第9話 言ってやらんと決めている
異常な様子のチャラ男Bが放った四発の魔法。それが辺りの建物へと炸裂し、瓦礫の音と悲鳴が辺りにこだまする。
不幸中の幸いか、重傷者なんかは出ていないみたいだが……!
「……クソッ!! 街中で攻撃魔法だと!? 何考えてんだアイツ!?」
いくらチャラチャラしてたとはいえ、ここまで大それたことができるような奴には見えんかったぞ……!?
しかもこの威力……!
どうやら上級冒険者だってのはハッタリじゃなかったようだ。……威力だけを見ればの話だがな。
「あぁああぁぁああぁぁぁっ!!!!」
「〰〰!? おっちゃん! また……!」
「……っ!! ネルネ!! エテリナ!!」
チャラ男Bが狂ったように叫びながら、再び杖を構える。
俺は瞬時に二人の名前を叫ぶと、ハクを抱えながら後ろに飛びのいた。
「……!! む、『ムーバルスライム』……!!」
「にゃ! 『ショータイムウィンドウ』!!」
二人がスペルを唱えると同時に、トリアとクヨウも相手に向かって動き出す。
……流石、全部言わなくても察してくれたようだ、頼りになるねまったく。
ネルネのムーバルスライムが俺の足へまとわりついてくる。
感触は相変わらずアレだが、これで格段に動きやすくなった。
エテリナのショータイムウィンドウはPvP……対人戦用の契約魔法だ。
内外からの干渉をシャットアウトするため、これ以上の街への被害は最小限に抑えることができる。
ハクを抱えたままの俺は、ショータイムウィンドウが展開されきる前に、魔法の効果範囲から脱出した。
見たところ、チャラ男Bは魔法使い系統の冒険者みたいだったからな。杖さえ何とかすれば抑え込むのは難しくないだろう。
心苦しいが……あの四人なら問題ないはずだ……!
次の問題は――。
「ハク、どうだ!? 何か感じるか!?」
「えっと、あっちと……向こうの方向からあの人と同じ感覚がします……!」
「やっぱりか……! ったく思い過ごしであってくれればよかったってのによ……!」
ハクがさっき放った『ぞわぞわする』という一言。
俺達は近くの建物の屋根に飛び乗ると、その感覚を頼りに残る二人の位置を特定した。
噴水広場と……ナザリアの森の近くか……!
嫌な方の予感通り、別々の位置に二ヶ所……! どうする……!?
「――イルヴィス!!」
「……!! ガングリッドか!!」
何か手段をと講じていると、建物の下から見知った声が聞こえてきた。
「……っ!? あの男は……!?」
「俺にも良く分からん!! けどまだ二人、同じようなヤツが噴水広場とナザリアの森の方にいるはずだ!! どっちかを頼めるか!?」
「……ム、噴水広場なら今オレのパーティが近くにいる!! もう一方はオレが……!!」
「いや、お前もそっちに向かってくれ! 森のほうへは俺が行く!!」
「イルヴィス!? しかしお前は……まさか『スーパー大器晩成』が……! ……わかった、広場の方は任せておけ……!!」
ガングリッドも俺の恩恵のことは知ってるからな。
アイツのことだ、ここまで言えば十分だろう。
俺は右手を額に当てながら少し息を整える。そして――。
「『戦闘力解放』……!!」
リミッターを解除すると、身体中に力がみなぎっていくのが自分でもわかる。
相手が上級だと仮定して、英雄級にまで戦闘力を引き上げていく。
タイムリミットはおよそ十分間、『ムーバルスライム』の効果を考慮しても、移動を合わせるとそんなに余裕はないか……!
「ハク、しっかりつかまってろよ!」
「は、はい!」
俺はトリア達を信じてその場を後にした。
屋根から屋根へと飛び移りながら、ハクが『ぞわぞわ』を感じた場所……ナザリアの森の入り口付近まで急行する。
「おじさま! あそこ!」
居た、アイツは……チャラ男Aか!!
さっきのチャラ男Bと一緒で、その様子の異常さは一目瞭然だ。
「――ううぅううぅ……! あぁあぁぁあぁぁああああっ!!!!」
「……ひっ!? いや、た、助けて……!」
「――させるかよ!!」
ガキン!! と、金属がぶつかる音が響き渡る。
……なんとか間に合にあったようだ。そう思いながら、倒れ込む女性に振り下ろされたチャラ男の剣を、オーヴァナイフで受け止めた。
「逃げろ!! 向こうにだ!!」
「……ッ、は、はい! ありがとうございます……!」
お礼を言いながら、おぼつかない足取りで逃げていく女性。
あっちの方向なら、どう転んでもでも他の二人にかちあうことも無いはずだ。
幸いこの辺は街のはずれで人も少ない。
なんでこんな場所で暴れてんのかは分からんが……他に襲われたようなヤツがいないのも幸運だったな。しかし……。
「おいおい……、さっきまでの軽い調子はどうしたよ……?」
「あぁぁああぁぁ!!!! 『フェザースラッシュ』!!」
俺の言葉には返事もせず、叫び声をあげながらスキルを繰り出すチャラ男A。
次々と襲い掛かってくる斬撃を同じように弾いてやる。
確かに威力はある……が、技術的なことを言えば拙いなんてもんじゃない。
……思えばチャラ男Bの魔法もそうだった。
威力だけは相応に高かったが、打ち出す方向はまるきりにちぐはぐで、まるで力に振り回されているような――。
「あああぁぁああああぁぁあっ!!!!!」
「あーくそ! ゆっくり考える暇もくれねぇってか!」
はっきり言えば今の俺にとって、これがただの魔物であれば退治するのは難しくない。……が、相手が人間で、制圧が目的となれば話は変わってくる。
人の手によって奪われた命は二度と元には戻らないからな。……蘇生魔法や女神の加護をもってしてもだ。
そうじゃなくても人殺しなんざ、するのもさせるのも勘弁だ。しかし――。
「……ハクの前でこういうやり方はしたくないんだが……人を襲うってんならこのまま見過ごすワケにもいかねぇもんでね……!」
俺は改めてナイフを構えると、チャラ男の動きを注視する。
……やはり隙が多い。
とても上級に上り詰めるようなヤツの動きとは思えんが、おかげでやりやすいとも言える。
「――ああぁああぁあああぁぁぁっ!!!!」
「悪いけど、大人しくしててもらうぜ、……無理やりにでもな!!」
襲い掛かってくる攻撃の隙をつきながら、こちらもナイフを振るっていく。
……標的は手足なんかの『腱』だ。
うまくやれば致命傷は避けつつも、無力化を狙えるはずだ。
そういったダメージを肉体操作で補う方法もあるが……コイツの技量から考えるにそれは難しいだろう。
特に今みたいに正気を失っている状態じゃあな。
繰り返される攻防の中で、やがてチャラ男Aは崩れるように地面に突っ伏した。
「……はぁ、ちょっと残酷なやり方になっちまったけどよ、後で優秀なヒーラーを紹介してやるから勘弁してくれよ……?」
身内びいき抜きでも腕は保証するぜ? 感触は最悪の部類に入るがな。
……しかしまぁ、人を斬るってのはどうにもいい気分がしないもんだねホント。できるもんならもう二度と……。
「うううぅううぅ……」
……ざりっと、嫌な音がする。
音の方に目を向けると、チャラ男Aがゆっくりと体を起こしていた。
「……まてまてまて、両足の腱も断ち切ったんだぞ……!? いくらなんでもまともに立てるわけが……」
「ぐぎが……あぁああぁっぁあぁぁああぁああっぁあっっっ!!!!!!」
濁ったような叫び声とともに、断ち切ったはずの部分がビキビキと音を立てるように再生していく。
……いや、それだけじゃない。
一部の筋肉までもがぼこぼこと隆起するように膨らんでいき、その形を変えていく。
回復魔法とも強化魔法まるで違う、コイツは……!?
「……っ! ……おいおい勘弁してくれよ? これじゃあまるでバケモンじゃねぇか……!!」
いびつな姿になったチャラ男を前に、ついそんな言葉が口をつく。
落ち着け、ビビってたってなんにもならん……!
しかしどうする……!? このままコイツを野放しにしちまえば、今度こそ本当に犠牲者が出ちまうかもしれん……!
かといって流石に殺しちまうわけには――!
「――おじさま!!」
ぐるぐると考えを巡らせていると、突如聞こえた声にはっとする。
物陰に隠れてもらっていたハクの声だ。
「首の後ろ側です!! 首の後ろ側からほんの少し……ほんの少しだけ他より強い気配がします!! もしかしたら……!」
「っ!! わかった!!」
俺は瞬時に背後にまわると、ハクが言ったように首の後ろ……延髄のあたりの皮を撫でるようにナイフを振りぬいてやる。
すると一瞬、真っ二つになった紋章のような物が浮かび上がったかと思えば、そのまま煙のようにふっと消えていった。
「あ……ぁ…………」
……と同時に、チャラ男Aも意識を失っていき、今度こそばたりと地面へと倒れ込んだ。
「おじさま……! よかったご無事で……!」
「ハク……! おまえ鼻血が……」
駆け寄ってくるハクの顔を見ると、鼻から一本の紅い筋が流れている。
「……え? あ、あれ、すごく集中したからかな……? その、恥ずかしいです……」
「何言ってんだ、なにも恥ずかしいことなんかねぇよ。……ありがとな、おかげで助かった」
「えと、そんな……えへへ……」
くしくしと頭を撫でてやった後、軽くハクの鼻血の処置をしてやる。
……あの場面で、あの得体の知れんヤツを前にして、それでもハクは自分ができることを全力でやったんだ。
それこそ、鼻血が出ちまうほどに集中して。
俺が思っているよりもずっと、ハクは成長しているのかもしれないな。
「この人は……大丈夫なんでしょうか……?」
地面に倒れるチャラ男を見て、心配そうにそう呟くハク。
「……正直なところ、俺にもわからん。とりあえず死んじゃあいないようだが……。とにかくあいつらの元へ戻ろう。このことを……」
言い切る前にがくんと身体の力が抜け、その拍子で膝をついてしまう。
これは……!
「ボイドシンドローム……!? おじさま!?」
「くそ、時間切れかよ……! 首の後ろの見えねぇ紋章のこと、早くアイツらに伝えねぇとって時によ……!」
もしかしたら向こうでも、コイツと同じようなことが起きているかもしれない。
なにか、なにか伝える方法を――!
「――……ふむ、首の後ろの紋章じゃな?」
膝を折る俺の傍らを、舞うような動作とキラキラした軌道を引き連れて、ひらりと小さな影が横切っていく。
この声は……。
「フェアリー、さん……? きれい……」
思わずといった表情で、ハクがポツリと呟いた。
フェアリー。
体の小さな彼女たちは、常に浮遊魔法を使って移動する。
さらにフェアリーが魔法を使う際は、背中からあふれ出した魔力の余波が羽の様な形になるからな。
ハクが思わずそう呟いちまうのも無理はない。
……俺はコイツには言ってやらんと決めているがな。
「ほっほ……。うむうむ、そちはうんと見込みがあるようじゃのう、誰かさんと違ってな? さて……」
そいつは扇を構えると、集中するように目を閉じた。
そして――。
「『ガングリッド! トリア! ……二人とも聞こえておるな? 首の後ろに、目には見えぬ紋章があるそうじゃ。そこを狙えい!』」
『チャネリングチャット』。
ある程度距離の離れた相手を感知し、声を届けることができる魔法だ。
……この魔法を使えるヤツを、少なくとも俺は一人しか知らん。
「……シーレ!」
「ほっほ……。久しぶりじゃのうイルヴィス? ……しばらく見ぬうちに、随分と面白いことになっとるようじゃな?」




