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第8話 徹夜で仕込んだ甲斐があった

「料理の材料もそろったしー、プレゼントやお薬なんかもなんとかなったしー……」


「にゃふふ! これで今日の準備は万全ですなー」


「あぁ、あとは……」




「……お? なんだぁ? こんなとこに随分しみったれた建物があるじゃねぇか」


 孤児院の門の前で立ち話をしていると、不意にそんな声が聞こえてきた。


 数人の男達……どうやら冒険者のようだ。

 お世辞にも、ガラが良いとは言ってやれねぇがな。


「……ハクとネルネは中へ。ばーさん達と一緒に、小さい子が外に出ないように見ててやってくれ」


「わ、わかった……い、行こうハク……」


「あ、はい……!」


 これでよしと、そんで……。


「ようアンタら、観光ならよそへ行った方が良いぜ? ここにはおたくらが楽しめそうなモンなんて何も無ぇからよ」


「お、なんだてめぇ? 俺らはただこの辺でしばらくキャンプでも楽しもうかと思ってるだけだってのによー?」


「……そうかい。けどここには孤児院があってな、いきなり知らない大人たちが近くで騒ぎだしたら怖がっちまうだろ? 悪いけど他の場所をあたってくれよ」


「あ? んなこと知るかよ。こっちは好き勝手やらせてもらうぜ、文句があるならそっちが出ていきゃあいい ……それともなにか? 嫌だっつったらどうにかされちまうのか? お?」


「そりゃ決まってんだろ? ……か弱い一市民の俺としちゃ、衛兵さんにでも駆けつけてもらうさ」


「衛兵さん……? ぶっはははっ!! カッコつけて息巻いといて衛兵さんだってよ!! 『たしゅけてください~』ってか!?」


 顔を見合わせるように笑いだす男たち。

 どうにも、話し合いで解決ってのは無理そうだな


「俺らはただキャンプしに来ただけっつってんだろ? 仲間もこの辺に集まってるはずなんだが……そいつら血の気が多くてよぉ、俺の言うことしか聞かねぇんだよ。……いいの? 俺の機嫌を損ねるとどうなってもしらねぇよ?」


「……っ、おっちゃんこの人たち……」


「おいおいどうしたよぉ!? カワイイ彼女たちが震えちまってるみてぇじゃねぇか! なんなら代わりに俺たちが慰めてやろうか!? あぁ!?」


 俺の服の裾をつまみながら、フルフルと肩を震わせるトリア。


「トリア……」


「だって、だって……」






「……だってこんなにもおっちゃんの予想通りになってるからつい、ぷふっ……!」


「ぎゃはは!! だとよおっさ…………は?」


 トリアの言葉にぽかんとする男たち。


「くふっ、……こほん、まったくトリア、私だって我慢していたというのに……」


「にゃふふ! こーいう悪人さんたちってー、なんでみーんな同じような感じになっちゃうのかなー?」


 いやホントにな。

 なんかそういう養成所でもあったりすんの?


「テメェら何を……」


「何をもなにも、そのままの意味だっつの。……つーか普通に考えて、こんな外でなんもせずにただおしゃべりしてるだけなんて思うか?」


 流石にもうちょいぐらいは警戒してくるもんだと思ってたよ、おっさんも。


「ど、どういう……」


「浅いっつってんだよ。あんな分かりやすい嫌がらせされといて、『もうこれ以上は何もされないはずだから安心しよう』なんて思うワケねぇだろが」




「――うむ、まったくもってその通りじゃな」


「お、シーレ。そっちは終わったのか?」


「ほっほ、ワシからすればたやすき仕事じゃて。他の者もみな、上手くやってくれたようじゃぞ?」


 チャネリングチャットで状況を確認するシーレ。

 どうやらアルティラ達の方も問題はなさそうだな。


「な、なんだ……!? フェアリー……!?」


 ふーむ、シーレのことを知らねぇってことはこのへんの奴じゃねぇのか。


 シーレには一昨日から孤児院周りの警戒を頼んでおいた。

 『子は宝じゃ、愛するワシに任せておけい』なんて言ってくれて助かったね。


「さてと、どうやら血の気の多いお仲間さんたちとやらは、もう暴れられねぇみたいだぜ? お前らも大人しくしたほうが……」


「ぐ、ひ、人をコケにしやがって……!! もう泣いて謝っても許してやらねぇぞてめぇら!!!」


 リーダー格と思われる男はそう叫ぶと、自分の首に薬のようなモノを打ち込んでいく。

 なんだ? 何かの魔法薬か……?


「かはぁ……きたきたきたきた……!! これで今の俺の戦闘力は『最上級』まで跳ね上がったぞ……!」


「……最上級、ね」


 ここにいるシーレも最上級、しかも上位で称号持ちだぞ。

 ……なんて、親切に教えてやる気は無いけどな。


「ぎひひ、今さら後悔しても遅せえぞ!! ぶっつぶしてやるよぉ!!」






「――『戦闘力解放ステータスオープン』」


 男が振り下ろしたハンマーが、鈍い音をたてながら俺の額に直撃する。


「ひゃはは!! 俺様は優しいからな! 頭をカチ割るのはてめぇだけで勘弁してやるよ!! …………なっ!?」


「……はっ、おいどうしたよ? まだぶっつぶしてもらえて無いみてぇだが?」


 額から流れてくる血をぺろりとなめながら応えてやる。


 こっちも勇者級まで力を引きあげといたからな。

 そのまま傾向限界突破で防御にマナを集中させりゃ、こんな攻撃なんざワケもないって話だ。


 額の血だって、そうなるようにマナを調整してやっただけだ、演出ってやつよ演出。つまり……。


「これで、先に手を出してきたのはそっちだぜ? ――正当防衛の成立だな?」


 ま、本当に正当防衛を狙ったってワケじゃねぇけどな。

 だがこういう演出は、結構効果的だったりするもんだ。


 現にお仲間はみんな腰が引けちまってるみたいだぜ?

 ……いや、それはこいつも同じか。

 

 俺は頭に乗っかったまんまのハンマーに右手を添えながら、マナを集中させる。


「『どうなってもしらねぇよ』だったか? ……良いセリフじゃねぇか、俺も使わせてもらおうかね」


 びきびきと音をたててハンマーにひびが入っていく。


「これ以上、この場所に手を出すってんなら容赦はしねぇ。こんなくだらねぇことを続けるってんなら――『どうなってもしらねぇぞ』……!」



 ――そしてそのまま、握りつぶすようにして砕き割ってやった。



「ひいぃいぃ……!? こ、こんな馬鹿な……!? こ、こっちは薬で最上級の戦闘力(ステータス)が……」


「おいおい、偽モンでもつかまされちまったんじゃねぇの? そいつはお気の毒だと言ってやりたいところだが……覚悟はできてんだろうな?」


 ざりっと一歩前に踏み出してやる。

 

「ひ……!? わ、わかった、お、俺たちが悪かった! だから、だから命、命だけは……!!」


 ……人のことをおもくそぶん殴っといて、随分都合のいいことを言ってくれるじゃねぇか。

 だがまぁ……。


「……はぁ。ったく、勘違いすんなっての。逃がしゃしねぇが命まで奪うつもりはねぇよ。つーか、最初に言ったろうが」


「…………へ?」


「衛兵さんに駆けつけてもらう、ってよ?」






「――わぁ! かわいいお洋服! それに絵本とかもある!」


「やった、靴もだ! それに新しいボールも!!」


「うふふー、喜んでもらえてよかったですー。ねーシズレッタさんー?」


「べ、別にあたしは……そりゃあまぁ、す、少しぐらいは?」



「えっと、お姉さん達も冒険者なんですか?」


「いいや、ウチらは冒険者ギルドで働いとってな、ま、冒険者みーんなのサポーターみたいなもんや」


「ふふ、この中にも将来、私達がサポートをする冒険者がいるかもしれないね?」



「シーレちゃんの羽すっごいきれい! フェアリーって言うんだよね? リィンおねぇちゃんの耳はえっと……そうだ、エルフだ!」


「うん、正解! よく勉強してるね、えらいえらい!」


「ほっほっほ。うむうむ、素直で勤勉、感心じゃの!」



 大広間には子供達と、俺が招待した全員が集まっていた。

 流石に壮観っつーか……協力してくれた奴らみんな招待しちまったからなぁ。

 ま、子供たちは楽しそうで何よりだ。


「さぁみんな、ごちそうの準備ができましたよー!」


 そんな中、サラやリラたちが、テーブルに料理を運んでくる。


 毒抜きしたデッドスパイスを楽しむ、ロックラビットのグリル。

 テンタクルのカルパッチョ。

 マンドラゴラやオニオンデビルを使ったフレッシュサラダ。


 マンドラゴラなんかは思ったより量が取れたからな。フルボーンドラゴンの骨をブイヨンにして、マイコニド、ドリームシープなんかと一緒に、野菜たっぷりのアイリッシュシチューに。


 ブラックコカトリスの卵で作ったパンケーキには、バターやペイルビーの蜂蜜もたっぷりと。

 メルトミルクのアイスや、リンガーアルラウネの果実を添えてもいい。


 他にもフライドチキンやハッシュドポテト、オムレツやミートボールなんかの料理もたくさん用意してある。


 そんでメインディッシュ、オッドカトブレパスのステーキだ。

 ドレッシーブラッドの刃のおかげで、下処理も完璧。軽く塩と胡椒を振って焼いただけで、ジューシーな旨みが口いっぱいに広がる代物だ。


 ……流石にちょっとはりきりすぎたか?

 だが……。


「ほら、オーリエも食べて?」


「うん、はむ…………ふわぁ、おいしい! すっごくおいしいね! ぐす……えへへ、こんな楽しい誕生祭初めて!」


 そうかい? そう言ってもらえるとおっさんも嬉しいね。

 そんなことを思いながら、俺も一口料理を頬張る。


 ……あぁホント、徹夜で仕込んだ甲斐があったってもんだ。

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