番外編 ワールズレコード001:マジックアイテム
このお話は《第一章2話》後半の少し前ぐらいのできごとです
「そういやリィンさん、マジックアイテムのことなんすけど……」
「はい、なにかありましたか?」
ここはリィンさんが経営しているなじみの店。
ヴェノムトードを倒した後、クエストの報告も終えた俺は、早速装備品の売却手続きをお願いしていた。
今は奥の自動鑑定室で、装備品を査定してもらっているところだ。
「いや、この背中の一坪もそうなんすけど、『適正』が必要なアイテムとそうじゃない奴がありますよね? その違いって何なのかなって……」
「ああ、なるほどー。……ふふ、それじゃあ、査定が終わるまでの間に、少しだけお勉強をしましょうか」
『お勉強』と来たか……。
俺も結構いい歳のおっさんなんだが、この人の中ではいつまでたってもガキのままなのかもしれんなぁ……
エルフってすごい。
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番外編 ワールズレコード001:マジックアイテム
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「さてイルヴィスさん? イルヴィスさんは『マジックアイテム』という言葉がどんなものを指すのかはご存知ですか?」
「あーっと確か、魔法やそれに準じた技術を付与されたアイテムの総称……でしたっけ?」
「はい! 大正解です! 花丸をあげましょう!」
「はぁ、どうも……」
あれ、これガチで子ども扱いされてないか?
……いいのかこれ? はたから見たら結構な絵面だぞ?
「魔法を付与すると一口に言っても、その方法は多種多様です。術式を直接付与したり、錬金術、アイテムの合成や精製などなど……。この辺りの知識は専門的に学んでいる人でないと、知らないことも多いですけどね?」
まぁ俺はそういった方面はからっきしだからなぁ……。
なんとなくは理解をしていたつもりだが、詳しくとなると考えたことすらも無かったかもしれん。
「マジックアイテムの便利なところはなんといってもマナの消費をほとんどせずに、魔法なんかと同等の恩恵を受けられるところですね」
ちなみに今査定してもらってる装備品なんかも、大きなくくりじゃマジックアイテムの一部なんだそうだ。
装備による攻撃力や防御力なんかの自動強化……マナの少ない俺にとってはまさに生命線だったぜホント。
「そのぶん使い切りだったり高価だったりと、いろいろデメリットがあるのも確かですが……それでも冒険者の方々にとっては、もはや無くてはならないものと言ってもいいでしょう」
うんうん。
俺もリィンさんの回復薬なんかには、随分とお世話になっているしな。
「そして、マジックアイテムの使用において最も大切なこと。それがイルヴィスさんが疑問に思った『適正』です」
おお、いよいよ本題だな。
……あれ、なんだか年甲斐もなくワクワクしてるぞこれ。
「先程イルヴィスさんも言った通り、マジックアイテムの使用には『適正が必要なもの』と『そうでないもの』がありますよね?」
「あーと、俺の『背中の一坪』は適性が必要で……リィンさんところの魔法薬なんかはそうじゃないものが多いっすよね?」
他にも、俺が今まで使っていた装備品は全て適性が必要なものだったな。
……一通りそろえるのには随分苦労した。
良いのを見つけた! ……と思ったら適性で弾かれて『装備できない』なんてこともざらだったからなぁ。
「はい、そのとおりです! ……それじゃあイルヴィスさん? イルヴィスさんは何故『適性が必要なもの』と『そうでないもの』に分かれてるんだと思いますか?」
「うえ? ふーむ……確か『人によって作られた物かどうか』っつう話を、昔どっかで聞いたことがあるような……?」
「うーん、ちょっとだけおしいです! でも△をあげちゃいましょう!」
「あー、△かぁ……」
やばい、なんだか少し楽しくなってきてるぞ。
良い歳のおっさんが、年下に見える美人さんにワクワクしながら教えを乞う……この絵面ばかりはいかんともしがたいがな!
「より正確に言えば、『人が解明できているファクターのみで構成されているかどうか』。それによって、大きく三種に分類されるんです」
「……? ふむ……。 ………………??」
ダメだ……ぜんぜんわからん……。
「ふふ、だいじょうぶですよ。ちゃあんと、わかりやすく説明しますからね?」
そう言いながら、リィンさんは棚から一本の魔法薬を取り出した。
「一つは、『人が解明できている魔法、技術、素材などを使用して、人の手によって作られたモノ』。私が精製している魔法薬なんかはそれに当たりますね」
「それじゃあ、俺が使っている背中の一坪なんかは……?」
「はい、それが二つめ。『人が解明しきれていない魔法、技術、素材などを使用して、人によって作られたモノ』です」
なるほど。
そういや背中の一坪の空間圧縮術は、まだちゃんと解明されてないとか聞いたことがあった気がするな。
「そして三つめは、『人が解明しきれていない魔法、技術、素材などを使用して、人以外の手によって作られたモノ』です」
「人以外……あ!? ひょっとしてダンジョンで見つかったマジックアイテムとかですか!?」
「あ、イルヴィスさんすごい! 大正解ですよ!」
おお! やった!
なんだ、俺も結構やるもんじゃないか!
「本当は、もう少し詳しい分類や例外なんかもあるんですけど……」
リィンさんがそう口にした時、ちょうど奥の部屋から、呼び出し音のようなものが鳴り響く。
どうやら査定の方が終わったようだ。
「ふふ、今日はここまでですね。……この続きは、またいつか時間があるときにね?」
そう言いながら、奥の部屋へと向かうリィンさん。
その後ろ姿を見ながら、俺は『お勉強』が終わったことに名残惜しさすら感じてしまっていた。
俺ってこんなに勉強が好きな奴だったかね?
いやきっと、リィンさんの教え方が良かったのだろう。
……最後の一瞬、なんとなく昔みたいに『リィンねぇちゃん』なんて呼びそうになっちまった。
気をつけねぇとなぁなんて思う反面、たまには心の中だけでぐらいノスタルジックに浸ったりするのも悪くないかもしれないな、なんて、そんな風に思ったりもする。
査定の結果をもってリィンさんが戻ってきた。
……おっとそういや護身用に一本、ナイフなんかを買うのを忘れないようにしないとな。
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