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第13話 正気の沙汰じゃあないんだろう

 俺達が他の冒険者達から一足遅れてロビーへと向かうと、そこにはもう結構な数の冒険者達が集まっていた。


「やはりアンリアットはダンジョンも多いだけあって、滞在している冒険者の数も多いのだな……」


「まぁなんつーかあれだな、おっさん達はあんまり活躍できんかもしれんね」


 少なくとも、評判を一気に覆すような出番は期待できんところだ。

 ……ま、俺としちゃあ想定通りだったりもする。


 あくまで悪目立ちはせず『あれ? 噂程悪い人間じゃないんじゃないの?』って程度の評価が得られれば十分だ。

 そんで部屋から退去しなくてよくなったりすれば……もう言うことは無いね。


 ……特に『戦闘力解放(ステータスオープン)』のことは、隠しておきたい。

 俺の思う良い方向ってのはまぁそういうことだ。


「だいじょーぶだいじょーぶ! きっとボク達にしか倒せないようなすっごい魔物(モンスター)も出現してるよ! そりゃーもうわっさわさにね!」


「えぇっ!? えと、トリアさん? それはそれで、あんまり大丈夫じゃないような気もしますけど……」


 いやホントだよ。

 妙なフラグを建てるんじゃねぇっての、このポンコツ娘は……。

 

「にゃふふ! もしそうなったらウチが魔法でバンバン誘導してー、ソコをオジサンがまとめてサクッとやっちゃえばー……。にゃふー! いちもーだじん!」


「んな魚みてぇに……」


 追い込み漁かな?



「で、でも……ぱ、パニティンサイドの魔物(モンスター)だったら、わ、わたしも少しは……。――っ!?」


 突然ネルネが何かにぴくんと反応し、俺の背中に隠れるように回り込んできた。


 視線の先には……何やらこっちを見ながらひそひそしているパーティがいるな。

 一瞬、俺の陰口でも叩いてんのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。


「ネルネ? ひょっとしてアイツら……」


「う、うん、えっと……わ、わたしが前に一緒にいた、ぱ、パーティの……」


 ……なるほどな。

 『気持ち悪い』だのなんだの言って、ネルネを追い出したってヤツらか。


 ネルネの能力が肌に合わないってのは、正直仕方がない部分もあるだろう。

 俺もあの感触にはいまだに慣れんし、それで一緒にやっていけなかったってことを責めるつもりは無い。


 ――が、今のそれ(・・)はどうにもいい気分はしないぜ?

 

 わかるんだよ? なんせおっさんそういうの(・・・・・)身をもって体験してるからね。

 ……どうせまた、『勇者候補にこびへつらってる』とかなんとか適当なことを言ってんだろうよ。


「まぁ気にすんな……って言っても難しいだろうが、あぁいうヤツらはどうしたってごちゃごちゃいうモンだよ。……お前の能力が悪いわけじゃないさ」


「にゃふふ、そーそー!」


「う、うん……」



「! おいあれ、ガングリッドのパーティだぞ……!」


「横にはシーレも……帰ってきてたのか……」


 ネルネが小さくうなずくと同時に、辺りの冒険者達がにわかにざわめき始めた。

 その渦中にいるのは……どうやら見知った顔のようだね。


「おお……ねぇおっちゃん? ひょっとして、おししょーとガングリッドさんって結構有名人なの?」


「ん? まぁ少なくともこの辺じゃあな。アイツら『称号持ち』だからよ」


 『深紅の戦刃』ガングリッド・アールディム。

 『黄昏の魔卿』シーレ・ルテリオ。

 どっちもこの辺じゃ結構……どころか大分有名だったりする。

 

 ガングリッドは最上級上位、シーレのヤツは冒険者ってワケじゃないんだが……まぁその辺のヤツらよりよっぽど高レベルだろうからなぁ……。


 多分キチンと計測すれば、アイツも最上級レベルなんじゃねぇかな?


「……ム、やはり来ていたかイルヴィス」


「トリア達ものぅ。……ほれイルヴィス、愛するワシをずっとふわふわさせておくつもりか? 肩を提供してもよいのじゃぞ?」


「お前なぁ……」


 返事を待たず、俺の肩へと腰を下ろすシーレ。


「あ! おししょーずるい! おっちゃんボクも! おんぶおんぶ!」


「お前はしっかりと地に足ついてるでしょーがよ」


 ……トリアとシーレが師弟関係になった理由も納得だね。

 コイツら完全に似た者同士だわ。……主に俺のあつかい方とかな。



「アイツ……また実力者に取り入りやがって……」

「卑怯モンが……」

「くそう、シーレさんやトリアちゃんにあんなふうに……うらやましい……」


 辺りの奴らがさっきとは別のベクトルで、またひそひそとざわめきたつ。

 まぁ今度は間違いなく俺に向かって言ってるみたいだな。


 ……いやなんか少し毛色の違うアレも聞こえてこんかったか?


「はっはっは、うーん嫉妬の視線がきもちイイなぁ。ははは……」


「もーおっちゃんヤケにならないの。ほらよーしよし……」


「おじさま、ハクはお背中を撫でてあげますからね? よしよし……」


 トリアとハクが背伸びをしながら、それぞれ頭と背中を撫でてくれる。

 やさしさが目と身に染みるねホント。……でもなんか余計に視線が痛くなってる気もするよ?



「――お集りの冒険者の皆さん! 恐らくもうご存知でしょうが、先程ダンジョン『パニティンサイド』にて、大規模なダンジョンアウトが確認されました!」


 そんな視線に晒される中、ギルドのスタッフから改めて現状が説明され始めた。


「パニティンサイドはアンリアットの地下水路と隣接しており、現在その内部には多数の魔物(モンスター)が出現している模様です! そこで、当ギルドから大規模共同クエストの発注し、その対処に当たっていただきたいと考えています!」


 大方の予想通り、大規模な共同クエストが発注されたようだ。

 まぁ事態が事態だしな。当然といえば当然か。


「現状、当ギルドの見解では、結界魔法を破って魔物(モンスター)が街へと出現するまでの猶予は七時間ほどと予想しております!」


「……ふむ、妥当なところじゃが……実際はもうほんの少しだけ短いといったところかの?」


「にゃふふ、ウチもシーレししょーとおんなじ意見かなー?」

 

「お前らそういうのどうやってわかんの? ……いややっぱいいわ、聞いてもさっぱりだろうしな」


「にゃふふ~? まぁまぁオジサンそう言わずにききたまえよう、えっとねー……」


「やめてー、おっさんクエスト前に頭痛くなっちゃうからー」


 別にギルドを信用してないってワケじゃないが……。

 俺としてはコイツらの方を優先的に信頼しちまうところだね、どうにも。


「つきましてはただいまより三十分間、ロビー内の冒険者カードに意思確認のための魔法を展開します! 参加をされる方はカードの左側、緑に発光している部分に少量のマナを流し込んでてください!」


 カードを確認し、言われた通り左側にマナを流す。

 大規模共同クエストは当たり前の話だが、参加する人数も多くなるからな。これでカードを通して、ギルド側でも即座に参加者の把握なんかができるってワケだ。


「決行は今から一時間半後を予定しています! それまではみなさん協力して、戦闘準備や会議など、クエストの用意を進めてください!」 


 共同クエストの際は、パーティの垣根を越えた協力が必要になってくる。

 まぁそれがいろいろな問題の種になったりもするんだが……。


「ご存知とは思いますが、共同クエストの報酬は全員に平等に配布されますので、クエストの遂行を第一に考えての行動をお願いします! 繰り返します……」


 そんなワケで、こういった注意喚起も合わせてアナウンスされるってワケだ。


 ギルドのスタッフが、再び同じ説明を繰り返していく。

 さて……。


「……ム、とりあえず、まずは各パーティのリーダーで話し合うべきだな」


「ほっほ、まぁそれがよいじゃろうて。酒場の大机を借りれば地下水路の地図も広げられるじゃろうし、ひとまずはそちらへ移動かの?」





 各パーティのリーダーによる作戦会議。

 もちろん俺もその一人として参加している。


「――つまりじゃ、パニティンサイドを中心に水路をいくつかのブロックに分け、危険度の低そうな個所からしらみつぶしにしていくのが良いじゃろうな」


「……危険度が低そうな方からですか? 高そうな方から優先した方が良いように思いますが……」


「……ム、単なる探索であればそうなのだがな。今回の目的は魔物(モンスター)の掃討だ。つまり……」


 まずはある程度まとまって行動し、危険度の低そうな場所から制圧する。

 制圧した個所には実力にあった数人の冒険者を待機させ、残りはさらに奥へと歩を進める。


 それを繰り返しながら……いわゆるバリケードを作るように進んでいくことで、取りこぼしなんかを防げるってワケだね。


「なるほど……」


 二人の説明に納得する冒険者達。

 しかし……。


「…………」「…………」「…………」


 シーレを肩に乗せたままの俺に、色々と含んだような視線が突き刺さる。

 ……肩身が狭いねホント。


「……魔物(モンスター)探知系のスキルが使える者、もしくはそういった仲間がいる者は申し出てくれ。確実性は上げておくに越したことはない」


 地下水路はダンジョンとまではいかないが、ある程度入り組んだ構造になっているからな。

 

 ウチのハクも似たようなことはできるんだが……アイツのそれは、『亜人』由来の能力だ。

 それを隠している以上、ここで大っぴらに話すワケにはいかないか……。


「パニティンサイドの位置と地下水路の構造から考えるに……もっとも危険度が高いと思われるのはここか、ここか、ここだろうな。あるいはその全てかもしれんが……」


 ガングリッドが地図を指さしながら提案する。


「ふむ、一ヶ所はワシが、もう一ヶ所はガングリッド、おぬしに任せるかの。そして最後の一ヶ所は……」


「それならば私がいきます!」


 シーレがすべてを言いきる前に、一人の男が立候補した。




 ……ザーネド・ベルヤン。

 例のアイツだ。


 ガングリッドもシーレも、事情を知っているだけに少し眉をひそめるが、すでに周りのヤツからは、適任だなんていう声が上がり始めていた。


「皆さんありがとうございます! ですが……実は今、私はとある事情でアンリアットには一人で来ているのです。そこでイルヴィスさんにお願いがあるのですが……!」


「……俺に?」


 つか、俺のことも知ってんのか。


「はい! イルヴィスさんのパーティに所属している三人の勇者候補……彼女達と一時的にパーティを組ませていただきたいのです!」


 ……トリア達のことか。

 まっすぐ俺を見つめながら、そんなことを口にするザーネド。


「もちろん、イルヴィスさん達三人にもクエストの参加はお願いします! 後方を守っていただくのも立派な役目ですから!」


 ぐへー。なんつーか、無遠慮に綺麗な目をしているね……。

 その案が正しいと信じて疑わないって感じだ。

 周りのヤツらも、「そりゃあいい」だの「名案だ」だのとはやしたてている。


 ……確かにコイツの言うことはもっともだ。

 共同クエストにおけるパーティのシャッフルなんて話も珍しいことじゃない。


 これが例えば……そうだな、相手がガングリッドだったりすんのなら、俺も安心してまかせられただろう。


 だがザーネド、コイツが少なくとも『ヒーロー』を騙ったことを、俺達は知っちまってるからなぁ。

 その意図はまだ分からんが……正直、手放しに信用はできんところだね。


 っつーことで。


「悪いけど、そいつは飲めねぇな。……アイツらを連れて行きたいってんなら、俺達六人全員でだ」


「! ……いえ、それはできません。失礼を承知で言わせてもらえば、実力者にはそれなりの戦い方と言うものがあります! 普段のクエストならまだしも、こういった緊急事態となれば……」


「そうだそうだー!」

「大人しくヒーローの指示に従いやがれー!」

「はげー!」


「おい誰だ今ハゲっつったヤツ!? 俺のどこがハゲてんだよ、まごうことなくフッサフサだろうが!!」


 だから最近抜け毛が多いなんてこと気にしてないよもちろん。

 ……もちろんな?


「つーかなんでお前みたいな奴の周りに、あんないい子たちが集まるんだよ!」

「調子に乗ってるんじゃねぇぞこの社会不適合者が!」

「しねー!」


「うるせぇぇえぇ!! それもうただの嫉妬じゃねぇか、ばーかばーか!!」


「ええい、子供か」


 肩のシーレにたしなめられる。


「いや、だってよぉシーレあいつらが……」 


「イルヴィスさん! 重ねて言いますが今は緊急事態……意地など張っている場合では無いんです! ……なんなら私の報酬もそちらに渡してもかまいません! ですから……」


 あくまで真面目な表情で、主張を続けるザーネド。


 ……なんとなく、本当になんとなくだ。

 無遠慮なまでにまっすぐなその瞳からは、悪意みたいなものは感じられない、なんて風に思っちまった。


 コイツは今、多分本気で街のために動こうとしている……ような気がする。

 だからと言って心から信用するわけじゃあない、が――。


「……はぁ、しかたねぇか。このままじゃらちが明かねぇしな」


 俺はため息とともに冒険者カードを取り出し、レベルクレストへとかざした。


「……? イルヴィスさん何を……?」


「いいから見てろって。――『戦闘力解放(ステータスオープン)』……!」


 リミッターを解除し、ステータスを引き上げる。

 ……そしてそのまま、カードをザーネドへと手渡してやる。


「……? ――ッ!!? さ、最上級!!?」


 ザーネドの言葉につられるように、他の冒険者達もどよめきだす。

 

「『戦闘力解放(ステータスオープン)』と『ボイドシンドローム』。……今の俺の最大の切り札と、同じく最大の弱点だ」


 見せてやるのは最上級そこまでだがな。

 それ以外の……制限時間やインターバルのことなんかを含めた現状を、カードを回収しながら説明してやる。

 

「なぜこのことを……」


「黙っていた理由か? さっきも言ったがコイツは俺の最大の弱点でもあるのさ。……いろいろとな、お前も冒険者ならわかるだろ?」


「……はい」


 静かにうなずくザーネド。


「そんなワケで改めて逆指名だ。ザーネド、三か所目には俺達全員でお前についていく。……実力があれば、問題ないんだろう?」


 まだいろいろと疑惑の残るコイツに、うちの大事なアイツらを『はいどうぞ』っつって預けるわけにはいかんからねおっさん。


「正気ですか!? あなたや勇者候補の三人はともかく、他の二人を危険に巻き込む可能性もあるんですよ!?」


「んなことは百も承知だよ。けどな……」


 周りから見たら、確かに正気の沙汰じゃあないんだろう。

 それでも――。


「たとえどんなに危険な道でも、一緒に進むと決めたのさ。……ま、アイツらがそれを望む限りは、な」

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