番外編 ワールズレコード015: 戦女神
「――あ、そう言えば名前がまだだったわね? マジューリカよ、よろしくねぇ?」
ヒーローだのなんだのと、もてはやされている男を遠目に見ていた矢先。
偶然俺達は、フーの同期だという彼女とばったり出くわしていた。
「えっと、だぁれ? またおっちゃんの知り合いさん?」
「あぁ、この人は――」
「うふふ、おねぇさんとイルヴィス君はぁ、とーっても深くて複雑な関係よぉ? ……もう因縁の仲って言っても過言じゃないかしら? うふふ……!」
ずぉーい!? いきなり何言ってんのこの人!?
ダメだってコイツらすぐ本気にして……ほらー、すでにもうこの目だよ。
「もーおっちゃんはもー! ボク達やおししょーリィンさんフーさんウリメイラさんだけじゃ足りないの!? またこんな美人さんにまで手を出してー!!」
「いや増えとる増えとる!! ……違う増えてない増えてない誰一人として手ぇだしてねーよやめんか!! つか、今自己紹介されたばかりなのも見てただろうが!」
「つまり名前も知らないのにそんな関係に……!? い、イルヴィス!? お前という奴は! おまえというやつはー!!!」
「うふふ、うふふふふふふふふ……!」
あーもうしっちゃかめっちゃかだよ!!
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ワールズレコード015: 戦女神
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「……マジューリカさん、でしたよね? 勘弁してくださいってホント……」
「うふふ、ごめんなさい反省してるわぁ。おねぇさんの悪い癖ねぇ?」
その割にはなんだか楽しそうですがね?
なんで俺の周りにはこう……いやまぁいいか。
「それでぇ、あれがヒーローさん? ……ふぅん、思ってたよりは、あんまりそれっぽくないって感じかしら?」
「いやヒーローにそれっぽいも何もないでしょうによ……」
しかしまぁ、確かにガッツリ騙りモンだからなぁ。
「そういえば……『ヒーロー』って言葉が古代語からきてるのは知ってるかしらぁ?」
「にゃ! はいはーいウチ知ってるー! もともとは確かー……『選ばれし者』って意味だよねー?」
「うふふ、そうね。 『ガッチャ』、『ラーン』、『セイヴ』、『ジエム』、そして『システィマ』……。五人の戦女神に認められた者だけがヒーローの名を冠するって言うのが――」
古代の習わしみたいなもんだったってワケか。
それが転じて今では、『救世主』みたいな使われ方をしてるんだな。
「め、女神さまか……。そ、そういえば、ハクはまだ恩恵を授かってないんだよな……?」
「ふむ、確かハクは十一歳だったか。ごく早い者であれば、もう授かったりするとも聞くが……」
――運命の戦女神ガッチャ。
その加護により、マナが発現するぐらいの歳になったすべての人間は恩恵と呼ばれる特別な力を与えられる。
……まぁ二つ名の通りとでもいうべきか、恩恵ってのは、正直当たり外れが大きいんだがな。
中には『ものすごく面白くて魅力的な一言日記みたいなもんが描けるようになる』なんて良く分からん能力もあるらしいが……何の役に立つかは疑問だね。
「でもいつかおっちゃんが言ってたけどさー、恩恵ってホントにくじ引きみたいなものだよねー?」
「昔は恩恵にも、鑑定の星と同じようなランク付けがあったって話らしいからなぁ。あーっと……『レアド』っつったっけか?」
珍しいモノなんかを『レアもの』なんていうのはそこから来ているそうだ。
「だが仮にどんな恩恵であってもそう悲観することは無い。私のそれもたいがいだが、それでも戦い方やスキルを磨けば、勇者候補なんて呼ばれるようになったりするものだ」
実際そうなってるクヨウが言うんだ。
説得力が違うね、うん。
「スキルかぁ。ボクもそろそろ新しいアクティブスキルとかほしいなー。……それとえっと、パッシブスキルの方はラーンさまの加護なんだよね? だから恩恵とは性質が違うって……」
「そうなのか? 私も正直、そのあたりのことなどには詳しくないのだが……」
「う、うん……。わ、わたし達もおっちゃんに教わって知ったんだけどな……」
――試練の戦女神ラーン。
一人一人に与える様々な水準と、それを満たした時に発現するパッシブスキルとを定める、教導神とも呼ばれる戦女神だ。
「にゃふふ、恩恵もスキルも大事だけどー、今じゃ前みたいに最重要視されるってわけじゃないしねー?」
「スキル第一主義の崩壊ってやつだな。俺達は冒険者カードをレベルクレストにかざすことでスキルなんかも確認できるが……最近じゃあ興味のないヤツは、教会の大鏡すらほとんど利用しないらしいからな」
「大鏡っていうと……えっとセイヴさまの力で、自分のマナやスキルなんかが見えるっていうアレだよね?」
「うふふ、もともと冒険者カードやレベルクレストも、その大鏡を元にして作られたものなのよぉ?」
へぇ、そうなのか。そいつは知らなかったな。
その辺は流石、冒険者ギルドのスタッフといったところか。
――記録の戦女神セイヴ。
魔物やダンジョンによって死を迎えてしまった人間は、セイヴの加護のおかげで、三ヶ月ほどたてば教会での復活が約束されている。
……まぁ死の直前から半年さかのぼった『記録』を代償にってのは……俺にとっちゃ安いもんとは思えんがね。
ちなみに肉体……と言うか亡骸なんかが残っている場合はそういったものも回収され、それを元に新しい肉体が作られるそうだ。
つっても元の体やなんかがなくなっちまったからといって、『じゃあ復活できませんよ』ってワケでもない。
回収はあくまでも、『自身の亡骸と鉢合わないように』という意味合いらしいからな。
「ちなみに蘇生屋さんなんかの中にはー、セイヴさまとの契約魔法を行使する人も多いみたいだよー? ウチの知り合いもそうだしねー」
「契約魔法……っていうと、エテリナも使えるよね? えっと確か、ショータイムウインドウだっけ?」
「あらあらすごいわぁ。その年で契約魔法なんて、随分と優秀なのねぇ?」
「にゃふふ、まぁまぁよしたまえよう! ……といっても、流石のウチも使えるのは、ジエムさまとの契約魔法ひとつだけだけどねー?」
契約魔法は、対応する戦女神の紋章が浮かび上がるからな。
魔法に疎い俺でも、流石に判別できたりする。
――管理の戦女神ジエム。
秩序を司る戦女神で、エテリナの契約魔法『ショータイムウインドウ』のように、人間同士の関係性などにおいてその加護は発揮されている。
まぁ秩序つっても、『直接悪人に裁きを下す』だとかそういう話じゃあない。
むしろ清濁併せ持ってこそってのが、ジエムの教えだったりするらしいしな。
「ガッチャ、ラーン、セイヴ、ジエムとくれば、残りは戦女神システィマだが……」
「う、うん……。こ、こう言うのはなんだけど……し、システィマ様って言うと、あんまりなじみが無いというか……」
基盤の戦女神システィマ。
この世の礎を統べると言われている戦女神なんだが……。
正直、クヨウやネルネの言うことも分からんでもない。
俺もシスティマのことはよく知らんしなぁ。
「うーん、おねぇさんはあんまりそんなことないんだけど……。でも確かに、今はシスティマとの契約魔法を使える人もいないみたいねぇ」
こう見えて、マジューリカさんは俺より年上らしい。
もしかしたら昔はもう少し、システィマとの距離や繋がりが深かったりしたのかもしれんね。
……しかしエルフなんかは長いやつで三百年も生きるって話らしいからなぁ。
マジューリカさん、何年生きてるのかすこし気になるところではあるが……流石に女性にそれを聞くのがアレってことは俺にもわかる。
「……うふふ、さぁて、ヒーローさんのお顔もみれたことだし、おねぇさんはもう行くわね? イルヴィスくんたちも、どこかへ向かう途中だったんじゃない?」
「あっとそうだった! まーたフーに小言を言われちまうよ……。マジューリカさんそんじゃあまた!」
「うふふ、ええ、またどこかでね?」
……
…………
……………………
「ほらほらー、あんまりイチャイチャしてるとクーよんが寂しがっちゃうよー?」
「なっ!? エテリナ何を勝手に!?」
「にゃふふまぁまぁ! ……さーてさて~? ハクちーもオジサンもそろったことだし、さっそくエテリナちゃんの集めた情報を大公開といきませうかねー?」
「おい待て! さらりと流すんじゃない! お前はいつもそうやって……!」
「ふふふ……。ふ、二人とも、な、仲がいい……」
まったくだねホント。
「…………あれ? ――すんすん……あの、おじさま?」
「ん? どうしたハク? 俺になんかおかしなとこでもあるのか?」
なんだかぴくぴくと何かに反応しているみたいだが……。
ウサギさんかな?
「あっごめんなさい! えと、なんだか知らない人というか……女の人みたいな気配がするかなって思って。前にも一度あったんですけど……」
「あー、そいつはあれだ、ここに来る前に少し知り合いに会ってな。しかしそんなことまでわかるのか、すごいなハクは」
「え、えと……そんなことないです、えへへ……!」
「……うーん、今のはアウトかなぁ……? セーフかなぁ……?」
「いやハクのことだ、アウトかセーフかと言われれば、アウトになるようなことなどは無いのだろうが……」
「うにゃあ、それっぽい小説だったらー……ちみどろだいさんじってカンジ?」
「せ、セリフだけ聞くと、まぁ……。た、他意はないと思うけど…………がんばれおっちゃん……」




