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第27話 こんな時でも酒はうまい

 ――数日後。


「いやホント……まいったね、どうにも……」


 数日ぶりに帰ってきた自分の部屋で、そんな風に独りごちる。

 しかし何というか……。


「おっちゃんだいじょぶ? ちょっとぐらいならぱんつ見せたげようか? ねぇそしたら元気出る?」


「あ、あの、ハクも……それでおじさまの元気がでるのなら……」


 やめなさいってのはしたない。

 というか、もしここで俺が『うん見せて』ってつったら、ちょっとシャレにならん程度には大問題だからな? そこんとこ分かってる?


「で、でもこうして帰ってこれたってことは、も、もう大丈夫なのか……?」


「いや、完全に疑いが晴れたわけじゃないっつーか……」


「そもそも何故こんなことになっているのだ。公にはなっていないが、あの首輪の事件だってイルヴィスがいたからこそ、解決できたようなものだというのに……」


「そ、そうです! おじさまが一晩で七人の女の人を相手に頑張ってるの、ハクもちゃんと見てました!」


 ……なんだろうなー。ハクが言うとこう、別の意味に聞こえるんだよなー。おっさんの心が汚れてるせいなのか?

 いやまぁそんなことは置いといてだ。


「あー何から話せばいいのか……ほれ、少し前に『強制的な運命論(レッドチェイン)』が盗まれたって事件があっただろ? どうにもその容疑者として、俺の名前が挙げられてるみたいでなぁ……」


「うにゃぁ……たしか、強制的に相手をしたがわせちゃう、なんていうアイテムだったよねー?」


 いやもうホント、どういうことなのとしか言いようがない……。

 冤罪ってこわい。


「確かに怖いアイテムですけど……でもそれで何もしてないおじさまが、いくらなんでも国家反逆罪だなんて……」


「それなぁ、なんというかタイミングというか……」


 俺にもいまいち、どう説明していいものやら……。


「えーとまずだ、勇者になれば金が出たり、いろんな権限が与えられたりするのは知ってるな? つまり国、正確に言えば世界国家連合(ワールドユニオン)は、それだけ勇者ってモンに期待しているってワケだ」


 勇者というのは称号だが、同時に象徴でもある。


 人々を守り、この世の謎を解明し、苦難を糧にしてでも世界に貢献する……その存在自体が世界を導く象徴であるワケだ。


 そんなわけで、国としては国力をあげてその素質がある奴を見出そうとする。

 勇者と呼ばれるような奴らが打ち立てる功績は、そのまま国の利益につながることも少なくないからな。


「が、その勇者候補の選定で……まぁケインみたいな不祥事が出ちまった。こいつははよくない、国としても冒険者ギルドとしてもだ。で、また似たようなことが起きないよう、気を張ってる状態らしいんだが……」


 いやそれ自体は良いことなんだよ?

 過去を反省して気を引き締める。大事なことではあるんだが……。


「まさにその勇者候補の女の子が、ここには一、二と、トリアも入れると三人。……んで、そこに来て俺の噂だ。『少女達をろくでもない手段で手籠めにしてる』、なんてな」


「……え、まさか」


 ……こういう時のコイツはホントに鋭いな。


「まさに、そのまさかだよ。……俺が、強引な運命論(レッドチェイン)を盗んで将来の勇者をたらしこみ、自分の手駒にしてると思われてるらしい……」


 ついついまた頭を抱えこんでてしまう。


 ……いやここまでくる?

 確かにもう面倒でいろんな噂を放置してたが、いやホントここまでくる?


 国家反逆罪だよ? 国だよ国?

 つらい。



「と、とにかく! なんとかしておっちゃんの冤罪を晴らさないと……! ボク達、強制的な運命論(レッドチェイン)なんて使われてないよって……」


「言ったところで無駄だろうな。そもそも私たちが呼び出されたりしないのは、すでに洗脳済みだと疑われているからだろう。何を訴えたところで……」


「にゃふー、聞く耳なんて持ってもらえないだろうねー?」


 まぁそういうことだ。

 強制的な運命論(レッドチェイン)はリィンさんの言う、『人が解明しきれていない魔法、技術、素材などを使用して、人以外の手によって作られたモノ』らしいからな。


 挙句に鑑定では最大クラスの星10。

 解明できていないことがほとんどで、どうやって洗脳しているかも不明。それどころか、未だに適正者ですら、誰もが使えるようなもんでもないらしい。


「で、でも……このままだとおっちゃんは、へ、下手をすれば一生牢屋に……」


「そんな!? そんなのだめですおじさま!」


「まぁなぁ、俺だって流石にそいつは勘弁してもらいたいよ……」


 いやホント。

 割と切実にね。


「そうだ! ボクたちで真犯人を捕まえればいいんじゃない!? そしたら……」


「だめだぞ」

「あれぇ!?」


 閃いたと言わんばかりのトリアの案を、間髪入れずに一蹴してやる。


「な、なんでぇ!?」


「いやなんでもなにも、お前らもうすぐ勇者検定だろうが。……とりあえず、この件は俺でなんとかするから、お前らはそっちに集中しろって話だ」


「で、でも……」


「……もちろん、気持ちはありがたいとは思ってるよ。でもま、心配すんな。俺は俺で、何も手がないワケじゃねぇからよ?」


「……ほんと?」


「あぁ、だからお前たちは――」





「――……とは言ったものの……」


 勇者検定に集中させるようにあんなことを言ってはみたが……実際にはそんな都合のいい手段などありはしない。

 ははは、ウケるねホント、逆にね。


「ほれ見ぃ。首輪事件の時にきちんと名乗りでとったら、変な噂も無くなっとったかもしれへんのに……」


「それを言うなってフー……。つか、あん時はお前だって賛成してたじゃねぇか」


「……ん? まぁそれはそれ、これはこれや」


「コイツ……」


 ウリメイラとフーを部屋に招き、愚痴を肴に酒をあおる。

 こんな時だってのに、酒っつーのはうまいもんだよ。


 例の首輪事件。その現場に俺たちはいなかったことになっている。

 ……少し気になることがあるからだ。その辺がはっきりしない限り、アイツらにも危険が及ぶかもしれないからな。


「というか、その変な噂とやらを信じてたのはどこのどいつだよ」


「な!? ウチは信じてへんもん! ……ただイルヴィスも男やし? 噂ほどでは無いにしろ、ちょっと魔が差したんかなぁて……」


 ぐへー、いやなんでだよ信用無さすぎる……。

 つかそれ噂信じてないって言える? 言えないと思うねぇ俺は。


「まぁまぁ二人とも。……それにしても、ガングリッドやシーレならもう少しやれることもあるんだろうけどね。私達だけじゃ……」


「気にすんなってウリメイラ。こうして一緒に酒飲んでるだけでも、だいぶ気も紛れるってもんだ」


 流石にトリア達とグラスをつき合わせるわけにもいかんしな。

 未成年飲酒、ダメ絶対。


「それとなイルヴィス。こんな時に言うのもなんやけど……アンタは部外者とは言い切れんし、一応伝えとくわ」


「おや、私は少し席をはずした方がいいかい?」


「いや、ウリメイラは口固いやろ? 黙っとってくれればそれでええ。……んでな、どうにもケイン・マクラードが脱走したみたいなんや」


「な!? おいマジかよ!?」


 フーの話によれば、見張りが気付いた時にはもう姿を消していたらしい。

 壁、格子、その他あらゆる場所のどこにも、脱走の痕跡を残さずにだ。

 

「それはまたなんというか……随分と器用な話だね。ひょっとして、強制的な運命論(レッドチェイン)も彼がその方法で……?」


「いや、それは無い、と思う。そもそも強制的な運命論(レッドチェイン)が盗まれた時、ケインはこの街には……少なくともこの近くには来とらんかったはずや」


 確かにそれはそうだ。

 クヨウの話から考えても間違いない。


「そんなわけで、この件と関係ないとは思うんやけど……多分アイツはアンタを恨んどる。気ぃ付けえやイルヴィス、いざとなったらそん時は……」


 おいおい……、疑われて恨まれて、最近ホントろくなことが無いな……。

 そんなことを考えながらグラスに口をつける。

 ここまでいろいろ巻き込まれる程、悪いことした覚えはないんだがなぁ。


 ……あぁ、こんな時でも酒はうまい。




 ――勇者検定。

 世界国家連合(ワールドユニオン)と冒険者ギルドが主催する、国際レベルでの国家検定だ。


 五年に一度行われるそれは、国単位が動く検定なだけあって、その評価方法も大規模極まりない。

 闘技場を会場に観客までよびこんで、もはや一種のお祭り騒ぎだ。


 今はまだ第一次試験だからこの程度だが、これがもっと上になってくるともう街ぐるみの単位で賑やかになるからな。


 第一次試験は世界各所に設けられた会場においての、候補者同士の模擬戦闘試合、いわゆるPvPだ。

 ここでの上位者が、第二次、第三次試験へと歩を進めることになるワケだが……。


「あれ? おじさまそれ……?」


「あぁ、リィンさんからの差し入れだ。ここに来る前に少し用事があってな」


「さ、差し入れか……。わ、わたしも何か持ってこれば良かったかな……。す、スライムまんじゅうとか……」


 いやー悪いがそれ嫌がらせにしかならんと思うぞ?

 検定会場付近で合流した二人と、そんな話をしていると……。


「あ! おっちゃーん!! ……とーう!」


「……!! あまい!」


 飛びついてきたトリアを華麗にかわしてやった。

 これ以上の腰へのダメージは勘弁してもらいたいからな……。


「うわっとと……! もー! おっちゃんなんで避けるの!?」


「なんでじゃねぇよまったく……。ほれ、これリィンさんからの差し入れ。……どうだ調子は?」


「わーい差し入れー! ボクのほうはもうばっちりだよ! そういうおっちゃんは?」


 トリアの質問に、俺は少しにやりと口角をあげてやった。

 なぜならば――。



「いやもう笑っちまうぐらいなんの収穫も無いわ、ホントマジで」


「ええええぇえぇーーーーー!?」



 おーうろたえとるうろたえとる。

 結局、勇者検定の当日となった今も、目に見える収穫のようなものは無かった。

 いやー、まいったねどうも。


「今完全に『おっちゃんもバッチリ』みたいな流れの感じだったじゃん!?」


「おいおいトリアよく考えてみろ? 役人や衛兵だって必死になってるような事件だぞ? 流石に俺一人でそう簡単に解決できるわけないだろう」


「や、それはそうだけど! じゃあなんで一瞬『ニヤリ』みたいな顔したの!?」


「それはまぁなんつーか……ノリで」


「ノリで!?」


 ほら、おっさんお茶目なとこあるしね。



「……イルヴィス、無駄な期待をさせるんじゃないまったく……」


「お、クヨウ、エテリナも。二人ともどうだ? 調子は悪くなさそうにみえるが……」


「にゃふふ~、まぁぼちぼちって感じかなー?」


 向こうから歩いてくるクヨウとエテリナ。

 トリアたち勇者候補組は、数日前から会場内に設けられた宿泊施設で寝泊まりしていたからな。第一次試験が始まる前に激励に来たってワケだ。


「しかし今さらではあるのだが、エテリナも勇者検定にエントリーするとはな。普段はあまりこういったことに興味が無さそうなものだが……」


「にゃふー? だってもしウチが勇者サマになったとしてー? みーんなに尊敬されてる裏で、オジサンにだけは惨めに襲われるっていうのも興奮するかなーって。ね、オジサン?」


 ……それで俺がうんって言うと思うのお前?

 どうせ否定してもアレなんだ。黙っといてやろう。


「な!? おいこらイルヴィス! 否定をしないということは貴様……!」


「まったく! おっちゃんはずーっとえっちなんだから!! えっち! けだもの! おんなのてきー!」


 えぇ……? 黙ってたら黙ってたでこれだよ……。

 というかフーもそうだったんだけど、なんでおっさんそっち方面の信用べらぼうに薄いの?

 おかしくない?


「そ、そういうクヨウは、ど、どうしてエントリーしたんだ……?」


「私か? 私はそうだな……自身の道を極めるため、とでも言ったところか」


「ボクはもちろん、可愛いボクが勇者になることで、みんなに喜んでもらってちやほやしてもらうためだよ!」


「……お前のそれはもうみんな知ってるっつの」


 ぶれん奴め。


「ふふふ……。で、でもみんなすごいな勇者候補なんて……」


「はい、尊敬しちゃいます!」


「何言ってんだよ。ネルネとハクも頑張ってるからな。次の五年後はお前たちの番だぞきっと?」


「そそそ、そんな……、わ、わたしが勇者なんてとても……でも……」


「たくさん……たくさん頑張ったら、ハクも勇者様になれますか? そしたら、おじさまも嬉しいですか?」


「あぁ、もちろんな」


 ハクの頭を撫でながら答えてやる。

 きっとそうなる日が来る。だから――。



「……さ、そろそろ準備して来いよ。ネルネとハクも、三人のサポートをしてやってくれ」


「え? おっちゃんは来ないの?」


「俺はそっち行けねぇんだよ、なんせ相変わらず国家反逆者(仮)状態だからな」


 流石にこの状態の俺を、参加者控えの方へ入れてはくれんだろう。

 ……実際向こうのほうで、警備役のヤツがちらちらこっちを見てるしな。


「むぅ……せっかくボクたちの晴れ舞台なのにー」


「よーしよし、ほらそんなむくれた顔すんなって。ちゃんと客席から見ててやるからよ」


「ぜったいだよ? ぜったいだからね!」




 参加者控えの方へ向かう五人の背中を、見えなくなるまで見送ってやる。

 ……頑張れよ? こう見えて、結構本気で応援してるんだぜ?


「……悪いな、試合見てやれなくてよ」


 一人でそう呟きながら、俺は会場を後にした。

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