番外編 ワールズレコード007:クエスト
「ハクも一緒に、ですか?」
「そうだよ! えっとねー、まずおっちゃんがナイフを……」
エテリナが部屋を去った後、ハクにクエストの話をするトリア。
……俺としては、完全に納得したわけでもないんだが、まぁ何かあった時のために夜な夜なレベリングにも励んでいたんだ。
もともと、ハクの実戦訓練のためでもあったしな。
……しかしまぁ、またフーのヤツに小言を言われるよなぁ。
フーはハーフリングだから、アイツに説教されてるおっさんってのはなんかこう……絵面的にもヘコむものが――。
「おじさまおじさま!」
「っと、どうしたハク?」
トリアに説明を受けていたハク。なんだか随分鼻息が荒いというか……。
「トリアさんから聞きました! えっと、ハク、おじさまのために……身体を使っていっぱいお金を稼ぎますからね!」
うおーい! それホント駄目なヤツ!
その言い方ホント駄目なヤツだから!!
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ワールズレコード007:クエスト
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「ハクはまだ正式な冒険者じゃないからな。念のため、クエストについて少し説明しておくぞ。ちょっとばかり長ったらしい話になっちまうが……」
冒険者ギルドに登録すると、最初にそういった話の講習を受けることになっている。まぁその一部をかいつまんでって感じだ。
「えと、平気です! ハクはおじさまの話だったら何時間、いえ何十時間……ううん、何日だって聞いてられますから!」
「はは、そうか? けど流石に何日もしゃべってたら、俺の方がまいっちまうよ」
ハクの頭を撫でてやる。気の使えるいい子だよホント。
「……は、ハクのあれ、た、多分冗談とかじゃないと思うけど……」
「……だよねぇ? おっちゃんそのへん鈍いからなぁ」
「クエストってのはそうだな、一言で言っちまえば『仕事の代行』ってところか」
「代行、ですか?」
ハクが可愛らしく首をかしげる。
「ああ。例えば『フラモネの花』のクエスト、あれは『道中の安全の確保』という仕事を、ハクのかわりに俺達が請け負ったワケだな」
「あ、なるほどです!」
うんうん、飲み込みが早くて助かるね。
ひょっとしてトリアより――。
「む! おっちゃんまた今なんかいじわるなこと考えなかった!?」
早い。……コイツのこういう鋭さホントなんなの?
「でだ。なんで代行が必要かといえば……はっきり言っちまえば危険だからだな」
「危険……えと、魔物さんや、ダンジョンがってことですよね?」
「そういうことだ。普通の一般人は下手をすれば、ランク無の魔物にだって太刀打ちできないこともある」
冒険者を目指す奴らでさえ、最初のうちはランク無しの魔物を相手に、同期でパーティを組んだりして戦ったりするもんだ。
……実を言えば、脅威は魔物だけってワケでもないんだが……。その話はまぁ今じゃなくても良いだろう。
「で、でも、それってなんだか冒険者さんに危険な仕事を押し付けてるような……」
「そ、そんなことは無いぞ……。ぼ、冒険者はもともと魔物のいるダンジョンに潜って、そ、その成果を持ち帰ることを生業としているからな……」
「ネルネの言う通りだ。つまり冒険者は、そういった危険な仕事を依頼するのにはうってつけってワケだな。都合のいい話にも聞こえるが、おかげで生計を立てていける奴もいる」
……昔の俺のように。
「さて次だ。クエストには大きく分けて三つの種類があるんだが……はいトリア!」
「え!? えっと、『一般』『指名』『公募』の三つだよね? ……あってる?」
「……おめでとう正解だ。ピーマン地獄は回避できたようだな」
「やったーうえぇ!? ちょっと! そういうのやめてよ!」
冗談だよ冗談。
「まぁ聞いたことはあると思うが、『一般クエスト』ってのは依頼人が冒険者ギルドに申請を出したもので、引き受ける相手も決まってるわけじゃない」
「えと、じゃあハクがおじさまにお願いしたのは、『指名クエスト』になるってことですか?」
「そうだな。正確には、冒険者ギルドを通して直接個人、あるいはパーティを指名して依頼をするクエストのことをそう呼ぶんだ。ハクの時も、一度冒険者ギルドに立ち寄ったろ?」
「あ、はい! おぼえてます」
もちろんネルネの依頼を受けた際にも、その前後にはできちんと冒険者ギルドで手続きをした。報酬が発生している以上、そういったことを疎かにするワケにはいかんからな。
「それでだ。一般と指名の両クエストにおいて一つ注意しなけりゃならんのが、『依頼主の意向』についてだ」
「意向……」
「クエストにおいて、依頼主の意向ってのはある程度絶対だ。そこを無視してしまえば、いろいろと関係が成り立たなくなってくる」
もしそれが嫌だというのであれば、そういったクエストを受けなければいいし、依頼人もそれが分かっているから、あまりにむちゃくちゃな要求はしてこない。
……中には例外もいたりするけどな。
「が、どうしても不測の事態ってのは発生する。その際は、冒険者の判断が優先されることもあるワケだ」
「えっと、例えば人の命がかかってたり……とかですか?」
「お、そうだな。真っ先にそう考えれるのはえらいぞハク?」
「そんな、えへへ……」
その辺の匙加減ってのはホントに難しいんだが……。
まぁあくまでギルドは『冒険者としての仕事をしていたら、他人の役にも立っちゃった!てへぺろ!』という体でクエストを引き受けているからな。
よほどの無茶をしない限りは、ギルドが間に入って仲裁をしてくれたりする。
冒険者への依頼が『仕事』じゃなくて『クエスト』と呼ばれるのはそれが理由だ。
「それじゃあ『公募クエスト』っていうのは……?」
「公募クエストってのはギルド自体が主催しているクエストだ。そうだな……お、これなんかいいか『クインカーバロウの魔石の採取』」
俺はネルネが持ってきていた、公募クエストの控えを一枚手にする。
「ダンジョンや魔物相手に採取した素材なんかは、冒険者ギルドで換金ができるんだが……。このクエストだと、ひと塊1000ってなってるだろ? 普通に換金すると1500から……良くて2000と少しぐらいにはなるんだ」
「え!? じゃあ損しちゃうんじゃ……」
「その代わり、公募クエストを達成すると、冒険者ギルド内での評価が上がっていく。評価はある程度依頼者にも公表されるんで、指名クエストだって増えてくるってワケだな」
指名クエストは、はっきり言っちまえば稼げることが多い。
まぁ、一種の先行投資みたいなもんだ。
「そんで最後。これはクエスト云々というより冒険者としての話だが……。常に頭に入れとかなけりゃならんのが『リスク』についてだ。……いかなる損害も自己責任、たとえそれが死であったとしてもな」
「……っ! 死……」
これがある意味、一番重要な話だと言っても過言じゃあない。
ハクが少し強張った顔をする。
驚かせるつもりはないんだが、本気で冒険者を目指すのであれば、こういった話はきちんとしておかなけりゃならない。
「危険を省みずに目的を果たす……俺達が『冒険者』と呼ばれる理由の一つだ。格好よくも聞こえるが、実際はそんなに浪漫あふれることばかりじゃない」
危険も、失敗も、そして死も、冒険者には平等だ。
その脅威を忘れたヤツから順に飲み込まれていく。だから――。
「あ、あのおじさま……! ハクは……!」
ハクが決意を込めた表情でこちらを見つめてくる。
……ぎゅっと握りしめた手。その上にそっと手を添えてやる。
「大丈夫だ、『だから諦めろ』なんて言ってるワケじゃない。……前にも話したが、慎重さと深刻さは別物だ。だからこそ、リスクとは正しく向き合うことが必要になってくる。それだけはちゃんと覚えておいてくれよ?」
「は、はい!」
うん、いい返事だ。
「それでおっちゃん? 結局どのクエストにするの?」
「ああそれだが、さっき話にも出た公募クエストの『クインカーバロウの魔石採取』。こいつを受けようと思う」
俺にはもう関係のないことだが、同行するトリアとネルネ、そして、未冒険者欄にハクの名前を入れておけば、今後の評価にも少しはプラスになる。
難易度も初級で、ここから距離も遠くない。今から向かっても、夕飯までには帰ってこれるだろう。
……本当は、経験のためにダンジョンに潜るにしても、クエストとは切り離して考えるべきなんだがな。
クエストとなるとどうしても責任が出てくるし、そちらに意識を取られちまうこともある。だが……。
「おじさま! ハク、おじさまのためにたくさん魔石見つけますね!」
「……ああ、頼むぜ? ハクがいてくれて助かるよホント」
「ホントですか……!? えへへ……えへへ……!」
やる気というか、モチベーションってのは大切だ。浮足立たなようにさえ気を付けてやれば、実力の後押しをしてくれる。
……しかしまぁこの構図は何というか。
「おっちゃん……それって……」
「ひ、ヒモ……」
言うんじゃないよ。
二回り近く年の離れた女の子のヒモとか、シャレにもならんからな。
……いや、ホントにな。




