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第20話 本当に大馬鹿野郎だ

 ――デルフォレスト第三十五階層。


「相変わらず、撒いても撒いてもついてくるわね……!!」

「にゃふふ……! まぁまぁ好都合好都合!」


 ――デルフォレスト第三十七階層


「と、トリア……!! 『ストロングスライム』……!」

「んにゅう!! 何回やっても慣れないなーこれ、でもありがとネルネ!」


 ――デルフォレスト第三十九階層


キモ(・・)はまだ先なんだ、全員無茶はすんなよ!」

「まかせておけ……! お前こそ、きっちりと温存しておくのだぞ!」


 そして――。




 ――デルフォレスト第四十一階層。


「…………ふわぁ、すっごい綺麗……」


 トリアが感嘆の声をもらす。

 俺も直接この目で見たのは初めてだが……これは……。


「にゃふふ、四十一階層は輝きの大樹、フォルフレアの群生地だからねー」


 ゆっくりと、波打つように色を変えていく枝葉が空を覆う。

 それでいて、緑と青とがグラデーションを描くように淡く輝きを放っているため、森の中とは思えんほどに明るく、そして幻想的だ。


「……本当に、ダンジョンと言うのは不思議な場所だ。命を奪うような恐ろしさもあれば、こんな風に心が奪われるような光景も持ち合わせているのだからな」


 確かにできればゆっくり観光でもしたいところだね。

 もしそこに酒なんかでもあれば、そりゃあもう言うことは無い。

 だが……。


「……この先か」


「はい……! この洞窟の中からあの繭と同じ……いえ、それよりずっと強い気配がします……!」


 ハクの言葉に促されるように、全員の視線が目の前の洞窟へと注がれる。

 しかしこいつはなんつーか……。


「……まったく、まさかセーフスポットに陣取っているなんてね」


「意地の悪いヤツだよホント。少しぐらい休憩させてくれても良いってのによ」


 デルフォレストにセーフスポットは三ヶ所しかないってのに、ホントこのイレギュラーの遭遇率はなんなんだろうね。

 やっぱおっさん呪われてんのかい?


 ……それとも、ハックを追えば自ずととこうなるってヤツなのか。

 ま、仮にそうだとしても、撤退してやる気はさらさら無いがな。


「あ、あの冒険者たち……こ、ここの近くに来てからは、す、姿を見ないな……」


「にゃふふ、まぁ、おーよそどこにいるかはー、見当が付いちゃうってカンジ?」


「そうだな。さて、そんじゃ……踏み込むとしようか――!」





 洞窟の中にはヒカリゴケのような物が生えていて、予想していたよりも随分と明るい。これもフォルフレアの影響だって話だ。

 そしてこっちは予想通り、とでも言えばいいのか……。


「――アルティラ、レン、ラフィア……ここまで来てあげたわよ」


 洞窟の中の開けた空間では、例の冒険者たちが待ち構えていた。

 さっきまで俺達を追ってきてたってのに、随分と神出鬼没なもんだ。


「……鬼ごっこの次は歓迎会か。それにしちゃあ物騒に見えるがね?」


 俺がそう皮肉ったところで、きりきりと壁を這うように巨大な影が現れる。


 ――ベリルドアラクニア。

 蜘蛛の下半身を持つ、アラクニア系統でも上位の……ランクS+の魔物(モンスター)だ。

 だが……!


「姿を見せたのは失敗だったな……! 『戦闘力解放(ステータスオープン)』!」


「やっちゃえおっちゃん!」


「まかせとけ! ――『オーヴァクラック』!!」


 俺は即座に戦闘力(ステータス)を勇者級まで引き上げると、間髪を入れずにオーヴァクラックを叩き込む。

 放たれた斬撃と衝撃が、ベリルドアラクニアの体を音を立てて走っていく。


 このために、ここまでアイツらに任せて温存してきたんだ。

 これで――。



「――〰〰なっ!?」


 ――きしりと、嫌な足音が耳をつく。

 衝撃の余波が晴れると、そこには五体満足でこちらを見据えるヤツの姿があった。


「……ッ! おいおいまてまて……冗談だろ……!? 他のS+の魔物(モンスター)……あの頑丈なブリガンディゴーレムでさえ、一撃で砕く威力だぞ……!?」


 もちろんまったくの無傷と言うわけじゃあ無いみたいだが……それにしたって微々たるものだ。


 ふと、あのチャラ男たちのことを思いだす。

 アイツラも不相応に『力』をつけていた。まさかコイツも……!


「お、おっちゃん……! す、スライムマンは……!?」


「いや……どうやらお前達にも活躍してもらわんとならんみたいだからな……!」


 そう返しながらアルティラ達を見据えれば、向こうも武器を構えていく。


 スライムマンは確かに強力だが、消費マナもデカいからな。

 相手が一体だけって時ならまだしも、こういう状況での無駄打ちは避けたい。


 ここまで来るのに、相当数のアイテムを消費しちまった。

 先が分からん以上、なるべく節約して――。


「……キシャアアァァア!!!!」


「! イルヴィス! くるぞ!!」


 叫び声に呼応するかのように、一斉に動き出す冒険者たち。


「……っ! 悪いがソイツらの相手は任せたぞ!! 親玉の方は……必ず俺が何とかしてみせる……!!」





「やああぁぁああぁぁぁ!!!」


 手にしたボウガンと先祖返りのパワーで、冒険者たちをけん制するハク。

 そして……。


「…………」


「アルティラ……。私じゃアンタに勝てないのは分かってる。――でも負けはしない(・・・・・・)! わかる? 今のアンタには負けられないって、そう言ってるの!!」


 叫びながら槍を構え、アルティラに肉薄するミルティーヌ。


 他のヤツらも同様に、冒険者たちを抑え込んでくれている。

 その奮闘のおかげで、俺はコイツ(・・・)と刺し合えちゃいるが……。


「キシャアアァァア!!!!」


「……っ、こんのっ!!!」


 防御力だけじゃない、そもそもの戦闘力も相当のモノだ。……S+だってことを考えても、それでもやはり不相応にな。


 ……恐ろしい程に隙がない。

 アイツラも随分と疲弊している。


 せめて……せめて一刺し、深く傷でも入れられれば……!

 ……『傷』?


「――! エテリナ! ハク!」


 そんな中、ふと、頭にある考えが浮かんだ俺は、二人を呼び寄せた。

 ひょっとすれば……!


「――――にゃふむ……確かにその可能性は低くないかも……。ううん、十分高いと思う。でもでも万が一の時、今オジサンの次に防御力が高いのは……」


「……ハク、ですね。……おじさま、ハクはいつだっておじさまを信じています。だから――」




「――くぅ!! ……はぁ、はぁ……!!」


「………」


「アルティラ……、レン……、ラフィア……。私は、まだ……!」


 ぐぐっと体勢を立て直すミルティーヌを狙い、アルティラが大盾を構える。

 そして――。


「――ミルティーヌさん!」


 アルティラが攻撃の意思を見せたその瞬間、ハクがその目の前に飛び出した。


「ハク!? なにをして――!?」


 そのまま目をつぶり、無抵抗な姿をさらすハク。

 アルティラも、武器である大盾を振りかざし――。




 ――ハクに当てる、その直前でぴたりと腕を止めた。


「!? キシャアアァァア!!!!」


 間髪を入れず、ベリルドアラクニアが叫び声をあげ、巨大なかぎづめ(・・・・)を持つ腕を突き出しながらハクを目がけて突進する。だが――!!


「――読んでたぜ……! そう来るってなぁ!!」


 ハクに迫るその爪を、腕ごと脇腹に抱え込むような形で受け止める。

 ……流石に、無傷ってわけにはいかなかったか。


「……っ!? おじさま!!」


「ごほ……! ……はっ、これくらいどうってことはねぇ……! お前に囮みたいなマネさせちまったんだ。ここで俺が踏ん張らなくてどうするって話だよ……!」


 ベリルドアラクニアの腕に張り巡らされた棘が、えぐるように脇腹に食い込む。

 ……久しぶりだな、こういう痛みはよ。


 ヤツはと言えば、棘が突き刺さった俺の腹の肉ごと(・・)腕を引き抜いてやろうと奮闘してるみたいだ。

 だが……!


「……っ!! キシャアアァ!!」


「よう、タネ(・・)を明かされそうになって焦ったな? ……悪いが逃がさんよ、こっちとしても絶好の機会なんでね……!」


 無機質な瞳を睨み付けてやりながら、腕の関節部へとナイフを突き立てる。

 さっきまでは狙う隙も無かったが、思った通り外骨格よりは強度が薄い。

 本来ならここで斬撃を炸裂させるところだが……。


「ふ、不発……!? そ、そんな……!?」


「おっちゃん!?」


 大丈夫だよ。……だからハクも、そんな顔すんなって。

 俺はハク達を安心させるように、にやりと不敵に口角をあげてやる。


 アイツらが普段から訓練やレベリングなんかをしているように、俺だってそうそう遊んでいるわけじゃあない。


 テンタクルグリーデアの時……捕らわれた奴らが人質(・・)のような形になって、思うようにオーヴァクラックは使えなかったからな。


 ――そこで生み出したコイツ(・・・)が、まさかこんな形で役に立つとはなぁ!!


「オオオォォオォオォッ!!!!」


「〰〰っ!? ギシッ、ギシュッ……!!」


 突き刺したナイフから相手の内部へ、直接バッシュクラックを叩き込む。

 そのままマナを流し込み続けてやれば、オーヴァナイフによって延長した斬撃の奔流が体内で暴れまわり、相手を内側から破壊していく……!!


 その特性上、超至近距離戦闘で、さらにナイフを相手に突き刺す(・・・・)ことが大前提だが、その分威力はお墨付きだ。

 コイツが俺の新スキル――!!



「食い破れ!!! 『オーヴァ……!! ボルドッ!!!!』」



「――〰〰ギシャアアァッァアアアァァッ!!??!!???!!?」


 バキバキと音を立てて、ベリルドアラクニアの体が内部から破壊されていく。

 衝撃は節々でも炸裂し、その蜘蛛のような体がバラバラになって弾け飛ぶ。


 ……やがて衝撃が収まるころ、アルティラ達も糸が切れたように倒れていった。





「――ひ、『ヒールスライム』……!」


 相変わらずの感触が、脇腹へと広がっていく。

 うーむ、こんだけやってていまだに慣れんもんかねホント……。

 

「イルヴィス、みんなも良かった無事で……! でもなんであの時、アルティラは手を止めたのかしら……?」


「あ! ひょっとして、まだアルティラさんに意思が残ってたとか!?」


「もしそうだったら、まぁ結構な美談だったんだがなぁ。……残念ながら、真実ってのはもうちょい現実的でね」


 倒れているアルティラ達に目をやる。

 頭の繭……恐らく蜘蛛の糸だったんだろうが、あれもしばらくすればダンジョンに吸収されることだろう。


「あのベリルドアラクニアが操る亡骸ってのはなるべく……この言い方が正しいのかはアレだが、『健康的』である必要があったんだ。つまり、向こうも致命傷は避けていたってことだな」


「け、健康的……?」


「あの冒険者たちは肉体強化なんかのスキルも使っていたろ? 多分洞窟のどこかに、『回復系』のスキルが使えるヤツもいるハズだ」


 そう考えれば、亡骸としてはずいぶんきれいだったってのも納得できる。

 そして……少なくともあの糸で冒険者を操る瞬間までは、獲物を生かしておく必要があったんだろう。


 魔物(モンスター)を統率していたのもその為だ。

 回復系のスキルじゃあ亡骸の傷を治せても蘇生はできない……つまり、獲物を誤って殺しちまえば、本来の目的である手駒を増やせなくなっちまうからな。


 生きたままとらえ、あの繭で息の根を止めた上で、糸によって無理やり体を操る。

 ……本当に、気分の良い話じゃないねまったく。


「にゃむぅ……本来ならそーいうことはウチが気付くべきだったのに……これじゃあ参謀しっかくってカンジ……? うにゃにゃ……」


「なに、俺だって伊達に経験を積んでるわけじゃねぇさ。それこそ魔物(モンスター)相手の戦闘なんかじゃ特にな」


 エテリナがもっと経験を積めば、いずれは俺よりもって話だ。

 さて……。



「それでだ。……良くやってくれたなハク、乗り切れたのはお前の力と、お前が俺を信じてくれたおかげだ」


「いえそんな……! ……ううん、違うんです。ハクは……」


 うつむくように、下を向いてしまう。


「ハクは悪い子です……。おじさまとくっついてさえいれば、もしおじさまがどこかへ行ってしまっても、一緒に行けるってそう思ったんです……」


「どこかって、あ……!」


 ミルティーヌが気付いたように声をもらす。

 どこか、そう例えば……ハク達を置いて元のパーティへ、とかな。


「信じてるって言いながら……信じているはずなのに、それだけはどうしても怖くて……それで、ハクは――」


「……ずっと、そんな不安を抱えてたんだな。……ほらハク、おいで」


 怪我のせいで片腕にはなっちまうが、ハクをぎゅっと抱きしめてやる。


「ぐしゅ……おじさまぁ、信じれなくてごめんなさい。悪い子で、ごめんなさいぃぃ……!」


「悪い子なもんかよ、むしろ良い子すぎて困っちまうぐらいだ。……悪かったな、すぐに気付いてやれなくて。どこにも行かねぇさ、お前たちを置いてなんてな」


 ……俺は態度で示しているつもりだった。

 示せていると信じ込んでいた。


 ハクには、俺がこのパーティを抜けだすことは無いと。

 ミルティーヌには、それでもお前たちをないがしろにすることはないと。


 きちんと真相を知ることで、それを証明できると思っていた。

 もっと正しい方法があったってのに……俺は、本当に大馬鹿野郎だ。


「……ミルティーヌ。街に戻ってアルティラ達を蘇生させたら……またきちんと話をしよう。お互いが納得できる……なんて都合のいい着地点は無いかもしれんが、それでも……」


「! ……ええ、そうね」


 『信頼』と『盲信』は違う。

 だからこそ――。



「えへへ、おじさま……! おじさまはやっぱり、物語に出てきた勇者様みたいです。かっこよくて、素敵で……」


「そうかい? そいつは光栄だね。だがどうにも、女の子を泣かせちまうような男だからなぁ。俺じゃあやっぱり……」


 ハクのさらさらの髪を撫でながら、いつものようにこう呟く。



「――勇者になるには遅すぎる」



 ……

 …………

 ……………………


「……すぅ、すぅ」


「ふ、ふふ……す、すっかり寝ちゃってるな……。せ、先祖返りも、お、落ち着いたみたいだし……」


「まぁ無理もないさ。ここ数日はいろいろ抱え込んで……それでも頑張ってたって話なんだからな」


 ハクを抱えたまま、踵の道標(ホームカミング)の魔法陣が出来上がるのを待つ。

 他の皆にはエテリナを筆頭として、ハックや不落の難題に関するような情報が無いかを調べてもらっている。

 

 脇腹の傷は結構えぐかったが、それもネルネのおかげで大丈夫そうだ。

 終ってみれば、ここがセーフポイントで助かったねホント。


「しかし結局、アルティラ達が俺に嘘をついてここに来た理由は分からんかったな……。まぁいいか、そいつは蘇生してからゆっくり――」



「――っ!? イルヴィス!!」


 突如上がったクヨウの叫び声。

 ――そして同時に、背中にドスンと衝撃が走る。


 俺だけじゃない、目をやればネルネにも同じように……あれ(・・)は倒したはずの……ベリルドアラクニアの足……!?


「……っ!? おっちゃんっ!! ネルネ!!」


「にゃ!? ミルぬーも!?」


「ごほ……落ち着け、俺は大丈夫だ、しかしこれは……」


 衝撃に煽られて倒れ込んじまったが、命に別状はない。

 もちろん、抱えていたハクにもな。

 飛んできた爪は背中の一坪(リビングパック)へと突き刺さっただけみたいだ。

 

「わ、わたしも、と、特にケガとかは無い……けど……」


「ええ、私も同じ。……アイテムバッグをやられちゃったみたい」


 言われた通り見てみれば、ネルネとミルティーヌが装備していたアイテムバッグが破壊されてしまっている。


「……! イルヴィス、どうやら魔法陣(こっち)もやられたようだ……」




「ねぇこれって……」


「あぁ……用意してきた踵の道標(ホームカミング)は三つ。用心のため、ネルネとミルティーヌ、そんで俺とで分けて所持しておいたんだが……」


 俺のはさっき使用して……そこでダメになっちまっている。

 残りの二つは……。


「だ、だめだ、こっちのは瓶が砕けちゃってて……しかも、つ、爪の魔素に浸食されちゃってるみたいだ……」


「私の方も同じ、ごめん、油断してた……」


「謝るなって。つーかそれを言ったら俺も一緒だ、流石にこれは想定外すぎた」


 ベリルドアラクニアには完全にとどめを刺したはずだからな。

 討伐した魔物(モンスター)……しかもその一部があんな風に動き回るなんて話は聞いたことすらない。


 正確には、そういった魔物(モンスター)もいるにはいるらしいが……少なくともベリルドアラクニアにそんな能力は無いはずだ。

 ……普通の個体であればな。


 しかしどうにもこいつは……。



「――帰れない、か……」

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