第2話 それでもまた別の形で
「すごい……」
「ミルティーヌから話は聞いちゃいたけどよ……ホントにここが『夢幻の箱庭』ってヤツなのか?」
「そいつは正直まだ分からん。ひとまずは(仮)ってところかね」
驚く様子のラフィアとレンに返事をしながら、左腕の紋様に目を向ける。
あの黒い部屋、あの後もエテリナが残された資料なんかを調べてくれてるんだが……ここを夢幻の箱庭だと断定できるようなものは見つからなかったそうだ。
まぁ『夢幻の箱庭』なんて名前も、噂になってからつけられたようなモンだろうからな。無理もない話なのかもしれん。
『各地に残っている壁画や資料なんかと照らし合わせればー、もう少し何か分かっちゃうかも?』
とのことなんだが……。
まず何より遠いからなぁ……その辺は追々ってヤツだ。
そんな話をしながら、持ち込んであるテーブルに、簡易コンロで温めたコーヒーやミルクなんかを並べていく。
「ずず……ふぅ。……さてよオッサン、早速本題といこうじゃねぇか。なぁアルティラ?」
「! ……あぁ、そうだな」
「ちょっとレン、もう少し……」
「今さらまどろっこしいのもアレだろ? ……オッサン、アンタはアルティラの『呪い』ことを知ってたか?」
「!? いや、初耳だぞ……!?」
『呪い』だと……?
確か、一部のマジックアイテムなんかを紐付けして『装備』した時に、それをスロットから解放できなくなっちまう現象だ。
さらにその上、様々なデメリットが付いて回るらしい。
だがその分強力な装備品なんかも多く、呪術や呪法の元になった、なんて話をちょうど少し前に聞いたばかりだが……。
「ま、そりゃそうか。なんせオレらもあの日の……確か、ひと月前ぐらいか? そんぐらいに知ったばかりだったからな」
「私が色々と知らなかったのもそのせいね。教会復活は、半年分の記憶も失っちゃうから……」
あの日っつーと……。
俺が、アルティラ達のパーティから抜けることになった日のことだな。
「……心配をかけまいと考えていた。せめていずれ、話さなければならない時が来るまでは、と。……ふふ、こう見えて、演技は結構得意なんだ」
いや、演技のことはまぁ……実は知らないワケじゃねぇんだがね?
鏡の中で、いろいろ映っちまってたし……。
……あぁほらミルティーヌ、そわそわするんじゃないっての。
「そうだ、そう考えていたのだ。だがあの日……」
「確か……ダンジョンの探索が終わって帰って来た日の、イルヴィスと別れた後のこと。……私たちの四人の前に、怪しい人が現れた」
ここいらが地元の俺と違って、アルティラ達はクヨウやエテリナと同じように、冒険者用の宿屋を利用してたからな。
必然的に、そういうタイミングってのはあるもんだが……。
「怪しい人……?」
「あぁ。私の呪いを生んでいるはあの大盾、『アトゥマネプタ』だ。……そして突如現れたその人物は、初対面だと言うのにそれを言い当てた。……呪いによって、やがて私の五感の内、『触覚』が失われていくこともな」
……!
それが、アルティラにかけられた呪いの効果か……。
「最初はアルティラもすっとぼけてたんだぜ? 何のことだってよ。……が、次にそいつが放った一言でな、目に見えて顔色が変わったのさ」
「……『解呪の方法を知ってる』って、そう言われたらしいのよ」
――解呪。
『呪い』や『呪法』によって起こる現象を、強制的に無効化する手段だ。
呪いの種類や性質によってその方法はさまざまで、簡単なモンであれば、教会で施してもらえたりもするらしいが……。
「デルフォレスト深層に生息する、輝きの大樹『フォルフレア』。その光を直接、身に浴びればあるいは……とな」
「ただ……そん時すでに、オレは妙な噂を聞いてたのさ。デルフォレストに魔物とは違う『何か』が出現してるってことと……何人かの冒険者が、行方不明になってるってことだ」
レンは情報屋や新聞屋関係のヤツらとの、独自の繋がりを持ってるからな。
エテリナや俺達より先に、その噂を知ってたのか……。
「……正直、どの情報もまゆつばモノで怪しげ。……でも、他に可能性が見つかってなかったのも事実」
「ひと月近く悩んだ末……私は、その可能性にかけてみることにしたんだ。もっと皆と冒険者を続けていたい、そう思っていたからな……」
「で、オレらもそれに乗っかったってワケさ。後のことは……オッサンならなんとなく想像がつくんじゃないか?」
……デルフォレストの深層、か。
確かに当時の俺じゃあ、足手まといにしかならんかったかもしれん。
いや、足手まといですらまだいい方だ。
そんでもって……。
「もしかしたら、いいや、高い確率で無事には……それどころか、私達も噂と同じように『帰ってすら』来れないかもしれない。そうなった時……」
「……イルヴィスはやさしい。……きっと待ち続けちゃう、私たちのこと。……ずっと、ずーっと」
「切り出したのはオレだ、オッサンには黙っとけってな。『帰ってこなかったらオレたちのことを忘れてくれ』っつっても……アンタは素直に応じなかったろ?」
「だから突き放した、か」
――それが、あの日の真実。
随分と遠回りをしたようにも思えるが、やっと――。
「私はそのあたりの記憶が無いんだけど……その時の自分ならきっと、賛同したって思う。でも今は……それでも話し合うべきだったって、そう思うけどね?」
「ミルティーヌ……あぁ、そうだな」
俺達はあの時改めて、その大切さを身に染みて知った。
だから……。
「……アルティラ、レン、ラフィア、その……すまん、ミルティーヌにはもう話したんだが、俺は……」
「……分かっている。私達も、ミルティーヌから色々と聞いた」
「さっくり納得ができるかって言われりゃあ……正直難しいけどよ。少なくともオレは文句を言えねぇさ。ああいったやり方になっちまったのは、オレの……」
「もう、レンのせいじゃないって言ってるでしょ。私も……ううん、私達も、その考えに賛同したんだから」
「……そう、誰かのせいって言うのなら、きっとこれはみんなのせい。だから……」
「イルヴィス、私たちの方こそ謝らなければならない。あんな……貴方を傷つけると分かっていたうえで、あんな言葉を……」
「やめてくれって、俺の方こそ……もっと、お前らを信じるべきだったんだ」
何か理由があるハズだってな。
まったく……重ね重ね、情けねぇ話だよホント。
『皆のせい』か……まさにそれが一番正しいんだろう。
俺達はきっと全員、少しずつやり方を間違えたんだ。それでも……。
「だからよ、『自分が一番傷つけるような言葉を言った』なんて、そんな風に負い目を感じてくれるなって話だ。……もちろん、レンも、ラフィアも、ミルティーヌもな?」
「イルヴィス……ふふ、あぁ、わかったよ」
……それでもまた別の形で、共に進んでいけることもあるはずだ。
きっと――。
「……ん? ちょっと待てよオッサン、『一番傷つけるような言葉を言った』ってアルティラの言葉……なんでアンタがそれを知ってんだよ?」
「……あれ? そういえばそう。あの話をした時、イルヴィスは居なかった。……なんで?」
「あ」
…………しまったああぁぁ!! や、やらかした……。
そんなことを考えながら、アルティラの顔を伺ってみる。
「……い、イルヴィス? 確かその、『過去の映像を確認した』と聞いているんだが……そ、それは本当に、『デルフォレストに入る瞬間』の映像だったのだろうか……?」
なるほど、ミルティーヌはそう説明してくれてたのか。
うんうん、気遣いのできるヤツだよホント。
……まぁ? 俺がそれを踏み抜いちまったみたいだけどね?
「いや、なんつーかその、あれだ。……………………ホントダヨ?」
「あ、あ……! ぜ、絶対うそじゃないかぁ!! あああぁあぁもうだめだぁ!! うわぁああぁん!!」
「まてまて落ち着けってアルティラ! 大丈夫だから! 大丈夫だから!! なんも問題なんて――」
「アッハッハ!! なんだよ? オッサンにばれちまってたのか?」
「えっと……まぁ、ね?」
「……でも、ちょうどいいかも? これでアルティラも、変にカッコつけなくてすむ」




