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第18話 ちゃんと言ってくれよ?

「またいらっしゃぁい。こ・ん・ど・は、お酒を楽しみにねぇん?」


 相変わらず筋肉をぴくぴくとさせるモーヅィードに見送られながら、俺たちは酒場を後にする。……最後までインパクトの権化のようなヤツだったなぁホント。

 だがまぁ――。


「――少しほっとしている……と、そんな顔をしているな?」


「! クヨウ……まぁな。……しっかし、いつもことながらおっさんそーんな分かりやすい顔してるかね?」

 

「ふふ……、さて、どうだろうな?」


 『メモリアルメモリー』によって映し出されたアイツらは、少なくとも俺を邪険にしているような様子はなかった。

 ……まぁちょっと『コレ俺が見ちゃっていいの?』的なアレはあったがね。


 考えていたとおり……なんて言うには今さらという感じも否めんが、ともかくやはり理由があったということだろう。

 しかしそうなるとその理由だが……。


「――っと、悪いな、お前の前でこんな……」


 『元パーティ』なんて言葉、クヨウのヤツは特にいい思いをせんはずだ。

 なんせあの首輪事件も、仲間に裏切られた結果らしいからな。


「気にするな、過ぎて気を使われた方がこちらも気を揉むというものだ。……むしろ私も良かったと思っている。お前のことを、ちゃんと認めてくれている人たちがいてくれて」


「そうかい? ちょっとばかしチョ……流されやすいとこもあるが、やっぱりお前はしっかりしてるねホント」


「……イルヴィス? 今『チョロい』などと、そう言いかけてなかったか……?」


「ん? はははそんなそんな。あれだ、言ったとしてもほれ、『チョロカワイイ』とかそういう感じのアレだから。な?」


「かわっ……!? な、なにをそんな急に……! し、仕方がない、お、大目に見るのは今回だけだからなまったく……!」


 ……いや今のでいけちゃう?

 ホント、心配になるレベルよコレ? からかってる側のおっさんが言うのもなんだがね?


 ま、街じゃあしっかり者と評判みたいだし、ネルネなんかも『あ、あれはおっちゃんの前だけだから……し、心配しなくていい……』なんて言っていたがな。





「――デルフォレスト……ですか?」


 いつも通り、冒険者ギルド備え付けの酒場の一角。

 学校を終えて合流したハクにも、次の目的地のことを話しておく。


「でも、予定していた三つのダンジョンの中じゃあ、高難易度のデルフォレストは後回しにするって……」


「あぁ、そのつもりだったんだがな。……というか悪い、今回の目的は噂がらみの探索じゃないっつーか……」


「えとつまり……ミルティーヌさんたちのために、ってことですね?」


 ハクは学校もあって連れて行けんかったが、俺達がどういった目的でモーヅィードをたずねたのかは知っている。

 察しが良くて助かるね。


「まぁそうだな。……そんで正直、こいつは俺自身のためでもある。夏休みが始まっていきなりになっちまうが……」


「…………えへへ、はいもちろんです! ハクもおじさまたちのためにがんばりますからね!」


「そうかい? そいつは助かるよホント……」


 ――……ん?

 なんだ? なにかハクの様子がいつもと違うような……。


「……なぁハク? 言いたいことがあったらちゃんと言っていいんだぞ? デルフォレストは最上級の難易度だ、危険だって思うなら……」


「え……!? あ、あの、ハクはやっぱり足手まといですか……?」


「いや! 違う違う、むしろハクの能力は正直、随分と頼りにしてるぐらいだ。……悪かったなヘンな言い方して、少し、様子が違って見えたもんでよ。でもホント、なにかあったらちゃんと言ってくれよ?」


「頼りに……! えへへ、ハク嬉しいです……! わかりました! なにかあったら、ちゃあんとおじさまにお話ししますね!」





 ――デルフォレスト第二十三階層。


 デルフォレストに足を踏み入れて四日目、今日からはいよいよ二十階層へと歩を進めることができた。

 階層図とハクの能力のおかげで、ここまでは思った以上に順調だ。

 

 だがまぁひとまず、今日の探索はここまでだな。


「……お、あったあった。ここだな『セーフスポット』」


「他の冒険者は……見当たらないみたいね」


 数本の大木と土手のような地形に囲まれた、少し開けた場所へと到達する。

 

 ダンジョンの構造上どうしても、こういった魔素の流れが滞るような場所ってのが出てくるらしい。

 おかげで魔物(モンスター)も現れず、休息をとるにはもってこいってワケだ。


 そういった場所は『セーフスポット』と呼ばれ、階層図にも明記されている。

 まぁ冒険者にとってのオアシスといったところか。


「とりあえず休むか。運良く今日は遭遇せんかったが、ここからはランクSの魔物(モンスター)なんかとも少しずつ遭遇していくだろうしな」


「ら、ランクSか……。え、エルダースライムの時のことを思いだすな……」


「けどあれから仲間も増えて、ボク達も強くなってるからね!」


 トリアの言う通りだ。

 全員で連携を保てれば、苦戦はするだろうが勝てない相手じゃあないはずだ。


 慎重に行動し、高ランク魔物(モンスター)との複数体同時遭遇を避けつつ探索を行えば、今日のように一日で三階層を進むことも可能だろう。


 いざとなれば俺の『戦闘力解放(ステータスオープン)』もあるしな。




「――にゃふむ、デルフォレストは全五十二階層でー、最上級ダンジョンにしては浅い方だけど……問題は三十階層を過ぎたあたりだねー? そこからはS+の魔物(モンスター)も出現するようになってくるだろうし……」


「ふーむ、こうなってくるとやっぱボイドシンドロームは厄介だな……」


 食事をとりながら、今後の予定を話し合う。


 実はと言えば、自分のパーティがあるガングリッドは無理としても、シーレには協力を頼もうと思っていたんだが……。

 アイツまたふらっとどっか行っちまってるみたいだったからなぁ。


「ボイドシンドロームっていうと……アンタのスーパー大器晩成が抑え込まれてるってヤツ?」


「そ、そういえば……み、ミルティーヌはおっちゃんのす、スーパー大器晩成のことも知ってるんだな……」


「私はって言うか、私たちのパーティはって言った方が正しいけどね? まぁ、ここまで極端な強さになるなんて思わなかったけど……」


「いやまぁホントになぁ」


 そいつは俺もおんなじだ。

 ……ま、そのおかげで今の俺があるっつっても過言じゃあないかもしれんがね。



「……ねぇおっちゃん、明日からもがんばんないといけないよね? なんだかボク、甘いものが食べたいなぁ? そしたらもーっとがんばれると思うんだけど……?」


 ダンジョンの中での糖分摂取ってのはなかなか難しいからな。

 冒険者用につくられた特殊なチョコレートなんかは俺も常備しているが……。


「まぁ別に余裕がないワケじゃねぇけどよ。……しかしお前、今日見つけた黒リンゴもペロッと何個かいっちまっただろうが。あんまり甘いもん食いすぎるとお太りあそばされるぞ? ん?」


「なぁ!? 女の子になんてこと言うのさ!! このセクハラおじさん!! えっち! ばかばかぁ!!」


「いやまてまて! エッチはおかしいだろエッチは!?」


 なんでコイツはこういつもいつもおっさんの下心を捏造してくるんだよ!


「まぁ今のはイルヴィスの言い方も悪いぞまったく……。だがトリア、消化というものは驚くほど体力を使うものだ。ダンジョン探索において、必要以上の過剰な摂取は禁物というものだぞ」


「むぅ……あーあ、おいしくてー、たくさん食べても太らなくてー、そんでもってぜんぜん疲れないようなモノがあればいいのになー」


「あ、あるぞ、そんなモノ……」


「え!? ホント!?」


「う、うん……。ま、まずこの人体にほぼ無害な『回復スライム』を胃の中に流し込むだろ……?」


「え……?」


「た、たくさん飲みこめばお腹はいっぱいになるだろうし……じ、時間がたつと消滅しちゃうけど、そ、そのたびにまた流し込めば……」


「はわわわはわはわわ……!!」


「いや新手の拷問か」


 『おいしくて』って条件聞いてた?

 相変わらずスライムのことになると、いろんな境界がゆるゆるになるなコイツは……。まぁおかげでトリアも静かになったし良しとしよう。


「……本当に、ここのパーティは賑やかね」


「何言ってんだよ、俺達が一緒にやってた時も似たようなモンだったろうが。ラフィアのヤツがぶーたれて、アルティラがそれをたしなめて、お前がなんやかんや言いながら世話焼いて……」


「ふふ、それもそっか。レンは面白がっていっつも笑ってるだけだし、……アンタはアンタでラフィアには甘いし?」


「……ん? いやそうかぁ? そんなことはないだろ……っと? ……ハク? どうした? どこか調子でも悪いのか?」


「……え?」


 ……あんまり食が進んで無いようだ。

 顔色が悪かったりするわけじゃあ無いようだが……。


「ごめんね? ひょっとして、私のパーティのために無理させちゃったから……」


「いえそんな……! ……えへへ大丈夫です! ハクもれっきとした冒険者ですから! これくらいへっちゃらです!」


「そうは言うがな……いや、そうか、頼もしいよホント。まぁとりあえず、今日は早めに休むとしよう」


 ハクの頭をひと撫でし、眠るための準備を始める。

 昨日までは羊除けの小瓶(ナイトワーカー)の世話になっていたが、セーフスポットのおかげで今日は俺も眠れそうだ。


 ……いざという時のために、踵の道標(ホームカミング)も複数用意してある。

 あとは明日の朝に様子を見て、だな。





 ――翌朝。

 

 ……なんだか随分と寝苦しかった気がする。

 四日ぶりの睡眠だったしな、疲れてたのかね、どうにも。

 

「イルヴィス!! ハクが、ハクがいないんだけど……!」


「――なっ!?」


 ぼんやりしていた頭と体が、ミルティーヌの言葉で跳ね起きる。

 確かに昨日は様子がおかしかった、まさかそれと何か関係が――!?


「……すぅ、すぅ」


 …………え?



「……イルヴィス? 私の目がおかしくなければ、お前の傍らにハクがいるように見えるのだが……?」


「にゃふーこれはこれは! オジサンも大胆になったものですなぁ」


「いやいや誤解だって! 俺も覚えがないっての!!」


 つかエテリナ!

 お前は多分、分かってて言ってるだろ!!


「ふぁ……、おはようございますおじさま。 ふふ……っ、おじさまとっても激しくて、ハク、昨夜は大変だったんですよ……?」


「なぁ!? あ、アンタ!! こんな小さい子にまで何を……!!?」


 いや寝返りね、多分寝返りの話とかねこれ?


 流石に小さなハクとはいえ、半寝袋状の一晩限りの温もり(インスタントハグ)に二人も詰め込まれたりすりゃあ息苦しくもなるもんよ?

 そりゃおっさんの寝相だって激しくなるもんさ。


 ……だから皆してそんな目をするんじゃないってのに。

 いやいやそんなことよりだ……!


「ハクお前……いつの間にか立派な角が生えてるね?」


「えへへ、立派だなんてそんな……!」





 ……先祖返り。

 亜人の中で時折みられる、魔物(モンスター)の力を行使できる特殊な素質。


 ハクの『魔物血統(ハーフモンスター)』はウルトラスーパー以下略ドラゴンだからな。

 この状態になると、その能力なんかは随分と底上げされるようだ。


 冒険者の中には、魔物(モンスター)の魔素によるマーキングなんかを防ぐことで遭遇率を下げる、いわゆる『エンカウント阻害』みたいなスキルを持ってる奴もいる。


 しかしハクのそれはもっと高度と言うか根本的と言うか……。

 『今はあっちの方に行くと危険みたいです』ってな感じで、高ランク魔物(モンスター)が複数いるような場所を感覚で言い当てるからなぁ。


 こと戦闘なんかにおいても、いままでの訓練の成果もあって、他のヤツらとの連携もきちんととれている。おかげで探索は思ったよりも大分順調だ。

 唯一の問題と言えば……。


「ふふっ! ただいまですおじさま……!」


 ……戦闘が終わるたびに、こうして俺の腕の中に戻ってくることなんだよなぁ。


「……あー、そのハク? なんつーか、とりあえずいったん離れてだな……」


「むぅ、やーです! やーですもん! ハクはおじさまのモノですから、ずーっとくっついててもいいんです!」


 うーん、その理屈はおかしいなぁ。


「それに……おじさまもハクが恋人だったらいいなって言ってくれましたし……ふふ、両想い、ですね……!」


 確かに自慢できるとは言ったが……。

 まさかそいつが今ここで俺の首を絞めにくるとは……。


「モノ!? 恋人!? アンタ……やっぱりイカガワシイことをしてんじゃないでしょうね……!」


「そうだよ! ボクのはだか見たときみたいにさ!」


「はぁーーー!!? ちょっとイルヴィス!? 今トリアからすごいセリフが飛び出したんですけど!? ねぇ聞いてる!? 聞き捨てならないって、そう言ってるんだけど!?」


 ……うーん、これはもうホントになぁー。

 ホントにもうアレがアレっつーか……、アレだなぁホントに……。


「な、なんとなく、おっちゃんの頭の中で、ご、語彙力がなくなっていってるのが想像できる……」


「にゃふふ、ウチもウチもー!」





 ――デルフォレスト第三十二階層。


「……なぁハク? やっぱり何か、俺に言いたいことがあったりするんじゃないのか? ん?」


 お姫様抱っこのような状態のハクに、改めてそんな風にたずねてみる。

 あれから数日間、ハクはずっと先祖返りを起こしたままだ。


 以前ハクが先祖返りを起こした時は……まぁなんというか、俺がケガをしてまで庇ってくれた、みたいな感じで、ハクの感情が昂ぶったことが原因だった。


 ……ちょっと自分で言うのはこう……アレだな、自意識過剰と言うか……。


 まぁとにかくだ、今回もそういった……いわば『トリガーになった出来事』みたいなもんがあるはずだ。

 そして恐らく、そいつは感情的なもんに起因していると思うんだが……。


「ふふっ! もちろんたくさんあります! ……おじさまが素敵だってこととかー、おじさまがカッコイイってこととかー、おじさまが大好きってこととか……」


「いやストップストップ、もういいもういい……」


「えー、もういいんですか? ふふ、照れてるおじさまもカワイイです……!」


 ……照れるっつーかムズかゆいっつーか、しかしこれ(・・)だもんなぁ。

 可愛らしいもんだが、原因の解明という点ではちょっとした座礁を起こす勢いで難航している。どうしたもんかねホントに……。


「――!? イルヴィス、また敵だ!!」


 そんな中、クヨウの叫び声で場に緊張感が走る。

 現れたのは人型の……繭のような物で顔を覆われた魔物(モンスター)だ。


「モックソルジャー……? いや、それとは違うか……!?」


 まずその覆われた顔に目が行くが、それでモックソルジャーでないと判断したワケじゃあ無い。

 ……動きが人間的(・・・)過ぎる。たとえ上位種だったとしてもな。

 

 そもそもデルフォレストにドッペル属の魔物(モンスター)は出現しないはずだ。

 ならばコイツらは……。


「にゃ!? オジサン後ろにも!!」


「!! ……ちいっ、囲まれたか……!!」


 エテリナに促され、振り向きざまにナイフを構える。

 そして――。


「……なっ!?」


「――――うそ、そんな……!?」


 相変わらず繭に顔を覆われたそいつらを見て、ミルティーヌも思わずといった様子で声をこぼす。

 

「……エテリナの情報じゃあ、魔物(モンスター)らしき『何か』がいるとそう言っていたが……確かにコイツらは魔物(モンスター)なんかじゃなさそうだ……!」


 得体の知れん状況だが俺には、……いや、俺達(・・)にはわかってしまう(・・・・・・・)

 なぜならば――。




「……久しぶりだな、レン、ラフィア、そして…………アルティラ――!!」

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