番外編 ワールズレコード013:魔法と生活
食事を済ませ、トリア達の集団お泊りが決定したすぐ後。
俺は自身の意思の弱さを痛感しながら、とっておいた酒の封を開け、安物のグラスに注いでいた。
「ふぇ~……おっちゃんこれお酒? なんだかすっごい綺麗……」
「お、そうだろー? コイツは有名なブランデーなんだけどな、特殊な樽を使ってるとかなんとかで、こんな風に綺麗な青色になるそうなんだよ」
ウリメイラに用意してもらったとっておきだぜ?
……もちろんお値段も相応だったがな。
「へぇ~。……ねぇねぇおっちゃん? 社会勉強って大事だと思わない? お酒の味、ボクもお勉強してみたいなー?」
「ほぉそいつは感心だね。確かに社会勉強は大事だが……コイツはお前にはまだ早いよっと……」
つまみに用意していたミックスナッツから適当なものを一つ摘み、トリアの口にポイと入れてやる。
「むぅー……ぽりぽり……」
むくれながらナッツを咀嚼するトリア。リスみたいだぞ?
そんなやり取りをしていると、ハクがちょこちょこと近づいてきた。
「……ん? どうしたハク?」
「えと……あのおじさま? ハクも、ハクもお酒飲んでみたいなーって……」
「ほら見ろトリア、さっそく悪影響がでてるじゃねぇか……。残念だけど、ハクにもまだまだずーっと早いよっと……」
たしなめながらからんと一つ、ハクの口にもナッツを放りこんでやる。
「あむ、ぽりぽりぽり……。……えへへ、そうですよね! えへへ……!」
なんだ? ダメだと言われた割にはうれしそうだが……。
まぁいいか、納得してくれたようならそれで何よりだ。
そんなことを考えたりしながら、ちびりとグラスに口をつけてみる。
――――あぁ、うまいなぁホント……。
「……にゃふふ、ネルネルもオジサンにあーんしてきてもらったら?」
「え……! えと、その……わ、わたしはほら……は、恥ずかしいし……」
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ワールズレコード013:魔法と生活
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「すまないな、先に使わせてもらってしまって……」
「そんなん気にすんなって。……ん? あれ、クヨウお前その恰好……」
食後のシャワーを浴び終えたクヨウが部屋へと戻ってくる。
その恰好はいつもの……クヨウの出身地であるミヤビ特有の物とは違う、どっちかといえばこっちの方っぽい装いだった。
端的に言えばパジャマってヤツだ。
「む……その、私がこういう格好をするのは、やっぱりおかしいか……?」
「いやいや、そんなことはねぇさ。むしろ可愛いくてよく似合ってると思うが……それどっからでてきたの?」
俺の疑問はそこにある。
今回のお泊りは急に決まったことで、着替えを用意する暇なんてなかったはずだが……。
「かわっ……!? な、なんだいきなりそんな……その……ばかもの……」
えーまた褒めたのに罵倒されとる……。
いやまぁそれは置いといて……つってもコレ聞いとらんな……。
「あ、それ? 前に初めてボクとネルネがここに泊まった時さー、あの時も急にお泊りってなって、でもダンジョン帰りだから替えの下着しかなかったでしょ?」
ビジレスハイヴでのエルダースライム見学から帰って来たときのことか。
確かにあの時は俺の服なんかを貸してやったし、今回もそうしてやるつもりだったんだが……。
基本、冒険者用の装備品なんかには自浄魔法がかけられているからな。
日数をかけてダンジョンの探索に臨む場合は、少しでも荷物を少なくするため、着替えなんかの生死に直接かかわってこない部分は最小限にすることが多い。
まぁ中にはそれが耐えられないってヤツもいたりはするが……。
俺が荷物持ちとしていろんなパーティに同行していた時なんかは、そういった需要もあったりしたもんだ。
「だからね? こういう時のために、みんなの予備の着替えもおっちゃんの部屋に置いておこーって……」
「なんでそれを俺が知らねぇんだよおかしいだろ」
ここ一応まだおっさんのお部屋だよ?
この先どうなるかは分からんけどな……。
「なんでって……はっ!? まさかおっちゃん……!? それを知ってボク達がいないときに……ボク達の服をどうするつもりなの!?」
「お、おっちゃん……えと……そ、それは困るぞ……? し、下着とかだって置いてあるんだし……」
「いやお前らの中の俺はなんでいつもそんなヤツなんだよ!」
そんなんだから、おっさんの評判はアレなことになっとるんだぞ!?
…………多分な!
「あーもうほれ、とりあえず次のヤツ、シャワー浴びて来いっての……」
いい加減らちも明かないので、そんな風に促してやる。
どうせ『置くな』と言ったところで、簡単に納得するとも思えんしな。
「にゃふふ、じゃあウチがいこっかなー? ……オジサンもー、一緒に入っちゃう?」
「遠慮しとくよ。残念ながら、うちのシャワールームは狭いもんでな、一人使うのが精一杯ってやつだ」
……だからトリア達もまたそんな目で見るんじゃないよ。
ちょっとおっさん信用無さすぎない? 今さらのことかもしれんがね?
「あ、でもハクは一度だけ……。あの時のおじさま……かたくて、おっきくて……ハクちょっとドキドキしちゃいました……!」
「おっちゃん!!? ねぇおっちゃん!!?」
「いや背中ね? 背中の話ね?」
ハクが家に出入りするようになってすぐのころか。
背中を流すっつってシャワールームまでついてきちゃったことがあったからなぁ。その時はいつものあの目にやられちまって流してもらったが……。
父親との確執があるハクにとっちゃ、そういう部分で憧れみたいなもんもあるのかもしれんし……どうにも難しいところだ。
「でもすっごい当たり前の話だけどさー、今のボク達の生活って魔法なんかが無いと成り立たないよねー? 自浄魔法もそうだけど、シャワーのお湯だって簡単には使えないだろうし……」
「ふむ、食事作るコンロなんかもそうだな。ほかにも……」
「え、永久ランプや冷蔵庫……せ、洗浄槽なんかの家庭用魔導器具もあるしな……」
「ねー? もし魔法がなかったらさ、ボク達まだまだほら穴かなにかで生活してるんじゃないの?」
「いや流石にそれは言い過ぎだろ……」
だが確かに、言わんとすることは分からんでもない。
魔法やマジックアイテムを利用した家庭用の魔導器具を筆頭に、俺達の日常生活に魔法ってヤツは密接しているからな。
普段何気なく使っちゃいるが……もっと感謝をするべきなのかもしれんねホント。
「にゃふふ、でもでもー? そういうものは必要だから作られたんだからねー? 仮に魔法なんてものが無い世界があったとしても、ある程度別の方法で再現されてたんじゃないかなー?」
「ほぉ、そういうもんなのかね」
まぁコイツが言うのならそうなのかもしれん。
「そういえば……えと、昔別の世界から来たっていう勇者様の故郷には、魔法なんて無かったってお話もありますよね?」
「うむ、確かに聞いたことがあるな。それなのにまるで見たことがあるかのように順応し、その才能を見せしめたとか……」
別の世界の勇者か、一説ではレベルなんかの概念なんかもそいつからもたらされた、なんて話もあるが……。
まぁホントに存在したかどうかすら定かじゃないらしいしなぁ。
「じゃあさ、魔法が無い世界なんてすっごい不便だろうなーなんて思ってたけど、もしかしたらボク達よりずっと快適な生活をしてたのかもね?」
「快適な生活ねぇ、あんまり想像がつかんが……」
「たとえばー……そうだ! 魔法や電話を使わなくても遠くの人とお話しできたりとか! しかも世界中にどこにいてもだよ! すごくない!?」
「にゃー! いっそお顔を見ながらお話もできるってのはどう? こーんな感じの小さな板状のアイテムで、そこに相手の顔が映ったり……あ! 文字でのやり取りもできればもっと良いってカンジ?」
「も、文字も映るのか……だ、だったらいろんな資料なんかも見れたりすると、あ、ありがたいな……。し、調べ物なんかの時に重宝しそうだ……」
「あ、それなら小説なんかも読めると嬉しいです! 世界中のお話が読めたりしたら……ふふ、とっても楽しそうです!」
「ふむ、娯楽と言うなら音楽はどうだ? こうして冒険者なんかをしていると、なかなか故郷の音楽に触れる機会もないからな。そういった意味でも……」
そんな架空の便利アイテム談議に花を咲かせる乙女たち。
若いヤツってのは良いねぇ、発想が豊かでよ。
「これはもう、マジックアイテムを越えたアイテムだよ! スーパーマジックボード……略して『スマボ』だね! ……うんうん、こんなものがあるなんて別世界ってトコもなかなかのものだよおっちゃん!」
「勝手によその世界に不思議アイテムを捏造すんじゃねーよ。つか、お前のネーミングセンスは相変わらずだな……」
だいたい魔法が無いってのに『マジック』ってついてんのはおかしいだろ。
ま、本当にそんなもんがあったら確かに便利なんだろうがな。
「おうちにいながらみんなとお話しできてー、お腹がすいたらおっちゃんに『ご飯作りに来て』って連絡してー、ベッドでゴロゴロしながらおっちゃんにいろいろお願いもできてー……すごい! ちょーほしい!」
……前言撤回だ。
もし本当にそんなもんがあったら恐ろしいことになるなコレ……。
……少なくとも、コイツにだけは絶対持たせないでおこう。




