第22話 もっとこう……あるだろうに
「……どうだエテリナ? 起動できそうか?」
この台座のような魔導器具。
エテリナの話によれば、この場所はコイツのために作られたそうだ。
そのほかの魔導器具なんかは全て、そのための儀式的経路? とかいうもんを敷くためにあるらしい。
『分かりやすく言えば、中間素材を作るってカンジかなー?』とか言ってたな。
アルティラたちを空間転移させていた例のマジックアイテム、あれもその副産物だって話だ。
そして……。
「にゃむにゃむ……。ずいぶん高度で複雑だけど……起動すること自体は何とかなりそうかな? けどやっぱり……」
「触媒が必要、かぁ……」
ため息のようにトリアがもらす。
触媒となる『空間干渉系のアイテム』か。……俺の背中の一坪も含め、全部あの魔物に壊されちまったからなぁ……。
もしこの魔導器具が本当に『不落の難題』に関係していたとしたら、ここから脱出するための、何か足掛かりになるかもしれんのだが……。
「――にゃふふ! ねぇねぇオジサン? ……はい、これあーげる!」
そんな中で不意に手渡された……なんだこれ、布か?
ほんのり温かくて黒い…………あれ?
「…………エテリナお前、なんで上半身素っ裸になってんの?」
「にゃあん、えっちー! でもでもオジサンのお好み通りー、ちゃーんと大事な部分はおててで隠してあげてるよ?」
おいやめろ。勝手におっさんの趣好を捏造すんじゃないよ。
つーか……。
「――おっちゃんのえっちーっ!!!」
「ぐごおっ!! ……お前トリアぁー!! おっさんの腰はシルクのように繊細だって何度言ったら分かるんだ!!?」
「ふーん! えっちなおっちゃんが悪いんでしょー! まったく!! おっちゃんはまったく!!」
いやこれ大分冤罪よ?
まるでおっさんが指示したみたいに言ってるけども。
だから皆してそんな目で俺を見るなってのに……。
「ったく……んでエテリナ。お前のことだ、理由もなくこんなことをしたってワケじゃねぇんだろ?」
「にゃふふ! ウチのコト、分かられちゃってるカンジかなー? オジサンはー、それが装備品だってことは知ってるでしょ?」
「あぁ、そいつは知ってるが……」
しかも結構なレベルで高性能のな。
おかげでコイツはダンジョンの中でもこんな格好だ。
一応街中なんかでは、せめて上着を着せるようにはしているが……。
「んでんでー、その真ん中についてるアクセサリー……実はそれ、ウチが作ったマジックアイテムなんだー」
「え! エテリナさってん魔法だけじゃなくてマジックアイテムまで作れるんですか!? すごいです……!」
「にゃふふ! まぁかじった程度だけどねー?」
「ホントになんでもできるのね……。……でもこの格好といい言動といい、天才には変わり者が多いってのは事実なのかしら……?」
いやホントになぁ。
「そ、それで……そのマジックアイテムが、ど、どうしたんだ……?」
「にゃふふ、実はこれってば背中の一坪なんかと一緒でー、圧縮空間を利用したアイテムバッグみたいなものなんだー」
「な!? お前、空間干渉系のアイテムの開発は……!」
「にゃふふ、しんぱいごむよー! ちゃあんと許可はとってるから、違法とかではありませぬー! ……でもこういうのはどうしたって色眼鏡で見る人もいるからねー?」
俺達を巻き込まないために、今まで黙ってたってワケか。
いつも使ってるあの馬鹿でかい杖や、いつかのクエスト発注書なんかもそうだが……どこからともなく取り出していたのはこういう仕組みだったんだな。
てっきり、お得意の魔法でなんやかんやしてるもんだと思い込んでたが……。
「しかしエテリナお前というヤツは……! それならば、そのアイテムの部分のみイルヴィスに渡せば良いだろうに!」
「そこはほら、普段お世話になってるオジサンへのー……感謝とゴホウビってカンジ?」
いや違うよね?
かんっぜんにお前の趣味とかそういうのだよね?
……そんでちょっと、その辺のアレに話戻すの勘弁してくんない?
おっさん割と理不尽に針のムシロよ?
「まぁえっちなおっちゃんのことは置いておくとして……それじゃあこのアイテムを儀式の『触媒』にできるってコト!?」
ほら早速このあつかい。
「うーん……でもあの最後の悪あがきの対象にならなかったってことはー、条件を満たしきれてないってことだと思うんだよねー?」
「えと、そうなんですか?」
「にゃーん残念ながら……これは正直、まだだいぶ不完全なものなんだー。ウチの杖には元々特殊な処置を施してるから……ほら、こんな風に出し入れできるけど……」
説明しながら、杖を出したりしまったりさせるエテリナ。
……わかったわかった、もうわかったからちゃんと両手で隠しなさいっての。
「他のマジックアイテムなんかはどうしても拒絶反応が出ちゃうからねー? 杖以外にはちょっとした小物が一つ二つ入るぐらいかな?」
「そっかぁ、それじゃあやっぱり……」
「……にゃふふ! ところがところがー、まったくダメってワケでもないかもしれないんだよねー?」
エテリナがニヤリと微笑む。
まぁそうだろうな。でなけりゃ、わざわざ俺にコレを渡す必要がないって話だ。
……おっさんの評価をまた貶めたかったってんなら別だがね?
その後、若干の抵抗の末に俺の上着を着せてやったエテリナが、資料なんかとにらめっこをしながら儀式の準備を進めていく。
俺も俺で指示された通り左腕の装備品を外し、台座の上に置かれた背中の一坪の上にかざす。
これで準備は完了らしいが……。
「それじゃあ始めるよ? ……さっきも言ったけどオジサン――」
「大丈夫だ、わかってるよ」
台座の上の背中の一坪には、クヨウの持っていた装備品用の修復剤で、エテリナのアクセサリーを無理やりくっつけてある。
エテリナによれば、『性質の抽出を、構成式の小単位節レベルでも高度に複合、補間して行える魔導器具なら、もしかしたらこれでもいけるかも』とのことだ。
……だめだ、俺には何言ってんのかさっぱりわからん。
とりあえずまぁ『出来るかも』ってことだけは理解したぞ?
そんなワケで、ただでさえ詳細が不明なうえに、使う触媒は万全じゃないときたもんだ。
流石に危険が無いと言いきれるワケじゃないだろう。
……だがどっちにしろ、この現状でただセーフスポットに留まってたって長くは持たん。
こんな深層まで、そうそう別の冒険者が来るとも思えんしな。
となればやることは決まっているって話だ。
……エテリナが魔導器具を起動させる。
するとそれに呼応するように、周りの魔導器具も音や光をあげて動きだす。
「……! お、おっちゃん……、り、背中の一坪が……!」
ネルネの声で背中の一坪に視線を戻すと、まるでほどけていくかのように、何本もの糸状の光へと形を変えていた。
そして――。
「――〰〰っ!!? ぐあ……っ!!??」
――瞬間、その光の糸がすべて、俺の腕を目がけて突き刺さる。
痛みと熱で、額から汗が噴き出してきた。
まるで皮膚に、神経に、直接『光の束』を縫い付けられていくようだ。
「……あぎっ!! ぐ……ぬぅううぅううぅう……っ!!!!」
「イルヴィス!?」
「おっちゃん!?」
「……ぐっ、だ、大丈夫だ……!! 念のため、あんまり近づくなよ……?」
目の奥がちかちかしてぶっ倒れそうになるのを、食いしばって何とかこらえる。
自分の意思とは関係なく、体が警鐘を鳴らすようにぶるぶると震えだす。
だが……!
「――はっ! むしろ随分と気楽なもんだよ……! ……ぐっ!! ……なんせあの首輪の時と違って、今度は俺だけが耐えりゃあ済む話だからな……ッ!!」
「イルヴィス……」
だからそんな顔をしてくれるなって。
どうにもおっさん、最近はそっちの方がしんどくてね。
……逆に言や、こんな痛みぐらいどんだけでも耐えてやるよ。
それがお前たちのためになるってのなら尚更な。
そうしてしばらくたった後。
……やがてあれだけあった光の束は、全て俺の腕へと収束していった。
「――ぜはぁッ!! はぁ……! はぁ……!!」
「お、おっちゃん……!! い、いまヒールスライムを……!!」
「いや、大丈夫だ、もう痛みも感じない。……心配してくれてありがとな?」
汗をぬぐいながら、反対の手でネルネの頭をポンと撫でる。
これはホントに強がりじゃあない。あれほど感じていた傷みも熱も、嘘みたいにひいている。そして――。
「……コイツは」
光の束が収束していた左腕に視線を移す。
するとそこには、刺青のような輪っか状の紋様が刻まれていた。
「にゃむ……何かの術式、みたいってカンジかな? ……ねぇオジサン、そこにマナを込めたりできそう?」
「あーっと……こうか?」
左手を前に突き出し、刻まれた模様へとマナを込める。
するとキンっという乾いた音と共に、小さな空間の歪みのような物が目の前に現れ始めた。
「うわ!? ……なにこれおっちゃんがやってるの?」
「うーむ、どうやらそうみたいだが……」
そのまま手をかざし続けると、空間の歪みが徐々に大きくなっていく。
のだが……。
「………………」
「……え、えと、け、結構かかるみたいだな……?」
「ホントになぁ。……左手突き出したのは失敗だったわ。……これ今からでも腕おろして大丈夫だと思う? ねぇ?」
ずっと上げたままってのは、地味に結構ツライもんよ?
「それはわかんないけど……というか、なんでアンタわざわざそんなポーズとったのよ?」
「いやほら……その方がカッコイイかなって……」
「お前はまたそんな風に……ほら、私も支えていてやるからもう少し頑張れ」
「はいおじさま? ハクも支えてあげますねからねー?」
「……えっと、どうやら広がりきったみたいね?」
結局、空間の歪みが広がり切るのには十分ほどの時間がかかったようだ。
……今度やるときはもう少しポーズを考えよう、うん。
「それで……ここに入ればいいのかな? そしたらまたどこかへ繋がってるってことだよねこれ?」
「にゃふーむ、多分ね。とりあえずー『ゲート』とでも呼んじゃおうか」
「『ゲート』、ね……ひとまずは、また俺が一人で行ってみるか」
エテリナがいろいろと調べてくれている間に、インターバルも終わっている。これで何かあっても『戦闘力解放』で乗り切れるはずだ。
……よっぽどのことが無い限りは、な。
「おじさま……気を付けてくださいね?」
「あぁ、もちろんだよ。……よっと」
「……ここは――」
ゲートをくぐった先は、どこかの建物の中へ繋がっていた。
建物と言っても、さっきまでの部屋とはまるで違う。
なんつーかこう、どこぞの神殿のような感じとでも言えばいいのかね。
見渡してみれば、足元には巨大な魔法陣が描かれた台座。
他にはっと……。
「あれは……出口か? ……そうだな、ひとまず外へ出てみるか」
唯一外へとつながってそうな出口……入口かもしれんが、ともかくそっちへ向かってみる。
すると――。
その先には、透き通るような青い空と、どこまでも続いているかのような緑の平原が広がっていた。
「おいおいコイツは……。……地上? いや……」
こんなに明るいってのに太陽が無い。
少なくとも、普通の場所じゃあなさそうだ。
あとは……。
「めぼしいもんっつったらあれぐらいか……」
草原の中に、また遺跡のような場所がぽつんと一ヶ所。
白い石畳のような物が丸く敷かれていて、中央には、これまた腰の高さほどの台座が鎮座している。
周辺には四本の柱……つっても、その内の三本は崩れちまってるみたいだがね。
「うーむ、こいつは俺には何とも……。頼ってばっかで悪いがエテリナを呼んでみるか。どうやら危険もなさそうだしな」
そう考え、元いた建物へと戻っていく。
……本当に、不落の難題と何か関係するモンがあるのかね……?
「…………ん? あれ……いや、おい待てって!? いつの間にかゲート無くなってんじゃねぇか!?」
マジかよ!?
あれ時間が経つと消えちまうとかそういうモンなの!?
「……とりあえず落ち着け。さっきと同じようにコイツにマナを込めれば……」
ここへ来た時のように、左腕の紋様にマナを込める。
……数分後、無事にゲートは開いたようだ。
「はぁー……。なんだよ焦らせるなっての……」
そんな愚痴をこぼしながら、ゲートをくぐる。
……が。
「………………えぇ?」
たどり着いたのは、最初と同じ場所……巨大な魔法陣の上だった。
……無限ループって怖くね?
「よーしよし、あれだ、もっと落ち着けイルヴィス……」
出来ることが無いなら見つける、なんてことを、うちの天才も言ってたしな。
とりあえずは……。
「この魔法陣、こいつに同じようにマナを込めてみるか……」
そう考えて、足元からマナを流し込む。
すると、魔法陣の円周上に、二つの扉のような物が現れた。
……コイツが出口なのか?
「いやなんつーか、凝ってるねぇ随分と。片方は……ん? これここの景色だな。もう片方はと……お、さっきの部屋みたいだ。……これをくぐりゃあ良いのかね?」
そう思い、そっちの扉をくぐってみる。
「……うばああぁぁぁ!! おっぢゃーん!!」
「おじさまぁ!!!」
「うおっと!? トリア!? ハク!? どうしたいきなり……」
「だっで、だっでぇ……!!」
扉をくぐった瞬間、トリアとハクが飛びついてきた。
……あーもうほれ、顔ぐしゅぐしゅじゃねぇか。
「良かった無事で……。まったく、心配したってそう言ってるんだけど?」
「お、おっちゃんが入ってすぐ後に、げ、ゲートが閉じちゃったからな……。わ、わたし達も、し、心配してた……」
「っと、そうか、そいつは悪かったな……。だが俺は大丈夫だ、特に危険も無かったからな」
トリアとハクの頭を撫でながら、ゲートの向こう側のことを説明する。
そしてその後は全員で、またあの白い石畳の遺跡のような場所へやって来た。
「……にゃーむ、確かに何かの遺跡みたいだけど……とりたてて、何か術式が組まれてるわけじゃなさそうかなー?」
「となると……このクソ広い空間から、また次の……別の『何か』を探す必要でもあんのかね?」
そいつは流石に勘弁してほしいところだが……。
「仕方がない、とりあえず戻るか。エテリナ、悪いけどもう少し資料なんかを調べてくれるか?」
「にゃふふ、おまかせあれー!」
「けどさ、あんま不落の難題ーってカンジじゃないよね? ……そういえば、帰りもまたあのゲート開かなきゃいけないの?」
「いや、そう言うワケじゃない。ほれ、入り口にでっかい魔法陣あったろ? あれがな――」
俺はまた、今度はここから帰るまでの経緯をトリア達に説明してやる。
すると……。
「…………………………え?」
それが終わった瞬間、何故かエテリナが驚いているような、なんとも言えん表情をしていた。
「? ど、どうしたんだエテリナ……?」
「にゃ……、え、えっとオジサン? 今の話ホント? それがホントなら……ウチらやっぱり凄いもの見つけちゃったことになるんだけど……」
「凄い物? 確かにこの空間は、普通の場所とは違うように思えるが……」
「にゃ……、クーよん、それは確かにこの上なくそうなんだけど……」
なんだ?
珍しくうろたえてるな……。
「えっとね、オジサンの腕のソレ、どこからでもこの場所へのゲートを作れるモノだと思うの……。んでね、多分その時『元いた場所の座標』が記録されて、帰りはそこから選んでってカンジになると思うんだけど……」
「まぁ……確かにそんな感じだったな」
「にゃあ……つまりね? この空間を経由すれば、一度ゲートを開いた場所ならどこへでも帰れちゃうの。……もし制限が無かったとしたら――それこそ世界中にね?」
「…………は?」
おいおいまてまて……!
ってことは――。
「つ、つまりそれって……。い、一度行った場所だったら、せ、世界中どこにで行けちゃうってことか……?」
「ふえー!? そんじゃあちょっと遠いカフェとかお店とか……そういうところも行き放題じゃん!」
いや規模が庶民的すぎない?
もっとこう……あるだろうに。
「にゃふふー……もちろん、まだ検証してみないとだけどね……?」
「なんていうか……いきなり規模が大きすぎる話で、頭がついてこないんだけど……私だけ?」
「いや私もだ……。しかし……『どこにでも在ってどこにも無い』、まさかとは思うが……」
「あ! えと、それじゃあもしかして……!」
ここが、この場所こそが本物の――。
「――――夢幻の、箱庭……!」




