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番外編 ワールズレコード019: 魔法

 ――デルフォレスト第四十三階層。


「はーいおじさまー? こっちのごはんもおじさまの分ですからねー?」


「まてまてまてって……気持ちは嬉しいが流石にこれは……」


「だめです! おじさまとクヨウさんはがんばってくれてるんですから、その分たくさん食べないとだめなんです!」


「わ、わたしたちのことは、き、気にしなくていいから……」


 いや、そうは言うがだ。

 ただでさえ食料も多くないっつーのに、俺らばっかり食うわけにも……。


「にゃふぅ、やれやれ仕方がありませぬなー。――『むりにでもあーん』!」


「あが!?」


 ……え? なにこれ?

 エテリナに頬をつつかれた瞬間、あご閉じなくなったんすけど?


「あ……。……ふふっ、これなら前みたいにあーんして食べさせてあげられますね……? はいおじさま、あーん……」


「前みたいって……アンタもしかして、いつもこんなことさせてんじゃないでしょうね?」


 いやそれだいぶ誤解よ? 口開きっぱなしで否定も出来んけども。

 ……だからそんな目でおっさんを見るんじゃないってのに。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ワールズレコード019: 魔法

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ねぇねぇエテリナそいえばさー」


「うにゃ? なになにトリニャー?」


 食事も終わり、他の皆が寝息を立て始めたころ、トリアが唐突に口を開く。

 ……まぁかくいう俺も、なかなか寝付けなかったりするんだが。


 気候なんかは申し分ないんだがなぁ、いかんせんずっと明るいままってのはどうにも……。

 まだ皆には話してないが、『秘密の隠れ家』としてこの場所を使っていくなら、その辺は何か対策が欲しいところだね。


「前から思ってたんだけど……魔法と魔術って何が違うの?」


「お、俺もそいつは気になってたとこだ。……つーかトリア、そういやお前の師匠はシーレだろ? アイツには聞かなかったのかよ?」


「あれ、おっちゃんも起きてたんだ? というか、それを言ったらおっちゃんだって付き合いが長いんでしょー? ボクもその時は別に気にしてなかったんだよねぇ。それに……」


「にゃ? それにー?」


「……修行、とっても大変で、それどころじゃなかったっていうか……」


「あぁ……」


 いくら才能があるっつっても、トリアはまだ15だ。

 それでレベル25だったってことは……アイツ結構スパルタに鍛え上げたんだろうね。


 まぁそれでもコイツのシーレに対する態度を見れば、でたらめな無茶をさせていたワケじゃあないんだろう。

 アイツもその辺が見極められんヤツじゃないだろうしな。


「うわーん! 思いだしたらなんだか辛くなってきたよう! おっちゃんほら! カワイイボクを慰めてあげられるチャンスだよ! ねぇねぇほらほらー!」


「……よしよしカワイソウカワイソウ」


「ざぁーつぅー!! ちゃんとボクがお姫様気分になれるぐらいまで甘やかせてくれないとダメでしょー!! ……ほらお膝あけて! そんでなでなでして!!」


「お前なぁ……」


 寝転がったままもそもそと近づいてくるトリア。

 ……と言うかアレだ、そこそこのメリハリをつけてやらんと、こいつすぐだるんだるんになりそうだしなぁ。





「――にゃふふ、それではそれでは、まず魔法の仕組みから簡単にご説明いたしませうー! ちょっと前に、魔力とその性質変化の話はしたよね?」


 結局俺達三人は、他のヤツらを起こしちまわないよう、少し離れた場所で座って話すことにした。

 しかしトリアこいつ……ホントに膝の間に座り込んできやがって……。


「えっと、マナを魔力に変換してー、それをまた炎とかと……同じような(・・・・・)性質に変化させるんだったっけ?」


「そうそうそれそれ! まさにそれが『魔術』なんだー! ……こーんな感じにね?」


 いつかと同じように、エテリナの指先に灯る小さな炎。


「つまりあれか? 魔力を別の性質に変化させることこそが『魔術』っつー……」


「にゃむぅ、ちょーっとおしいかなー? より正確にはー、性質変化を起こさせるための『(すべ)』……代表的なとこで言えば、紋章や魔法陣みたいなモノを総称して『魔術』って言うんだー」


 なるほどな。

 魔『術』っつーのはそういうことか。


「へぇ~……あれ? けど今エテリナさ、魔法陣とか使わずに炎出してなかった?」


「にゃふふ、簡単な物であれば頭の中で魔術を組み立てられるからねー? わざわざ魔法陣なんかを用意する必要もないのだよー」


 ……いやいや、それってひょっとして結構すごいことなんじゃないの?

 コイツはさらっとやってのけてるけども。




「そんでもってここからがカンジンなトコロ! この指先のちっちゃな炎、このままだったらマッチやロウソクなんかと変わんないでしょ?」


「え? えっと、うーん確かにそうかも? いつでも使えるってのは便利かもだけど……ほら、夜に明かりをつけに行くのがめんどくさい時にちょっと使ったり?」


「……お前は絶対魔法覚えるなよ」


 それで火事にでもなったらシャレにもならんぞ。

 ……いやホント、おっさん割とマジで言ってるからな? ん?


「にゃはは! 確かにそれぐらいなら問題ないかもだけどねー? けどけどー、せっかくならもーっといろんなことができた方がいいでしょ? ――だからこーんなカンジに……にゃ!」


「あ! 丸くなった!」


 トリアの言う通り、エテリナの掛け声とともに指先の炎が丸くなる。


 ……いやまぁいつもコイツのもっと凄い魔法も見てるんだが……こうやって説明されながらだとなんつーかこう、『おおっ!』って感じになっちまうな、うん。


「にゃふっふ……! 今のは魔術の中身……『術式』とか『構成式』とかって言うんだけど、それを書き換えたんだー。『炎になれー!』って命令から『まぁるい炎になれー!』ってカンジにね?」


「ほへぇ~すっごい……。えっとじゃあさ、他の形にもできるってコト?」


「にゃー! もっちろん! とはいえー、命令と比例して術式なんかもフクザツになっちゃうし、その分必要な魔力……つまりマナも多くなっちゃうかなー?」


「ほー、なんつーか、ちゃんとできてるもんだなぁ……」


「ねー? 魔力が使える人は色々できていいなーって思ってたけど……そんな単純なものじゃないんだねぇ」


 マナの魔力変換は、才能というか感性みたいなモンが必要らしいからな。

 できるヤツはさらっとできるし、できんヤツはとことんできんそうだ。


 まぁその辺は、適性や肉体強化の傾向なんかも似たようなモンなワケで……大切なのは、それをどう生かしていくかってことなんだろうね。




「そんなわけであらためてー、マナから変換した『魔力』を、目的に合わせた『魔術』によって、よりさまざまな性質へと変化させる。その一連の流れこそが……」


「『魔法』ってワケだね! なるほどー!」


 しかし相変わらずっつーか、コイツの説明は結構わかりやすいんだよなぁ。

 ともすりゃ、そういった関係の教師にでもなれるかもしれんね。


 ……いやダメだわ。

 よく考えたらこんな格好で教鞭を執る教師とか、ぶっちぎりで論外だったわ。


「にゃふふ、この辺の流れは、派生で生まれた呪法や錬金術なんかも一緒だねー。呪術を使えば『呪法』、錬金術をつかえば『錬金物』が、それぞれ結果として発生するってカンジ?」


「んーと、じゃあおっちゃんのコレ(・・)は?」


 膝の間のトリアが、俺の左腕を指さして質問する。


「にゃむぅ……、ソレ(・・)はいろいろと複雑すぎましてー……。今のウチじゃ『コレ!』って定義するのはムリなんだよねー、しょぼん……」


 ふーむ、エテリナでも難しい、か。

 まぁ俺としちゃあ、コイツならいずれ解き明かししまいそうな気もするけどな。


 しかしそう考えると、この紋様といいこの場所といい、古代文明ってのは相当な技術力を持ってたみたいだな。

 ……なんで滅んじまったんだろうね?




「魔法陣っていうとさ、ここの出口にあったり、魔法使う時に『びがびーん』って出てくるあれだよね?」


「そだよー! ウチは頭で作ったり、マナを使ってその場で描いたりしてるかなー?」


 びがびーんて。

 ……まぁ確かに分からんではないけども。


「ちなみに、市販されてる魔法使い用の装備品なんかには、あらかじめそういう術式をいくつか組み込めるようになってるモノも多いってカンジ? 『あとは魔力を流すだけで魔法が発動!』……ってね?」


 そんなことを言いながら、軽く杖を振る動作をするエテリナ。 


「? 良く分かんないけど……それって本来の用途とは違ったりするの?」


「あーっと確か……そういった装備品は本来、魔力の増幅用に装備してるんだったか?」


 リィンねぇちゃんから、そんな話を聞いたことがあるような……。


「にゃーん、オジサンそのとーり! さらに正確に言うとー、マナから魔力への『変換効率』を引き上げて、結果的に魔力が増幅するようになってるんだー」


 なるほど……。

 つまり身の丈以上の杖なんかを持ったからと言って、劇的に魔力が跳ね上がるってワケじゃあないってことか。


「んでんでー、さっきも言った通りあとは組み込んだ術式に魔力を流せば、はい発動! ってカンジになってるわけなんだけど……」


「あーそっか! だから杖なんかをロストしちゃった魔法使いの人が、『魔法が使えないー』なんて困ってる時があるんだ!」


「トリニャーせーかい!! 市販の魔導書なんかの魔術をー、あんまり仕組みを理解せずにそのまま写したりしてると、どうしてもそうなっちゃうんだよねー?」


 便利さや手軽さとのトレードオフって感じか。


 ……つーか、むしろあんな複雑な魔法陣(モン)をすっと出しちまえるエテリナが規格外なんじゃないのコレ?

 そりゃ勇者候補なんて呼ばれるようになるワケだね。




「……なんつーかあれだ、こういうの聞いてるとちょっと楽しくなってくるなホント。そんじゃあエテリナ、錬金術なんかの……」


「にゃにゃにゃ、ダメだよオジサン? ウチもこうやってお話しするのはとっても楽しいけど……」


「そーだよおっちゃん! 頑張るためにはきちんと休まないと!」


 ぐ……確かにそいつはまごうことなく正論だ。

 ……けどそれ、俺の膝の間でもたれかかってきてるお前が言っちゃう?


「にゃふふ……! 寝れないって言うのならー、ウチが膝枕したげようか? ……もちろん、一晩中耳元でー? ずぅーっとにゃふふーな言葉をー? ……囁いてあげちゃうよ?」


「ふえぇ!? だ、ダメだよエテリナ!! だ、だってなんかそれって……その、ちょっとえっちぃっていうか……。もー!! おっちゃんのえっち!!」


「えぇ……?」


 もう俺の意思が介入する隙間すらなくなってね?

 ……いや、よく考えたら割と最初からそんな感じだったかもしれんわ。


 というかだ。

 お前だってちょくちょくパンツがどうだの言ってるだろうに。


 境目とでも言えばいいのか、そのあたりのアレがコイツの中でどうなってんのか、もうおっさんにはわからんよホント……。

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