第3話 肝に銘じとくよ
「――ぐしゅ……ホントに? ホントにこんな性格でも変じゃない? 嫌いにならない? めんどくさくない?」
「別に変でも嫌いにもめんどくさくも無いっての、ほらよーしよし……」
「あ、アルティラずるい。……イルヴィス、私も撫でてくれてもいい、たくさん」
「……ラフィア、お前も相変わらずだなホント」
おっさんに腕が二本ついてて助かったよ。
……しかしあれだ。アルティラの奴、鏡の中で見ていたとはいえ、ほんとにこっちが素なんだなぁ。
恐らく外面っつーか……まぁ冒険者の中にはまともじゃねぇ奴もいるからな。
たちの悪い絡み方なんかをされないよう、リーダーとして毅然とした態度でいたってとこなんだろう。
んで、もちろんそいつは、元々パーティの一員じゃあなかった俺に対しても同じだったワケで……。
なし崩し的に、そのままの態度でいたってところか。
……いやホント『これに二年間気付いてなかった俺どうなの?』って話だがね。
「さてそんでだ。改めて、その『怪しい人物』ってヤツなんだが……」
「……素性は分からない。でも、笑い方が特徴的だった。『キシシ』って……」
「!! ホントかラフィア!?」
「イルヴィス……? もしかして、なにか心当たりがあるの?」
「っと……そういや、まだしっかり話してなかったな。エンフォーレリアで、お前たちに町を任せた後の話なんだが……」
枯れかけのダンジョンで起こった一連の出来事。
それを全員に向かって説明する。
「ミルティーヌからも少し聞いちゃいたが……。ハッカー、いや、フリゲイトか……」
「あぁ、そんでその中にな、ラフィアの言うように特徴的な笑い方をするやつがいたんだよ。確か、モンステリュウス……だったか?」
マジューリカさんはそんな風に呼んでいたはずだ。
もし同一人物だとするのであれば……。
「とにかく、まずはアルティラの呪いだな。『フォルフレア』の光……、正直、胡散臭いところではあるが、まぁ試してみるだけならタダだろう」
「確かに試すのはタダかもしれないけど……、フォルフレアはデルフォレストの深層にある。どうやって……?」
「そっか、ポート! 確か四十一階層でもゲートを開いていたはず……!」
「ま、そういうことだ。つっても、流石に今から『さぁ行こう!』ってワケにもいかんけどな。いろいろ準備を整えるとして……とりあえず、まずは昼飯だ。どうする? どっか旨いもんでも食いに行くか?」
景気づけにっつーワケじゃないが、ま、たまには贅沢も……。
「……それなら私は、久しぶりにイルヴィスの作った料理が食べたいな。だ、ダメかな……?」
「俺の? いや、そいつは別に構わんが……」
おずおずふるふるといった様子で、提案をしてくるアルティラ。
子犬かな?
「お、そりゃあいい! ……味気ない携帯食料なんかには、流石にもうウンザリしてたとこだ」
「私たち、誰もごはん作れないから。……これって結構、ゆゆしき事態?」
「私はみんなと違って、あんまり久しぶりって感じはしないんだけど……ふふ、でも賛成、かな?」
「そうかい? ま、そんじゃあ腕を振るわせてもらうとしようかね。……っと、そうだ、忘れんうちに、今度の誕生祭のことなんだけどよ……」
こんなおっさんの料理で良いなら、いくらでも振舞ってやるさ。
悪い気はしねぇしな。
……フリゲイト、か。
そういやアイツにも、話をしとかねぇとな。
「――そんで……改まってどうしたんや? 話がしたいーって……」
「あぁ……どうにも、なかなか言い出せなかったんだが……お前にも、いつかはちゃんと話さなきゃならんと思ってたことがあるんだよ」
「……! な、なんやのん、そんな急に……! ウチかて心の準備が……」
翌日、冒険者ギルドへとやって来た俺は、いつもの別室でフーと向かい合う。
――マジューリカさんは、フーの同期だと言っていた。
いろいろと心配になって様子を見に来た、とも。
結局まだ分からずじまいだが、もしケインの協力者とやらもフリゲイトだったとして……『心配になって』っつーのがどこまで本当なのか、正直怪しいところではある。あるんだが……。
何も知らないフーにとっちゃ、マジューリカさんは本当に友人だとか、まぁそんな感じの相手だったのかもしれん。
種族の違いから、年の離れている同期なんてのも珍しくないからな。
そう思うとどうにも……。
『あいつフリゲイトだったぞ』と、そんな風に簡単には……な。
……だが、このまま黙っておくワケにもいかない。
俺は意を決して口を開く。
「フー、聞いてくれ。実は、お前の同期のマジューリカさんのことなんだがな……」
「……マジューリカ? えっと……誰やのんそれ?」
「…………は?」
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『あの事件、おねぇさんも担当だったのぉ。それでほら、あのハーフリングの受付の子、わかる?』
『ハーフリングの受付っつーと……フーのことっすか?』
『そうそうフーちゃん! なんだぁ、知り合いだったのぉ? あの子と――』
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……やられた。
いやー違うか、俺が迂闊でマヌケだったってだけの話だな、こいつは。
目元に手を当てながら、そんなことを考える。
思いだしてみりゃ、フーの名前を出したのは俺からだわ。
そうでなくても、フーはギルドの受付だからな。名前を知る手段なんぞいくらでもあるだろう。
『怒られるから内緒にしておいて』ってのも……なんてことは無い、そうされちまうとウソがばれるからってだけの話だ。
……そういやよく考えると、妹であるエテリナと会った時にも、お互い何の反応も無かったな。
まぁそりゃそうだろうよ、なんせ面識も何もないんだからね?
……いや待て? そうなってくると、俺に接触してきた理由はなんだ?
他のヤツらには――。
「――イルヴィス? ホントにどないしてん?」
「っと、いやすまん。少し、自責の念に駆られてたところだ……」
「はぁ……? なんやよう分からへんけど…………てっきりウチも、シーレみたいなこと言われるんかなーとか思てまったやん。……別に? 期待してたーとかそういうワケとちゃうけど……」
「シーレ? アイツがどうしたって?」
声が尻すぼみになっていって、後半がうまく聞きとれなかったんだが……。
「なんでもあらへん! まったく……そんで、結局そのマジューリカやったか? その人がどうのってのはなんやってん?」
「あぁ、こっちに帰って来たとき、フリゲイトの話はしたろ? そのうちの一人がな……」
フーとウリメイラには、向こうでのことはある程度話をしてあるからな。
その辺を踏まえて、軽く説明をしておく。
「なるほどな、そないなことが……。フリゲイト、得体の知れん集団か……。なぁイルヴィス、ウチも少し気になることがあるんやけど……」
「気になること?」
「ほれ、前にも少し話したやろ? 冒険者ギルドん中にもハッカー……今はフリゲイトか、それと関係あるモンがおるんかもしれんーって」
確か……シーレの言っていた『起こるべきでは無い出来事』ってヤツを調べてもらった時のことだな。
結局、『不確定情報につき開示禁止』とか言われちまったそうだが……。
「……偽造冒険者カードのことは知っとるな? あれかて噂になるほど簡単に、そうほいほいと出回れるようなもんとちゃうハズや。ギルドか、衛兵か、役人か……いや、ひょっとするともっと上かもしらんが……」
「……例えば、事態を『黙認』しているようなヤツがいる、かもしれんってことか」
「黙認ならまだええんやけどな。……もちろん思い過ごしかもしれんし、仮に予測が正しかったとしても、フリゲイトと関係があるワケとはちゃうかもしれん。けど……気ぃつけぇやイルヴィス」
「……あぁ、肝に銘じとくよ」
マジューリカさんのいっていた『冒険者ギルドの人間』だという言葉。
もしそいつが、まったくの嘘ってワケでもなかったとしたら……。
……やっぱりいろいろと、大っぴらにするべきじゃあないみたいだな。
とりあえずは……。
「……っと、そうだ。明々後日の誕生祭のことなんだけどよ――」




