第25話 それで文句はないんだろう?
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「他にも首輪をつけられてるヤツがいる……?」
「ああ、間違いない」
首輪を破壊した後、俺の手より先にスライムの治療が終わったクヨウが、そんな話を口にし始めた。
「私たちは首輪の効果で、ヤツからそう遠くへ離れられないからな。定期的に、予定などの共有を目的として呼び出されるのだ」
首輪の元になった、隷属の首輪。
あれも確か行動範囲が、直径で街ひとつ分ぐらいに限定されるんだったか?
「じゃあ顔とかは分かってるってこと?」
「いや……破壊防止魔法の効果でな、協力して反乱を起こさないよう一種の幻覚魔法がかかってしまう。おかげで顔を合わせる度に別人に見えたよ」
なるほどな。
慎重というべきか狡猾というべきか。
「私がこれを着けられたのは半年前なのだが……よほど気分が良かったのか、その時ヤツが迂闊にこぼしたのだ」
『嘘だと思うか? だが最初の一人はもう半年ほどで私の言いなりになる。その時に分かるだろうさ、この話が本当かどうかがね?』
「……とな」
「つまり、最初の首輪が本起動を始めるのは時間の問題ってワケか……」
「あわわわわわ……! お、おっちゃん、い、急がないと……!!」
「落ち着けっての。……そりゃあ、俺だって何とかしてやりたいとは思うぞ? しかし助けるのを前提としても、現状いろいろと問題がある。それを何とかせんことにはなぁ……」
「問題、ですか?」
ハクが小さく首をかしげる。
「そうだな……まずわかりやすいのは、『全部で首輪が何本あるのか』ってことだ。現在使用されていないものも含めてな」
「えっと、まだ使わずに持ってる首輪があるかもしれないってコト?」
「にゃふふ、トリニャーのそれも確かにそうだけどー、ちょっとおしいかなー? ……つまり『首輪をどうやって手に入れているか』ってことだよねーオジサン?」
「あぁそうだ。誰か別の人物から仕入れているにせよ、自分の手で制作しているにせよ、その手段を明らかにする必要がある。でないと……」
「ま、また被害者が増えるってことか……」
特に『首輪は破壊できたけどケインは取り逃がした』ってな状況になった時がまずい。二度目の失敗は避けるよう、より慎重になるだろうからな。
「っつーわけで、現状使用されている首輪は全てきっちり破壊しつつ、それ以上の被害者も完全に断つってのが理想なんだが……一番の問題はそれを俺達だけでやる必要があるってことだ」
「あそっか。役人さんたちにも手が伸びてるかもって言ってたもんね?」
そういうことだ。
どこまで手が伸びているかわからん現状、迂闊に手数は増やせない。
「それがホントに問題でなぁ。自分からボロでも出してくれりゃ楽なんだが……」
「……ねーオジサン? 朝の壁ドンってー、ハクちーの恋愛小説を参考にしたんだったよね?」
「え? いやまぁそうだが……急にどうした?」
「にゃふふ、それじゃあ……こういうのはどう……?」
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「馬鹿な……、ら、ランクA+の魔物だっているんだぞ……!?」
目の前の光景が信じられないといった様子で、ケインのヤツが冷汗をかく。
ラミアエンプレス、グリフォン、ワーガーワーグ……。
確かに脅威的だが、こっちには勇者候補のエテリナと、なんやかんやで実力はあるトリアに、ダメ押しでネルネのスライムまである。
……というか、はっきり言って、アイツらの強さはちょっと破格だからなぁ。
おまけにこっちにはもう一人――。
「……私の恩恵は『脱兎のごとく!』。逃げ足が極限にまで速くなるだけだという、なんとも後ろ向きなものだ。……それで一度は、自身に見切りをつけようとしたものだがな」
自分より大きな魔物を前にしても、クヨウは微塵も怯まない。
「イルヴィス。あの酒場での再会、本当は最後にお前の顔が見たいと思って会いに行ったのだ。ある程度の自由が許されている内にと……。それなのに、ふふっ、お前に会うと、何故かいつもこうなってしまうな?」
なんだよ、くすぐったくなるような言い方しやがって。
「――見ていてくれ、お前に出会ったからこそ生み出せた私のスキル……! 相手の攻撃から前へと逃げ、我が剣術とその神速をもって斬撃と成す……!」
「これが私の――『雪花の太刀』……!」
キンッという乾いた音が響いたかと思うと、気付けばクヨウの前にいた魔物は真っ二つになっていた。
これが俺のおかげだと? 何言ってんだろうねまったく。
……まぎれもなく、お前の努力の賜物だろ。
さて、他の奴らもあらかた片付いたみたいだ。残すところは……。
「……っ!! ひ、卑怯だぞ貴様……!! 恥ずかしくないのか! 実力が無いからと女にばかり戦わせて……じ、自分は高みの見物など……!」
コイツだけってワケなんだが……。
えぇ……? 魔物までけしかけておいてそういうこと言っちゃう?
どうかと思うよ実際。
「お、男ならば正々堂々と戦え!! それで私が負けるようなことがあれば、こちらとしても大人しく引き下がろうではないか……!」
「いや、つーかお前『殺すぅ!! 皆殺しだぁ!!』とかなんとか言ってたくせに……。今さらそういうの、よく恥ずかしくないね?」
「だ、黙れ!! 私が……私がこんな……!」
というか、引き下がるとか都合の良いことさせるつもりはないんだが……。
「まぁいいさ。……やってやるよ一対一、それで文句はないんだろう?」
「ふ、ふふふ、減らず口を……。貴様も知っていよう? 私が最上級の冒険者であることをな? いつまでそんな口が聞けるか見ものだよ」
知らんっつの、お前が思ってるほど皆がお前に興味あるワケじゃねぇからな?
……というかコイツ、少し勝ち目が見えてきたら露骨にコレかよ。正直おっさんでもひくレベルだね。
「さぁゆくぞ!! 我が剣技に酔いしれながら後悔するがいい……! 『エターナル――』」
バキンっと鈍い音とともに、ケインの持つ剣が根元から砕け折れる。
……我ながら、良いナイフを買ったもんだ。
「…………へ? あ、あれ……?」
「……先に言っとくけどな、俺こう見えて結構怒ってるワケよ。……だからこれは正義の鉄槌を気取るわけでも、クヨウたちの代わりだなんて言うつもりでもない」
俺はナイフを鞘にしまい拳を握りしめる。そして――。
「――俺が殴りたいから殴る。ただ、それだけだ……!!!!」
「……ひっ!? なんで待っ……ごぶぅう!!?」
何かを口にしようとしていたようだが知ったことか。
鬱積していた感情と、渾身の力を込めて、ケインの顔面に拳を叩きつける。
ケインのヤツはそのままのたうち回るように転がっていき、やがてググッと体を起こした。
「は、はは……嘘だ……。僕が……この僕がこんな……。――――うわぁぁああぁっぁああ!! せっかく! せっかくここまで頑張ったのにぃ!!」
おいおい口調代わってんぞ。
……いや、むしろそっちがコイツのシラフか。
「僕は! 僕はケイン・マクラードだぞ!? マクラード家の跡取りで、勇者候補の……!! なのになんで……なんでこんな……!!? おかしいだろなんでみんな僕の言うとおりにしないんだよおぉおおぉ!!!!!」
……コイツはここまでなっても、自分が間違ってたとは思わねぇんだな。
家柄や才能。ある意味では、そういった恵まれた環境の被害者なのかもしれん。
――だが、それとこれとは話が別だ。
「俺は勇者候補でも何でもないただのおっさんだけどな。……今は心底、お前みたいにならなくてよかったと思うよ、いろいろと。……ほら立てよ」
ケインの襟元をつかみ、無理やり立たせてやる。
もちろん、ただ起こしてやったわけじゃあない。
「……次は本気でいくぞ。首から上が惜しけりゃ、せいぜい頑張るといい……!!」
「ひぃ……!? や、やめっ……!!」
俺は再び拳を大きく振りかぶる。
そして――。
「…………なんてな、冗談だよ冗談。……聞こえてねぇか」
すんでのところで拳を止めてやった。
ま、白目をむいて失神してるヤツを相手に拳を振るうほど、……俺は落ちぶれたくはないんでね?
「……いやー! お手柄やったなイルヴィス!!」
いつもの別室で、フーにバンバンと背中をたたかれる。
どうやらこの件に関しては、冒険者ギルドでもいろいろと動きがあったそうだ。
……あれから数日、ケインのヤツは正式に処罰が決定した。
もちろん、勇者候補への選定も取り消しだそうだ。
さらにあの後、ハクがじいやさんとやらに事の顛末を話したところ、本当にシャグヤス家まで動いてくれたらしい。
体裁なんかを優先したのかあるいは……。ま、実際のところは俺にもわからん。
だがこれでもう、あの首輪の被害者が出ることも無いだろう。
「けどあれやなぁ、ほれ、これでアンタもわかったやろ? ウチの言った通り、勇者候補だの勇者検定だのがいかにあてにならんか……」
「いや、流石に今回のは稀なケースだろ……」
ひとくくりにしてやるのは、真面目にやってる他のヤツらが気の毒だって話だ。
つーかコイツはギルド側の人間だってのに相変わらずだなホント……。
――――しかしまぁ、『勇者』、か。
「ん? どないしたんイルヴィス?」
「……なぁフー? 少し頼みたいことがあるんだが――」
「ウルトラスーパースペシャルアルティメットゴッドドラゴン……!? それはまた、随分と大層な……」
報告の後に家に帰ってくると、相変わらず俺の部屋は溜まり場になっていた。
……いやそれはもういいんだけどさぁ。
このクソ狭い部屋に女の子が五人とおっさんが一人……。
ねぇこれホントに問題にならない?
変な勘繰りをされてお縄にとか、割とシャレになってないよ?
「えと、ハクはあんまりそういうのは分からないんですけど……、やっぱりすごい魔物さんなんですか?」
「あぁ、私の故郷ミヤビでは『導きの龍』なんて呼ばれていてな……」
え、ウルトラ以下略ドラゴンそんなかっけー二つ名ついてんの?
いいなぁ。
「……なぁイルヴィス、改めて礼を言う。私がここにこうしていられるのも、あの彼女たちが自由になれたのも……お前のおかげだ」
「よせってくすぐったい」
結局、首輪は一本も本起動していなかった。
ギリギリだったようだが、間に合ってよかったよ本当に。
「しかし……ふふっ、引退などと言っていたがそうはいかなくなってしまったな? ……『勇者と認められるような大きな功績を残すこと』。流石にいきなり勇者とまでは行かずとも、勇者候補には選定されるのではないか?」
「あそっかぁ! うひひ、じゃあおっちゃんもこれで――」
「あーそれなんだがな……。俺はあの場にいなかったことになってるんだわ」
「「「…………え?」」」
いやまぁあの後いろいろあってな。
もちろん首輪を壊した彼女達にも、俺のことはなるべく口外しないように頼んでおいた。
「い、イルヴィス!? お前……!!」
「まぁまてクヨウ。……よーく考えてみろ? 街ではろくでもない噂が立っている俺が、正体を隠し、人知れず人を救う……どうだ? 格好いいと思わんか?」
「……!! そ、それは確かに、か、かっこいいかもしれないが……」
「それに俺は礼を言われたり、褒められたりするためにやったワケじゃない。ただお前たちを護ってやりたいと、そう思っただけにすぎん。だから……」
クヨウの目をまっすぐに見つめてやる。
「イルヴィス……! お前がそういうのなら、私は……」
「あ! クヨウまた流されてる! ダメだよほらしっかりして! 確かにボクもそれちょっとカッコイイかなって思うけど!!」
「は!? い、いかん……どうしてもイルヴィスが相手だと、その……」
っち、トリアのヤツめ余計なことを……もう少しでうやむやにできたというのに。しかし――。
「イルヴィス! やはり私と勝負しろ!! 引退などさせるものか……私にこの生き方をさせたのはお前なのだからな! 私が勝ったら今からでも……!」
「いやもう今回の事件の書類なんかも受理されちまった後だろうし諦めろって。今からなんやかんやと言ったところで――」
……護ってやりたい、か。あれほど弱かった俺が、随分と己惚れているもんだ。
だがまぁ、やはり今の俺にとっちゃ――。
「勇者になるには遅すぎる」




