第5話 ため息交じりにこう呟いた
レベルには『60の壁』なんて呼ばれるもんがあって、そこを超えると途端にレベルアップの難易度が跳ね上がる。
いくらフルボーンドラゴンがランクAの魔物だとしても、一体倒したぐらいでレベルが上がることはないだろう。
……普通ならな。
冒険者カードの裏側には女神サマから授かった特殊技能、いわゆる『パッシブスキル』を確認出来る欄がある。
まぁクソザコと名高い俺はパッシブスキルなんて一つも持っちゃいなかったんだが……あの後確認してみたところ、どうやらレベル60になると同時に発現していたようだ。
パッシブスキル『成長率+999』。
……これも、『スーパー大器晩成』の恩恵ってことなのかね?
落ちていた剣を拾った時、俺は手の甲の紋章の数字が変わっていることに気が付いた。おそらく、一体目を倒した時にでもレベルアップしていたんだろう。
とっさに冒険者カードを確認したところ、マナプールは1600ちょい。
トリアよりは低いがフルボーンドラゴンと戦うにはなんとか……といったところか。おかげで、こうして生きて帰ってこれたワケだな。
バラバラになったフルボーンドラゴン。
そのあらゆる部位を背中の一坪に詰め込み、入りきらなかった部分は紐で括りつけてでも持てるだけ冒険者ギルドへと持ち込んでやった。
なにせフルボーンドラゴンは換金できる素材の宝庫だ。
角、牙、爪、頭蓋骨、核の欠片などなど……あらゆる部位が金になる。
流石に二体分の骨全部をってワケにはいかなかったが……。
ま、おかげで良い金にはなったね。
魔物から採取した素材は、商人ギルド系列ではなく、冒険者ギルドを通して査定、換金などが行われる。
支払われる金も、あくまで討伐報酬という名目だ。
なんでなのかはよく知らんが、そういう体裁的なアレがあるのかもしれんな。
それと……あそこに落ちていた人の骨のことも報告しておいた。
これであの中に冒険者のものが有ったとしても、運が良けりゃクエストかなんかで回収されて蘇生されることだろう。
まぁもし回収されなくても三か月もたてば教会で目を覚ますことにはなる。
半年分の『記録』を代償にって形にはなっちまうがね。
……下手をすれば俺達もあの中の一体になっていたかと思うと背筋が凍るぜ。
確かに稼ぎにはなったが、まぁやっぱりこれを続けたいとは思えんな……。
とりあえず、腕の良い蘇生屋に当たることを祈っておいてやろう。
「……あ、おっちゃん! 終わった?」
「おう、これお前の取り分な。お前の方は?」
返事のかわりにVサインが返ってくる。
フルボーンドラゴンは二体ともトリアが倒したことにしておいた。
実際、万全の状態であれば全く無理ってワケでもないだろうし、のんびりと過ごしたい俺にとっても余計な詮索をされないのは都合がいい。
……向こうに見える一組のパーティ。
トリアはさっきまで、そいつらと何やら話をしていた。
「指輪、ばあさんの形見とか言ってたが……お前のじゃなかったのかよ?」
「え、うん違うよ? ……あれ、言ってなかったっけ? ほらあの右の子! あの子のおばあさんの形見なんだ!」
「聞いてねぇよ、まったく……」
コイツは情報をきちんと相手に伝えるっつうことを覚えたほうがいい。
冒険者だからじゃない、人として大切なことだぞ。
「……あいつら、お前の元のパーティなんだって?」
「うん、学生の時の同級生! その時はあんまりしゃべったこととかなかったんだけど……ボクが一人だって言ったら『仲間になりたい』って言われちゃってさ! ……まぁこれも? ボクのカリスマってやつなのかな?」
ふふんと胸を張るトリア。
その理論だと、追い出されたお前のカリスマは大したことなかったってことになるぞ? いいのか?
……トリアの元仲間達、か。
装備品なんかを見たところ、どうにもレベルは高くなさそうだ。
恐らくはコイツの強さを利用しようとしたが、扱いきれずに追い出したってとこだろう。
……『ついていけない』なんて言葉を使ってな。
指輪を落としたのもその過程でってワケだ。
まぁコイツはコイツでろくでもないとこあるからなぁ、どっちが悪いだの論ずるつもりはないが……。
「ついていけないとか何とか言われたんだろ? そんな奴らのために、なんで指輪なんか探してやったんだよ?」
……我ながらイヤな質問をしたもんだ。と、口に出してから気付く。
こういうのは歳のせいにして、無かったことにしたいところだが……。
「……? どゆこと? べつにそれとこれとは関係なくない?」
こともなさげに、トリアはそう言ってのける。
「……お前さぁ、そういうとこばっかりなら……いや、まぁいいか」
思えばコイツは俺の悪評を聞いたと言った時も、なんつーかこう、差別的な態度をとることは一切なかった。
ろくでもないヤツだがなんとなく無碍にしきれんのは……コイツの純粋さとでも言えばいいのか、そんな部分にほだされちまったからなのかもしれんな。
そんな風に浸りながら、トリアの頭をポンと撫でる。
「わぷ! ……えーなにー? 今ボクのこと、なんだか褒めようとしてなかったー? いいんだよ? 遠慮なく褒め称えてくれてもね!! さぁさぁ!!」
「……そういうとこだぞ」
「?」
「ねぇおっちゃん! ボクお腹すいたんだけど……何か奢らせてあげようか?」
「残念だがおっさんは金欠中なもんでな。他をあたってくれ」
つか、お前のそういうセリフ。
ホントどういうアレで出てくんの?
「えー? フルボーンドラゴンのお金があるじゃんかー!」
「そりゃお前もだろうが……俺はこの先何かと入用なんだよ。……まぁウチで良いっつうなら、軽いモンぐらいなら食わせてやるよ」
「おっちゃんの手料理? ……うん! それでガマンしてあげよっかな!」
「こいつはホントに……」
まぁいいか。
冒険者を引退したらもう、そう会うこともないだろう。
……最後に飯ぐらい作ってやっても、そんなにバチは当たらんはずだしな。
……
…………
……………………
「……うーん、このソファなんかしっくりこないんだよねぇ、ボクのおしりにさぁ。……あ! ねぇおっちゃん! とりあえず今日はベッドで我慢したげるから、今度良いクッション買いに行こうよ!」
「…………」
「すんすん……うわ、このベッドおっちゃんくさい! もー、ちゃんとお手入れしてくれないとボクが遊びに来たとき困るでしょ! まったく……」
「…………」
「あ、そろそろお昼だね! おっちゃん今日のお昼ごはんはなーに? ボクとしてはそうだなぁ……? あ、パスタ! パスタな気分で……」
「るせーーーーーーーーー!!!!!!」
思わず漏れ出る心の声。
昨日といい今日といいコイツはホントに……!
「わ、どしたのおっちゃん急に大声出して……」
「どしたのじゃねぇーよ!! なんでまたココにいるんだよお前は!?」
いや部屋に入れたのは俺だけどもね!?
またドアの前で、パンツパンツ連呼されちゃかなわんワケで……。
「えー? だってココなんだか居心地悪くないし、おっちゃんの料理結構おいしかったし……ほら、おっちゃんもボクがいたほうが部屋が華やぐから嬉しいだろうしね!」
でた、これをナチュラルに垂れ流すのがコイツの恐ろしいところだ。
『何が悪かったの?』って顔が本気のそれだからな……。
「とにかくだ、俺は書類とのにらめっこで忙しいんだよ。もう少ししたらなんか作ってやるからそれまでおとなしく……」
「書類? なんのなんのー?」
トコトコとこちらへ近づいてくるトリア。
……人の話を聞いとるのかコイツは。
「前も言ったろ、冒険者ギルドを引退するって。そのための……」
「え!? ……とやー」
「あ、お前!? なにしやがる!」
トリアの手によってバサバサと落とされていく机の上の書類。
「別に引退しなくてもいいじゃん! おっちゃんが頑張ってくれなかったら、誰がボクを甘えさせてくれるの!? 楽をさせてくれるの!?」
おいこいつホントにろくでもないぞ。
その説得で『じゃあ頑張らねぇとな!』とはならんだろ。
「あ、そうだ! いっそのことおっちゃんも『勇者』を目指そうよ! ボクも一緒に頑張るからさ! ねぇそれならいいでしょ? ね? ね?」
……なんてこった。
こんなにも人の『頑張る』を信用できないと思ったのは生まれて初めてだ。
いくつになっても、新鮮な体験ってのはあるもんなんだなぁ。
その良し悪しは別として。
「おっちゃんだって冒険者なら、一回ぐらい『勇者』の称号を目指したことあるでしょ! ねぇねぇねぇってばぁ!」
「悪いけど、その辺の話は俺の中ではケリがつちまってるんだよ、いろいろあってな。ま、そんなワケで……」
俺は縋りついてくるトリアをよそに、背もたれに体を預けながらため息交じりにこう呟いた。
「――勇者になるには遅すぎる」
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