第19話 根比べと行こうか
トリア、ネルネ、ハク。
こっちの声は届いてるみたいだが、向こうの声は聞こえない、か。
……今思えばあのクエスト依頼もPvPを見越していたのだろう。
ウィーグルモールもここと同じように、広い空間が多いからな。
どうやって先回りしたのかは気になるところだが、まぁそれは今は良い。
問題は……。
「『フレアゲイズ』! 『コキュートスサークス』! 『サンダーテンペスト』!」
エテリナから次々と繰り出される魔法。どれもこれも相当なモノだ。
この歳で『契約魔法』まで使えることといい、コイツは結構どころか、相当に優秀なやつみたいだな。
……いやそんなヤツがなんだってこんなおっさんにちょっかいかけてくんの?
しかも半裸で。
嫌がらせなのかな?
「にゃふふ……! ほらほらー? 防戦一方じゃウチに勝つことはできないよ?」
魔法をかわすだけの俺を、挑発するように煽るエテリナ。
「……念のためもう一度聞いとくぞ? 大人しく目的を話す気はないんだな?」
「オジサンもしつこいねー? 『ユニオンデストロジー』!」
ま、しつこく聞いて答えるようなことなら、最初から渋らんよな。
仕方がない、魔法使い相手の定石、接近戦へ――!
「――にゃふふ……! あまいねオジサン?」
「!?」
瞬時に身をかわしたその場所に、エテリナの持っていた杖が叩き込まれる。
……おいおい、ハンマーみたいな杖だな、なんて思ったりしたが、まさかホントにそれで殴り掛かってくるとは……。
しかもこの威力……。
「いいでしょコレ? 特注品なんだー。杖としても使えるハンマーってね?」
あ、そっち? ハンマーがメインなんだ?
あれかな? 最近の魔法使いって結構肉体派なのかな?
「知ってるよーオジサンのこと? 最上級冒険者でー、マナプールも5000越え。にゃーん! つっよーい! ……けど――」
巨大な杖を、軽々と片手で構えるエテリナ。
「ウチの恩恵は『マッスル☆マジカ』。筋力も魔力もアップアップって感じだからー、油断してると危ないよ?」
別に油断してるつもりはないんだけどな。
……というかまてまてまて、なんで俺のステータスまで知ってんだ!?
外に情報をもらした記憶はねぇぞ!?
そんでもって、俺がそうだとわかって仕掛けてきたってことは、それだけの自信、あるいは準備なんかがあるってことか……。
まったく、勘弁してほしいもんだね。
「……にゃ? どうしたのオジサン? 足止まってるよ?」
「どうにもなぁ……。うまくいかんもんだと思ってな、色々と」
「ふぅん、そっか。『グローリーシジー』!」
いや容赦ないねホントに。
俺はそれをかわさずに、腕にマナを込めて払いのける。
「にゃはは!! すごいねオジサン!! けど……『ベールブラッド』!」
追撃で襲い掛かる魔法。
それも同じようにして弾き飛ばす。
「『シャドウストーク』! 『エンペルソード』! 『レイジングエクスキュート』!……ほらほら! そんな戦い方じゃいくら最上級でもマナがつきちゃうよ!?」
次々と唱えられる魔法、その全てが俺へと牙をむく。
そして――。
「……あーあだから言ったのに。……はぁつまんない、こんな終わり方じゃ――」
「――おいどうしたよ、弾切れか?」
「……っ!?」
「……それとも、もう飽きちまったってか? そいつは随分つれないね、そっちから誘ってきたくせによ?」
「無傷……!? いくら最上級だからってそんな……」
気だるげな表情から一変し、驚くようにこちらへ振り向くエテリナ。
良いねぇその顔。ちょっとだけしてやったりって感じだよ。
……エテリナの放った数々の魔法。
俺はそれを、その全てを。
マナにものを言わせて、残さず弾きとばしてやった。
「どーだ? おっさんのゴリ押しに驚かされた気分は?」
本当は、もっとスマートに終わらせるつもりだったんだぜ?
この力にも、まだ慣れちゃいないしな。
けどま、それを簡単にさせてくれるようなヤツじゃなさそうだ。
仕方ないね。
「にゃふふ……! やるねーオジサン? でもウチだってまだ全部使い切ったわけじゃないよ? いくら最上級でも――」
「――うちには一人、冒険者を目指してるヤツがいるんだがな」
『ショータイムウィンドウ』とやらの向こうで涙目になるハクを見る。
ネルネとトリアも……あーあ、三人してカワイイ顔が台無しだぞ?
……大丈夫だよ。
だからそんな心配そうな顔すんなって。
「そいつが結構頑張り屋さんなもんでなぁ。おっさんとしては何とかして実戦経験を積ませてやりたいなー、なんて思ってたワケだ」
「……なぁに? 急にそんな話して?」
まぁ聞けよ。
自分語りはおっさんの得意分野だぜ?
「けどやっぱ、ダンジョンってのは危険がつきもんだろ? ……俺もなぁ、最近はイレギュラーに巻き込まれてばっかでよぉ」
いや俺だけが危険ならいいんだよ? しかしだ。
「それでその頑張り屋さんや、ソイツが頑張るって言ったら絶対ついてくるようなヤツらに何かあったら……、ほら、寝覚めが悪いだろ?」
だから――。
「――だから強くなることにしたのさ。ま、ちょっとだけな?」
そういうワケだ。
今の俺のレベルは65。マナプールは――。
「強くなることにしたって……そんな簡単に……」
そりゃもっともだ。
そんなに簡単にレベルアップができるなら、今ごろ世界にゃ勇者が溢れかえってるだろうね。
――だが、俺ならできる。『成長率+999』を持つ俺ならな。
我ながら、身も蓋もないスキルだよなぁホント。
こういうのを今の子たちは、チートだなんて言うんだったか?
ふと見てみると、トリアが『あっ!』っと何かに気付いたような顔をしている。
……ま、そう言うことだ。
俺は深夜に一人でダンジョンに潜り、レベリングに励んでいた。
あの『羊除けの小瓶』はほとんどそのためのものだし、ナイフをポキポキ使い捨ててたってのもそれが理由だ。
おかげで大分懐が寒くなっちまったよ。
……いやまぁ一番の原因はコイツと、俺自身の意思の弱さだったりするんだが。
「酒場で会った時は強さを隠したがってるって言うか……、強くなりたくないって風に見えたけどなー? うーん、ウチの勘違い?」
「それなぁ。正直これ以上強くなることが本意かと聞かれれば、首をかしげざるを得ないんだが……」
ホントなんでこんなことになってんだろうね?
配送員をするだけってんなら、もう十分すぎるはずなのによ。
……ま、たとえきっかけが能動的なものだったとしても、最終的に行動を決めたのは俺自身だ。そしてそこには必ず責任が伴ってくる。
そいつを放り出しちまうよりは……、まぁマシだなんて思ったりもするワケだ。
「そんでどうする? これ以上はもう――」
「『イグナリオンコア』……!」
俺の言葉を遮るように、エテリナがスペルを唱える。
呼応するように、杖の先にマナが集まり、白い火球のような形を成していく。
大きさはそれほどでもないがこれは……なんつう魔力だよ。
「にゃふふ……! これが、今のウチの最大級……! 受け止めてくれる? オジサン……!」
言い終わるや否や放たれる火球。
……流石にこれは、素手じゃあきついかもな。
そう、つまりこれはあれだ――。
「コイツを買ったのは、正解だったってことだ!」
……
…………
……………………
「――――……英雄、級」
砕かれた魔法の余波の中、エテリナがポツリとつぶやいた。
今の俺のマナプールは10000を越えているからな。まぁご名答、とでも言ってやればいいのかね。
「……にゃふふ。ウチのイグナリオンコアを、ナイフ一本で、かぁ」
「良いナイフだろ? 高かったんだぜコレ」
いやホントにな。
破産寸前って言うか……、ほぼ破産してるようなもんだからねおっさん。
「ナイフだけじゃないでしょー? オジサン、こんなに強かったんだ?」
「そうかい? ま、そう思うなら、そろそろ終わりに――」
「……にゃふふ、まだだよ! 『パンドラボックス』!」
「な……!?」
エテリナが再びスペルを唱える。その瞬間、黒い箱のような空間が現れた。
中にいるのは俺と……。
「エテリナ……まだやるつもりなのか……?」
エテリナの、二人だけだ。
「ううん、ちがうよー? これはただのー、い・や・が・ら・せ? ……ウチ、これでもうマナ使い切っちゃったしねー?」
「お前なぁ……」
この期におよんで何を……。
「この魔法はいくらオジサンでも壊せないよ? そんでもってー、中からも外からも、互いの様子は分からない。そういう魔法だからね?」
言いながら、ぺたんと座り込む。
「解除の方法は二つ。ひとつは時間経過。今回のコレならー……、十時間まではいかないんじゃないかなー?」
「じゅっ……!? ……そんで、もう一つは?」
流石にそんなに待ってられんぞ。
「ウチが自分の意思で解除すること。……まぁ絶対してあげないけどね?」
くすくすと笑うエテリナ。
「いっとくけど暴力は無駄だよ? ウチどっちかって言えばそういうの平気な方だし、ウチが死んでもコレは解除されないし……」
コイツの恩恵、マッスル☆マジカか。
どちらにせよ流石にそんなことをするつもりはないんだが……。
「まぁオジサン結構ヘタレっぽいからー? そんなことはできないかなー?」
……いやまぁ自分でも今そう思ったけどさぁ。
随分と挑発してくるね?
……そういえば、思えばコイツはずっとこんな感じだったな。
「ほらほらー? きっと外の子たちすっごい心配してるよー? そのまま何時間も放置するなんてー、にゃーん、オジサンきっちくー!」
「お前な……」
「にゃふー? なになにオジサンおこっちゃったー? でもさっきも言ったけどー? ……絶対に解いてあーげない! にゃふふ……!」
……あぁ、なるほどな。そういうことか。
俺はエテリナとの距離を、一歩ずつ縮めていく。
「…………なぁにオジサン? そんな風に近づいてきて?」
「さてな? ……けどまぁ暴力なんかに頼らなくても、自分から解除させる方法なんてのはいくらでもある」
いや、いくらでもは言いすぎかね。
そんな風に思いながら、エテリナの細い腰へと手を伸ばす。
「……オジサンさいてーだね? ……けど、たとえどんなことされたって、絶対に屈してあげないから」
急にキッとした目で睨みつけてくるエテリナ。
まぁなんとでも言えばいいさ。
俺はエテリナの無防備な素肌に指先を添わせ――。
「『くすぐりスイッチ』オーン」
「……へ?」
「にゃははははははっ! まって、まって! にゃははっ!! にゃはははははっ」
脇腹をくすぐられながら、大声で懇願するエテリナ。
仕方がない、一度手を止めてやるか。
「はぁ……はぁ……! な、なにそれ!? なんでこんな……!?」
「いやまぁ俺もレベルが上がってな? マナプールも大きくなったんだが……まだアクティブスキルの一つも作ってなくてなぁ。……で、練習がてらウチのポンコツお仕置き用に作ってみたんだよコレ」
せっかくだからちょっと気合を入れてみたりしたんだぜ?
もともと手先の器用さにはそこそこ自信があったし、そこにスキルの補助があれば、まさに最強と言えるだろう。
「そうして指の一本一本、間接の一つ一つにまでプログラムを集中し、完璧なくすぐりを実現したのがこの『くすぐりスイッチ』だ」
まぁその分、無駄にマナの消費が激しいんだが……。
「な、なんてマナの無駄使い……」
お、わかる? だよなぁ、俺もそう思う。
だが……。
「さてと、そんじゃあ。…………根比べといこうか、エテリナぁ?」
「あ……、あ……、ああっ――!!」
「にゃははははははっ!!!! ずるい!! これずるいから!! にゃはは!! にゃははははははっ!!」
「こ、こんなのでウチが……にゃあっ!? だめだめまってほんとにまって!! にゃははっ!! にゃはははははっ!」
「ぜ、絶対しない! 絶対にしてあげないから! にゃははは!! あっだめこれほんとにだめだから!! にゃはははははっ!!!! にゃ……! にゃ…………!!」
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
ぱきーん。
と、そんな音を立てて『パンドラボックス』が崩れていく。
はい、おっさんの勝利ー。




