第28話 だからこそ
トリア達に話した通り、確かにこの数日間で目に見える収穫のようなものは無かった。
が、収穫が無いことと進展が無いこととは、必ずしも一致しないもんだ。
……洗脳を疑われているトリアたちが勇者検定に参加できるのは、上も色々と決めあぐねているからだろう。
あいつらの強さは、はっきり言ってちょっと破格だからな。
そんでもって美人さんぞろいときたもんだ。
実力的にも、広告的にも、勇者としての素質があるなら迎え入れない理由は無い。そうでなけりゃトリアを、あのタイミングで勇者候補に選定なんてしないはずだ。
迎え入れたいとは思う。だが洗脳されているならばそれは困る。
結果保留と、まぁそういうことだ。
現状アイツらが検定を受けられているのはそのおかげだろう。だが、この先はそうはいかなくなってくる。
この件が解決しなけりゃ恐らく……。
「…………何故ここが?」
薄暗く、じめついたこの場所に、俺は今やってきている。
そいつは俺の姿を見つけても、別段に驚いたようなそぶりも見せなかった。
――ケイン・マクラード。
俺にとっちゃ、まぁ因縁の相手なんてことになるのかね。
良い意味とはいえんがな。
「……俺は今、国家反逆罪なんてのに問われててな。いやホントまいったぜ? 強制的な運命論、知ってるだろ?」
「…………」
「だんまりか、ま、いいけどよ。……お前の別荘の地下にいた魔物達な、どうやって集めることができたのか、ずっと気になっていた」
首輪事件、俺たちがその場に居なかったことにしたのも、それが理由だ。
あの魔物達はケインに従っていた。つまり間違いなく、ケイン自身の手によって首輪をつけられていたはずだ。
……しかし考えてみると、それはおかしな話なのだ。
「それで? 僕がその強制的な運命論とやらを使って、魔物どもを地下室に集めていたとでも?」
「いいや、クヨウは俺と再会したその日にアンリアットに来たと言っていた。……必然的にお前も、同じ日にこの街にやってきたことになる」
フーも言っていたが、強制的な運命論が盗まれた時、コイツはこの近くにはいなかったんだ。
そもそもケインにそれが使えるなら、首輪に頼る必要もなくなるはずだしな。
だが、そうなってくるとやはりつじつまが合わない。
ランクA+を含むあれだけの数の魔物達。それをたった二、三日の間に、誰にも気づかれずに地下室へ運び込むことなど不可能だろう。
いくらマクラード家が力を持っていたとしてもだ。
だとすると、それ以前から集められていたってことになるんだろうが……それはそれで、首輪をつけていない魔物達が、あの地下室でなんの意味もなく大人しくしていたってことになっちまう。
そんなことはあり得ない。
いつかネルネも言っていたが、人と魔物は相いれない存在だからな。
……それこそ、強制的な運命論なんかを使わない限りは。
気付いてしまえば簡単な話だ。
「つまり……協力者がいるんだろう?」
ケイン一人で不可能ならば、別の人物が手を貸したと考えればいい。
「強制的な運命論を使ったヤツは別にいる。盗んだヤツと同一人物かは不明だが……お前が脱走できたのも、その協力者のおかげか?」
「……ふふ、あれを協力者と呼べるかは分からんがな」
ケインのヤツが、不敵に小さく笑う。
「しかし腑に落ちん。それでなぜここに僕がいると思ったのだ?」
「……最近、何かとイレギュラーな事態に巻き込まれることが多いんだよ。例えば、デルフォレストのダンジョンアウトだ」
ラミアエンプレス、グリフォン、ワーガーワーグ……。
コイツの使役していた魔物は、デルフォレストで出現するものばかりだった。
「恐らく、お前の協力者とやらがあそこで強制的な運命論を使用したことにより、ダンジョンのバランスが崩れたんだ。あのダンジョンアウトはそのせいだったってワケだな」
協力者によってダンジョンから失われた魔物を補うため、養分である冒険者を強引にダンジョンへ誘い入れようとしたんだろう。
「そこでこの数日間デルフォレストを探索してみたんだが……まぁ昨日の時点で手がかりはゼロときたもんでね。んで、別方向から考えてみることにした。――エルダースライムだ」
何故かビジレスハイヴに現れたエルダースライム。
今にして思えば、あれはデルフォレストと同じくダンジョンアウトだったってワケだ。つまり――。
「そう、お前の協力者とやらが強制的な運命論を使った影響なんだろう。……ここ、『パニティンサイド』でな!」
――パニティンサイド。
地下水路から行ける、ネルネお気に入りのダンジョンだ。
パラダイム属であるエルダースライムは、ここからのダンジョンアウトによりビジレスハイヴに出現したのだろう。
この辺でエルダースライムが確認されているのは、ここしかないからな。
「……くくく、存外に、頭を使える人間のようだな」
ケインの言葉に、俺の考えが間違いではなかったことを確信する。
しかし、相変わらず人を見下すようなしゃべり方をする男だねコイツは。
やはりあの魔物たちの首輪は、ケインがこの街に来てから装着されたのだ。
確かに協力者によって集められた魔物に首輪をはめるだけなら、それほど時間もかからんだろう。だが……。
「そんで? ……何を企んでいた?」
……正直、考えが当たっていて嬉しいかと言われれば嘘になる。
最初俺は、首輪の実験台として魔物を集めていたのかと思っていた。
だが実際にはそうじゃない。なにせこいつが魔物に首輪をつけたときには、すでに完成品が出来ているのだ。
首輪の実験台ではなかったとするならば、あの魔物達は果たして何のために集められたのか……。
「さてな、それは僕にもわからん。……三ヶ月ほど前だ。ヤツが僕の前に現れたのは。そして、僕に向かってこう口にした」
『――君の首輪の出来損ない、もったいないだろ? 有効利用をさせてあげるよ。……その力、君の好きに使うと良い……』
「おいおいそれで魔物をってか? 随分と酔狂な奴じゃねぇか、何のためにそんな……」
「言っただろう、あれを協力者と呼んでいいのかは分からん、と。目的も、素性も、名前すらも、何一つ明かすことは無かったよ。……だた唯一、『娯楽』だと、そう言っていたがね」
娯楽、ね。
「……だが、今日この日、ここに貴様が来たということは、『今の僕の目的』は分かっているのだろう?」
「……さてな、お前みたいなヤツの目的なんて見当もつかねぇよ」
「くくく、貴様は嘘ばかりをつくなぁ? いいさ、それなら教えてやろう。……そいつは脱走の際に教えてくれたのだ、ここにはさらに多くの魔物を用意してあると……!」
なるほど、コイツがここのことを知ったのは脱走後なのか。
上の奴らが調べても、なかなか突き止められんワケだ。
「それをすべて!! 会場へと解き放つ!! 勇者候補としての僕を否定した奴らも!! 貴様の大事な女どもも!! その未来ごと全部、全部ぶち壊してやる!!!!」
語気を強めるケイン。
どこに協力者がいるか分からん現状、俺は一人で動く必要があった。
……しかしこれは、流石に骨が折れそうだ。
「――貴様の!! 貴様の目の前でなぁ!!!!!」
暗闇に浮かぶ、無数の眼光。
パラダイム属だけでなく、あらゆる種属の魔物がケインの後ろにずらりと並ぶ。
……ヴェノムトードやフルボーンドラゴンなんかの出現も、強制的な運命論の影響だったのかもな。
この様子じゃエルダースライムのダンジョンアウトはデルフォレストとは真逆、魔物の供給過多により、外へとはじき出された結果なのかもしれん。
まぁその辺のことは良く分からんし、今はどうだっていい。
「安心すると良い!! 貴様を殺すのは最後にしてやる!! 絶望の光景を目に焼き付けながら、後悔と共に死んでゆけ!!!」
「……知ってるか? そういうのを悪趣味って言うんだぜ?」
「悪趣味! はははは! 良いじゃないか! 勇者候補でも何でもない唯の悪人の僕には、それほど不相応とも思えん評価だ!!」
なんだよ、随分と謙虚じゃねぇか。
……皮肉だぜ?
「わかるか!? 全て貴様のせいだ!! 貴様が僕を貶めたから……貴様のせいでお前の大事な女どもが――!!」
「――……くくっ」
「……っ!? 何がおかしい……!?」
「いや悪い。……同じ勇者候補に選ばれる奴でも、こうも違うもんかと思ってな」
そんなことを考えながら、俺は最近買ったマジックアイテムの腕輪……結構気に入ってたんだが、それに向かって、勢いよくナイフを振り下ろす。
……うちのポンコツもなぁ。自分の欲求に忠実なヤツなんだよ。
楽をしたいだの、ちやほやされたいだの、疲れたからおぶってだの……。
おかげで俺が何度被害を被ったかかわかったもんじゃない。
だがそいつは、……トリアは同じだけまっすぐに純粋で、俺はそんなアイツの言葉に、幾度となくハッとさせられたもんだ。
少なくともケイン、お前なんかよりはずっと……いい、圧倒的に、勇者として大事なもんを持ってるヤツだぜ?
……ま、トリア本人にそう言ってやるのは、もう少し先の話になるだろうがな。
トリアだけじゃない。
ネルネはよく他人を見て、他人のことを考えられる良いヤツだ。
あいつのサポートの優秀さは、そういった部分から来ているんだろう。
まぁあのスライムへの傾倒っぷりには参っちまうもんもあるが……。
だがその分、誰に否定されようともアイツは自分自身を曲げることが無い。
そしてそれは、アイツが思っている以上に凄いことなんだと俺は思う。
よく「わたしなんか……」なんて言葉で自分を過小評価しているが、それなら俺が正当な評価をしてやっても罰は当たらんはずだ。
ハクは素直で、……まぁちょっとだけ発言にアレなところはあるんだが、いつだって一生懸命だ。
なによりも、俺はアイツが自分の境遇を……父親や家族なんかのことを悪く言っているところを見たことが無い。
その強さが、その健気さが、時々たまらなく愛おしい。
その反動が、あの先祖返りのはっちゃけ方だっつうのなら、喜んで受け入れてやるってなもんだよ
焦らなくても、いずれお前は優しくて強い、素敵な女性になる。
……おっさんが保証するぜ?
エテリナは自由奔放で、まぁ正直困ったところも多々ある奴だ。
だがその奔放さも、一時は陰りを見せていた。
……実際、俺もその片鱗を目の当たりにしたこともあるからな。
特出したヤツってのは、良くも悪くも目をつけられる。ま、アイツ場合は、普段の言動や恰好なんかにも、問題が無いとは言いきれんのだが……。
それでもアイツの優秀さや、見た目に反して努力家な部分なんかは、簡単に否定されるべきじゃないはずだ。
そして、みんながそう思えるような世界を作れるのは……。
きっとエテリナみたいな奴なんじゃないかと俺は思うね。
クヨウは強く、気高く、だがその反面、脆い部分も持ち合わせている。
首輪事件の時もなぁ、自分の中だけで考えて答えを出して……。
あげく、本当は『最後に』俺に会いに来たつもりだった、なんてきたもんだ。
おかげでこっちは随分肝を冷やしたんだぜ?
早めに気付けて良かったよ、まったく。
……なにも弱さや脆さが悪いと言っているわけじゃない。
あいつが自身の能力と向き合って強くなったように、そういった部分も受け入れて成長した時、クヨウはきっと、もっと凄いヤツになることだろう。
……鉄人配送員になって、のんびりと暮らしたい、なんて、最近はめっきりそんな風に考えることもなくなってきた。
本当は、アイツらが一人前のパーティになったころに、こっそりと身を引くつもりだったんだがなぁ……。
どうしたもんか、アイツらの成長やなんかを目の当たりにする度に、それが惜しくなっていっちまう。
歳のせいかな? いや――。
――――夢を見ちまったのさ。
お前たちは、ひょっとしたら『えー?』なんて言うかもしれねぇけどよ。
お前たち全員が、『勇者』として立ち並ぶ、そんな光景を――。
全員だぜ全員? たった一人もかけることなくだ。
ただでさえ、勇者なんて称号を得られるのは一握りの人間だってのによ。
だが、そのためなら俺は――。
……
…………
……………………
「――〰〰っ!!? なんだこのマナの圧力は!!?」
マジックアイテム『唯一の芸術家』。
自在に形を変えて、自分だけのアクセサリーを作ろう、なんて言う、まぁおしゃれアイテムだ。
俺はそれを、マナを込めた自慢のナイフで破壊する。
……正確には、それによって隠していた『別のマジックアイテム』をだ。
そして……。
「馬鹿な、ありえない……!! こんな……これではまるで、『勇者級』の――!!」
「はっ、俺が勇者、ね。……あいにくだが、俺はもう他にやりたいことを見つけちまったもんでな。だから……」
……いや、だからこそ――!
「――勇者になるには遅すぎる!!!」




