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番外編 ワールズレコード014:冒険者ギルド

 あの事件から数日後の夜、俺の部屋(暫定)には久しぶりにアンリアットにそろった昔なじみの五人がそろっていた。


「ふえー……、これはまたえらいええ酒を用意したもんやなー」


「だろー? ガングリッドが帰ってくるって時期にな、ウリメイラに頼んでなんとか準備してもらってたんだよ」


 例の青いブランデーを見たフーがため息を漏らすように呟く。

 とっておいたってのはこの時のためだ。

 ……まぁ少しばかり味見はしちまったがね。


「おや、愛するワシのためには用意してくれんかったのかの?」


「お前はいつ帰ってくるかも告げずにふらっといなくなっちまうだろうが……」


 そんな軽口をたたきながら人数分のグラスを用意する。

 シーレのためにフェアリー用の小さなグラスも常備してるんだ。ないがしろにしてるなんて思ってくれるなよ?


「あれイルヴィス? それにしては一度封を開けたような形跡があるんだけど?」


「……そうかい? そいつは不思議な話だね、精霊さんの仕業かな?」


 ……気付かれたか。

 まぁなんつーか、ウリメイラがそれに気づかんワケがないわなぁ。


「……ム、どうやらそのようだな。オレの見立てではその精霊は、黒髪で顔に傷があって、悪いことをしたら素直に謝罪ができるような……」


「わかったわかったよ、悪かったって……」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ワールズレコード014: 冒険者ギルド

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……それにしても『ハック』か。どうにも明るい話とは言えないみたいだね」


 各々グラスを空ける中、フーとウリメイラにもハックのことを話しておく。


 巻き込んじまうかもしれんと少し悩んだんだが……どちらにせよ、ハックの発生する条件は分かってないからな。

 いざという時のために、知っておいてもらった方がいいと判断したワケだ。


 それに、こういう時はキチンを話をするべきだと、今の俺は思っている。

 口に出すのは照れくさいが、二人のことも心から信用できると思っているしな。


「はっ! 『はっく』()かなん()かしらへんけどな~、そんなんにウチらの冒険者が負けるわけないやろって話ら! な~? いるびしゅ~?」


 膝の上に寝転がりながら、腰にまとわりつく様にくだ(・・)を巻くフー。


 ……すでにべろんべろんじゃねぇか。

 お湯割りにもしてやったし、それほど飲ませちゃいないんだが……、まぁもともとそんなに強いほうじゃねぇからなぁ……。


「ほらしっかりしろってフー、……あーもうベッドいくぞベッド」


「ベッド~!? そんなん、わんこのしっぽに絵の具つけれこう……床にれもしかくく描いてやったらええことやろーがぁ! ちがうんかぁー!?」


 いやもうホントなに言ってんのか全然わからん……。

 仕方がないので少し水を飲ませ、そのままひょいと持ち上げて運んでやる。相変わらず軽いヤツだ。


「うきゃー! とうとうおそわれるー!」


「ええい、善意で運んでやってるっつーのに人聞きの悪いこと言いやがって……よっと!」


 ぱたぱたと軽く暴れていたフーだったが、ベッドにころんと転がしてやると、大人しく寝息を立て始めた。


 ……こういうところを見ると、ホントにウリメイラと同い年なのか? とか思っちまうな。本人には言えねぇけど。



「ほっほ、随分と荒れておるようじゃのう。酒に強いほうだとは思っておらなんだが、ここまでなるのも珍しい」


「まぁなんだ、最近いろいろとあったからなぁ。……疲れとかストレスとか、ため込んでたのかもしれんね」


 そういうの、あんまり表に出さねぇヤツだからなコイツは。

 ちっこいくせに頑張り屋さんだよホント。


「……ム、ケイン・マクラードの一連の事件のことか。オレも少し話を聞いた」


 ケイン・マクラード。

 ……アイツもあれで、一応勇者候補だったりしたからな。


「けど、ケインを勇者候補に推薦したのはアンリアット支部じゃないんだろう? 私は雇われている身だからね、詳しくは知らないんだけど……」


「たしか……バンダルガ支部の推薦だったか? 前にフーから聞いたのは。もちろんそこも今は大変らしいが……」


 あの事件からこっち、『ふさわしくない選定をした』なんて理由で、一部の地域では冒険者ギルドが槍玉に挙げられているそうだ。

 その影響が、ここアンリアットにも出ているんだろう。


 冒険者ギルドは大きく分けて、連合総本部、国家大本部、地方本部、各支部の四つの構造に分けられる。


 勇者候補の選定はその中で、各支部の推薦を一つ上の地方本部が受諾し、その地方本部の査定によって行われるそうだ。

 そんなワケで、直接ケインの選定に関わっているワケじゃあないんだが……。


「むやみに叩きたい連中にとってはさほど違いなどないのじゃろうて。……もっとも、フーはそやつの本質を見抜けなんだことを悔やんでおったようじゃがな」


 一連の騒動の中心がアンリアットだったってことで、コイツはそれに責任を感じているってワケだ。……『お手柄やったな』なんて笑っていた時も、胸中には複雑なもんがあったのかもしれんね。


「……ったくよ、人に『難儀な性格しとる』なんて言っておいて、コイツもコイツで相当なもんだよ」


 グラスに口をつけながら、寝ているフーのほっぺたをつついてやる。


「おやイルヴィス、こんな人前で堂々とセクハラかい? ふふ、随分と大胆な男になったじゃないか?」


「……ム、だがそれは良くないぞイルヴィス。例え気心の知れた仲であったとしてもだ、いや、だからこそ礼節と言うものは……」


「お前らな……」


 なんで俺の周りのヤツはこう、俺のことをそういう(・・・・)男にしたがるんだ……。



「まぁ無意味な騒動であればじきに収まってゆくことじゃろうて。それまではワシらが支えてやればよい」


「……ム、確かにそうだ。良くも悪くも、今や世界に冒険者ギルドは必要不可欠だからな。無論、今回のようなことは是正されるべきだとは思うが……」


 ……必要不可欠、か。


 冒険者ギルド、商人ギルド、そして職人ギルド。

 世界国家連合(ワールドユニオン)が運営する、世界三大ギルドだ。


 それぞれ世界における『力』『富』『技術』の、高い水準での均衡化を目指すために作られた、なんて話は聞いたことはあるが……まぁ難しいことは正直良く分からん。

 だがおかげで、貧困にあえぐ国や地域なんかはぐっと減ったって話だ。


 もちろんギルドに所属していない冒険者や商人、職人なんかも全然いる。

 例えば冒険者に限れば、どこぞのお偉いさんの専属であったりとかな。


 ギルドの恩恵こそ受けられないが、相応のメリットなんかもある。

 それでもやはり、冒険者ギルドが必要不可欠なんて言われる理由は……。


「そうだね。この青いブランデーも、『レーヴウッド』っていう特殊な木でできた樽を使って熟成されてるんだけど、それだって、冒険者がダンジョンから採取しなければ作れないからね」


 そう、すなわち『ダンジョン』の存在だ。


 各地に点在するダンジョン。

 そしてそこからもたらされた様々な素材やアイテム、技術などなど……冒険者ギルドは冒険者を支援することで、それらを世界に広めることを目的としている。


 少し前に知ったんだが、魔物(モンスター)素材を冒険者ギルドで換金するのも、その辺のことが絡んでいるそうだ。

 俺達が何気なく使っている技術も、そうやって広められてきたってワケだね。


 正直、つい最近まではあまりピンときていなかったんだが……リィンねぇちゃんやエテリナなんかの話を聞いていると途端にいろいろと身近に感じてしまう。

 ……ような気がする。


 単純なモンだなとは、自分でも思うがな。

 しかし――。


「……ム? どうしたイルヴィス?」


「いや……なんとなく、ダンジョンって何なんだろうなって思ってな」


 ダンジョンが何のために存在するのか……未だに定かになってはいない。

 『自然に誕生した』『古代文明の遺産』『星の外からやって来た』……様々な説が飛び交うが、どれも裏付けるものを持たないそうだ。


「ほっほ……、なんじゃそんなことか」


「そんなことって……そんじゃあシーレ、お前はなんか知ってるっつーのかよ?」


「いいや? ワシもすっかり知らぬがの?」


「コイツ……」


 涼しい顔でしれっと答えるシーレ。

 ……駄洒落じゃないよ?


「……そう知らぬのじゃ、ワシも、いいやもしかしたらこの世界の誰しもが知らぬのかもしれん。じゃが……」


 やれやれなんて思っていると、小さなグラスを揺らしながら、シーレが言葉を続けていく。


「だからこそ解き明かすのじゃろう? ――おぬしら冒険者がの?」


「……! ああ、そのとおりだ……!」


 随分とくすぐる(・・・・)言い方をしてくれるね。

 俺はにやりと流し目を送ってくるシーレに返事をしながら、グラスに少し残っていた酒をのどに流し込む。


「くはー! よし、そうと決まればもう一杯……!」


「おっと、ダメだよイルヴィス? ネルネ達からも言われてるからね、あんまり飲ませないように見張っててくれって」


「うぇ!? なんだよそれ!? ……あのウリメイラさん? ちょっとその、内緒にしといていただくワケには……?」


「へぇ、いいのかい? 私は良いんだよ? 心配してくれる彼女たちをないがしろにして、嘘ををついてまでお酒を飲んで……君の良心が痛まないっていうならね?」


「……ぐっ!? ……わかった、わかったよ」


 その言葉を聞いた瞬間、あいつらの顔が脳裏に浮かんでしまう。

 ……どうにも、弱いもんだねホント。




「ふ……、これではどちらが保護者なのかわからんというものだ」


「ほっほ、ほんとにのう。じゃがイルヴィスにとっては良いお目付け役じゃて。……彼女たち(・・・・)のようにの」


「……ム。……ああ、そうだな」

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