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第23話 あん時もこんな感じだった

 ――夢幻の箱庭。

 『どこにでも在ってどこにも無い、ただこの世のどこより楽園に近い場所』……本当に、ここ(・・)がそうなのか?


 いや、仮にそうでなくてもだ。

 もしエテリナの言う通り『世界中と繋がれる』のだとしたら……この場所は恐ろしい程に有意義ってことになる。

 もちろん、バカンスの旅費が浮く、なんて話じゃあない。


 例えばそう……ダンジョン探索だ。

 俺達が探索のために準備するものと言えば……武器や装備品は当然として、それ以外にもさまざまなものが当てはまる。


 怪我や体力、マナの回復などを目的とした魔法薬や、装備品などの修復剤。

 ……どのくらい必要になるのかを完璧に予測することなんてできんからな。用心のため、なるべく多めに持っていく。


 状況によっては、解毒薬やイノセントリーフなんかの異常状態対策アイテムも必要となるし、踵の道標(ホームカミング)を代表とした緊急手段ももちろん、ないがしろにはできん。


 日数をかけての探索となりゃ、それだけ保存食なんかの食料も必要で、休息のための野営道具なんかは、どれだけ最小限にしても随分とかさばっちまう。

 寝るときは魔物(モンスター)除けのアイテムだって必要になるしな。


 それに加え、俺は背中の一坪(リビングパック)に冒険者用の簡易的な調理器具や調味料を常備。

 ダンジョンで見つかる食材や、食用の魔物(モンスター)素材なんかを摂取できるように準備している。


 保存食や携帯食料では賄えないような栄養素はもちろんのこと、(しょく)ってのはモチベーションにも直結したりするもんだ。

 育ち盛りのアイツらにとっちゃ、尚のこと死活問題ですらあるからな。


 その他にもいろいろと……ダンジョンの性質やパーティの構成により、必要となってくるものは様々だ。



 ――だがしかし、もしこの場所を俺の部屋とつなげちまえば、その辺のアレが全部まとめて解決しちまうってことになる。



 腹が減ったら飯を食いに帰ればいいし、夜になりゃ部屋のベッドで寝ればいい。

 回復薬も必要数を準備し、足りなくなれば買い足せる。

 それこそ踵の道標(ホームカミング)なんか必要すらなくなっちまうかもしれん。


 ゲートを開くのに少し時間がかかるのは難点だが……それを補ってもなお有り余るほどの利点だね。


 探索だけじゃない、レベリングだってそうだ。


 自身のレベルが上がるほど、必要なEXPは増えていく。

 魔素との関係上、どうしても高ランクの魔物(モンスター)の方がEXPは多くなるからな。

 その分深く潜る必要が出てくる。


 俺みたいにいろんなモンをかなぐり捨ててでも、低ランク魔物(モンスター)を延々と狩り続ける、なんて手段もあるにはあるが……。

 ……ま、同じようなことをしてるヤツが他にいないって時点でお察しってヤツだ。正直俺も、オススメはできんところだね。



 平凡な俺の脳味噌でも、ちょっと考えるだけで有用性は無限に湧いてくる。

 のだが……現状において、問題が二つある。


 内一つは今は置いておくとして、もう一つは――。



「――生きて帰ってこそ、か」



 噂の真相も確かめ、アルティラ達も見つかった。

 もしあの特殊なベリルドアラクニアがハッカーによるものだとして、そしてさらにここが夢幻の箱庭なのだとしたら……。


 ……総取りは目前ってヤツだ。あとは――。





「……どうだエテリナ? 本当に頼ってばっかでアレなんだが……他に何か見つかりそうか?」


 俺は再び魔導器具があった部屋へ戻り、一人で調べ物をしているエテリナにそうたずねてみた。


 入口ゲートとは違い、出口は俺じゃなくても、あの魔法陣にマナさえ込めれば誰でも開けるみたいだ。

 エテリナは確か……『ポート』と呼ぼうか、なんて言ってたな。


 そんなワケで、『少し静かに集中して調べてみたい』と言うエテリナを、先にこっちへ帰してたんだが……。

 

「にゃふー! きょーみ深いお話とかはいろいろとね! それとほら、こっち側のすみっこの魔導器具の中に……」


「……ん、どれ? こいつは……俺の背中の一坪(リビングパック)に入ってたアイテムか!」


 つっても、全部が戻ってきたってワケじゃないようだが……。

 それでもまったく無いなんて状況よりは、随分とマシって話だねホント。


「にゃふふ、多分だけどー、ソレ(・・)の構成において邪魔になりそうなものなんかが、不純物として排出されちゃったんじゃないかなー?」


 俺の左腕の紋様をつつきながら、エテリナが説明を続ける。

 ……ええいわかったって、くすぐったいからやめなさいっての。


 まぁしかしだ、改めてコイツは本当にありがたい。


 回復系のアイテムなんかはあまり無いようだが……まぁもともと大分使い切っちまってたんだ、その辺は仕方がないと割り切るさ。


 あとは調理用の器具や食糧なんかと、いくつかの消費アイテム。

 ……それとなにより、コイツ(・・・)が戻ってきたのがデカい。

 これなら――。


「でもでもー、こっからぴゅーんって帰っちゃえるような情報とかは、なんにも見つかんなかったってカンジなんだよねー……。 にゃむしゅーん……」


「気にすんなって。いや、むしろこっちが礼を言うべきってヤツだ。……お前のおかげで、随分と助かってるよ」


 しゅんとするエテリナの頭を、くしゃりと撫でてやる。


「……にゃ!? ま、まぁほら、えと、そのへんはウチの趣味でもあるし……あの、その、うにゃにゃ……」

 

 顔を赤くして頬に手を当てるエテリナ。

 なんだよ、褒められて照れてんのか? 可愛いとこもあるもんだ。


 ……ま、そんな風に茶化すのはやめておいてやるとしようかね。





 再びゲートを開き、エテリナと一緒に夢幻の箱庭(仮)へと戻っていく。

 そして……。


「……えっとそれじゃあ、四十七階層の特異点を目指すってコト?」


 夕食を摂りながら、全員に今後の計画を話しておく。

 明るくてわかりにくいがそろそろ夜だからな。

 体力の回復のため、少しでも食糧が戻ってきて助かった。


「け、けど……、も、戻ってきたアイテムも、す、少ないんだろ……?」


「確かに魔物(モンスター)除けのアイテムなんかも心もとないが……今の俺達にはここ(・・)があるからな」


 俺はトントンと地面を指さす。


 ダンジョンから隔絶された特殊な空間。しかも俺なら出入りは自由だ。

 まぁ入る際は少し時間がかかっちまうが……持ち運びができるセーフスポットみたいなもんだと考えて良いだろうね。


「でもイルヴィス、それを考慮してもまだ難しいって、私はそう思うんだけど……?」


「あぁ、確かにその通りだ。だから――」


 俺は一呼吸おいてから、再び口を開く。



「――だから……探索は俺一人で行く」


「っ!? おっちゃん!?」



 俺の言葉に、全員が若干の動揺を見せる。


「っつーワケで、お前らはこの場所に残っていてほしい。そんで……」


「だめですおじさま……!! そんな……!!」


「おっと! ……よーしよし落ち着けって、な? 何も自己犠牲なんて高尚なことを言ってるわけじゃあない。……実際にな、今はそいつが一番『成功率』が高いんだよ」


 飛びついてきたハクの頭を撫でながら、諭すように続けていく。

 ……いつかの日のこと、思いださせちまったみたいだな。


 だが今回はあの時とは違う。

 ――俺だって、お前達と一緒に帰りたいと思ってるんだぜ?


「この辺りの階層ともなれば、ランクSSの魔物(モンスター)も出現するようになる。ここまでは、あのベリルドアラクニアが統率していてくれたおかげで……まぁ運良く遭遇せずに済んだが、ここからは流石にそうはいかん」


 確かにコイツらは力を着けてきている。

 ……しかしそれでも、『SS』が相手となれば話は別だ。


 あんだけ人を飲み込んでいたテンタクルグリーデアでさえ、SSの中では特別強い方ってワケでもねぇんだからな。

 だが……。


「だが俺なら……俺の戦闘力ステータスを『英雄級』まで引き上げれば、一人でもSSと渡り合うのも難しくはない。……というかだ、そもそもまともにやり合う必要も無いっつーか……」


「……なるほどねー? 普段はこそこそーって移動してー、んでんで、いざとなったら『戦闘力解放ステータスオープン』!! 魔物(モンスター)を討伐後、少しだけリミッターを落として……」


「……その後、比較的安全な場所でゲートを開き、ここ(・・)でインターバルを終わらせた後、また同じことを繰り返す、か……」


 まぁそういうワケだ。

 相変わらず、理解が早くて助かるね。


「……にゃふふ、確かに現状じゃあ最善の手段ってヤツかもね? でもでも……」


 それぞれの表情に視線を流す。

 ……ま、心の底から賛同はできない、ってところかね。


「そんな顔してくれるなって、な? 大丈夫だよ、俺だって死ぬつもりはねぇし、流石に慎重に行動するさ。それに――」


「……分かった。ならばイルヴィス、私も行こう」


「……! クヨウ……、いやしかしだな……」


「忘れたのか? 私の恩恵ギフトは『脱兎のごとく!』……。魔物(モンスター)から逃げるためと言うのであれば、これほど適する者もいないだろう。……万が一という時、お前を抱えて逃げることぐらいはできるはずだ」


 確かに何かヘマをして、インターバル中に魔物(モンスター)に囲まれでもしたら一巻の終わりってヤツではある。

 あるんだが……うーむ……。


「それに……みんなお前のことが心配なのだ。だから……だからせめて――」





 ――デルフォレスト第四十二階層。


 マジックアイテム『暁のカンテラ』。

 特定のアイテムを燃料として補給することにより、明かりの範囲内に特殊な効果を発生させることができる。


 その効果は燃料ごとに様々で、今補給してあるのは『小人の憩い場(セーフリトル)』。

 暁のカンテラの燃料として使用すると、いわゆるエンカウント阻害の効果を発揮してくれるって代物だ。


 つってもセーフスポットと違って、魔素によるマーキングをごまかせるわけじゃないからな。魔物(モンスター)との遭遇中に使用しても意味がないという欠点はあるが……。


 それでも、日数をかけて探索をする冒険者にとっては必須のアイテムだ。

 俺達も野営の時には、随分と世話になってるからな。



 コイツが戻ってきたのは随分とデカかった。

 おかげでこの作戦に踏み出せたっつっても過言じゃあない。


 クヨウと二人、なるべく身を寄せるように物陰に潜む。

 このペースで順調に行ったとして……どれだけ良くても燃料がほんの少し余るぐらいか。


 ネルネに予備の階層図を持たせておいてよかった。

 踵の道標(ホームカミング)なんかはダメになっちまってたが、こっちは無事だったみたいだからな。


「範囲をなるべく絞って、効力は最大にと……。悪いな、燃料ももうあまり余裕が無いからよ、窮屈だけど我慢してくれよ?」


「いや、その、私は平気だ……。むしろえっと、落ち着くというか……。あぁ……! こ、こんな時に何を言ってるんだ私は……!」


「そうかい? そう言ってくれるとおっさん助かるよ。……?」


 最後の方はよく聞き取れんかったが……ま、なんやかんやで大人びてはいるが、クヨウもまだ16だからな。

 親元を離れてどうのってのは、物寂しくなる時もあるのかもしれん。


 そんな風に考えながら、とりあえずゲートを開き続ける。

 


「…………だが、こうしていると少し……少しだけ、あの時(・・・)のことを思いだす」


「あの時っつーと……あぁ、サーリープラトーのな」


 ――サーリープラトー。

 ミヤビの北、極寒の地にある雪深いダンジョンだ。

 あの時もこうして、ちっこいコイツと身を寄せ合ったりしたもんだったな。


 俺はそこへ向かうパーティの雇われ(・・・)として、当時12歳ほどだったクヨウと初めて出会った。

 まぁパーティっつーか……。


「当時はその……私の身内のせいで随分と迷惑をかけてしまったな……」


「確かに正直アレは驚いたっつーかなんつーか……。ミヤビの人間ってのはひょっとして、皆あんなことしてんのか?」


「いいや、そういうワケでは無い。私の家はその、特殊と言うか……。もちろん私も、あの後は同じことをしていないが……! ――やはり、今でも怒っているか?」


「そりゃ、当時は流石に『嘘だろ……!?』なんて思ったもんさ。……けどま、もうほとぼりなんかは冷めてるよ」


 っつーかアレだ。

 俺が憤ってたのは、多分こいつが思っている理由とは少し違うからなぁ。


「それにあのクエストがなけりゃ……お前が俺に会いに来てくれることもなかったろうしな? むしろ俺にとっちゃプラスってヤツだ」


 ケインのこともそうだが……こうして一緒に冒険をすることも無かったワケだからな。


「な……!? またお前はすぐそういうことをそうやって……まったく、人の気も知らないで……もう……」


 何やら小さくぶつぶつと抗議をしてくるクヨウ。

 そういや、あん時もこんな感じだったもんだ。


 ――そんなことを考えながら、俺は当時のことを思いだしていた。

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