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第30話 勇者になるには遅すぎる

 ……ひたひたと、何かがうごめくような音がする。

 一体、いや、確実に数体は潜んでいるだろう。


 もう目も霞んではっきりとは見えないが、恐らくパニティンサイドに本来生息する魔物(モンスター)といったところだ。

 それが今まさに、俺を狙ってやってきているっつうワケだな。


 パニティンサイドの難易度を考えれば、それほどランクの高いヤツじゃあない。

 ……が、たとえ勇者級の力を持っていようと、マナが尽きればただの人。魔物(モンスター)にとっちゃ格好の餌食だろうね。


 ――何せ俺はもう、指一本すら動かせない。

 

 リィンねぇちゃん、フー、ウリメイラ。

 ……悪い、色々してくれたってのに、どうやら約束は守れそうにないらしい。

 それどころか……。


 魔物(モンスター)やダンジョンによる死は、蘇生魔法なんかで取り返しがつく。

 だが、行き先も告げずにこんな場所に来た俺を、……魔物(モンスター)に荒らされた俺の亡骸を、見つけてもらうことは難しいだろう。


 それでも三か月後には、教会で目を覚ますことになるはずだ。

 ……死亡した時点から半年分の『記録』を代償にな。


 記憶も、レベルも、その他あらゆるモノが半年分、自分の中から消え失せる。

 それが、戦女神『セイヴ』による復活の条件だ。


 初めてトリアにあったのは三か月ほど前、つまり……。


 ――セイヴによる復活の代償。冒険者の中にはそれを、『全財産の半分を失うようなものだ』なんて言うヤツもいるらしい。

 ……が、俺からしたら何言ってんだって話だね。



「…………足り、……ぇよ……半分ぽっちじゃ、な……」



 ……あぁくそ、もう声もうまく出ねぇじゃねぇか。


 薄れる意識の中でいろいろなことを思いだす。

 いつか目を覚ました俺が、ほんのひと欠片だけでも覚えていてくれるようにと、最後の悪あがきをしているのかもしれない。


 そんなことを考えながら、俺はゆっくりと目を閉じた。







「――――『メテオパンチ』!!!!」


 不意に聞こえる衝撃音と、……耳慣れているアイツの声。

 ……いや、そんなはずはない、アイツらは今勇者検定の真っ最中で……。


「……っ! おじさまっ!」


「お、おっちゃん、良かった間に合って……! 『ヒールスライム』……!『マナスライム』……!」


 おいおいどうしたっていうんだよ……。

 死に際の走馬燈にしちゃあ随分リアルじゃねぇか……。


魔物(モンスター)が多いな……。回復までの時間は私たちが稼ぐぞ」


「にゃふふー、おまかせあれー!」


 まるで、まるでここにアイツらが――。




 ……徐々にはっきりしていく意識の中で、とりあえず一つ確かなことがある。

 この光景、どうやら走馬燈なんかじゃなかったようだ。


「おっちゃん……! ……まったくもー、おっちゃんはボクがいないとほんとにダメなんだから……!」


 トリアの安堵したような顔が目に入る。

 察するに俺は、トリアの膝に頭を乗せているらしい。

 いや、そんなことより……。


「馬鹿……野郎……なんで来た……? 次の検定は……五年後だぞ……? 冒険者にとっての五年が……どれだけ大事か……」


 まだ少し呂律が回らないが、だからこそ俺は一人でここに――。


「……とーう!」


「いっ……て、お前……なにを……」


 ぴしっといった感じに、鼻の先にデコピンをされてしまう。



「……おっちゃん? ボク結構おこってるんだけど、なんでか分かる?」



 そしてそのまま、真剣な顔で覗き込んでくるトリア。

 周りを見渡せば、みんなそれぞれ表情は違えど、それは変わらないようだ。

 俺は……。


「…………いや、そうだな……。悪かったよ……心配かけて……」


「……ふふ、うんうん、ボクってば心が広いからね! 仕方がないから、今回だけは許したげる! ……でも、ホントに今回だけなんだからね?」


「……あぁ、……肝に銘じとくよ」


 ……………………

 …………

 ……




 ――翌日。


「――そういや、なんで俺がパニティンサイドにいるってわかったんだ?」


 ネルネのスライムや、皆の……まぁ献身的な看護によって、すっかり回復した俺は、ふと湧いた疑問をぶつけてみた。

 フーやウリメイラ、リィンねぇちゃんにも行先は告げなかったってのに、なんでコイツらはあの場所が……。


「にゃふふ、それはほらー、愛の力ってヤツ? にゃーん! ウチ照れちゃうなー?」


「……え!? え、えと……その……。そそそ、そうだな、うん……ああ愛の力……? ってやつだ……」


 なんだ愛の力か。それなら確かに納得するしかないな、うん。

 ……いやもうネルネが露骨に怪しい。


 ふと思い立ち、体のあちこちを探ってみる。

 すると、いつも使っているバックルの隙間から、とあるものが見つかった。


「……マーカースライム、なるほどなぁ」


「あわわわわわわ……! お、おっちゃん、それはその……!」


「落ち着けって、今回はコイツのおかげで助かったんだし怒りゃしねぇよ。…………でもトリアは後でお仕置きな」


「ほわーっ!!??」


 トリアが奇天烈な声をあげる。


「なんでぇ!? なんでわかったのー!?」


 実はカマをかけてみただけなんだが……やっぱりこいつの入れ知恵だったか。

 大方、『いつでもおっちゃんの居場所がわかるようにしておこう』なんてことを、のたまったりしたんだろう。


 ま、さっきも言った通り助かったのは確かなんだ。

 軽くくすぐり倒すぐらいで勘弁しておいてやるかな。





「――そうなんだ! ふふ、うん! やっぱりイルヴィス君には、配送業よりも冒険者が似合ってるって思うな? ……でも、あんまりおねぇちゃんに心配させちゃだめだよ?」


 リィンねぇちゃんが残しておいてくれた装備品たちは、さすがにぜんぶおしゃかになっちまった。

 いや、むしろあの数の魔物(モンスター)を相手に、良くもってくれたもんだよホントに。


 ……リィンねぇちゃんは、この先もこの口調で俺に接するつもりらしい。


 流石にそれはどうなの? ってことで、何とか説得を試みた結果、どうにか『二人きりの時だけ』という約束をしてもらった。

 もちろんその時は、俺もねぇちゃん呼びをすることが条件なのだが……。


 いやホント、絵面的に大丈夫コレ?




「……協力者、か。この事件、まだ解決したとは言われへんのかもなぁ。とはいえ、アンタが無事に帰ってきてなによりや! ……いろいろと、覚悟も決まったみたいやしな?」


 俺の顔をみながら、何やらごきげんな表情のフー。

 覚悟を決めたのは確かなんだが……俺ってそんなにわかりやすい顔してるのか?


 まぁあれだ、コイツとの付き合いも長いからな。きっとそれが原因だろう。

 ……そういうことにしておこう。


 正直、協力者とやらが自ら動くことは無いとは思っていた。

 本当にそのつもりなら、いくらでもやりようはあったはずだからな。


 ……娯楽、か。


 もし、星9の魔石とやらもそいつが手配したものだったとすれば……ケインはその協力者の掌で遊ばれていたのかもしれん。

 その結果があの行動なら……同情してやれるかは微妙なところだがな。




「はいこれ。……ふふ、いいや? 奢りってわけじゃないさ? ……君は義理堅い男なんだろう? だったら、一つ貸しのままにしておくのも悪くないからね?」


 酒場のウリメイラに見えない気配り(エクセルサーバー)を返しにいくと、かわりに一杯のグラスを差し出された。

 ……コイツはあの時、ネルネと初めて会う前に飲み損ねたウイスキーか。

 

 奢りじゃないってのは残念だが、貸し一つでこれが味わえるのなら悪くない。

 あの時の見えない気配り(エクセルサーバー)の活躍を考えれば、おつりがくるぐらいだね。


 その貸しにしたって、コイツのことだ。それほど無茶な要求なんてもんはしてこないだろう。

 そんな風に考えながら、ちびりとグラスに口をつける。


 ……あぁ、うまいなぁホント。




 その後、瓦礫の中からケインの姿が見つかったそうだ。


 ……何故か近くに強制的な運命論(レッドチェイン)も落ちていたようで、魔物(モンスター)達に着けられた首輪と合わせ、少なくとも、俺の証言が全く嘘だと思われるようなことも無くなった。


 勇者検定はやはりと言うべきか、トリアたちは失格になっちまった。

 まぁ、途中で抜け出させちまったからなぁ……。


 そうさせないために、俺は一人で動いたってのによ……なんて、そんなことはもう言わないね。

 ……そうするにしても、俺はきちんとあいつらに話すべきだった。

 

 色々とあったが、そう思えるようになったってのは収穫だと思っている。

 もちろん、あいつらにはキチンと頭を下げて、……まぁそれぞれ要件につき合ってもらう、なんて条件で許してもらった。


 ……少しだけ、背筋に寒いもんが走るのは気のせいなのかな?

 気のせいだと良いなぁ……。


 そして――。





強制的な運命論(レッドチェイン)も見つかってー、あのケインって人も捕まってー、おっちゃんの疑いも晴れてー……、これでもう、心配事は無くなったね? おっちゃん!」


「うん…………そうだな…………」


「あれぇ!!?」


 ウキウキとした様子から一転、沈む俺の姿を見たトリアが、面食らったような声を出す。 


「お、おっちゃん!? なんでそんな落ち込んでるの!!?」


「……実は――」




「「「……退去勧告!?」」」


「あぁ……、なんか最近いろいろあっただろ? そんでなぁ? アレがコレして……なんかこう……ご近所さんからの評判も良くないみたいなソレになって……そんで……」


「うにゃぁ、オジサン語彙力まで……」


「これは相当に参っているようだな……」


 まぁ端的に言えば……俺は来月からホームレスってことだ。

 あぁ……ホントつらい。


「ほ、ほらおじさま? なでなでしてあげますからね? ハクのお膝に来てくださいね?」


「…………ん」


 俺は言われた通り、ハクの膝に頭を乗せる。


「あぁ!? おっちゃんがショックのあまり冷静な判断力を失ってる!!」


「ふ、普段なら絶対、こ、断るような場面なのに……!」


 え、だって来てって言われたから……。


「ふふ、弱ってるおじさまもカワイイ……。大丈夫ですよおじさま? ハクのおうちに余ってるお部屋がありますから一緒に暮らしましょう? もちろん、おじさまが望むならハクは同じ部屋でも……」


 そうかぁ、ハクが言うならその方がいいのかもしれんなぁ。

 あぁ、撫でられるの気持ちいい……。


「ま、まずいぞ……! は、ハクも()のスイッチが入ってしまってる……!」


「引き離せ引き離せ!! 今のイルヴィスなら了承しかねんぞ!? ……おいエテリナ!? お前まで何をしている!?」


 エテリナが耳元で何かをつぶやいているようだ。

 ぽそぽそと囁く声が心地いい。なんだかエテリナの言う通りにもした方がいいような気がして……。


「うにゃ? ほらなんていうか……これはもうチャンスかなーって?」


「ええい! 弱り身につけいるんじゃない!! だいたいお前はだな――!」




「……ほらイルヴィス、しっかりしないか、まったく……!」


 クヨウに両頬をぺしぺしと叩かれる。

 あれ、俺は今まで何を……?


「よ、よかった……。いつものおっちゃんだ……」

 

 ……あまり覚えていないが、どうやら面倒をかけたみたいだ。


「しかし実際どうしたものか……。ハクの家は論外としても、他にあては……」


「ろ、論外ですか……しゅん……」


「ああっ……!? いや別にハクが悪いと言っているワケじゃないんだぞ!? ただほら、やっぱりなんというかだな……」


 肩を落とすハクをフォローするクヨウ。頑張れ頑張れ。

 ……しかし確かに新しい部屋を探すとしてもだ、今の俺の評判で、果たして快く貸してくれるような場所があるかどうか……。


「ねーねーオジサン? それならいっそー、おうちを建てちゃったら?」


 そんな中、エテリナが突拍子もないことを言い出した。


「家ってお前、そんな簡単に……」


「にゃふふ、まぁまぁ聞きたまえよう。……『不落の難題』って知ってるでしょー?」


「えっと、『ジレンマの鍵』とか、『天壌の恩恵(ギフト)』とか、『七大魔王』とか……そういう感じのあれだよね?」


 『不落の難題』、冒険者の中で、まことしやかに囁かれる噂たちだ。

 未だ誰もその真相にたどり着けられていないことから、そう呼ばれているんだが……。


「うんうん、そのとーり! んでんでー、その中の一つ、『夢幻の箱庭』に関する情報なんだけどー、……どうやら最近、信憑性の高い情報が流れてるみたいなんだよねー?」


「信憑性って、見つかっても無いようなモンの信憑性がどうやってわかるんだよ」


「にゃふー? そのへんはほらー、エテリナちゃんのネットワークといいますかー?」


 ……なんというか、こう、怪しさの極まり方が半端じゃないぞ。

 しかし……。


「夢幻の箱庭か……。『どこにでも在ってどこにも無い、ただこの世のどこより楽園に近い場所』、なんて話を、私も聞いたことはあるが……」


「も、もし本当にそんな場所があって……、そ、それをわたし達が、ぐ、偶然にも見つけちゃったりなんかしたら……」


「にゃふふー、そしたらみーんなでー、そこに住んじゃうってのもいいんじゃない? にゃーん! たのしそーう!」


「すごい! 素敵です! 楽園……そんな場所でおじさま達と過ごせるなんて夢みたい……! 頑張って見つけましょうねおじさま!」


 いや俺はまだそうするとは……。

 ……駄目だな、今言ったところで、聞く耳なんぞ持ってないだろう。


 若いヤツってのは夢があって良いねぇ、まったく。


「それにさ! もしそんなのを見つけちゃったら……ボク達みんなで一緒に勇者なんて呼ばれちゃうんじゃない!? もちろん、おっちゃんも一緒にね!」


「いや、だから俺は……」



 ――俺は、自分なんかよりお前たちを勇者にしてやりたいと思ってる。



 ……なんてことを面と向かって言うにはまだ少し、その、なんだ、照れくさいというかなんというか……まぁそんな感じだ。


「? おっちゃんどしたの?」


「……いいや、なんでもねぇさ。……つーか、いつも言ってるだろ? 俺はもうほれ、そういったもんに情熱を向けれるほど若くないんだよ。だから――」


 だからもう少しだけ、このセリフの世話になるとしようかね。




「――勇者になるには遅すぎる」

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[一言] レベルドカ上がりしてそう(笑)
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