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第5話 どの子がそうなんだい?

 アンリアットの西地区。

 このあたりは一般的な居住区域とでも言えば良いのか、同じ街といっても冒険者なんかは多くない。


 冒険者ギルドから遠いってのも、まぁ一つの理由かもしれんな。

 ハクの学校があるのもこの辺りだ。


 流石にただ歩いてくるっつーには、そこそこに時間もかかるもんで、巡回馬車に二、三十分ほど揺られて、ここまでやって来た。


 ……こんな時、肉体強化を使っちまえば早くて便利なんだがなぁ。

 なんて、いわゆる『冒険者脳』的な考えがいつも頭をよぎっちまうねホント。


 そこからさらに西の端、結界魔法が届くギリギリの範囲へ向かうと、少し切り立った地形になっている。

 そこのてっぺんに、今俺たちが目指している場所があるってワケだ。


 ワケなんだが……。



「……ねぇおっちゃん? 今日は背中の一坪(リビングパック)も背負ってないしー、女の子一人ぐらい、おんぶしても歩けるんじゃない?」


「ふーむ、あれだ、背負ってやりたいのはやまやまなんだが……ほら、おっさん平等主義的なところあるだろ? 誰か一人を贔屓しちまうってのはどうにもなぁ」


「あ、確かに贔屓になっちゃうのはよくないよねー? ……でーもー? そう順番! 順番こだったら問題ないよね? ね?」


「いや食い下がるねお前も……。ほら、もう少しだから頑張って歩けっての」


「む~ぅ~! ……ううん、これはきっとツンデレさん。本当はボクのことおんぶしてってあげたいんだって思ってるはず……。そう、ボクの中のおっちゃんがそう囁いている……」


「おいそいつニセモンだぞ信用すんなよ」


 つか、実物が目の前にいるだろうが。


 ……と、地形上、トリアがぶーたれる程度には距離があったりする。

 馬車も日に二、三回の定期便しか出てないしな。


 本当はもっと安全で便利な場所だと良いんだろうが……良い条件に金がかるってのは世の常だ。


 おまけに『自分たちのために使え』っつって、俺達からの金は最低限しか受け取らねぇからなぁ。

 まぁ俺も、そんなに大金を渡せてるワケじゃねぇんだが。


「にゃうぅう……、ウチとしてはこの格好が落ち着かないってカンジ……」


「場所が場所なのだ。いつものあの恰好で出向くわけにもいかぬだろう」


「た、たしかに、きょ、教育には良くないかもな……。な、なんだかんだで、わたしたちは慣れちゃってるけど……」


「でもとっても素敵ですよ、エテリナさん! えへへ、ハクが選んであげたお洋服なんですよねー?」


「あぁそうだな。いいじゃねぇか白いワンピース、新鮮だしよく似合ってるぞ?」


「にゃ……!? にゃううぅ、そ、そー言われるのは嬉しいけど……」


 お、赤くなっとる赤くなっとる。

 そんな風に、えっちらおっちらと歩いていると、一棟の建物が目に入ってきた。


「あっ! みえてきました! おじさま、あそこが……」


「あぁ、そうだ。あそこが……俺が育った孤児院だよ」


 一年ぶりぐらいか?

 確か去年も、このぐらいの時期に顔を出したはずからな。



「あ! イルヴィスだ!」

「……あれ? 知らない女の人たちもいるよ?」

「あー!! イルヴィス女の子はべらせてる!」

「はべらせてるー! はべらせてるー!」


 敷地に足を踏み入れると、何人かの子供たちが駆け寄ってくる。


「……いやお前らそういう言葉どこで覚えてくんの? つーか前も言っただろうが、せめて『イルヴィスさん』とか『イルヴィスおじさん』とか、そういう風にだなぁ……」


「……うっ!?」


「にゃ? どしたのクーよん?」


「い、いや……わ、私もあまり、人のことを言えないというか……」


 そういや昔のクヨウもこんな感じだったな。

 おっさん子供の目にどう映ってんの? まぁそんなにクドく言うつもりはねぇけどよ。


 ……ん? 向こうに一人、見ない顔がいるな。

 あの子は……。


「お、来たねイル坊?」


「っと。……ばーさん、『坊』はやめてくれってのに……俺もう三十五だぞ?」


「はん、あたしに比べりゃまだまだ坊やのまんまだよ。いつまでたっても五十の歳の差は変わんないんだからね」


「そりゃそうだろ……」


 時空とか時間とか、そういうのがねじ曲がっちまわない限りはな。


「おっちゃん、えっと……じゃあこのおばあちゃんが?」


「タマッサ・ノレドゥだよ。イル坊の……ま、育ての親ってヤツかね?」





「……そうかい、まぁガン坊はアンタと違ってちょくちょく顔を出しにくるからね、それぐらいでちょうどいいよ。……まったく、そう頻繁に来なくてもいいって言ってんのにさ」


「その点、俺は優秀だな。なんせほとんど顔を出さねぇんだからよ?」


「かっはっは! はん、威張るんじゃないよそんなことで」


 建物内に通された俺達は、ひとまずガングリッドのことを伝えておいた。

 ……流石にいろいろと、ぼかしちゃあいるがな。


 目の前でからからと笑うばーさんの様子を見るに、とりあえずはどうやら元気そうだ。


「え、えと……こ、この孤児院は、た、タマッサさんだけで運営してるのか……?」


「一人だけでというには、流石に大変そうにみえるのだが……」


「ん? いやいや、いったんここを巣立った後、手伝いに戻ってきてくれた子たちがいてね、今は三人でやってるよ。子供らも色々と手伝ってくれてるしね」


 手伝いか、俺も色々とやらされたもんだよ。

 そんなことを考えながら、窓の外に目を向けてみる。


「今いるのは……22人だったっけか?」


 去年の三月に、第二学校を卒業した奴が二人いたからな。

 二人ともそのままここを巣立ってくってんで、そん時は流石に俺も顔を出したりしたもんだが……。


「いや、三ヶ月前にまた一人入って来てね、今は23人さ」


「そうかい。……ま、そういうこともあるよな」


 恐らく、さっきの子がそうなんだろう。

 道理で見ない顔だったワケだ。



「そんでイル坊? どの子がそう(・・)なんだい? ……アタシとしちゃあ全員とって言われても全然かまわないんだけどねぇ?」


「……? そう(・・)ってなにがだよ?」


「なにをすっとぼけてんだい。嫁さん候補だよ嫁さん候補! アンタもそのつもりで連れて来たんだろう?」


「ぶー!?」


「ふえぇ!?」「あわわわわ……!」「なぁ!?」「にゃ……!?」「お嫁さん……えへへ……!」


 いきなり何突拍子もない言いだすんだこのばーさんは……。

 あーほれ、全員動揺しちまってるじゃねぇか。


 ……あれ、ハクは平気そうだな。

 まぁこのぐらいの歳ならそんなもんか。というか……。


「……おいばーさん、また一段ともうろく(・・・・)したみてぇだな……? 今日は『誕生祭』の打ち合わせに来るんだっつっといたろうが……!」


 誕生祭。

 年に一度やってくる、全ての人がこの世界に生まれたことを祝う日だ。


 大抵は家族だったり親しいヤツらだったりと、集まってホームパーティみたいなもんをすることが多い。

 祭りとは言うが、大々的に何かをってワケじゃあないしな。


 ばーさんは特に、この日を大事にしているワケだが……。


「なんだい意気地のない。アタシが若いころなんざ、星の数ほどのロマンスを連れて街を練り歩いてたもんだよ。男という男たちが、アタシの気を引こうとしてそりゃあもう……」


「ええい、やめろっての! 身内のそういう話は聞いてて辛いんだよ!」


 いろんな意味でな!


「だいたい何が『全員でも』だよ。親としてそういうのはこう……普通、倫理的に咎めたりするもんだろうが、ったく……」


「はん、まー体ばっかり大きくなって何を小さいことを……。大切に思える人が増えるんだ、悪いことなんてあるもんかい。……少なくとも、減っちまうよりはずっといいさね」


「……ま、物は言いようだね」


 大切な人が減るよりは、か。


 ……少なくとも、孤児院(ここ)に居るのは全員、そういう思いをしているヤツらばかりだからな。

 ばーさんが誕生祭に力を入れてるのも……まぁ、それでってヤツだ。



「それと……聞いてるよ、悪い噂をされてるんだって? アンタは昔っから変わらないねぇ、どうせまた……」


「……う、いいよその話は別に……」


「あ! ねぇタマッサばぁちゃん! ボクむかしのおっちゃんの話聞きたいな!」


「ハクも! ハクもお話聞きたいです!」


「お、聞くかい? この子は昔っからやんちゃでねぇ……」


「おいばーさん、やめてくれっての……」


 お前らも頼むから……ん?



「――た、大変です!!」


「!? どうしたんだい二人とも、そんなに慌てて……」


「そ、それが――」

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