第24話 全部壊しちゃった
「先程から言っているだろう、何の事だかわからんと。……これ以上はこちらとしても、強硬手段に出ざるを得ないのだがね?」
ふう、とため息をつきながら、あくまでシラを切り続けるケイン・マクラード。
コイツは高を括っているのだ。俺のような奴が騒いだところで、揉み消すことなんて容易だとな。だが――。
「そうかい? ……なぁハク? ハクは俺のモノだもんな? 俺が頼めばなんだってしてくれるよな?」
空いている方の腕で、ハクの頭を撫でてやる。
「はい……! ハクは……ハクーニャ・シャグヤスはおじさまのモノです……! おじさまのためなら……おじさまが望むならなんだってします。ですから、おじさまの好きなようにご命令してください。それがハクの、一番の喜びです……!」
「な……っ!? ……馬鹿な、シャグヤスだと……!?」
よーしいい演技だ。おかげでうまく釣れたみたいだぞ。
ただちょっと練習よりセリフが過剰だったような……まぁいいか。
しかし演技とはいえ、今のおっさんは相当のクズだな……。
……あれ? むしろ演技とはいえ小さな子にこんなこと言わせてる時点で……いや、考えるのはよそう。
大富豪であるシャグヤス家は、ここらじゃ相当に有名だ。当然そうなれば、その影響力についても言わずもがなだろう。
おいそれと無視はできないはずだ。ここでたたみかける……!
「……なぁケイン? 重ねて言うが、俺はお前を害するためにわざわざここまで来たわけじゃあない。……むしろ逆だと言ってもいい」
「……逆?」
「あぁ、俺の評判は聞いたんだろ? そんなヤツがまともな方法で、コイツらをここまで自由にできると思うか?」
「……」
「……同じ穴のムジナってワケだよ、だからこそこれ以上の余計なトラブルは避けたいのさ。……コイツみたいにな?」
俺が再びクヨウを抱き寄せると、まるで応えるかの身体を密着させてくる。
恍惚とした表情も、とても演技には見えない。練習の賜物だね。
「……まったく、貴様もわからん奴だな。こちらには身に覚えがないというのに……」
少し考えた様子を見せた後、ケインが再び口を開く。
「だが……間接的とはいえシャグヤス家との繋がりができるのは悪くない。……入りたまえ、食事ぐらいは振舞おう」
広い食堂に豪華な装飾品。
いやーこんなん物語の中でしか見たことないぞ。
「さぁかけてくれたまえ。あぁマナーだのなんだのは気にしなくていい、楽にしてくれてかまわないぞ。……それとクヨウ、貴様も今日はそっちでいい」
人数分用意された食器の前に、俺達を促すケイン。
不遜な様子を崩さないままではあるが……。
「おいどうしたよ? 外とは随分と態度が違うじゃねぇか」
「言ってくれるな、どこに誰の目があるか分かったものではないのでな。……貴様もそれが分かっているからこそ、あの場で具体的な話をしなかったのだろう?」
まぁそういうことだ。
正確には、そう思わせることが目的だったんだがな。
「そんで……これで全員か?」
「あぁ、貴様の言う余計なトラブルとやらは、これで回避できそうかな?」
そう口にするケインの後ろには、七人の少女達の姿があった。
見ていて良い気分のする光景じゃないね。むしろ真逆といってもいい。
――何せ少女たちの首には、あの忌々しい首輪がつけられているんだからな。
コイツは俺が、何らかの手段でトリアたちを手籠めにしたと思っている。
そんでもってそれが今回、たまたま『首輪』をつけたクヨウに向いたんだとな。
……いやまぁ実際にはそんな事実はないんだが、この先も同じことが起きないとは限らない、なんて思っているだろう。
余計なトラブルってのはつまりそう言うことだ。
「……おい貴様、何をしている。客の前で私に恥をかかせるつもりか?」
「す、すみません……。少し体調がすぐれなくて……」
そんなことを考えていると、どうやら少女の一人がふらついてしまったようだ。
確かにあまり顔色が良くない。
「はぁ、口を開けば言い訳か……。まったく、これだから女という生き物は困る。弱さを振りかざせば安寧を享受できると思っているのだからな」
……え、何言ってんのコイツ?
明らかに顔色悪いだろ。ひょっとして両目だけ鳥さんなのかな?
「しかし、たとえ本当に体調が優れずとも、私が同じ立場なら主人の前ではそれを隠すというものだが……まぁそういった美徳も女にはわからんか。……貴様も、そう思うだろう?」
「……あぁそうだな」
嘘でーす。んなこと全然思いませーん。
仮にそうだとしてもだ、そういうのは自分からそうしたいと思う相手や状況があってこそ初めて美徳になるんだよ。
そうでなけりゃただの押し付けだね。
「こいつらもこいつらだ。この私が声をかけてやったというのに、不躾にもそれを断ったのだぞ? たった一度の過ちとはいえ、相応の償いをもって身の程を知る必要がある」
クヨウも似たようなことを言ってたが……その代償が一生奴隷生活ってか。
……高慢だね、今さら言うことでもないけどよ。
「まったく、あの場で素直に私の言葉を受け入れていれば良かったものを……。まぁ貴様らにとっては、むしろ今の方が幸せかもしれんがな?」
いやコイツずっとしゃべるね?
……けどそろそろやめとけよ? 良くないぞそういうの。
「媚びることしか能がないくせに、それすらロクににできなかった貴様らが、それでも私に仕えることができているのだ」
……やめろって。
「まぁせいぜい『所有物』として、後悔を忘れず生きていくのがお似合いだ……はははっ!」
……コイツ――――っ!!!
「――ねぇオジサン? 今の話聞いてたらー、ウチもなんだかオジサンにご奉仕したくなってきちゃったなー?」
思わず席を立とうとした時、エテリナがしなだれかかるように体を預けてきた。
……口調は軽いが、見つめてくる目は真剣そのものだ。
いや、そうだな落ち着け……ここで感情的に動いたら水の泡だ。
「ふぅ、羨ましいよイルヴィス。君の所有物はきっちりとわきまえているようで」
「……あぁ、そりゃどうも」
食事の後、ケインは俺達に部屋を用意していた。
今日は泊まっていくといい、とのことだ。ま、そうなるかもしれんとは思っていたがな。
「――……っつはぁああぁぁあ~……。……悪いエテリナ、助かった」
「にゃふふ、どーいたしましてー」
ここ最近で一番深いため息をついたんじゃねぇかなこれ。
……いやもうホントアイツなんなの? 自尊心の化け物だよ? よく外で隠し通せてるな……。
「よーしよし、おっちゃんよくガマンしたねー? えらいえらい」
トリアのヤツがあやすように頭を撫でてくる。
子ども扱いするんじゃないよ、なんて言いたいところだが……。
「お前らこそ……特にトリア、良くあの状況で我慢できたな」
「ふふん、まぁね? ……ボクだって正直、あんな言い方は無いって思うよ? けどあそこで動いて、本当の意味であの人たちを助けられなくなっちゃったら意味ないもん。それに……」
「……? それに?」
「……おっちゃんがすっごく怒ってて、すっごくガマンしてるの、わかっちゃったしね?」
俺の頭に手を添えたまま、呟くように口にする。
「そうだな。……恐らくイルヴィス、向こうの彼女たちもそれに気づいていたぞ」
「え!?」
「あ、ハクもそう思います! あのケインさんって人は、全然気づいてなかったみたいですけど……」
おいおい、ハクにまで……おっさんどんだけわかりやすいんだよ。
……いや、これはほらあれだ、よく聞く女の鋭さってやつだな、うん。
「そ、それでもみんな何も言わなかったのは……、き、きっとわたしたちも巻き込んでしまうと思ったからじゃないかな……」
…………あぁクソ。
なんだよ、あの場で一番ガキだったのは俺じゃねぇか。二番目はあのボンボンだな。
情けない話だよホント。やっぱりここぞの肝の座り方ってのは、女には敵わんのかもしれんね。
だが男にもな、男の意地ってもんがある。
っつーわけで……。
「さて……いっちょソイツを見せつけに行こうかね……!」
――翌朝。
「ここは……」
「首輪を作るための実験場の一つだ。ここには少し変わったペットがいてな、是非貴様にも紹介しておこうと思ったのだ」
俺はケインに連れられて、地下室のような広い空間に足を踏み入れていた。
……不穏だね、どうにも。
「だがその前に一つ……。単刀直入にいこう、彼女たちを従えているその方法、それを私に譲りたまえ」
そう口にするケインの後ろから、数体の魔物が現れる。
……その首には、例の首輪。
「……おいおい、魔物の意図的な使役は違法行為だぜ?」
「はは、今さら君がそれを言うのか? 君のやり方も、どうせ似たようなものだろう? ……この首輪は試作品だが、それでも魔物を操ることぐらいはできる」
いやそれがおっさん潔白なんすよ。
「それと……どうやら君の小さなお姫様には、ご実家との確執があるようじゃないか? シャグヤスの後ろ盾が無い以上、本来なら君を始末してしまった方が手間が省けるのだが……これはまぁ慈悲というやつさ」
一晩でそこまで調べたか。……俺達をここに泊めたのはそれが理由ってワケだ。
きちんと裏が取れるまで逃がさないようにってな。
「大人しく条件をのんでくれるなら命までは奪わない。それどころか、ある程度の報酬も約束しよう」
「……どうにも腑に落ちねぇな。あの首輪があれば、俺みたいなヤツに交渉する必要なんてないはずだろ?」
「ああ、簡単な話だよ。首輪のこれ以上の増産は、正直現実的ではないと言うだけのことだ」
「ほぉ、……そんな話を信じろってか?」
「まぁ聞きたまえ。完成品の首輪の作成には『星9』相当の魔石が必要でね。……分かるだろう? こればかりは金があればどうという話でもなくなってくる。私とて、とある理由で偶然手にすることができたのだからな」
ほ、星9……。
どうりで壊すのも大変だったわけだ。
だがこれで合点がいった。星9の魔石なんてものは、まず流通する機会すらほとんど無いからな。
つまり――。
「――つまり、これで本当に全員だったってワケだな……!」
「……え?」
俺がそう口にした瞬間、にわかに入口の方が騒がしくなる。
原因はもちろん……。
「な……!? 貴様らなぜここに……!」
「ま、『マーカースライム』……。こ、こんなこともあるだろうとな、お、おっちゃんに持たせておいたんだ……」
まぁそういうことだ。
ちなみにそれはマナを少し込めてやると消滅する。それが突入の合図だったってワケだ。
「警備してた人たちはー……にゃふふ、なんだかおねんねしちゃったよー? ……ちょーっとみんなでえいえいってやっただけなんだけどねー?」
エテリナが指をクイクイしながらちらりと後ろを見る。
そこにいるのは、ケインに首輪をつけられた少女たち。みんなという言葉には、もちろん彼女たちも含まれている。
「き、貴様ら……! 後悔するぞ、首輪が本起動したときに、人と同じ扱いをしてもらえると思うなよ……!」
「む? なんだイルヴィス、まだ話してなかったのか?」
「あぁ忘れてたわ。わーるいケイン、その首輪のことなんだが……」
「全部壊しちゃった。すまんねホント」
「……………………は?」
ぽかんと呆けているケインを尻目に、全員が首をさらけ出す。
どうしても痕は残っちまったが……そこには一人たりとも首輪らしきものをつけているヤツはいなかった。
「……え、な……ば、馬鹿な……!? あれを、あれを壊せるようなヤツなんて……!」
それがいるんだなぁココに。
いや相変わらずきつかったね、しかも一晩で7人分。おかげでおっさんの手はエライことになってたんだぜ?……ま、そんなわけで。
「……終わりだな。シャグヤスの後ろ盾がなくても、禁止指定マジックアイテムの使用、どころか制作に、魔物の違法使役。これだけの証拠と彼女たちの証言があれば……」
「……ふ、……ふ、……ふざけるなぁぁああぁあぁあっっっ!!!!!」
ケインが叫んで腕を振りかざした瞬間、地下の空間が結界のようなものに包まれていく。
まずい……! 確か二人ほど冒険者じゃない奴らが……!
「――っ!? 危ない!」
振り向いた瞬間、まさにその二人を押し出すようにしてハクが出口へと飛び出した。
外にはもう警備兵もほとんどいないはずだ、これで彼女たちが戦闘に巻き込まれることはないだろう。
「ハク!!」
「おじさま! お二人はハクが外へ! それと……信じていますから!!」
……ああ、任せとけ!!
こんな胸糞悪い独りよがりなんぞ、きっちりここで終わらせてやるさ!
「殺す!! 貴様らみんな……!! ここで皆殺しにしてやるぅううぅ!!!!」
「そうかい、じゃあやってみるといい……やれるもんならな!!」




