第6話 本領発揮といこうか!
「――頼んでた物が届かないだって……?」
「はい……。この直前になって、あちこちから急にそんな連絡が……」
部屋に入ってきたサラとリラ。
さっき話していた、ここでばーさんの手伝いをしてくれている双子の姉妹だ。
「えっと、パーティ用の食材や新しい服や靴……それに、小さい子たち用の遊び道具や絵本、小説なんかの娯楽品も全部、用意できないって言われちゃって……」
「それどころか、普段お願いをしている常備用の薬などもダメのようです。……さらに返金は数日後になると先方から……」
「数日後……!? それじゃあ間に合わないじゃないかい……!」
息を切らせて部屋にやって来たかと思えば……どうにも、不穏な様子だ。
「おいこいつは……一体どうなってんだよばーさん? 頼んでるの、いつものとこなんだよな? 何かトラブルでもあったってのか……?」
つっても、どこもかしこもまとめてってのは普通とは思えんが……。
「ただのトラブルなら……まだ良かったんだけどねぇ」
「……? えっと、どういうこと、タマッサばあちゃん?」
「……少し前からね、ここの運営を任せてほしい……できることならまるまる譲ってほしい、なんて言ってきてる物好きがいるのさ。しかも大金まで持参して……金でどうのって以前に、アタシは断ったんだがね」
「孤児院を? なんでそんな……」
「どうにも、そういった事業を手広くやってる団体みたいだよ。『子供たちの未来のためにも』なんてもっともらしいことを言ってたが……どうにもキナ臭く感じたのさ。まさかとは思うけど……」
……なるほどな。
そいつらが何の目的で孤児院を欲しがっているのかは分からんが、仮にそのための手段は選ばないっつーヤツらだったとしたら……。
「にゃむむ……、手放さざるを得ない状況に追い込んで、契約書にサインをさせる。……聞かない話じゃないってカンジ?」
「痛いのは返金が数日後ってことさね。このままじゃあ――」
「――やっぱり、パーティ出来ないんだ……」
そんな中、ドアの隙間から小さな声が聞こえてくる。
あれはさっきの、新しく入って来たっていう女の子か……?
「……またきっとわたしのせい。わたしがいるからこんな――」
「オーリエ……! ……何言ってんだい。アンタのせいだなんて、そんなことあるもんかい。ほら……」
「嘘だもん!! お母さんも言ってた、私が疫病神だって、不幸を運んでくるんだって……! ――だから、いらないんだって……!!」
「……!!」
「ぐす……! きっと一生こんなふうなんだ……! ずっと、ずーっと、楽しいことなんてなくて……!! ……こんなことなら産まれてこなきゃよかった!!」
「っ、オーリエ!! ……悪いねサラ、頼めるかい?」
「あ、うんわかった……!」
……あの子、オーリエっつーのか。
逃げ出すように走って行っちまったその子を、サラが追いかけていく。
「おばあさん……。誕生祭は明後日です、今から少しでもそろえるとしても……」
「……分かってるよリラ。ウチも蓄えが多いわけじゃない、パーティと呼ぶには少しばかり、いいや、随分と、か……。子供達には寂しい思いをさせてしまうかもしれないね……」
ため息を吐くように、肩を落とすばーさん。
――パーティの準備か。期日は明後日、それならまだ……!
「おじさま……! あのハク、ハクは……!」
「! ……あぁ大丈夫だ、分かってるよ」
何かを訴えたくて、でもそれを上手く言葉にできない……そんな様子のハクの頭を撫でてやる。
……重ねちまったんだろう、いろいろとな。
「なぁばーさん、誕生祭は明後日……逆に言えば、今からならまだ少し時間があるってことだよな? ……目の前にいるのが誰なのか、もう忘れちまったのか?」
「……? イル坊、一体何を……?」
「こんなときはな、俺達にこう言うのさ。――『冒険者の皆さん、クエストを依頼したいのですが』……ってな!」
「――えぇ!? タマッサさんの所でそんなことが……? それでえっと、常備薬だね? ……あれと、あれがあれば――うん、何とかなりそう、素材は採取してもらうことになっちゃうけど……その後は、おねぇちゃんに任せなさい!」
「クエストやて? アンタが依頼する方やなんて珍しいな? ……はぁ!!? どこのどいつやそんなくだらんマネするアホは……!! まかせとき! ウチがきっちり信用できるパーティを見繕うたる!!」
「地下の冷蔵倉のスペースを貸してほしい? ――なるほどね、そういう事情か……。うんわかった、もちろん、私も協力するからガンガンとってくるといいよ。それとそうだね……ジュースなんかも少し確保しておこうか」
「あ、イルヴィスさんこんにちは! ちょうどよかった、これお部屋の時のお詫びにっておばあちゃんが……え? ――そんな、そんなのよくないです! 分かりました! 皆にも声をかけて協力させてもらいますね!」
「……はぁ!? なんであたしらがそんなこと……。……あーもう、わかった、わかったっての!! ったく、調子狂うんだよ……。言っとくけど貸しだから! ちゃんと倍にして返してもらうかんね!!」
「……イルヴィス!」
「アルティラ、レン、ラフィア、ミルティーヌ! ……悪いな、お前達にも協力してもらっちまって……」
「そこは『悪いな』じゃなくて『ありがとう』でしょ? ……まったく、水臭いってそう言ってるんだけど?」
「っと、……あぁそうだな。恩に着る、ありがとな」
これで準備は整った。
あとは――。
「そんで? オレらは何をすりゃいいんだ? ……くだらねぇこと仕掛けてきやがったヤツを見つけだして、オトシマエでもつけさてやろうか……?」
「……レンはすぐそっちいっちゃう。血の気多すぎ。……イルヴィス、状況は?」
「今はアカリたち……あっと、エンフォーレリアにも駆けつけてくれた、首に痕のあるパーティは知ってるよな? そっちがあちこちの店で、服や靴なんかを調達してくれている」
「し、シズレッタのパーティも、え、絵本や小説なんかを集めてくれてるみたいだ……。そのあたりは、任せておいて大丈夫だと思う……」
もちろん金は渡してある。
ばーさんのとこに返金されるのは数日後になるって話だったが……。
ゲートによって効率的になったレベリングは、同じく素材収集の効率も格段に向上させてくれたからな。
実は最近、ちょっと結構なレベルで、俺たちの懐も潤っていたりする。
生活費なんかを抜いた分の余剰金は、俺がまとめて管理してるワケで……ここで使うことを快諾してくれたコイツらには感謝しねぇとな。
……本当に、助けられてばっかだよおっさんは。
「リィンさんところで必要になる素材なんかは、ギルドにクエスト依頼をしてあるんだよね? それじゃああとは……」
「にゃふふ! ゴチソーの準備、ってカンジかな?」
「幸い、この辺りにはダンジョンが多い。イルヴィスのゲートを使えば、今日と明日で食材の確保も可能なはずだろう」
まぁそう言うことだ。
いつかのリトルワーグやレクイエムシープのような魔物食材のほか、ダンジョンによっちゃ黒リンゴみたいなモンも採取できるからな。
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『アタシはちっぽけな人間だからね、世界中の子供たちを救うことなんてできやしないなんて、そんなことは分かってる……』
『……ばーさん』
『けれど、だからこそせめてここに居る子たちだけでも、生まれてきて良かったって言わせてあげたいのさ。だからイル坊、お願いだよ。あの子たちのために――』
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「……あぁ、任せとけって。――さぁて、よろしく頼むぜ皆!! ……冒険者の本領発揮といこうか!!」




