第4話 見下されるのは慣れてんだ
「――指輪無くしたって……ダンジョンでかよ!」
「あ、あれ、言ってなかったっけ?」
……押し入れで埃を被ってた昔の装備品。
念のためにと思って引っ張り出してきたのは正解だったな。
『バラバットセメタリー』。
墓場のような見た目をしているがれっきとしたダンジョンだ。
トリアが言うにはここで指輪を落としたらしいが……。
「お前さ、いくら何でもダンジョンの中から失くした指輪を見つけるってのは……」
「だ、ダイジョブだよ! 落としたのは一階層から二階層の間だし……る、ルートだって覚えてるからそんなに広い範囲じゃないはずだし……」
いや、それにしたってなぁ。
……というかコイツ、さっきからどうにも様子がおかしくないか?
口数が少ないっつーか……ちょっと震えてるし。
いくらダンジョンが危険な場所とはいえ、ここはそんなに難易度も高くない。浅層なら最新版の階層図だって安く手に入る。
こいつの戦闘力があれば、ビビることもないはずだが……。
……あー、なるほどそう言うことか。
俺は無防備なトリアのうなじを目がけ、ツンと指で一突きしてやった。
「うひゃあぁぁぁあぁぁぁあぁ!!!!!!」
おー動揺しとる動揺しとる。
バラバットセメタリーに現れる魔物はゾンビ系やゴースト系がほとんど……つまりこいつはそういったのが苦手なんだろう。
一人で来れなかったのもそれが理由で……。
「おっちゃん!? おっちゃんはもー!! もー!!」
「いや悪かった悪かったって……。けど、怖ぇなら怖ぇでそう言やいいのによ。……ほれ、早いとこ二階層に向かうぞ」
「え? 一階層から探すんじゃなくて?」
「こういうのは、余力があるうちに奥から探索するのが鉄則なんだよ。浅層とはいえ、奥の方が少しは魔物も強くなるんだからな」
実際、似たようなクエストもそうやってこなしてきたしな。
「へぇ~、さすがおっちゃん。トシノコウってやつだね!」
……それ嬉しくないからな。
……
…………
……………………
――バラバットセメタリー第二階層。
カタコンベのようなダンジョンの中で、ゾンビやゴースト、スケルトンなどと言った魔物が襲い掛かってくる。
まぁこの程度の相手、今の俺なら護身用のナイフでも楽勝だ。
……たとえ、ひぃひぃ言いながら探し物をするトリアを守りながらでもな。
「――あったぁ! あったよおっちゃん!! やった!! やったぁー!!」
二、三時間ほど探しただろうか。
どうやらトリアが、部屋の端っこで目当てのものを見つけたらしい。
見つかったことが嬉しいのかこの場所から帰れることが嬉しいのか……あーあ、そんな風に指輪持ったままピョンピョンと飛び跳ねてるとまた無くしちまうぞ?
まったく、どっちにしろ騒がしい奴だよホントに。
まぁなんにせよ、これで目的は達成だ。
トリアも丁寧に指輪をしまい、にこにことこっちへ向かってきて――。
――そのままバンッと床に空いた穴に吸い込まれるように消えていった。
「ええええええええええ!!!!?」
トラップ!? このタイミングで!? コントかよ!?
ひとまず落とし穴に駆け寄って覗き込む。どうやら第三階層へとつながっているわけじゃあないようだが……。
「ええいクソ、しかたねぇか!」
意を決して、俺も穴へと飛び込んだ。
「うばぁぁあー!! おっぢゃぁん!!」
「おまえなぁ、もうちょっと警戒しながら歩けよ……。ほら、よーしよし……」
下へ降りると、涙と鼻水でぐしゅぐしゅになったトリアが飛びついてきた。
辺りには大量の骨が散らばっている。
……ダンジョンの装飾なのか本物なのかは分からんが、良い趣味とは思えんね。
そのせいでトリアはこのありさまだ。
こいつホント、この先冒険者として一人で生きていけんのか……?
「落ちてきた穴は……結構高いな」
薄暗いせいではっきりとはわからんが、脚力を強化してちょっと跳んだ程度じゃ届きそうもない。
こういった時のために『背中の一坪』の中にはフックガンも常備してあるが、ロープは滑り止めの魔法がかかってる程度の安物だ。
時間と体力を犠牲にして地道に登っていくか、それとも在るかもわからん出口を探すか……うーむ……。
……しかし、気になるのはあのトラップだ。
俺もここの階層図はそこそこ新しいのを持っているが、あんなトラップは載ってなかったような――。
――ずしんッ!!!!
突如として響く、大地を揺るがすかのような足音。
「……ね、ねぇおっちゃん、なんか向こうから、嫌な音が聞こえたんだけど……?」
「……ほ、ほぉ、そいつはなんつーか……奇遇、だな……」
あぁ、振り向きたくない……。
現実を直視しなくちゃいけないなんて誰が決めたんだ……。
が、実際はそういうわけにもいかない訳で……恐る恐る振り向くとそこには、全身が骨でできた、巨大なドラゴンが鎮座していた。
「ふ、フルボーンドラゴン!? こんな浅層にかよ!?」
ランクAの魔物だぞ!?
クソッ、どうりで階層図が更新されてない訳だ……!!
日々、少しずつ形を変えていくダンジョン。
階層図の更新は、冒険者の情報などによって行われる。
あの部屋は、結構端のほうにあった。
コイツと戦えるような上級冒険者は、二階層の探索なんてせずに、さっさと深層に行っちまうことだろう。
そんで、探索中にココにたどり着いたレベルの低い奴らは皆コイツにやられちまうってワケだ。
「おい! 流石にアレは俺にはどうにもできんぞ!?」
上級冒険者のコイツなら、ランクAの魔物とだって互角にやり合えるはずだ!
よかったな! カッコよく活躍するチャンスだぞ!
「ふふふ、気付かないおっちゃん? …………ボクの足が震えて動けないってことにさ?」
「お前こういうのもダメなの!?」
それならなんでちょっとドヤ顔なんだよ!?
ってうわ! ホントに膝やべぇ! 小鹿かよ!?
「人型じゃないだろ!? ただのでっかいトカゲの標本とでも思えばいいじゃねぇか!!」
「でも骨は骨だもん! ていうか、標本が動くんなら、それはそれで怖いでしょ!!」
いや、それはまぁそうかもしれんが……。
ええい、仕方がない。
「トリア! 後ろを向いて足を開け!」
「ええ!? おっちゃん、いくら死んじゃうかもしれないからってこんな時にこんな場所で女の子になにするつもりなの!?」
「ちげーよ! このタイミングで盛るワケねぇだろ!! いや、俺の言い方も悪かったけども!!」
あーもう時間が無い!
俺は無理やりトリアを抱え上げる。
「肩車!? こんなんでなんとかなる!?」
「じゃあ他に方法があんのか!? あるなら聞きますけども!? 聞きますけども!!?」
トリアの戦闘スタイルは、ガントレットによる接近戦。
まずは近寄らなけりゃ話にもならん。
俺は回避に集中しながら、フルボーンドラゴンに接近していく。
トリアもぎゃあぎゃあ騒いじゃいるが、なんとか避けきれなかった攻撃を捌いてくれてはいる。
これなら行けるか……とそう思った瞬間、尻尾での攻撃を回避したタイミングに合わせてフルボーンドラゴンの爪が襲い掛かる。
流石に空中でかわすのは無理か……!
俺は咄嗟にナイフを抜き、爪と自分の間に滑り込ませた。
――ほんの一瞬、記憶が飛ぶ。
奴の爪に吹き飛ばされて地面に叩き付けられたのであろう自分の体を、無理やり起こして立て直す。
マナを防御に回したおかげで、何とか一命はとりとめた。
ナイフは……流石に保たなかったか、まぁ護身用だしな、仕方がない。
そうしてふらつく俺の前に、フルボーンドラゴンが悠々と立ちふさがる。
「……はっ、随分と見下してくれるじゃねぇか」
勝利の確信でもしてんのか?
けどなぁ……。
「悪いけど見下されるのは慣れてんだ。……そっからの足掻き方もな! ――トリア!!」
「――わぁぁぁぁあぁぁぁ!!!! おっちゃん!! おっちゃぁあぁぁああん!!!!」
『フルボーンドラゴンの背中から』聞こえてくるトリアの悲鳴。
爪が当たる瞬間……俺は片腕でナイフを抜きつつ、トリアを思いっきり投げ飛ばしてやったってワケだ……!
「トリア! こいつの弱点は胸の核だ! 背中側から思いっきりぶん殴れ!!」
正面からじゃ、頑丈なあばらに覆われて攻撃しにくい。
だが節の多い背骨側からなら……!
「わーん!! もーヤケなんだからぁー!!!! ――『メテオパンチ』!!!!」
……………………
…………
……
「もうやだぁ……! おっちゃぁん……!!」
核が破壊され、節々でバラバラになったフルボーンドラゴンのその上でぺたりと座り込むトリア。
……いや一撃かよ、スゲーなこいつ。
「ほら、もう泣くなって、な? 無事目的も果たしたんだし、急いで帰ろうぜ」
「……ぐしゅ、うん。……おっちゃんおんぶ」
俺、背中の一坪背負ってるんですけど?
肩車にしても、流石にロープ登りながらってのは……。
――どずんっ!!!!
「…………………………は?」
……その光景に、思わず目を疑った。
おいおいおいおいまてまてまてまて……!
「二体目!? ウソだろ!?」
「あ、あ、あ……はふぅん……」
……っておいマジか!?
こいつ戦闘とか関係なく、普通に恐怖で気絶しやがった!
どうする!?
ナイフはもう折れちまったし、そもそも今の俺にフルボーンドラゴンと戦える程の戦闘力はない……!
何かないかと辺りを見渡すと、一本の剣を見つけた。
おそらく以前にここでやられた冒険者が落としていったものだろう。
つっても、剣一本あったってどうしようも……。
「……! いや、これは……!」
……………………
…………
……
「ん……、あれ?」
「……よぉ、気が付いたか?」
「えっと、ボク確か……あ! フルボーンドラゴン! ……って」
目を覚ましたトリアがまず目にしたのは、恐らくそこいらに散らばるフルボーンドラゴンの残骸だったことだろう。
……あわせて二体分のな。
「え!? おっちゃんが一人で倒したの!? どうやって!?」
おー驚いとる驚いとる。
無理もないか。俺の評判は聞いてたみたいだしな。
「まぁいろいろとな、運が良かったんだよ」
そう言いながら、俺は手の甲の紋章に目をやった。
レベル『61』。
……ホント、運が良かったってヤツだぜ。
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