晩成』について――」

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