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第20話 結構疑問だね

「――おじさま!」


 パンドラボックスが消滅した瞬間、駆け寄ってくるトリアたち。

 中でもハクは真っ先に飛びついてきた。


「大丈夫ですか……!? ケガしたりとか、痛いところはありませんか……?」


「よーしよし、大丈夫だって言ったろ?」


「冷たい魔法でお腹壊してませんか……!? ちょっとでも変なところがあったらすぐにハクに言ってくれないとだめですよ……!?」


 いやコレおかんかな?


 上目づかいで心配するハクを撫でてやる。

 それだけでも、少しは安心したようだ。


「えへへー、おーっちゃん!」


 その横で、今度はトリアが腕に絡みついてきた。

 

「……なんだよ? おっさんが大変だったってのに随分と上機嫌じゃねぇか」


「そんな風に言ってー? ボク達のために強くなってくれたくせにー?」


 ぐっ……!?

 そうかしまった、こっちの声は聞こえてたんだったか……。


「ほらほらネルネも!」


「え……!? え、えっとその……。む、むぎゅ……」


 トリアとは反対側の腕へ、控えめにしがみついてくるネルネ。

 恥ずかしいなら無理しなくていいんだよ?


「あ、あ、な、なんだか照れくさくて……、す、スライムが出ちゃいそう……」


 いやそれどういう状況?




「でもおっちゃん、ホントに大丈夫?」


「あ、あの黒い箱……、な、中の様子はわからなかったから……」


 パンドラボックスか。エテリナもそういう魔法だって言ってたな。

 まぁ、特に大きな問題はなかったわけだが――。


「――にゃふふ。モテモテだねーオジサン?」


 肩で息をしながら、倒れていたエテリナが上体を起こす。

 ……どうやらもう、向かってくるつもりはないようだ。


「……エテリナさん、まだおじさまになにか――」


「ほらハク落ち着けって」


「ふにゅっ」


 子猫みたいに威嚇するハクを、ぽむんと撫でて落ち着かせる。

 ……ここが魔素の濃い場所だったら、先祖返りもあり得たかもしれんなぁ。


「にゃふふ、警戒しなくてもいいよー? オジサンにも言ったけど、ウチもうマナ空っぽだから」


「まぁそういうことだ。……それに、こいつの目的についても、だいたいの想像はついてるしな」


「も、目的……?」


 ネルネが頭に疑問符を浮かべる。


「ああ。……思えばコイツは、ずっと俺を挑発するような行動をとってたんだよ。クエストの阻害や、煽るような口調も含めてな」


「なるほどー。言われてみれば確かに……」


 だろう?


「大方そうやって、俺が最終的にどういう行動に出るのか見極めようとしてたんだ。……違うかエテリナ?」


 そしてさらに言えば、恐らくはその行動によって俺という人物(・・)を見極めようとしていた。その理由までは、まだ分からんが――。



「え、違うけど?」


「あれー?」



 ちがった。


 結構キリッというか、カッコつけたような感じで口にしちゃったよ……?

 完全に恥ずかしいヤツだわコレ……。


「お、おっちゃん……。い、今のはちょっとだけ……」


 やめろ。そんな目で俺を見るんじゃない。


「えと、大丈夫です! ちょっと勘違いしちゃったおじさまもかわいいですからね?」


 やめてー。それ全然フォローになってないからー。

 むしろ傷口に塩を塗ってる感まであるからー。


「うーん、それじゃあ結局エテリナの目的ってなんだったの? なんでおっちゃんを……?」


「にゃふにゃふそれはねー? とーっても深い理由があるのだよー。……オジサンは覚えてないかなー? 酒場でウチが言ってたコト」


 酒場で? 確かあん時のコイツは――。


『自分でもMっ気があるって思うし、はじめて(・・・・)は男の人に組み敷かれて無理やりってのが理想なんだけど……』


 おいおいまさか……。

 俺はとっさにハクの耳を塞ぐ。


「……あーやってたくさん挑発したらー、怒ったオジサンがウチのこと無理やり襲ってくれるかなーって? にゃはは?」


「……そんだけ?」


「うん、それだけー」


 ……いや(あっさ)い! 水たまりレベル!!

 そのために、あんなにぽこすか魔法打ち込んできよったんかコイツは。

 恐ろしいヤツだな……割とマジで。


「パンドラボックスもホントはもっと長く維持するつもりだったのになー? ……オジサンってば容赦なく攻め立ててくるんだもん、気持ち良すぎて(・・・・・・)一瞬意識がトんじゃった……! にゃふふ、結構鬼畜さんだったんだね……?」


 頬を赤らめ、唇をぺろりとひとなめしながら、エテリナが視線を送ってくる。


 いや気持ち良すぎてって、コイツひょっとしてああいうのもアリな人なの?

 もう無敵じゃん。というか――。


「……ねぇおっちゃん? ボク達すっごい心配してたんだけど……?」


「……お、おっちゃんは本当に、そ、そういうところがあるぞ……?」


 はい、予想通りー。


「いやいや! なんにもしてねぇって! だいたいあんな短い時間でどうこうなんてないだろ!?」


「……ホントにー? じゃあ指一本(・・・)触ってないって誓える?」


「………………え? ……そりゃあ、もちろん?」


「あ! ウソついた! 絶対ウソついた今! もー!! おっちゃんはもー!!」


「いや違う違う、これはその……あれだ、えっと……」


 ちょっと女の子の素肌を気を失う程度にくすぐり倒しただけだ。


 ……いや言えるかい! よく考えてみれば、それはそれで大問題だろ。

 今度使う時は、ちゃんと服の上から使わんとな……。


「にゃふふー? ごめんねオジサン? お詫びの印にー、ウチにいーっぱいお仕置きしてくれてもいいよ?」


 やだよ。

 どうせお前それ効果ねぇだろ。


「あ、あのおじさま? ハクはいつまでこうしてれば……?」




 ――翌日。


「すまんイルヴィス! このとおりや! ……妹から全部聞いたわ、いろいろ迷惑かけたみたいやって……」


 冒険者ギルドに顔を出すと、突然フーのヤツが頭を下げてきた。

 妹? 迷惑っつっても身に覚えが――。


「うぇ!? もしかしてエテリナか!?」


 あいつフーの妹かよ!?


「まぁ妹言うても、血ぃは繋がっとらんのやけど……」


 言われてみれば、随分前にそんな話を聞いたことがあるような……。

 しかし世間は狭いもんだね。


「最近……ううん、結構前からな? あの子、様子がおかしかってんよ。無気力っちゅうか……」


 そういや、初めて酒場で見た時はそんな印象だったな。

 にゃふにゃふ言ってる様子もなかったし。


「原因は分かっとる。あの子は優秀で、才能もあって、努力もしとる。……けど、正直ちょっと変わりモンやろ? ……それでまぁ、いろいろとな」


 ……いろいろね。

 まぁ、優秀なヤツでも変わりモンでも、特出したヤツってのは的にされやすいからなぁ。


「けど昨日、エテリナのヤツが家まで訪ねてきてな? そりゃもう楽しそうに聞くんよ。『あの顔にキズあるオジサンだれ!? どんな人!?』って。……あの子のあんな顔見るの久しぶりでなぁ」


 そういや昨日、受付にフーの姿はなかったな。


「アンタの強さにも気ぃついとったみたいやし……、それでその、ちょっとだけ話してしもたんや……。――ホンマにすまん! 他言はせんように言い聞かせたんやけど、まさかそないな行動に出るやなんて思わんくて……」


「……なるほどな、それで俺のステータスなんかを知ってたってワケか。……ま、いいさ。俺もお前にはいろいろと手間をかけさせてるしな」


 それに結局、特に実害があったワケでもない。

 砕けた魔石もあらかじめ用意したイミテーションだったし、本物はエテリナが確保していたため、こうして納品に来ることもできたしな。


 ――確か、ショータイムウィンドウだったか。

 あの魔法があるなら、別にダンジョンの中で戦う必要はなかったはずだ。


 挑発だって他にいくらでもやり方があるし、俺にその……まぁ襲われたいって部分に関しても、あのパンドラボックスがあれば問題ないだろう。


 ……いや、問題ないワケじゃないが、ひとまずそこは置いといてだ。


 なのにわざわざ人気(ひとけ)のないダンジョンで仕掛けてきたってことは、アイツはまぁアイツなりに、フーとの約束を守ろうとしたんじゃねぇかな。

 それでもどうしても耐えられん部分があって、それがアイツに行動を起こさせた。


 それはただの不純な感情かもしれんし……なんとなく、それだけじゃないような気もするね。


「しかしお前、これが俺以外のヤツだったら結構な問題だぞ? それは貸しだな」


「う、貸しか、わかった……。――け、けどな? ウチにも心の準備が……」


 心の準備?

 一体何の……?


「……あ!? お前まだあの噂信じてんのかよ!?」


「し、信じてへん! 信じてへんよ!? けど、万が一いうこともあるやろ!?」


「いやなんでだよ!? 俺自身が否定してんだろうが!!」


「そ……そんなん……! そんなんわからへんやん! わからへんやんかぁ!!」


 いや、俺の不信感どんだけ根強いんだよ!?





「――そ、そう言えばおっちゃん、特訓のこと、なんで内緒にしてたんだ……?」


「あー……まぁそういうの、あんまり自分から言わねぇもんだんだよ。特に大人ってのはな」

 

 自宅で書類に向かいながら、ネルネの質問に答える。


 というか、こいつらの前でも大っぴらに力を使うつもりはなかったんだよ俺は。

 ハクの実戦訓練なんかも、ホントはクエストじゃなくてもっと別の形でと思ってたしな。


 あくまでも、この力は保険だ。

 危険な状況やイレギュラーな事態を、安全に乗り切るための保険。


 ……それにトリアの奴は『でもそんな力あるのにもったいないよ! これはやっぱり、勇者を目指すしかないよね?』なんて言ってきそうだしなぁ。


「でもそんな力あるのにもったいないよ! これはやっぱり、勇者を目指すしかないよね?」


 一字一句。コイツ俺の頭ん中覗いてんじゃないの?

 ……つか、その話はひとまず置いとくとしてだ。今の問題は――。


「ん? どしたのオジサン? ウチのことー、気になっちゃうカンジ?」


「いやどしたのじゃねぇよ。なんでお前までここにいるんだ」


 ベッドでくつろぐ淫乱ピンク。

 せめて服を着ろ服を。


「えー? だってこうやってずっと近くにいればー、いつかオジサンが我慢できなくなって、ウチのこと襲ってくれるかもしれないし?」


 いやしないよ?

 なんかおっさん、最近そんな感じのこと言われるの多くない?

 つらい。


「襲うって……。おじさまは理由もなく人を傷つけるような人じゃありません!」


 ハクが子猫の様にエテリナを威嚇する。


「にゃふふ、違う違うー。襲うって言うのはねー?」


「おいやめろ」


 余計なことを吹き込むんじゃないよ。

 ただでさえハクは、天然で言動がアレなんだぞ。


「とにかく! おじさまはハクが守ります! エテリナさんに変なことはさせません!」


「ハクはおっちゃん大好きだからねー?」


「だ、大好きってそんな……。えと、はい……」


 はいって言っちゃった。

 まぁいいけどね? 可愛いらしいもんだし。


「……ふぅん、なるほど。……ねぇねぇハクちー? ちょっとお耳貸して?」


「え? えっと、はい」


 いや素直に貸しちゃったよ。

 悪魔の囁きじゃなきゃいいんだがな……。


「……ウチも……二人……誘惑……みんなで……そしたら……」


「ほ、ほんとですか……! そしたらハクも……!?」


「にゃふふ、もっちろん!」


 ……おいなんだ。

 ちらちらと不穏な単語が聞こえてきたぞ……。


「あ、あのおじさま! ハク、エテリナさんもお仲間に入れてあげたいって思うんですけど……!」


 おやー?

 随分と意見に変化が出たようですが?


「……エテリナ。お前ハクに何吹き込んだ?」


「えー? 女の子同士のナイショ話聞きたいのー? にゃふふ、オジサンのえっちー」


 ええい、どいつもこいつもおっさんをエロおやじにランクアップさせよってからに……いや、ランクダウンと言うべきか?


「ったく。まぁいいけどよ、もうここまで来ちまったら、三人も四人も五人もそう変わらんしな」


 そんかわり、部屋が狭いだの言うんじゃないよ?

 



「そんじゃああらためてー、エテリナ・クルカルカでーす。一応、勇者候補なんて言われてまーす」


「ゆ、勇者候補……!? す、すごい……」


「でしょでしょー?」


 マジかよ。確かにこの歳にしちゃ随分強いと思ったが……。

 ……いやでもコイツホントに勇者にしていいのか?

 結構疑問だね俺は。


「これはボク達も負けてられないね! おっちゃん!」


「ううん俺は負けで良いよ」


「もー!!」


 もーじゃないっつの。このやり取り何回目だよ。


「……オジサンはー、勇者になるつもりぜんぜんないのー?」 


「ん? あぁ、まぁな」


 引退するって話までは、フーから聞いてないのか? 


「なーんだ。……みんなから『勇者様』って尊敬されるオジサンにー、ウチだけ無理やり襲われるっていうのも、……結構興奮するって思ってたのになー?」


「な!? おっちゃん! いくら勇者になったからって、そんなことしちゃだめだよ!」


「いや勇者にもならんしそんなこともしねーよ!」


 つか、それはもう勇者と呼んでいいのかって話になってくるだろ。


「だいたいいつも言ってるだろうが。今の俺はもう、ホントに上を目指す気力が無いんだよ。だから――」


 ……しかし、一体俺は何度このセリフを吐けばいいのかね。



「勇者になるには遅すぎる」

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