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第8話 魂のシャウト

「……何度も言っているだろう。どれだけ誘われようがお前達のパーティに入るつもりはないと」


「そうそう、もうあきらめた方がいいよ? 時間のムダだしー……」


「まーまーそんなつれないこと言わないでさぁ? ほら見て冒険者カード(こーれ)。オレ達『上級』だよ? やっぱ強いヤツは強い奴どうしで組まねぇと……」


「だよねー? 絶対オレ達相性いいって! オレそういうのってわかちゃう系っていうかさー?」


 ネルネに呼ばれていつもの酒場に向かうと、三人の男に絡まれてうんざりしている様子のしている二人の姿があった。

 勧誘といえば聞こえは良いかもしれんが、コイツはまぁなんというか……。


 ……しかしエテリナのあの表情は久しぶりに見たな。

 初めて会った時以来か。


「ご、ごめんおっちゃん……。あ、ああいう人たちはその……に、苦手で……、わ、私じゃうまく対処できなそうだったから……」


「いや、気にすんな。急いで呼びにきてくれただけで十分だ、ありがとな。……三人とも、少し目のつかないところに隠れててくれ、俺だけで行ってくる」


 俺はネルネの頭をポンとひと撫ですると、絡まれている二人の元へ歩いていく。

 評判ににつられてきたヤツらなら、コイツらも標的になりかねんからな。



「……ん? はいストーップ。こっから先は通行禁止でーす」


 そんなことを考えながら近づいていくと、三人の男の内の一人が俺を遮るように立ちふさがってきた。

 しかしなんつーかこう……いやまぁ、今はそれはいいか。


「悪いな、俺はそっちの二人に用があるんだよ。通してもらえるか?」


「いやいやいやそれ普通にないから。……おっさんさぁ、ちょっとは空気読んでくんない? オレ達今大事な話をしてんの、人のお話の邪魔しちゃダメだってことぐらいわかりませんかー?」


「うーわカッケ! めっちゃ正論言うじゃん!」


「うぇーい! まぁオレってば年上相手でも? ちゃんっとそういうこと言えちゃう男だからさー? 滲み出ちゃったねーそういうところ」


 …………いやチャッラい。

 

 こういう軽いノリの奴ら全員が悪モンだなんていうつもりはねぇが……それにしたってこれはおっさん胸やけ起こしそうだよ?


「……あれ? そのおっさんあれじゃね? この子たちの……」


 そんな風に辟易していると、男の一人が何かに気付いた様子を見せる。


「え? ……あーはいはいこのおっさんが! 弱ぇ癖に女使って甘い汁すすってるっていう国家反逆者のあれね! 最近レベル70越えてやっと中級になったって話っしょ?」


「うーわ絶望的じゃん! もうそれ将来性とかなくなくない?」


 ……ええい、好き勝手言ってくれるね?

 つか国家反逆なんてのは冤罪だったつの。もしそうならここに居るはずねぇだろうが、もっとちゃんと頭つかえって話だ。


「…………貴様ら、いい加減に――!」


「いいってクヨウ大丈夫だ。……悪かったな将来性が無くてよ。ほれ、そんな可哀相なおっさんいじめるような真似しねぇでさっさと……」


「いやいやいや無いでしょこれー? 俺らこんなおっさんに劣ってるとか思われてるってこと? 傷つくわー」


「……つかおっさんあれっしょ? ヒモっつーかさー、オレらそういうのマジ許せねータチなんだよねー?」


「あーそれ分かりみあるー。 しかもなんかさー、弱みにつけこんで()とかも無理やり従わせてるって話じゃん?」


「うわそれ女の敵感ハンパなくね? オレの中の正義感がヤバいよコレ?」


 いやもうコレひっどいな……。

 つか夜がどうのとか、ホントにそんな噂になってんの? 流石にそれはゲスが過ぎるだろ……。


「だからカノジョ達もさぁ? こんなおっさんほっといてオレ達と一緒に――」




「……おっとそこまでだ」


 立ちふさがっていたチャラ男……まぁ仮にBとしよう。俺はそいつを躱しつつ、エテリナの肩に手を伸ばそうとしていたチャラ男Aの腕を掴んでやる。


「あ、あれ……? いつの間に……」


「なにが『いつの間に』だよ隙だらけだっての。……しかしお前らも若いっつーか青いっつーか……、夜のアレがどうのだの、本気でそんな噂も信じてんのか?」


「あ? なにを……」


「でたらめだって言ってんだよ。その証拠に俺はな……」


「……?」


 俺はつかんでいた腕を話してやると、大きく胸を張るように息を吸い込んだ。

 そして――。




「俺は……!! ――童貞だぁああぁぁあ!!!!!!」




「…………は?」


 俺の魂のシャウトに目を点にしてフリーズする三人組。


「な、なんだこのおっさん頭おかしいんじゃねぇの……」


「はっ、そいつはどうも。……つっても、ゲスい噂話を信じてノコノコ女に声をかけるような奴より幾分かはマシだとは思うがね」


「……うーわマジチョーシだわこのおっさん、はいボコけってーい」


 チャラ男Aはそう口をとがらせると、だるだると肩を揺らしながら胸倉に掴みかかってくる。


「つかさー、テメェがそれを言えんのかよ? ……知ってるぜ? 『夢幻の箱庭』なんて噂話を信じて、ノコノコダンジョンまで出向いたって話もよ?」


「マジかよ!? このおっさん良い歳してそんなおとぎ話信じてんの!? マジウケるんですけど!?」


 意趣返しでもしてるつもりなのか、随分と煽ってくるチャラ男たち。

 エテリナの顔は……この位置からじゃ見えねぇか。


「『不落の難題』なんてよ、ありもしねぇような噂話や若い女の尻ばっかり追いかけてないで、……現実見れるようにしてやるよおっさん!!!」


 叫びながら、にやにやと笑いながら殴りかかってくるチャラ男A。


 ……の拳を、当たるすんでのところで受け止めてやる。

 最近相手した奴らに比べたら、ハエが止まるレベルだね。


「……ッ!? 動か――!?」


「ありもしねぇような噂話……か。ま、別にお前達がそう思うのは構わんさ、俺だって似たようなもんだったしよ」


「あぁ!? なにフイてんだテメェ! 実際そんなもんあるワケ――」



「いいやあるさ。――なんせ、うちで一番頭のいいヤツがそう言ってるんだからな……!」



 俺はチャラ男の目を睨み付けたまま、パッと手を放してやる。

 それでも視線を外してやるつもりは微塵もない。……かちあったままの視線の向こうで、チャラ男Aが動揺しているのが見て取れる。


「まだやるかい? ……おっさんとしてはほれ、このへんで退いてもらえると助かったりするんだがね?」


「……ちっ、おい、もう行こうぜ」


「は? いやいやどしたー? ここはボコにボコを重ねてボコっとくとこっしょー?」


「……いいから行くぞ、シラケちまったよ」


 言い捨てるようにこの場を後にする三人組。



「やれやれ、まいったねまったく……」


「……にゃふふ、オージサン?」


「エテリナ……なんだよその顔は」


「にゃふふ、べつにー? なーんでもないってカンジ? にゃふふふ……!」


 何でもないって割には随分と……まぁいいか。

 ……お前にはやっぱり、そういう顔の方が似合ってるよ。


「そうかい。そんじゃあとっとと……、……ん? どうしたクヨウ?」


「え、あ、いや……な、何でもないのだ、その……にゃんでも……」


 ……?

 なんだ? ゆでだこかってくらいに顔真っ赤なんすけど……?


「おじさま! ……大丈夫ですか!? どこかケガとか……痛いところとかはありませんか!?」


「おっと、ハク、大丈夫だってありがとな。……ん?」


 心配そうに飛びついてきたハクを受け止めてやる。

 よく見てみれば、ハクの後ろをついてくるトリアとネルネも赤い顔をしてるな。

 口数も少ない……どころかこう、無口っつーかうつむいてるっつーか……。


「エテリナさんとクヨウさんは大丈夫でしたか……?」


「にゃふにゃふー! だいじょーぶだいじょーぶ、問題ありませぬー」


「ほっ、良かったです……!」


 エテリナとハクはなんともないみたいだな。

 様子がおかしいのは三人だけか……。


「……あ、そういえばおじさま? その、さっき言ってたドーテー? ってどういう意味なんですか? トリアさん達に聞いても知らないって……」


 …………あぁ、そう言うことか。

 妙な噂を払拭するために大げさに吹聴してみたが……確かに女の子の前で使う言葉じゃなかったなぁ……。


「あー……そのだな、ハク? その言葉はあれだ、あんまり外で口にしない方がいいっつーか……」


「ハクちーハクちー、ドーテーさんって言うのはねー?」


「ええい、やめろっての」


 コイツは隙あらばホントに……。

 ……いや今回は俺にも大分悪いところがあるけれども。


 しかしこれで、そういう(・・・・)系の噂なんかは少しでもなくなると良いんだが……。


「とりあえずほれ、不落の難題と関わりがあるかもしれないクエストを探すんだろ? 四人を連れてクエスト掲示板でも見て来いって」


「にゃむー? オジサンは一緒に行かないのー?」


「俺はまぁ……なんだ、ちょっと一休みってところだよ」


 このまま俺がついてくと、三人ほど使い物にならなさそうだしな。





「……やぁイルヴィス、随分思い切った啖呵だったね? 何か飲んでくかい?」


「だからそうやって茶化すなってのに……。ま、今日はやめとくよ、金もあんまねぇし、すぐ出発するかもしれねぇしな」


 カウンター席へ腰を掛けると、ウリメイラのヤツがそんな風に絡んでくる。


「それは残念。今日はカクテルでもオススメしようかなって思ってたんだけどね。例えばそう……キスインザダークとか?」


「お前なぁ……」


 キスインザダークはたしかチェリーブランデーを使うカクテルだからな。

 チェリー……つまりはそう言うことだ。

 こいつがそんなどこぞのオヤジみたいなことを言うのはめずらしいが……。


「けどあの三人、上級だって言ってたみたいだけど……」


「ん? ああ、確かにそう言ってたが……それがどうかしたのか?」


「うーん……。私の記憶じゃあ、三人ともついこの間までは初級か……良くても中級下位ぐらいだったと思うんだけどね……?」


 ウリメイラの恩恵(ギフト)『百面相キラー』は、人の人相や特徴なんかを記憶する能力に長けている。


 そうなってくると間違っているとも思えんし、まぁアイツらが短時間で急成長をしたって線も否定はできんが……。


「確かに正直、手ごたえっつーか、そういうのは無かった気がするな……」


 現にさっきのいざこざでは、リミッターの解除をする必要も無かったしな。


 俺はこれまで、恩恵(ギフト)の効果でひくほど弱かったステータスを補うために、体を鍛えたり、身のこなしや力の入れ方なんかも体得してきたが……それを考慮してもアイツらのそれは精彩に欠けていた。

 ……それこそ、中級の俺の力でも押さえつけられちまうほどにだ。


 性格はともかくとして、上級にまで上り詰めるようなヤツらがあんな雑な動きや力の使い方をするもんか……?


「ひょっとして、最近噂になってる『偽造冒険者カード』とか……」


「いや、どうだろうな……。今の俺が中級だってことは知っていたみたいだし、ハッタリだけであんなに強気に出れるもんかと思わんでもないが……」


 どちらにせよ、アイツらがこの先も絡んでこないとも限らない。

 ……少し、注意しておくに越したことはないかもしれんな。





「――結局、それっぽいクエストは無かったね?」


 トリアの言う通り、張り出されているクエストにめぼしいものは無かった。

 そんなワケで冒険者ギルドを後にして、とりあえず今日は適当なクエストでレベリングなんかをしようとしていたんだが……。


「ま、まぁそんな簡単にいくなら、く、苦労はしない……。い、今まで何年も見つからなかったんだし……」


「そうだよなぁ。しかしそうなってくると……ん?」


 その道中で、一人の男が俺達の前に立ちふさがる。


「…………」


「あれ、あの人ってさっきの酒場で……」


 確かに……エテリナとクヨウに絡んでいたヤツらの一人……チャラ男Bだ。

 他の二人の姿は見えないが……。

 

「――はぁ……、はぁ……っ」


「……お前らは下がってろ。なんだよ、まだ何か――?」


 ……いや、なんだ?

 なにか様子がおかしい……。


「はぁ……っ! はぁぁぁ……っ!! はぁぁぁぁぁ……っ!!!!」


「おじさま……! あの人なんだか変です……! なんだか……!」


 俺の腕にしがみつきながら、ハクが語気を強める。




「なんだかすごく……ぞわぞわ(・・・・)して――!!」


「あぁああぁああっっ!!!! ふ、『フレイムキューブ』ッ!!!!」




 ――瞬間、雄叫びと共に発動した魔法が、次々と辺りの建物を破壊していった。

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