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第26話 俺をなんだと思ってんだ

 アンリアットから魔導列車でイルシュドゥーレを経由し、そこから街と街をつなぐ駅馬車を乗り継いでいく。

 魔導列車は便利だが、全ての町を経由するわけじゃないからな。


「えへへ! ハク、魔導列車って初めて乗りました! がしがし動いてとっても力強くて……まるで夜のおじさまみたいでしたね……!」


「トレーニングのね! 最近は夜にしてるからね!」


 夏休みに入ってからは明るいうちから全員で行動できるからどうしてもね!

 

 興奮冷めやらぬといった様子のハクだが、馬車の中には俺たち以外の乗客もいるからな……。

 妙な勘繰りをされないようしっかりと補足はしておかねぇと……。


 ……いや、どうなんだコレ俺が過剰に反応してるだけなのか?

 もう最近、よくわからんくなってきたよおっさん、はは。


 まぁそんな感じで、俺達は現在とある街へと向かっている。



 ――エンフォーレリア。


 アンリアットから見て南東、それほど大きな街じゃあないらしく、近くにあるダンジョンも二つ……しかも片方はもう枯れちまう寸前らしい。


 ……エテリナが仕入れてきた『良くないことが起きている』という噂。

 そんでもって個人的に言えば……あのザーネドのヤツがここ出身だっていうのも気になるところだったりするな。


 本当は、ウィーグルモールやパニティンサイドといった、アンリアットの近場のダンジョンから探索をと考えてたんだが……。


 ウィーグルモールじゃ軽く探索してもほんの手がかりすら見つからず、パニティンサイドはあの首輪事件の……俺と、ケイン率いる魔物(モンスター)軍団との戦いの名残で、一部の床なんかが崩壊したままになっちまっている。


 ダンジョンの特性上しばらくすれば修復されるだろうが、不定形なヤツが多いパラダイム属の魔物(モンスター)ならいざ知らず、人間が奥へ進めるような状態じゃないらしいからなぁ。


 消去法的に、エンフォーレリアへ向かうことになったってワケだ。


「にゃふふ! 今は魔導炉や魔導機関も発達してるからねー? これからもどんどんこういうのが出てくるんじゃないかなー?」


「わ、わたしも、す、スライム的な関係でよく乗ったりするけど……さ、最初に見た時は衝撃だった……」


 ……いや『スライム的な関係』で通じるの俺達だけだからな?

 学会とかそういうアレなんだろうけども。


 魔導列車は先端車両下部から、決められた(ルート)の線路を吐き出しつつ、それを後部車両で回収しながら進んでいく。


 大きな街には路面列車なんてモンもあったりするんだが……街の外、正確には結界魔法の外には魔物(モンスター)が現れるからな。

 線路を敷いておけないってんでそんな構造になったそうだ。


 ……いやよく考えなくても力業のゴリ押し感がすごい。

 おかげでこうして楽に遠出できるってのはありがたいがね。



「……ふ、相変わらず賑かなパーティだ」


「ま、慣れちまったもんだよ随分と。……悪いなガングリッド、お前までつき合わせちまって」


「……ム? いや、気にするな。向こう(アンリアット)でも言ったが、元々オレもこっち(・・・)には用があったのだ」


 少し前までエンフォーレリアへ遠征をしていたガングリッド。

 いろいろと情報を聞こうとしたところ、なんやかんやで結局同行することになったってワケだ。


「……不穏な噂、それと例のザーネド・ベルヤン、か。……すまんな、以前こちらに来た時は色々とあって、他の冒険者のことを気にしている余裕も無かったんだが……」


「それこそ気にすんなって話だよ。しかし良かったのか? お前んとこのパーティメンバーは連れてこなくて……」


「……ム? あぁ、問題ない。どのみちしばらくは休養をと考えていたところだ。……遠征の時から一人、体調が優れない奴がいてな。用というのもその関係だ」


 ガングリッドのパーティには一人、ダンジョンなんかには潜らない非戦闘員の『サポーター』がいたはずだ。

 ドワーフで……確か職人ギルドに所属してるヤツだったか?


 地下水路(ダンジョンアウト)の時はフルメンバーだったことを考えると、恐らくそいつが体調を崩してるんだろう。

 遠征が長引いたのもそれでってところか。



「本当はおししょーも一緒にって思ってたんだけどなー。結局ずーっとどっか行ったままなんだもん、新しいスキルも作ってもらいたかったのに……」


「というと……トリアのメテオパンチはシーレどのにプログラムしてもらったのか?」


「あれ、言ってなかったっけ? そうだよ! メテオパンチの他にも二つね! ……でもその二つ難しくて使えないんだもん。もっと簡単にばしーって魔物(モンスター)やっつけれるの考えてもらおっかなーって」


「……相変わらず都合のいいことを言うねお前は」


 しかしあれだ、てっきりスキル屋にでも依頼したもんかと思ってたが……そういや確かに『作ってもらった』としか聞いてなかったな。

 まぁそうでなくてもコイツが自分でプログラムなんぞ……。


「む! またおっちゃんいじわるなこと考えたでしょ!」


 ……お前のそういうとこは相変わらずねホント。




 そんなこんなで、馬車に揺られること数時間。

 俺達が目的地に着いた頃にはもう夕方になっていた。


「……ここがエンフォーレリアか。ふむ、確かにアンリアット程は大きく無いようだが、静かで住み心地のよさそうな町ではないか」


「えと、この辺りはマナや魔素による急激な環境の変化も少なくて、動物や植物にとってもすごしやすいって図書館の本に書いてありました!」


「お、そうなのか? そういうところは旨いもんも多かったりするからなぁ、今から楽しみだ」


 若干の観光気分を味わいながら、少し辺りを見渡してみる。

 ふーむ、とりあえずパッと見たところ、特に何か悪いことが起きてるっつー感じでもなさそうだが……。


「……さて、悪いがイルヴィス。オレは先にオレの用を済ませようと思う。少し、急ぐものでな」


「っと、そうか。どうする? 合流場所でも決めとくか?」


「ム、そうだな……。西に枯れかけのダンジョンがあっただろう? あそこならよそから来た冒険者がいても、そうは目立たんはずだ。そこに三日後……このぐらいの時間でどうだ?」


「あいよ、りょーかい」


 ひらひらと手を振ってやりながらガングリッドを見送ってやる。


「さてと、そんじゃあ俺達もあれだ、とりあえず宿でもとってから、どっかに夕飯でも食いに行くか!」


「やったーごはんっ! この辺は何がおいしいのかなぁ?」


「あ、えっと図書館で調べた時は……」


 …………………

 …………

 ……



「今空いてる一番大きい部屋は……六人? その下が四人ね、そんじゃあ六人部屋一つと一人部屋一つで。期間は……」


 馬車の停留所から少し歩いたところ、早速いくつか冒険者用の宿が見つかったので、良さげな場所を選んで入る。

 ……俺一人だったらまぁ、値段だけ見て決めちまうところだがね。


「あれ? ……ぷふーっ! おっちゃんてばもー、ボクたち全員で六人だよー? 大部屋でちょうどぴったりじゃん!」


「いやぷふーっじゃあるかい、お前ナチュラルに俺を勘定にいれとるだろ……。そういうワケにはいかんだろまったく……」


 ただでさえあれよ?

 おっさん先にデルフォレストを脱出した時も、『女の子達をダンジョンに残して先に帰って来た』なんて噂が立ちかけたらしいからな……。


 人の目ってのは怖いねホント。

 その上で他の町まできて、むやみに評判を落とすことも無いって話だ。


「そ、そうですよね……。ハクは初めての遠出なので、せっかくなら同じお部屋が良かったんですけど……でも、ご迷惑ならしょうがないですよね、えへへ……!」


 ぐぅ!? けなげな笑顔が胸に突き刺さる……。

 いやしかし、しかしだ! 流石にここで折れるワケには――!


「! ……にゃふふ、ねぇパパ(・・)~? いくら血がつながってないって言ってもウチらもう家族なんだよ? そんなに気にすることないって思うなー?」


「……! そうだよおっちゃ……じゃなくてパパってばー! いつもみたいに一緒のお部屋でいいじゃん! ね、ね?」


「は? パ……? いやお前らなに言って……、――!」


 ……なるほどそういうことか。

 そういうてい(・・)で話を進めようってんだな? だが――!


「……にゃふふ、それともー? 一緒のお部屋だとガマンできなくなっちゃう……? にゃあん、パパってばウチらのコトー、そういう目で見てたんだぁ……?」


「な!? …………わ、私はその、イル、じゃなかった、ち、父上がどうしても望むのであれば、その、別に……」


「って、いやまてまてまて、そういうこと言ってんじゃ……!」


「そ、そうか、じゃあ何も問題ないな……。や、宿屋のおじさん、ろ、六人部屋を一つで……えっと、き、期間は……」


 …………さらっとネルネが受付を済ませていく。


 おいなんだこの連係プレーは。

 いままで培った経験をこんなことに活かすんじゃないよ。





「――えへへ、おいしかったですね! おじさま!」


「あぁ、あの魚……ハセハセっつったか? 川魚なのに脂ものってて……ハクが調べてくれてたヤツを注文して正解だったよホント」


「そんなぁ……! えへへ、えへへへ……!」


 外で食事を済ませ、事前に荷物を置いておいた宿の部屋へと戻って来る。


 ……結局、大部屋一つになっちまったなぁ。

 いや、別に何もやましいことは無いんだ、むしろ堂々としていればいいって話だな、うん。


「にゃふふ、お腹もいっぱいになったことだしー? んじゃんじゃさっそく、明日の打ち合わせといっちゃうってカンジ?」


「ふむ、そうだな。どうするイルヴィス、夢幻の箱庭(仮)(向こう)へ行くか?」


「いや、とりあえずはここでいいだろう」


 こんなところまで見張られてるっつーことも無いだろうしな。





「そ、それで……えっと、け、結局あの黒い部屋には、他の不落の難題につながるような情報は、な、無かったんだったな……?」


「にゃーん、ざんねんながらねー? あくまでもあの施設はデルフォレストの『空間歪曲』を研究して、オジサンのソレを作り上げるためだけのモノだったみたい」


 この左腕の紋様だな。


「あそこで壊れていた……アルティラ達を転移させていたというマジックアイテム。あれもその副産物なのではないかと言っていたな。他にはああいったものは無かったのか?」


「にゃにゃしゅーん、そっちもざんねんながら……」


「となると……特にこれといった手がかりは無し、か」


「あの魔導器具もさ、エテリナが調べてもやっぱり動かなかったんだよねー。ボクもおっちゃんのソレ欲しかったのに……」


「……言っとくけどあの儀式めっちゃ痛ぇからな?」


「うわそうだった!! ……ふー、魔導器具、動かなくてよかったー。よく考えたら、おっちゃんがボクのそばにずっといてくれればいい話だしね!」


「コイツ……」


 おっさんを便利アイテム扱いするんじゃないよ。

 だいたい今でさえ――。



「――……ハクならどれだけ痛くても苦しくても辛くても泣きそうになっても……おじさまとお揃いになれるなら嬉しかったのにな……残念です」


「お、おおう……は、ハク……? べ、別のことでな……? もっと別の楽しいことで、お、おっちゃんとお揃いになろうな……?




「それで……あの黒い部屋への入り口は塞いじまったのか?」


「にゃ、そだねー。ゲートがあればウチらはいつでも行けるし……オジサンがソレを隠してるうちは、内緒にしとこうかなってね?」


 まぁオレとしても、そっちの方が助かるな。

 それに……もしあのベリルドアラクニアが本当にハッカーによるものだっつうなら、むやみに人を近づけるのもはばかれる。


「でもさぁ、一回しか使えないっていうなら……これを作った古代文明のヒトたちはなんで使わなかったんだろね?」


「確かにそうだな、そしてそれはハッカーもか……。何か、使えない理由でもあったのだろうか? それとも……」


あえて(・・・)使わなかったってことも考えられるかなー? ……痛いのがコワーイ、なんて、そんな理由じゃなさそうだけど? それとー……」


「? それと……?」


「にゃふふ、どうにもねー? さっきも言ったけど、あそこはあくまで移動手段……つまり、その紋様だけ(・・)を作り出すための施設だったみたいなんだー」


「……! じゃ、じゃあ、あの夢幻の箱庭(仮)は……」


「ネルネルそのとーり! 少なくともー、あの遺跡にいた古代人さんが作った空間じゃないみたいかなー? だからこそ、他の不落の難題の手がかりも無かったんだろうけど……」


 ふーむ……どちらにせよ、これ以上の手がかりがないってんなら、推測以上のことはできそうにない、か……。

 不落の難題についても、ハッカーについてもな。




「と、とりあえず……あの施設に関することと言えば、こ、こんなところかな……?」


「じゃあやっぱり今はこの町の……エンフォーレリアの噂を調べるのが先決ってことですね?」


「そうみたいだな。そういやエテリナ、お前の……あー『エテリナちゃんネットワーク』だったか? あれでもっとこう、なんか追加の情報とかは……」


「にゃふふ、まぁ正直言っちゃうとー、エテリナちゃんネットワークの正体は魔学関係の知り合いの情報網なんだよねー? ほら、ウチもそうだけど、そーいう人たちって情報自体(・・・・)には敏感だから」


 食いつくか食いつかないかは別として、ってことだな。


「でもでもー、かなしーことに、ウチってば心を許せる人って少なかったから……これ以上のことは、にゃうーんめそめそ~……」


「あ、な、泣かないでくださいエテリナさん! えと、ハクたちがいますからね? ……えへへ、エテリナさんもハク達といて楽しいって言ってくれましたし!」


「にゃ!? え、えと、あの時のことはあんまり……その……う、うにゃー! そのとーり!! ウチってば今すっごく楽しいからねー! にゃふふ!! にゃふふふふふ……!!」


 おー開き直っとる開き直っとる。

 けど耳の紅さが隠しきれてないぞ? ん?


「しかしそうなってくると、やはり地道な情報集めが得策か……」


「まぁとりあえず今日はこんなところだろう。続きは明日からだな。俺はひとまず、一度情報が集まりそうなところを探ってみるよ」


「あ、じゃあボクもおっちゃんについてこっかなー」


「いやまぁいいけどよ。……疲れたっつってもおぶってはやらんからな」


「えー、またまたぁ~」


 またまたぁじゃねぇよ。

 心の底から言ってるっつーの。


「ふむ……。ならば私とエテリナとで、枯れていないもう片方のダンジョンへ向かってみよう」


「にゃふふ、といってもー、難易度はそれほどでもないとはいえ、二人だけじゃ様子見程度になっちゃうと思うけどねー?」


「いや、それで十分だ。くれぐれも無茶をしてくれるなよ?」


 情報はもちろん大事だが、お前たちが無事に帰ってきてくれること以上の価値はねぇんだからな。


「そ、それじゃあ……わ、わたしとハクは、こ、こっちの冒険者ギルドの方へ行ってみようか……?」


「はい! フーさんの言う通り、えっと『開示禁止』って言われちゃうかもしれませんけど……もしかしたら、他の冒険者の方からもお話を聞けるかもしれませんしね?」


「う、うん……。へ、併設されてる酒場……お昼とかでもアンリアットほど治安は悪くないって、が、ガングリッドさんも言ってたしな……」


「まぁアイツがそう言うなら信用できるだろう。そんじゃ、明日に備えて今日は早めに寝る準備だな」


「はーい! ねぇねぇここおっきなお風呂あるんだって! みんなで一緒に行こうよ! ……あ! みんなって言っても、いくらなんでもおっちゃんはダメだよ? ボクたち以外にもお客さんはいるだろうし……」


 いやわかっとるっつーの。

 お前は俺をなんだと思ってんだ。

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