第19話 もう少しだけガマンします
――およそ二年。
曲がりなりにもそんだけ一緒にやって来たんだ。……今さら顔が見えんぐらいで誰だか分からんほど、薄情でもボケてもいないつもりだが……。
「おっちゃん……!? アルティラさんって……それじゃあ……!?」
「まさかこいつら全員……冒険者なのか……!?」
「恐らくはな。……こういう形での再会が嬉しいかと聞かれりゃあ……首をかしげざるを得ないって話よホント。……なぁ、お前らもそう思うだろ?」
「…………」
……返事はない、か。ま、そんな気はしてたけどよ。
「アルティラ! レン! ラフィア! 聞こえないの……?」
ミルティーヌの言葉を無視するように、アルティラがぎしりと盾を構える。
と同時に、レンとラフィアもそれぞれ爪と杖を向けてきた。
それだけじゃない、木の陰やらなんやらから同じような……頭を繭で覆われた冒険者達がぞろぞろと現れて……。
「いやおいまてまて……! こんだけの数がいったいどこに潜んでたんだよ、どこぞの雑技団じゃねえんだぞ……!」
その光景に覆わずそんな愚痴が口をつく。
しかしどうするか……?
冒険者……人間相手にってのはどうにもはばかられるが、あちらさんに戦意みたいなもんがある以上、このまま黙って囲まれるワケにもいかん。
頭の繭はあからさまに怪しいが……そこを狙えばなんとかなる、なんて保証も――。
「――っ!? お、おっちゃん……!!」
――っ!? くそ! 判断が遅れた!
どうにもアルティラ達の登場で思ったより動揺してるみたいだ……!
ネルネの叫び声に振り向くと、複数の冒険者達が俺たちの間に割り込むように、雪崩れ込むように歩を進めてきていた。
「まずいぞ……!? このままでは……!」
「ぱ、パーティが……ぶ、分断されて……!!」
「――『戦闘力解放』!!」
戦闘力を最上級まで解放し、割り込んできた冒険者たちを蹴散らしていく。
どうやら肉体強化なんかも使用してるみたいだからな、少しぐらい無茶をしても、致命傷にはならんだろう。
――いや、と言うかこれは……!?
「とにかく、なんとか捌きながらこの場を離れるぞ! エテリナとクヨウを先頭に! ネルネを中心にして、トリアとミルティーヌは両脇を頼む!」
「うん! わかった!」
「にゃふふ! おまかせあれー!」
エテリナの魔法は多人数相手でも応用が利くうえ、恩恵である『マッスル☆マジカ』のおかげで前衛も任せられる。
加えて、クヨウの真価は踏み込みを主体としたカウンターだからな。
二人がいれば道を確保するのは難しくないはずだ。あとは……。
「殿は俺が務める! ハク! 前衛の後ろで皆の先導を頼むぞ! ……ハク?」
「……! あ、ご、ごめんなさい! えと、わかりました! 任せてください!」
デルフォレスト第三十四階層。
「――とりあえずは、撒いたようだな」
本当にとりあえずと言ったところだ。
デルフォレストに存在する三ヶ所の『セーフスポット』、その一つがある三十四階層が近くて助かった。
……逆に言えば、その範囲外であればどれだけ離れていても追いつかれる。たとえ階層をまたいだとしてもだ。
こんなことがありえんのか……?
「……アルティラ、レン、ラフィア…………、っ……!」
「ミルティーヌだいじょぶ……? はい、お水……」
「ありがとトリア……。ごめんね、またこんな……。色々と覚悟はしてたつもりだったんだけど……」
……まぁ無理もない。
俺だって、未だにまったく動揺してないと言えば嘘になるからな。
「……ハクはどうだ? アイツらや……他にも何か、異変を感じたりしたか?」
「えと、いえ……、あの繭からほんの少し変な感じがするぐらいで……。おじさまの役に立ちたいのに……おじさまの役に立ちたいのに……」
「まてまてそんな風に思い詰めるなって、な? むしろこれではっきりした、やっぱあの繭みたいなモンが冒険者の体を操ってるってところか……」
それと……逃げる直前に少しおかしかったハクの様子は、そういったことが原因じゃないってことだ。
……ハク、もしかしてお前は――。
「か、体を……? せ、洗脳魔法、とかじゃなくてか……?」
「……っと。あぁ、少し気になってな、ごく短い間だけ、リミッターを勇者級まで解放して確認してみたんだが……全員が全員、ほぼ同じリズムで心音を刻んでいた。……あの数が全員だぜ?」
今の俺は『傾向限界突破』のおかげで、感覚系の強化にも際限がない。
……およそ三十数人、それだけの数の冒険者が心音をそろえてくるなんてことはまずあり得んだろう。つまり……。
「……なるほどな。あまり、口にして気分のいい話ではないが……何者かが冒険者の亡骸を無理やり機能させ使役している、と言ったところか……」
「そんな……! そんなのって……!」
ミルティーヌが再び、悲痛な声を絞りだす。
気持ちはもちろんわかる、だが――。
「落ち着けミルティーヌ。……逆に言えば、光明が見えたかもしれん……!」
「……え?」
俺の言葉に、今にも泣きそうな目を丸くする。
「考えても見ろ、もしあの繭のせいでセイヴの復活が阻害されてるっていうのなら……なんでお前はここに居るんだ?」
「あ……!」
四人パーティ中の三人があの状態になっちまった中で、ミルティーヌだけがそうならなかった、なんてことは考えにくい。
それでも復活を果たすことができたのには、何か理由があるはずだ。
そいつがただの気まぐれって線がないワケじゃないが……。
「じゃあひょっとして……アルティラさんたちを解放する方法があるってこと!? でもどうやって……」
「にゃふふ、だいじょーぶだよトリニャー? 今重要なのは『方法がある』ってこと自体なんだからねー? それと、規則的だっていう心臓のリズム……」
「あぁ、恐らくだがアイツらを操ってるヤツは複数じゃあない」
まぁ、単体であの数を、って考えるとそっちの方が脅威的かもしれんがな。
「それにー、ウチらが逃げてる時も、他の魔物は襲ってこなかったよねー? まるでウチらの……ううん、ウチらを『追っかけてきてるヒト』たちのジャマをしないようにってカンジ?」
「! つまりアルティラ達を含め、その何者かにより統率されていたというわけか! となれば……!」
「――そう、エリアボスだ……!」
目指すは司令塔……ソイツを叩く――!
命令しているヤツがいなくなれば、少なくともアルティラ達の戦闘行動は止められるはずだ。
エテリナの言う通り、解放する方法は後回しでもいい。
むしろ下手に手を出して『人による死』なんて判断をされれば、蘇生も復活も出来なくなっちまうからな。
さらに言えば……。
「で、でも……あんな繭みたいなもので人を操る魔物なんて、き、聞いたことない……」
「そこだ。新種の魔物か、あるいは――」
「あ! もしかしてハックですか!?」
その通り。俺達は偶然にもエテリナが集めた情報へとたどり着いた。
つまりはその先、情報を集めてもらった『目的』にもな。
「にゃふにゃふ、この際だから言っちゃうね? 今までのいろんな要素から考えてー、……ウチはハックを意図的に起こしてる『何か』の存在をほぼ確信してる」
「ふむ……エテリナが以前言っていた、『ハッカー』というものか……」
「そうそうそれそれー! んでんでー、もし本当にハッカーと不落の難題に何か関係があったとしたら……!」
……いろいろと、目的にするモンがはっきりしてきたな。
アルティラ達のあの状態も、噂の真相も、俺達の目的も、全部つながっていたってワケだ。
「ちょ、ちょっと待って! ハック? ハッカー? 一体何を言って……」
「っと、すまんすまん」
ざっくりと、ミルティーヌにハックの話を伝えておく。
シーレの言うように、危険に撒き込む可能性もあって話しては無かったんだが……もう当事者と言っても過言じゃあないからな。
「――じゃあ、そのハッカーのせいでアルティラ達は……!」
「もちろん、まだ可能性の話だが……ミルティーヌ?」
……ミルティーヌの、その思いつめたような表情が俺をとらえる。
いや、これは思い詰めていると言うよりも……。
「ねぇイルヴィス、もし『どうしようもない』っていう状況になった時……アンタはアルティラ達に刃を向けられるの……? ううん、それともやっぱり……」
暗にそれは……直接的な表現をしちまえば『アルティラ達を殺せるのか』と、そう言っているのだろう。
……そして、それができてしまうのか、とな。
ミルティーヌ、もしかしたらお前はずっと……。
「……そうだな。嫌なことでも笑ってやらなきゃならん時ってのがあるもんさ、特に大人っつーのはな」
「――っ! ……そっか、そうよね――」
「――だが……!」
ミルティーヌの言葉を遮るように続けていく。
「だが最後は総取りだ……! 噂の真相を解明し、アルティラ達全員を解放して、そしてハックに、ハッカーに……その先にあるかもしれん『不落の難題』へとにじり寄ってみせる……!」
目の前でぐっとこぶしを握りこむ。
「たとえアイツらに刃を向けることになったとしても、必ず最後は取り戻す! キツイ思いをチップにするんだ、あがりは大胆にいかねぇとな!」
「――!」
「…………ふふ! まったくアンタってば、欲張りなのよこんな時に。……でもそっか、アンタが『もう無理だから諦めよう』なんて言ったこと、一度も無かったっけ……」
そんな言葉とともに、ほんの少しだけまつげを伏せる。
そして……。
「――私も今度こそ覚悟を決めたわ。くよくよしてたってアルティラたちが助かるわけじゃないもの。……それに『慎重と深刻は違う』、だしね?」
そうやって、小さく微笑むミルティーヌ。
表情こそ穏やかだが、強くてまっすぐな決意の目だ。
……俺のよく知る、お前の目だよ。
「ふ……、さてそうなればイルヴィス、あとはエリアボスの元へたどり着く手段だが……」
「にゃふふ、ねーオジサン? 多分アルっちたちを操ってる魔物の目的はー、ウチらもおんなじように手駒にすることだと思うんだよねー? んでんで、それには多分条件があるんじゃないかな?」
「アルっち……えっと、アルティラのことね?」
「じょ、条件か……。な、なるほど、だからこそ他の魔物が邪魔をしないように、と、統率をしていたんだな……」
条件……そういえば、アルティラを含めてあの冒険者達は、亡骸と言うには随分と綺麗な姿をしていたが……。
「でもさ、確かに魔物は襲ってこなかったけど……その分どれだけ逃げても、あの冒険者の人たちにはいつの間にか追いつかれちゃってたよね? あれなんとかしないと……」
確かにトリアの言う通りだ。
いくら撒いても、こちらの行く手に陣取っていたことさえあったからな。
……!
だがそうか……!
「――いいや逆だ、そいつを利用する……!」
「利用? えっと……?」
「にゃふふ、さっすがオジサン! ここから先はランクの高い魔物もふえていくからねー? 邪魔をされないって言うなら……むしろ好都合ってカンジ?」
そういうことだ……つっても、俺がそれに気付けたのはエテリナの言葉のおかげだがな。
「えっと、つまりアルティラ達……あの冒険者達を引き連れたまま探索を続けるってことかしら……? それも随分無謀に思えるけど……」
「いや、もう探索は必要ない。なるべく最短ルートで階層を進む。エリアボスがいるような階層にたどり着いたら……」
「! はい! えへへ、ハクに任せてください!」
ホント、頼もしいねまったく。
さっきハクはあの繭に対して、ほんの少しでも何かを感じ取ってくれていた。
つまり、あの地下水路でのテンタクルグリーデアのように、感知能力を阻害するような奴じゃないってことだ。
……冒険者の亡骸。
戦いにくい相手とはいえ、S+の魔物を相手にするよりは幾分かはマシだろう。
そしてその先には……!
「うし、そうと決まれば腹ごしらえだ! ある程度余裕があるからな、できるだけ好きなもん作ってやるぞ!」
といっても、背中の一坪に入ってるもんでしか作ってはやれんが……。
それでも士気を高めるのに、食事ってのは有効だからな。
「やたー! おっちゃんボクおにく! おにくがいい!! あとチョコ! チョコレート! えっとそれとー……」
「おいトリア!? お前この間私が言ったことをもう忘れたのか!? 消化というのは体力を使うものであってだな――」
……………………
…………
……
「――ねぇおじさま? ……今なら少しわかるんです。この姿……先祖返りは、ハクの中にあるもやもやと関係してるって……」
食事を終え、各々明日の準備をしている中。
ふと、ハクがそんな言葉をこぼし始める。
……相変わらず、俺の腕の中でな。
「でもこの力があれば、きっと明日もお役に立てると思うから……だから、このもやもやを吐き出しちゃうのはもう少しだけガマンします。――明日、全部が終わったら……お話を聞いてくれますか?」
「……あたりまえだろ? むしろ俺の方が言ったじゃねぇか、『ちゃんと話してくれよ』、ってな?」
「ふふ、そうでしたね……!」
ハクも、そしてミルティーヌも、ずっとある不安を抱えていた。
そして俺はそれを、言葉で、行動で、解消してやれているモンだと思っていた。
……いや、思い込んでいた、と言うべきだな。
ちゃんと『伝わっている』と、そう信じ込んでいたワケだ。
『信頼』と『盲信』は違う。
んなことは分かってるはずなのに、どうにも情けない話だねホント。
「よーし! そんじゃあハク、今日も一緒に寝るとするか!」
「は、はわぁ……!? い、良いんですか……!? おじさまの方から誘ってもらえるなんて、ハクとっても嬉しいです!! ううん、とっても一つじゃ足りません! えと、とってもとってもとってもとってもとってもとーっても……」
いや長い長い長い。
……ま、今は良いか。
「あー! おっちゃん何言ってるのえっちえーっち! セクハラおじさん!!」
「はっ! エッチでもセクハラでもありませんー! ハクも喜んでるからいいんですぅー!」
「にゃー! んじゃんじゃ、ウチもウチもー! 一晩限りの温もりが狭いって言うならー、……ウチはハダカでもいいんだよ?」
「なぁ!? え、エテリナ! またお前はそう言うことを軽々しくだな……!」
「まったく……ここのパーティっていつもこんな感じなの?」
「ふ、ふふ……。ま、まぁそうだな……」
相変わらず賑わしいねホント。
……明日だ、必ず全部、いい方向にきめてみせる。
そしてそれが終わったら……きちんと話をしよう。
ハクとも、そして、ミルティーヌとも。




