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第23話 時間はあるかい?

「外せそうかエテリナ?」


 なんとか目を覚ましたクヨウの首輪を、再びエテリナに調べてもらう。


 ……いやこれが結構大変だった。

 なんせ目を覚ましたと思ったら、俺の顔を見てすぐまた気絶しそうになるもんだからなぁ。


 とりあえず、これで首輪を外せる方法なんかが見つかりゃ良いんだが……。


「うにゃあ……これ多分そういう風に作られてないんだよねー。解除方法が無いって言うの? 魔法と呪法を織り込んで、多分、持ち主本人にもはずせないんじゃないかなー?」


 一度装着したら最後、たとえどんなことがあろうとはずれないってか。

 ……ろくでもない管理能力だよホント。


「手段としては壊すしかないと思うんだけど……破壊防止用の魔法もいくつか重ねがけされてるし、それも難しいかもー? …………少なくとも、『最上級冒険者程度』の人じゃあね?」


「……っ。そう、か……」


 落胆したように呟くクヨウ。その後ろでエテリナがにゃふふと笑いながらこちらを見つめてくる。

 ……わかってるよ、ま、こういう時のために力をつけていたんだからな。



「んで? 俺はどうすりゃいいんだ?」


「……イルヴィス? 聞いていなかったのか? これはたとえ最上級でも――」


「一番効果的なのはー、力任せに無理やり引きちぎっちゃうことかなぁ? それでもクーよんは結構苦しいだろうけど、他の方法よりは安全だと思うよ? ……むしろこの方法で一番大変なのは多分――」


「俺の方ってワケか。ま、いいさ、それでなんとかなるってんならやってやるよ。……ネルネ、頼めるか?」


「う、うん、わかった……! 『スライムマン』……!」


 ネルネの袖から大量のスライムが触れ出し俺の体を包み込んでいく。

 しかし相変わらずこの感触はどうにもこうにも……。


「えぇ!? ……お、おいイルヴィス!? いったい何を!? というかそれ大丈夫なのか!?」


「いや、大丈夫か大丈夫じゃないかって言われたら難しいとこなんだが……」


 なんか毒あるみたいだしなコレ。

 俺じゃなかったら死んでるらしいぞ?


「はぁぁぁ……! あ、相変わらず素敵だぞおっちゃん……」


 ……そんでお前も相変わらずだな。




 首輪を握った掌からじゅうじゅうと煙が立ち、焼きただれるような熱と痛みが俺を襲う。……エテリナが言っていた、破壊防止用の仕掛けってのはこのことか。

 だが――!


「ぬうぅぅぅっ……!!!!」


 こちとら覚悟はしていたんだ……! ここで止めちまうんなら最初からやってないって話なんだよ……!

 そう自分を奮い立たせながら、マナを総動員して歯を食いしばる。そして――。


 ――ばぎんっ!!


 ……と、大きな音を立てて首輪が砕け散った。

 瞬間、思わずその場で膝をつく。


 今回はホント、流石にきつかった……。これスライムマン無かったらもっとヤバかったな……。


「お、おっちゃん……!? ひ、ヒールスライムを……!」


「いや、俺はなんとか大丈夫だ。先にクヨウの方をたのむ」


 まぁホントはハゲるんじゃねぇのってぐらいの痛みには見舞われてるんだが……それを悟られないよう、なるべく冷静にふるまっておく。

 クヨウの首にもここまでじゃないにしろ、仕掛けの影響があったはずだからな。


「……ごほっ!! っはぁ……、はぁ……。……い、イルヴィ……うひゃあ!!」


 首に飛びついたヒールスライムに驚き、思わず声をあげる様子のクヨウ。


 はっはっは、どうだそれ結構な感触だろう? ヒールスライムは何というか、他のスライムとは一味違うからな!

 などと、スライムソムリエみたいなことを考えちゃいるが……。


「ほ、ほら……、つ、次はおっちゃんの番だぞ……?」


 ……まぁ俺も今から同じ目に合うんだよなぁ。

 つらい。




「はい、おっちゃんあーん」


「はーい、おじさま、あーんしてくださいね?」


「……いやいいって自分で食うから」


 夕食の時間、トリアとハクが両サイドからフォークを差し出してくる。

 というかせめて二人同時にはおかしいだろ。

 おっさんの口は一つしかないんだよ? 知ってる?


 俺は自分のフォークに手を伸ばそうとするが……。


「だ、だめだぞ……? お、おっちゃんの手、ヒールスライムでもちゃんと治るまではもう少し時間がかかるからな……。それまでは、む、無理は禁物だ……」


 なんてわけで、ネルネにとりあげられてしまった。


「済まないイルヴィス……。随分と、その……」


「気にすんなって。……こっちこそ悪かったな。首の痕、やっぱり気になるか?」


「え? あっ、違うぞこれは……! ……なんというか不思議な感じなのだ。半年近く着けたままでいたからな……」


 首をさすりながらクヨウが答える。

 そこにはもう首輪は無いが、破壊防止魔法の影響で痕が残ってしまったようだ。


「そ、それにこの痕も、お前が私のためにやってくれた証だと思えばその……そんなに悪くないというか、むしろ嬉しいというか……。――そ、そんなことよりイルヴィス! お前あの力……もしかして『スーパー大器晩成』が……!」


「え? あぁ、まぁそう言うことだ」


 なんだ? 前半ごにょごにょ言っててよく聞こえんかったんだが……。

 まぁそれほど気に病んでないようで少し安心したよ。


「そうか……! よかった、ついに報われたのだな……! ……いやちょっと待て! だったらなぜ引退などと……!」


「そうだよおっちゃん! こんなに強いんなら引退する必要なんてないでしょ! あとほらあーん! あーんってばあーん!!」


 うわ、コイツちゃっかり便乗してきやがった!

 あと、あーんをそんな勢い任せにやるんじゃないよ、そういうモンじゃないからねそれ。


 まぁいい、とりあえずは……。


「クヨウ聞いてくれ、確かにお前がそう思うのも無理はない。……だが、これには深い理由があるんだ。……お前なら、わかってくれるよな?」


「もーおっちゃん、そんなんで納得するわけ……」


「そ、そうなのか、お前がそう言うなら私は……」


「あれ!?」


 ふはは、クヨウのチョロさを甘く見たな?

 ……しかし今さらだが、コイツこんなにチョロい奴だったか? 酒場でごろつきAを相手にしてる時だって、もっとシビアな印象だったが……。

 

「お、おっちゃん……? なんというか今のは……き、寄生先の女の人を言いくるめるヒモみたいな感じになってたぞ……?」


 え!?




「……にゃーそれでー、結局クーよんにこの首輪をつけたのは誰だったのー? ウチの予想ではー、結構チカラを持ってる人なのかなーって思うんだけどー?」


「そうなの?」


「にゃふふ、えっとねー。首輪にかかってた口外防止の魔法、調べてみたけどそこまで完璧なものじゃなかったんだよねー。頑張れば穴をつけるって言うかー? ……あ! 穴をつくっていってもー、えっちぃ意味じゃないよオジサン?」


「……? なんで穴をつくと、その……え、えっちな意味になるんですか……?」


「にゃふふ、それはねー?」


「やめんか」

 

 コイツは隙あらばハクをそっちの道に引きずり込もうとしやがるな……。

 他の三人も真っ赤になってるじゃねぇか。ほら、忘れろ忘れろ。


 『持ち主の暴露の禁止』。

 『自分が首輪をしていることの暴露の禁止』。

 『自傷及び自殺の禁止』……これはまぁ、何かあったと勘繰られちまわないようにってところだろう。


 エテリナの話によれば、口外防止の効果はその三つだそうだ。


 それに準ずる行為……例えば持ち主の名前を口にしたり、筆談で助けを求めたりしようとすると、その行動にロックがかかってしまうらしい。


 だが確かに隙が無いと言えば嘘になる。そうでなくとも、偶然首輪を目にするようなやつがいてもおかしくないからな。

 つまり……。


「その状態で、紛いモンとはいえ禁止指定のマジックアイテムを使用していても、大事にはなってないっつーことは……」


 揉み消されたか、あるいは……。


「……あぁ、その通りだ。現に私もいろいろと手段を講じたのだが、全て徒労に終わってしまった。恐らくだが、役人や衛兵にもヤツの手は伸びているのだと思う」


 そいつはまた厄介だね。

 どんだけの力を持ってりゃ、そんなことができるんだか。


「私に首輪をつけた男……そいつの名は――」






「――……イルヴィス・スコード。まさか貴様の方から出向いてくるとはな」


 数日後、俺達はとある人物(・・・・・)の別荘とやらを訪ねていた。

 いやぁ権力者の息子ってのは羨ましいね。聞いた話によると、こんな場所が他にもいくつかあるってんだからなぁ。


 本来なら、俺みたいな一般人なんぞ門前払いなんだろうが……。

 ま、見逃せねぇわな、この状況(・・・・)じゃ?


「私に何か用か? ……よもや自らの非を認め、私の手によって裁かれたいというわけでもあるまい」


「なぁにちょっとな。……こいつ(・・・)のことについて、すこし話でも聞かせてもらおうかなー、なんて思ってよ?」


 俺はクヨウの腰に手を回すと、グイッと強引に抱き寄せる。


「い、イルヴィス……、やめてくれ、こんなところで……」


「いいから黙ってろって。お前は俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ。な?」


「ん……」


「よーしいい子だ。あとでちゃんとご褒美をやるからな?」


 引き寄せる腕に、さらに力を込めてやる。するとクヨウは頬を薄く染め、目をそらして小さく俯きつつも、素直に俺の言葉に従った。



 ………………いやなんだこれ。


 自分でやっといてなんなんだけど、何この……何?


 俺はエテリナにやったカベドンとやらと同じように、ハクの恋愛小説を参考に演技をしている。もちろん、クヨウも同様だ。

 ……しかしコイツ演技上手いな。


 俺はと言えば、この後(・・・)の展開で必要なことだとわかっちゃいるんだが……、なんというかこう、おっさんにはやっぱりいろいろとキツイもんがあるぞ……?


 だが、目の前の男にとっちゃ、簡単に無視できるような光景でもないだろう。

 ……なんせクヨウの首にはスカーフが巻かれておらず、『首輪』が丸見えになっている。


 エテリナが作ったダミーのものだが、さてどう出るか……。


「…………なんの話だ? ……すまんが、私には身に覚えが無いな」


「あーそういうのは良いって。……確かにクヨウは何もしゃべれないみたいだが、こっちにはこっちでいろいろと手段があんのさ。ほれ、例えばこのピンクいの……」


「にゃふふー。どーもー、勇者候補で魔学者のー? エテリナちゃんでーす!」


 エテリナがぺろりと舌を出しながら自己紹介をすると、そいつの表情が一瞬だけ変わった。

 こんな格好をしちゃいるが、エテリナはれっきとした勇者候補の一人だ。つまりその能力の優秀さはお墨付きってなワケで……。


 ……少しだけ、『もしかしたら』なんてことを思ったんだろうな。


 まぁ実際はもしかしたらどころか、首輪は壊してるし、話も聞いてるし、色々知ってるワケなんだが……。


 こちらのカードをすべて見せてしまうほど、俺も馬鹿じゃあない。

 心苦しいが、クヨウにダミーの首輪をつけてもらっているのもそのためだ。


「おっと勘違いすんなよ? 俺は別に糾弾しに来たわけでも、こいつをネタに強請(ゆす)りに来たわけでもない。……さっきも言ったが、ちょーっと話をしに来ただけだ」


 様子を見たところ、どうやら首輪が壊れたことには気づいていなさそうだな。

 そう思いながら、俺は改めてソイツに向き直る。



「っつーワケで……時間はあるかい? ――ケイン・マクラードさんよ?」

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