番外編 ワールズレコード018: 教会
ウリメイラの部屋を訪ねた帰り、俺はそのままギルドへと顔を出していた。
フーのヤツに、話を聞いたと伝えるためだ。
「……そうか、ウリメイラから全部聞いたんやな」
「ああ。……悪かったなその、いろいろと言えないっつーのもほれ、気を使ったろ?」
「なんでアンタが謝るのん、もう……。頭を下げなならんのはウチの方やろ? 今まで黙っとって、すまんかったな……」
フーがぺこりと頭を下げる。
「しかし教会復活とはなぁ……。せやけどウチもウリメイラとおんなじや。アンタを離脱させるつもりやとは聞いとったけど、その理由までは……」
「気にすんな、別にそれが目的で来たワケじゃあねぇよ……あ、しまった」
「? どないしたん?」
「いや、ちょっと新しく背中の一坪を買ったんだけどよ……」
ひとまず宿屋から回収したミルティーヌの荷物は、その新しい方の背中の一坪に収納しておくとしてだ。
レガリア用に買っておいたのが、こんな形で役に立つとはなぁ……。
「ワケあって代わりに店に行ってもらったんだが……そん時の料金、エテリナたちに建て替えてもらったまんまだったと思ってな」
「イルヴィスアンタ……まさかウチの妹らのヒモ……」
「いや違うって! あとでちゃんと返すから! あとでちゃんと返すから!」
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ワールズレコード017: 教会
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モーヅィードに過去の映像を見せてもらってから一晩がたった。
明日からはハクも夏休みだ。
確認を頼んでおいた装備品の適正も問題無かったようだし、これで今日中にはリィンねぇちゃんの店に届くことだろう。
……っと、とりあえず今は――。
「ようこそ教会へ。本日はどのようなご用向きでしょうか?」
「どうも。あーっと、服を返しに来たのと、復活者名簿を確認させてもらいたいんすけど……」
「はいわかりました。それでは少々お待ちください」
お布施を挟んだ服を手渡し、受付の女性へと用件を伝える。
別にお布施は必須ってワケじゃないんだが、こういうのはキモチっつーか……まぁそんな感じだ。
――ヴァルキュレシア神聖教会。
五人の戦女神を信仰し、その教えを世に説くことを目的とした、世界唯一の教会組織だ。
教えを説くっつってもそんなに重苦しいもんでもない。
形式なんかはもちろんしっかりしているが……こと信仰という点においては、むしろ結構なレベルでフランクだと言ってもいいだろう。
かなーり昔には、もう少し他の信仰組織なんかもあったらしいが……。
まぁ、恩恵だったり加護だったり契約魔法だったりと、戦女神の影響は目に見えて実感できるからなぁ。
自然な形で、徐々に一つになっていったって話だ。
そのおかげとでも言えばいいのか、教会の施設は大なり小なり、あらゆる場所に存在する。文字通りに世界規模ってヤツだな。
「ねぇおかーさん、いくさめがみさまのいくさってどういう意味ー?」
長椅子に腰掛けて待っていると、どこからか子供の声が聞こえてくる。
……親子連れか、どうやら『お祈り』に来たようだ。
恐らく、アンリアットに引っ越してきたってところかね。
ダンジョン以外にも、低ランクの魔物はそこいらに存在する。
もし万が一と言う場合、復活は最後に祈りを捧げた教会で行われるからな。
「んー? 『いくさ』っていうのはそうねぇ、『戦うぞー』って意味かなぁ。タロ君の好きな冒険者さんも魔物と戦ってるでしょ?」
「たたかいかー。じゃあさ、いくさめがみさまはたたかってる人にしか優しくしてくれないの?」
「ふふっ、ううんそういうわけじゃないよー? 戦女神さまって言うのはー……」
……懐かしいねぇ。
戦女神なんて聞くと、俺も似たように思ったもんだよ。
五人の女神が『戦女神』と呼ばれる所以。
そいつはなんでも、忌まわしき存在からこの世界を『戦って勝ち取った』ことに起因しているらしい。
しかしなんだな、親子のこういった光景を見るのは、なごむっつーかほのぼのするっつーか……。
「じゃあさ、おとーさんも安心だね! おかーさんいつもおとーさんのこと『いろんなことから逃げてるおくびょーもの』って言ってるもん!」
「……うふふ、タロ君? タロ君はお父さんみたいになっちゃだめよ?」
「はーい!」
と思いきや、存外にスパイシーなアレだった……。
……もっと頑張れ、名も知らぬどこかのお父さん。
「お待たせしました。こちらがここ数か月の復活者名簿です」
「っと、こいつは神父さんの方からわざわざ……恐縮です」
手渡される分厚い本をそっと受けとる。
復活者名簿はその名の通り、セイヴによる教会復活者を書き記した記録帖だ。
ミルティーヌも記録をしてもらったはずだが……動揺していたせいで過去の記録は確認してなかったっつってたからな。
なんでも『自分と同じ時期に復活した人はいなかった』という話だけを聞いて、教会を飛び出してしまったらしい。
俺の部屋にさえ行けば、誰かしらは居るハズだ、なんて風に思ったんだろう。
まぁその気持ちはわからんではない。
セイヴによる復活は本来、たとえ死期がある程度ずれたとしても、パーティでまとまって行われるもんだからな。
そんなワケで、念のために名簿を見せてもらったんだが……。
「アルティラ達の名前は無い、か……」
まぁそんな気はしていた。
となるとやはり、鍵はデルフォレストだな……。
「……復活についてなにか困りごとでも?」
よほどわかりやすい顔をしていたのか、そうたずねられる。
……いやホント、そんなに分かりやすい顔してるのおっさん。いつものことながらね?
「や、そのなんつーか、まだ見つかってない仲間がいましてね。……一応なんすけど、これに記憶されている以外には……?」
「こういった言葉を使うのは聖職者として不適切なのでしょうが、残念ながら他には……。もしよろしければ、復活の祭壇の方にもお通しできますよ?」
「ああいや、そこまでは……」
復活の祭壇、か。
俺は『蘇生』はしたことはあるんだが、『復活』は経験したことが無いからな。
聞いた話では、五人の戦女神をかたどったレリーフ……そいつはまぁ教会なら似たようなもんがあちこちにあるんだが、とにかくそれが掲げられた、荘厳な装飾の祭壇だって話だ。
そしてその前には、白いシーツが敷かれた十二のベッドが並べられていて、更にその上には簡易的な衣服が添えられている。
服には女神の加護が編み込んであるらしく、復活の際はそれをまとってよみがえるってワケだ。
セイヴの加護によって回収されるのは本人の肉体だけだからな。
おかげで素っ裸で復活なんていう事態も防げるし、俺もミルティーヌの復活を一目で察することができた。
とはいえだ、やはり手がかりになりそうなものは何もないだろう。
――ぱたんと名簿を閉じる。
結局、これと言ったものは見つからなかった。
……だからと言って停滞しているワケじゃない。
『ここに来ても手掛かりは無い』っつーことが分かっただけでも十分だ。
あとは……。
「――イルヴィス君、ですね? タマッサさんの所にいた……随分と立派になられたものです」
そんなことを考えながら復活者名簿を渡し返すと、神父さんの方から声をかけてきた。
「あっと、そうですけど……。覚えてるもんなんすね?」
「ふふ、もちろんです。それに、貴方が度々お布施にいらしているのも知っていますよ? ……いつもありがとうございます」
「いやそんな! やめてくださいってホント、微々たるモンなんすから……」
神父さんの言う『タマッサさん』……俺がいた、孤児院のばーさんだ。
その関係とでも言うのか、昔は教会にも結構な世話になったからな。
しかしあれだ、まさか顔を覚えられてるとは思わなかった。
なんつーかこう、照れくさいと言うか……。
「……正直に言えば、評判なんかは聞いています。ですが私は、貴方がそんな人ではないということは知っていますよ? ……立場上、表だってそれを口にできないのは恐縮ですが……」
「……いえホント、そう言ってもらえるだけでも十分です」
俺は心の底からそう口にする。
「……ふふ、やはり評判などと言うものはあてになりませんね。……とても良い目をしている。頑張ってください、応援していますよ」
そして神父さんは俺の言葉に答えるように、顔に刻まれたシワをくしゃりとたわませながら、にっこりと微笑んだ。
要件を終えて、教会を後にする。
……こんな時になんだが、来てよかった、なんて思っちまうね。
そう考えながら振り返れば、教会に飾られた戦女神の像が目に入った。
レリーフなんかもそうだが、戦女神を模したものには顔の造形がほとんど無い。
これは、『彼女たちの美しさを表現しきれない』だの、『地上にお忍びで降臨した際に騒ぎにならないように』だのと、色々なことが言われている。
……五人の戦女神。
そして彼女たちが世界を勝ち取るために戦った『忌まわしき存在』、か――。




