表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/230

第18話 いいだろう、のってやる

「そういやさ、最近おっちゃん、ちゃんと寝てる?」


「なんだよ急に」


 洞窟のようなダンジョンを進む中、不意にトリアがそんなことを口にする。


「おっちゃんの部屋、羊除けの小瓶(ナイトワーカー)の空き瓶が転がってたからさー」


「あぁ、そう言うことか……。書類を書いてたんだよ、誰かさんに邪魔されねぇよう一人の時にゆっくりとな」


「え! ずるい!! ……ねぇおっちゃん? 夜中に一人で根を詰めちゃ身体に悪いよ? みんながいる時にー? リラックスしながら書いたほうがいいんじゃない? ね?」


「おいおい、それじゃあカワイイお前たちの顔が見えないだろー?」


 つか、ずるいってことは邪魔する気満々じゃねぇか。

 だいたいよく言うぜ。かまってやらんかったらそれはそれでやかましいくせによ。


「むー、こんな時ばっかり……。はっ!? まさかおっちゃん、ホントはボク達が部屋にいる時にはできないようなことを、夜な夜なこっそりと……!?」


 またコイツはそういうことを……。

 ……いやまてよ?


「……例えば?」


「え?」


「その『ボク達が部屋にいる時はできないようなこと』ってのは、例えばどんなことなんだ、トリア? ん?」


「え!? えっと、それは……」


 俺の質問に、急にしどろもどろになるトリア。

 ……さて、何を考えてるんだろうね? 俺には見当もつかんなぁ?


「ほらほらトリア教えてくれよー? 俺が夜、一人で、何をしてると思ったのか……」


「それは……そにょ……。――――うぅ~っおっちゃんのばか! えっち! セクハラおじさん!!」


 ふはは、なんとでも言うがいい。

 コイツは攻められる側になるとと弱いんだな、良いことを知った。

 これからは――。


「もうみんなにおっちゃんにセクハラされたって言っちゃうから!! エッチなこと言わされそうになったって言っちゃうからぁ!!」


「おいやめろ! それはマジでやめろ!!」


 しまった、こいつは諸刃の剣か……。

 多用はできんな……。


「あ、あの、見せられないことって……? それにトリアさん、なんだかお顔がすごく真っ赤で……」


「き、気にしなくていい……。あ、あれは何というか……、そう、じ、自滅みたいなものだから……」


「……?」



 『クインカーバロウ』。

 ウィーグルモールに勝るとも劣らぬ、初心者向け(・・・・・)のダンジョンだ。


 出てくる魔物(モンスター)も強くてC+、一階層ごとの広さはそこそこあるものの、全二十三階層と規模は浅くダンジョンの構造も単純。

 そんなワケで、ある程度の余裕がある。とりとめのないおしゃべり(・・・・・)なんかをする程度にはな。


 今回のクエストは魔石の採取。

 クインカーバロウの魔石は質こそ良くはないが、ほぼ毎日どこかしらで採取できるため、それはそれで需要があったりするのだ。


 ま、今回の目的はそれだけじゃあない。


「やりました! おじさま!」


 小さなネズミのような魔物(モンスター)ビットマウス。


 ちょこまかと動き回るソイツを、ハクは手にしたボウガンによって的確に射貫いていく……とまではまだいかないが、なかなかの命中精度だ。

 むしろ初めての実戦でこれなら上等なもんだろう。


「あの、ハク上手に戦えてますか?」


「ああ。ちゃんと教えた通りにできてるな。えらいぞ?」


「えへへ……」


 ボウガンを抱えるハクの頭を撫でてやる。

 通常時のハクは、肉体強化の中でも特に感覚系に長けるみたいだからな。

 思った通り、こういった武器とは相性がいい。


「ハクかっこいい! ボクはそういう武器、うまく使えないんだよねぇ」


「えへへ、そんな……! でも、トリアさんが戦ってるときも、すっごくかっこいいですよ!」


「ふふん! まーね?」


 こいつはちょっと褒められるとすーぐこれだよ、まったく……。

 

 ハクがこのまま成長して冒険者になるとすれば、いずれは中衛なんかを任せられるようになるだろう。

 さらに『先祖返り』を使いこなせるようになれば、もっと戦略に幅が出てくる。


 あの姿の時は感情に歯止めが利かなくなるみたいだが……。

 まぁその辺は今後の課題ってところだ。


 接近戦が得意なトリアは前衛に。

 サポート専門のネルネは後衛に配置。

 あとは、そうだな……。

 

 例えば、後衛から火力を出せる魔法使い系。

 例えば、前衛~中衛をカバーできる戦士系。


 そのあたりの冒険者が集まったりすればもう立派なパーティだ。

 いずれ……いや、もう近いうちに、そうなっていくんだろう。

 そうしたら俺は――。


「おっちゃん……? ど、どうしたんだ、何か考え事か……? す、スライムいるか……?」


「ん? ……いや、まぁ少しな。さ、それより早く魔石を探しちまおう」


 というか、相変わらずさらりと会話にスライムをねじ込んでくるねお前は?




 クインカーバロウ第十六階層。


「……うーむ、これで三か所目か」


 今回のクエストの目的である『魔石』。

 マナの結晶体であるそれは、ダンジョンによって出現方法が大分異なる。


 クインカーバロウの魔石は、地面から突き出た水晶のような形で現れるため、発見するのはそう難しくはない。

 現に俺達は、すでに三回にわたってそれを発見しているのだが……。


「また、砕けちゃってますね……。ざんねんです……」


「こ、ここも魔物(モンスター)に、あ、荒らされちゃったのかもしれないな……」

 

 まあ確かにそういうこともあるからなぁ。偶然が重ならないとは言い切れん。

 しかし……いや、流石に考えすぎか。


「そうだ! ねぇおっちゃん? この魔石く――」


「だめだぞ」


「――うぇ!? ボクまだ何も言ってないよ!!」


「お前の言いそうなことなんてだいたい想像がつくんだよ。大方、『この魔石くっつけて持っていってもばれないんじゃない?』とかなんとか言いたかったんだろ」


「うっ!? ……ちがうよおっちゃん? ボクは『この魔石くだけてても綺麗だねー』って言おうとしただけだよ?」


「……お前今『うっ!?』っつったろうが」


 そもそもどうやってくっつけるつもりなんだよ。

 魔石同士をばれないレベルでくっつけるような技術があったら、それこそえらい騒ぎになるっつの。

 だいたいコイツは――。


「……トリアさん羨ましいな。ハクも――」


「ん……? は、ハク……?」


「――ハクもおじさまに全部理解(わか)られたい……。つま先から、髪の先、ううんもっと深いところまで……全部……全部……」


「お、おおう……。は、ハク……? こ、これからだぞ……? おっちゃんなら、ちゃ、ちゃんとハクを見ててくれるから……な?」


「ネルネさん……! はい! そうなるように、ハクもっとがんばりますね!」


「う、うん……。そうだな……うん……」


「? どうしたハク? ネルネも……」


 二人で何か話してたみたいだったが……。

 ……しまった、こういうこと聞くのはデリカシーに欠けてたかもしれん。

 女の子同士じゃないと話せないようなこともあるだろうしな。


「いやその……、な、なんでもないんだ、なんでも……。――――おっちゃんがんばれ……」


 ……?

 なんか最後にぼそりと言わんかったか?




 クインカーバロウ第二十一階層。


「あ! おじさまあれ!」


 ひときわ広い空間に出た時、ハクが大きく指を差す。

 その方向へ視線を向けてみると……どうやら今回は砕けていないようだな。


「えへへ、やった! これでクエスト達成ですね!」


 嬉しそうに、てててと魔石へ向かっていく。

 クエストも達成できたし、ハクにもいい経験をさせてやれた。

 今回はこれで――。


「――『ブレイズスネイル』」


「……っ!? ハク!!」


 魔石へ向かっていくハクを、抱え込むようにして足を止めさせる。

 その瞬間、俺達と魔石を隔てるように炎の壁が出現した。


「え!? おっちゃん何これどういうこと!?」


「……さてな、本人(・・)に聞いてみるさ」


 今のスペル(・・・)、どうにも聞き覚えがある声だ。

 俺は奥へ向かって声をかける。


「――どういうつもりだ、エテリナ(・・・・)……!」


「……にゃふふー。さぁ? どういうつもりなんだと思うー?」


 洞窟の奥からゆるゆると歩いてくるエテリナ。

 相変わらず、えらい格好してんなコイツは……。


「ハク、下がってろ……」


「おじさま……」


「大丈夫だ。な?」


 少しためらうように、トリアたちの元まで下がっていくハク。

 それを確かめながら、俺は改めてエテリナの方へと意識を向ける。


「俺たちはクエストで魔石を探しに来たんだがな。どうにも今まで見つけたモンは全部砕けちまってて困ってたんだが……」


「あぁ、それウチそれウチー! にゃふふ、ねぇ怒っちゃったー?」


 悪びれる様子もねぇなコイツ……。

 いや、()か……?


「言っとくが、余計な問答をするつもりはねぇぞ。用があるならさっさと――」


「――ねぇオジサン? ウチと一騎打ちで勝負しない?」


「一騎打ち……?」


 『PvP』――パーソン・バーサス・パーソン。

 その名の通り、人対人(・・・)で戦うことは冒険者たちの中じゃ珍しい話じゃない。

 それこそ、勇者検定から略奪まで、良くも悪くもだ。


「だいじょーぶだいじょーぶ! 別に殺し合いがしたいわけじゃないからさ?」


 恐らくだが、その言葉に嘘はない。

 もし本当にただ命の奪い合いをしたいのであれば、もっとうまく奇襲を仕掛けてきたはずだ。

 ……まだ、意図が読めんな。


「にゃふふ、さぐってるねー? ウチの目的も、オジサンが勝ったら教えてあげてもいーよ? ――勝てれば(・・・・)の話、だ・け・ど?」


「……そんなエサに、俺がのるとでも思ってんのか?」


「にゃふむ、それはわかんないけどー? のってくれなかったらずーっとちょっかいだしちゃうかもねー? オジサンにもー……お仲間(・・・)さんにも?」


 こいつ……。


「……いいだろう、のってやる。そのかわり、こいつらには手を出すんじゃねぇぞ」


「おっちゃん……」


「心配すんな。大丈夫だって」


 トリアたちが心配そうにこちらを見つめてくる。

 ……そんな顔すんじゃないよ。おっさんが結構強いの、お前たちは知ってるだろ?


「にゃっはは! 決っまりー! それじゃあ……『ショータイムウィンドウ』!」


 トリアたちを遮るように、透明な壁が現れる。

 こいつは……『契約魔法』か!?

 

「この魔法はねー、『戦女神ジエム』との契約によって、PvPの時にだけ使えるんだー。これでもう、一切の邪魔は入らないよ?」


 そのままエテリナが手をかざすと、どこからともなく巨大な杖が出現した。

 ……いやもう杖って言うかハンマーみたいな見た目してんだけど。

 あれで殴り掛かってくる、なんて展開は勘弁してもらいたいね。


「さあオジサン、ウチを楽しませてよ……! ――たっくさんね!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ