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第5話 後見人

「メ゛エ ェ エ ェ エ エ ェ エ ェ エ !!!!!」


 綿から這い出た俺に気付いたのか、不機嫌そうに雄たけびをあげるレクイエムシープ。


 しかしこんなにやかましいのに誰一人として起きてこないってんだから、ホントに目覚ましとしては役に立ちそうにないね。

 ……ま、むしろこの鳴き声こそがコイツの催眠魔法だったりするワケだが。


「おまけにランクはS+……上級冒険者がやられちまうのも無理はねぇ話だな、っと……?」


 気付けばギギギと音を立てながら、ヤツの角が鋭く伸びていく。

 そのままその先端をこちらに向けると、軽くざりざりと地面を引っ掻きながら、ぐぐっと態勢に力を込めていく様子が見てとれる。


「……おいおいこっちは起き抜けなんだぜ? 準備運動ぐらいさせてくれてもいいだろうよ」


 ナイフを抜き、やる気に満ち溢れた羊さんにそう訴えながら、体をひねったり腕を振ったりと、寝起きの体に喝を入れる仕草なんかをしてみる。

 ……歳をとるとなぁ、どうにも体がすぐに言うことを聞かんくて困るねホント。


 だがそんなことなど関係ないとばかりに、ギラリとこちらを睨む巨大な羊。


 瞬間、随分と物騒になった角を突き出すようにして、その巨体がこちらへと迫ってきた。流石にあんなもんに貫かれでもしたらひとたまりもないだろう。

 だが――。



「……悪いな、もう終わってんのさ。――『オーヴァクラック』!!」



 ――――バギッバギンンッッ!!!!


 突進してくるその巨体に、二本の斬撃が炸裂する。


 突如として襲い掛かる衝撃に弾かれ、ぐらりと体を揺さぶられる巨大な羊。

 そしてそのままずしんと地面に倒れこむと、その巨体もう二度と動き出すことは無かった。





「――しかしまぁなんつーか、ここまできて夢オチとはなぁ……」


 そんなことを独りごちながら、ブチブチと綿を引きちぎっていくと……お、いたいた、やーっと見つかったよ。


「ほらトリア起きろっての、もうお前で最後だぞ?」


「んむ……はれ? おっちゃん……クッションは……?」


「お前ね、一言目がそれかよまったく……。残念ながら、夢の中に置き忘れてきたみたいだぞ?」


 レクイエムシープの影響がなくなった今、トリア達を起すのは難しくなかった。

 ……とはいえだ、いくつも転がる綿の塊の中からコイツらを探しだすのは、そこそこに骨が折れたもんだがな。


 改めて辺りを見渡してみれば、似たような場所に覚えがある。

 バラバットセメタリーの……フルボーンドラゴンが居たあの場所だ。


 恐らくここも、落とし穴系のトラップによって作られた空間ってとこだろう。

 道を外れ、催眠魔法の効果範囲に入り込んだ俺達は、まんまとここまで誘き出されたってワケか。




「えと……じゃああれは全部夢だったってことですか?」


「ま、結果を言っちまえばそういうことになるな」


 綿の中から五人全員を起こした後、俺は一通りの経緯を説明していた。


「なーんだ、せめてあのクッションだけでも持って帰りたかったのになー。……あれ? じゃあさ、見つかった装備品に刻まれてたって文字ってなんだったの?」


「あぁ、それならほれ、あれ(・・)だよ」


 俺が親指で後ろを指差し、つられるようにトリアがひょいとのぞき込んだその先には、レクイエムシープの周りに潜んでいた数体のモックソルジャーが転がっていた。

 

 もちろん、ついでにパパッと討伐はしておいたが、どうやらソイツらが冒険者の落としたナイフなんかを使い、装備品に文字を刻んでいたようだ。


「えぇ……そ、そんなオチなのか……。で、でも、なんでわざわざあんな……」


「そいつは俺にも分からんが……そうだな、まぁ考えられるのは、冒険者をおびき出すための演出、なんて理由とかか?」


「演出……ですか?」


「夢でエテリナも言ってたろ? やるなって言われるとやりたくなるって。それと例えば……トリア、お前がダンジョンに潜っていたとして、目の前にいきなり財宝が現れたらどう思う?」


「え? そりゃ『やったー!』って……あれ、なんでみんなそんな顔するの?」


 ……コイツに聞いた俺が間違ってたか。


「……トリア、流石に今のは私もどうかと思うぞ?」


「も、もっとちゃんと警戒しないと……、い、いつかホントに痛い目を見る……」


「ち、違うよ!? 想像だからそうなっただけだもん! 実際はもっとちゃんと警戒したり気を付けたりするもん! ……あ! おっちゃん何ニヤニヤしてるの! もー!!」


 いやぁどうだかねぇ?

 コイツすーぐ飛び出していきよるからなぁ。


「にゃふふ、まーまートリニャー落ち着きたまえよう。……けど、あからさまに唐突で過剰な利益ってのはやっぱり不審に思っちゃうよねー? 特にウチら冒険者はさ?」


「まぁそういうことだ。……が、それでもちょっとした過程や経緯があると、人はぐっと安心(・・)しちまうからなぁ」


 作られたリアリティの中で、それが真実だと信じ込んじまうワケだ。


「じゃあじゃあ、書置きを残して消えた冒険者って言うのは?」


「それこそ単純だろ? ……綿の中で息絶えちまってから三ヶ月、つまりは教会で『復活』したってだけの話だよ」


 戦女神セイヴによる復活の際は、元の肉体も回収されるからな。

 それを元に新しい肉体が作られるってワケだが……恐らくその過程の中で、夢にとらわれていた精神も回収されたってとこだろう。


「残されていた書置きというのも、『この場所は人が消えてしまうような危険な場所じゃない』と思いたかったあの男本人が、知らぬ間に作り出してしまった物なのかもしれないな」


 そう考えるとなんつーか、いたわしい話だねホント。

 ……しかし演出、か。


 コイツらにはこう言ったが……ただの魔物(モンスター)がそんな行動をするもんかと、正直疑問に思わないワケじゃない。たとえそれがS+の魔物(モンスター)だとしてもだ。


 単なる思い過ごしならそれに越したことは無いんだが……。


「そ、そういえばおっちゃん……。お、おっちゃんはあそこから、ど、どうやって抜け出したんだ……?」


「それにえっと、バッドステータス無効……でしたっけ? そのおかげで、おじさまには催眠魔法なんかは効かないって……」


「あぁそれなんだがな、トリアとネルネには話したことあったか? 俺がバッドステータス無効を手に入れたのは、エルダースライムと戦う直前……つまり、おれが最上級の冒険者になった時のことなんだが……」


「……にゃふふ、なるほどー。ボイドシンドロームの影響がある今、最上級までステータスを解放しないと、その時手に入れたスキルも発動しないってカンジかなー?」


 理解が早くて助かるね。

 最近もう一つ発現したスキルもあるんだが……どうやらそいつも同じようだ。


「……む? なぁイルヴィス? 少々気になることがあるのだが……」


「ん? どしたよクヨウ?」


 口元に指を当てながら、クヨウが思案するように疑問を口にする。



「あの時……あの触手の魔物(モンスター)が現れた時にだ、もし出し惜しみせずに力を使っていればひょっとして……」


「…………あっ」



 ……しまった「あっ」て言っちまった。

 なんて、思ったときにはもう遅い。

 

 確かにそれならコイツらの……その、あられもない姿を見ることも無かったんだろうが……あぁ、クヨウが涙目でプルプルこちらを睨み付けている。


「いやあれだよ? なんつーか……ほれ、そこは結果論と言いますかね……?」


「な……っ!? 乙女の柔肌をなめ回すように凝視しておきながら、そんな言葉で済ますつもりかイルヴィス!! この……この不埒ものー!!」


 いやなめ回してはないだろ!? 誤解を生むから! 誤解を生むから!!

 ただそのちらっと……よりも少し多めなぐらいに見えちまっただけで……。


 思わずたじろぐように後ずさるが、とん、と抵抗を感じて進めなくってしまう。

 後ろを振り向くとそこには……。


「あの……トリアさん……? ネルネさん……?」


「……んふふ、だいじょーぶだよおっちゃん? ボクってばぜーんぜん怒ってないからねー?」


「も、もちろんわたしもだ……。だ、だから安心すると良い……ふふ……」


「そ、そうかい? そいつは何よりで……」


 けどそれならなーんでそんな圧のある笑顔してるのかなぁ……?

 あぁホント……恨むぜ羊さんよ。





 ――その後、ウィーグルモールを後にした俺達は、その足で冒険者ギルドへ向かい、事の顛末を報告しておいた。


 もちろん、綿の中で息絶えていた冒険者達の情報も伝えておき、ついでにレクイエムシープから採取した素材もきっちりと換金して、これでこの一連の事件は幕を閉じたってワケだ。


 ……『夢幻の箱庭』か。

 噂の真相なんて、案外こんな拍子抜けなもんだったりすんのかね。


 何でも願いが叶う楽園、ともすりゃそんな胡散臭いようなモンを、あそこにいた奴らは本気で信じていた。

 あの男が……いや、あそこにいた冒険者たち全員が蘇生をした時、やっぱり俺を恨んだりするんだろうか?


 なにせあいつらにとって、あそこはまさに夢のような場所だったんだからな。

 過剰なまでに豪華な街並みも、その成れの果てってワケだ。


 ……いやまぁ実際ホントに夢だったんだが、それが壊れちまった今、果たしてまともな精神状態でいられるのかどうか。


 例えそれが夢だとしても、『覚めない方が良かった』なんて思っちまうんだとしたら……復活で記憶を失っちまったヤツらと比べて、果たしてどっちが幸せなんだろうね。


 俺にはわからん、わからんが……。



「――あんな風に望みが叶う場所があったとして……俺も本当にそんな場所へ行けたら、やっぱり『楽園』だって思ったりするのかね?」


 自室の椅子にぎしりと背中を預けながら、ふとそんな疑問が口をつく。

 ま、考えたところで、答えが出るようなもんでもないか……。


「ら、楽園、か……。た、確かにあのスライムクッションは魅力的だったが……」


 そんなとりとめもない独り言だったのだが、思いがけず返事が返ってくる。


「わ、わたしとエテリナでな、ちょ、ちょっと手に入れるのが難しい魔導書なんかを出せないかと試してみたんだ……。け、結果は、予想通りダメだったけど……」


「ねー? ウチも最初は結構楽しかったんだけどー? ……あそこはさー、きっとタイクツだよ。なんでも望み通りって、多分あーいうコトじゃないと思うなー?」


 あの男も言ってたな『大抵』の物は手に入る、と。

 頭の中でイメージできないもの……つまり本当の意味で『未知』のものなんかは再現できないっつーことか。


「結局、あの場所には過去しかないのだ。停滞した時の中で、幸せな記憶を貪るようにただ生きていく……。もしもそれが冒険者の行きつく先なのだとしたら……虚しいものだと感じてしまうな」


「で、でも……あそこにとらわれていた人たちも、帰れないって思ったからそうなっちゃったんじゃないでしょうか……? きっとみんながみんな、はじめからそんな風になっちゃうワケじゃないって思うんです……!」


「……ふふ、ハクは優しいな。うむ、私もそう思うことにするよ」


 クヨウに頭を撫でられて、ハクがえへへとはにかむ。

 ほほえましいね。


「そりゃ、あんな場所がホントにあったらすっごい楽はできるんだろうけど……、でも『楽』と『楽しい』はまた別物だしね! 新しいことが全然ない日常なんてつまんないよ! でしょ、おっちゃん?」



 ――――あぁ。

 なんだよ、コイツらは立派に前を向いて歩いているじゃねぇか。


 『勇者になるために何をしてやればいいか?』だと?

 随分とおこがましいったらないねまったく……。俺が何かしなくたって、コイツらはきちんと進んでいけるんだからな。


 そんでもって……生き様ってのは、きっとそういった先に刻まれていくんだな。

 

 それでもきっと、立ちふさがるモノに足を止めてしまうこともあるだろう。

 それは理不尽であったり、不条理であったり、はたまた悪意であったりするのかもしれない。


 それなら俺は、そんな時に手を差し伸べて、支えになってやればいい。

 ……いや違うな。俺が、そうなりたいと思っているんだ。



「――さしずめ、『後見人』とでもいったところかね」



「ん? 何か言ったおっちゃん? ……あれ? なんだかご機嫌だねー? うりうりー」


「……なんでもねぇよ。つか、おっさんの頬なんてつつくんじゃないよまったく。……しかし残念だったなエテリナ? 噂の正体がそんな退屈なもんでよ?」


 照れくささを隠すように、俺はエテリナに話題を向けてみる。


「うにゃ? ……にゃっふっふ、あの元冒険者さんたちさー、あそこが夢幻の箱庭だーってみーんな確信してるみたいだったよねー? ……でもでもそれってなんでなのかなー?」


「え? ……えっと、あれでしょ? 『箱庭ニ近ヅクナ』っていう……」


「うーんトリニャーおしい! それだけだとちょーっと足りないってカンジ? もひとつ大事なことはー『先人からの情報』。ウチらもそうだったでしょー?」


 確かにそうか。もちろんあの男の言葉を鵜呑みにしたワケじゃないが……。

 少なくとも、『ここはどこだ?』から『ここは本当に夢幻の箱庭なのか?』っつー疑問にシフトしたのは間違いないからな。


「でもでもー? 最初にあそこへたどり着いた人たちはー、そのどっちも無かったはずなんだよねー?」


「なるほど。その者たちの装備品に刻まれていた文字が噂になったわけだからな」


「つ、つまり……最初にあそこへ迷い込んだ冒険者は、わ、わたし達とは別の方法であの場所を、む、『夢幻の箱庭』だと思いこまされていたということか……」

 

 となると……。

 おいおいまてまて……! だとしたらあのレクイエムシープは、初めから夢幻の箱庭をエサにしていたってことになるぞ? つまり……。



「あの魔物(モンスター)達は、『夢幻の箱庭』の存在を知っていた(・・・・・)……?」



「にゃふー! オジサンごめいとー! ……おかしいよねー? それが『ただの冒険者の噂』なら、なんで魔物(モンスター)が知ってるんだろー?」


「そ、それは……た、ただの噂じゃないから……ってことか……?」


「じゃあもしかしたら、ホントに本物の『夢幻の箱庭』が存在するってコト!? すごい! 大発見じゃん!」


「確かに、『あるかもしれない』と『ある』とでは、天と地ほどの差があるからな……。もし本当であれば……」


「にゃふふ! もちろん、まだ可能性の話だけど……今回のいろーんな要素をまるめて考えるとー? ……ウチとしては、ほぼ確信ってカンジ?」


「いろんな要素……?」


「にゃーん! それはまだヒ・ミ・ツ! というか、ウチの中でもその辺はまだ固まってないからねー?」


 なんだよ随分ともったいぶるね?

 しかしこれは……。


「じゃあエテリナさんは、最初それを確かめるために今回の噂を……?」


「いや……。エテリナ、お前が知りたいのはもっと先(・・・・)、だろ?」


「……にゃふふ! ウチ、オジサンのそういうところってだいすきー!」


 おいおいよせやい。

 褒めてもなにも出やしないぜ?


「『夢幻の箱庭』だけじゃなくてー。『最期の(はこ)』、『ジレンマの鍵』、『過干渉の炉心』、『天譲の恩恵(ギフト)』……」


「……『ミストルノ手記帖原本』、『七大魔王』、『新種族』、『大陸の(くさび)』、そんで『入口の無いダンジョン』か」


 冒険者の間でまことしやかに囁かれる十の噂。

 ――通称『不落の難題』。



「にゃふふ……! ウチらみーんなで紐解いてみない? ――この世界の謎ってヤツをね?」

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