第40話 その一言
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――あれから十数時間後。
ジャラジャンドラという統率者を失い、残った魔物達は次々とダンジョンへと帰っていった。
アイツらも馬鹿じゃあない。魔素の無い地上で無駄な活動はしないワケで……そうでなけりゃダンジョンアウトはもっと頻繁に発生するだろうし、セーフスポットなんてモンも存在しないだろうからな。
残ったのはごくごく一部の低ランク魔物達、言っちまえばあんまり知能の高くない連中だ。
つまり……。
「ふい~この辺もやっと落ち着いてきたねぇ。ボクもう眠くて……ふわ~あ……」
「残っていた魔物も少ないわけでは無かったが……まぁこれだけの冒険者が協力しているのだ」
「ぜーんぶやっつけちゃうのも時間の問題ってカンジ?」
「が、ガングリッドさんやシーレさん達の方も、もうあらかた討伐し終わってるみたいだしな……」
ま、そういうことだ。
まだしっかりと確認されたわけじゃあ無いが、恐らく致命的な犠牲者が出ていることも無いだろう。
……そういえば、駆けつけてくれた冒険者の中にはディーン達の……少なくともあの時の三人の姿はなかったな……。
ま、オレが気にすることでもねぇんだが……。
「――ハク! よかった無事で……本当に……!!」
「……! おとうさま……それに、おにいさまとおねえさまも……!」
……っと、どうやらアッシュやグレーナもサーベイジュと合流できたようだな。
それと……やっぱりあの人も来てたのか。
「――ハク……!」
「え……――?」
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「そして家族と言うならきっちり知るべきだ……! 今のハクの強さと、そして……ハクの想いを――!!」
「イルヴィス君……。だが……だがそれでも私は――!」
サーベイジュの提案を突っぱねて、投資の申し出とともに啖呵を切る。
……流石にそう簡単には折れちゃくれねぇだろうが、ハクのためっつうならこれが俺の――!!
「――……ね、言ったとおりでしょうサーベイジュさん? きっと私たちのやり方より、ずっとハクに寄り添ったものが返ってくるはずだって」
……! 誰だ……?
白く長い髪を持つ一人の女性が、前触れもなくこの場へとやってきて……。
「……本当は、ずっと感じていたんです。こんな方法でしかハクのためにしてあげられることは無いのかって……私達ではそうするしかなかったのも事実ですが、それでもやはり……」
……あぁそうか、なるほどな。
「どれだけ身を案じても、未来永劫守ってあげられるわけじゃない……。子供も、孫も、その子孫も……それぞれの世代が本当の意味で自由に生きるためには、自分自身で頑張るしかないんです。……そうですよね、イルヴィスさん?」
サーベイジュの話によれば、奥サンが亡くなったっつう事実は替え玉によって揉み消され……そして俺は今日この日まで、そういった話を一切聞かなかったときている。
つまり……。
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「――お……かあさま……?」
「はい、そうですよ……!」
生きていたハクの母親……シロエがぎゅっとハクを抱きしめる。
「ごめんねハク……!! ずっと、ずっとこうしてあげられなくて……!!」
「おかあさま……んぐ……ううん、平気だったよ……? だってハクは冒険者だから……つ、強くなって魔物さんもやっつけて……ぐしゅ……それでハクはね? ハクは――……うわあぁぁああぁん!! んああぁぁあぁ……!!」
……………………
…………
……
「えへへ……! おかあさまが生きていて……おとうさまも、おにいさまも、おねえさまもこんな風にハクのこと……ぐす、なんだか夢みたい……!」
「夢な……夢なもんか……! ごめんよハク、兄さんはハクのことを知らずの内に見くびっていたんだな……!」
「お姉ちゃんもそう……でもちゃあんと見ていたわ、強い子になったのねハク……? 私達が思うよりもずっと……!」
「ぐしゅうぅ……! よ、よがっだねぇハグぅ……! ぐじゅじゅうぅうぅ……!!」
「はは、なんでお前が一番顔ぐしゃぐしゃにしてんだよ、ったく……ほれ、ちーんしなさいちーん」
「だっでぇ……!! びーん……!!」
「ふふ……で、でも気持ちは分かるぞトリア……わ、わたしもなんだかうるうるしちゃって……」
「あぁ、本当に……」
「にゃふふ! なんだかウチも、パパやママに会いたくなっちゃったなー」
俺ももう少しばあさんのとこに顔出さねぇとなぁ。
ガングリッドのヤツもうるせぇし。
「なぁハク、実はその……父さんはだな……」
その中でぽつぽつと、想いを零すように語りだすサーベイジュ。
ハクの出生のこと、魔物血統のこと、それら全てが意味するもの、そして……。
「つまりだ、私はハクの本当の父親では――」
「――えへへ、それじゃあハクにはおとうさまが二人いるんですね! ハクに命をくれたおとうさまと、そして……今まで見守ってくれたおとうさまの……!」
「い、いやしかし、見守っていたなどとそんな風に言われる資格など……」
「いいんです……! 確かにちょっとだけ……ちょっとだけ寂しかったこともあったけど……全部許してあげます! だってハク達は家族ですから! えへへ……!」
「ハク……」
家族だから……か、実際似たところがあると思うね俺は。
特に……たまにヤンチャになっちまうところとかよ?
……そうだよな、家族ってのはきっと本来こういう――。
「二人のお父様……ふふ、素敵じゃない。……あ、それを言うならイルヴィスさんも含めて三人なんじゃないのハク?」
「え!? お、おねぇさまその……お、おじさまは、おじさまは駄目です……!」
「うえ!? おいなんだよハクぅ……おっさんだってハクのことめちゃくちゃ大事に思ってるっつぅのに……」
「ち、ちがうんですおじさま……! おじさまのことが嫌いだとかそういうことじゃなくて……! えっと……!」
「だってその……お、おとうさまだったら結婚できないもん……」
「あらあら、ふふ……!」
はは、なるほどな。まぁそういうことなら全然悪い気はしないってモンだ。
むしろ可愛らしいもんで……。
「イルヴィス君……!! もちろん君がハクのような子供に手を出す男では無いことはわかっている……!! あぁ分かっているとも……!!! なぁそうだろう……!? そうだと言いたまえ……!! さぁさぁ!!」
「イルヴィスさん、勿論私も信頼しています……!! あぁそういえばまったくもって話は変わるんですが、イルヴィスさんが御所望なら良い縁談を用意できますよ……!! 独り身ではなにかとご不便なことも……」
「ええい、いらんいらん! つか毛ほども隠しきれてねぇんだよ心の声が!!」
んで二人とも顔ヤベぇんだよ怖い怖い!!
そのままグレーナのハリセンに叩かれる二人をよそに、俺は少しその辺の椅子に腰を掛ける。やれやれ……。
「……ねぇおじさま? 今までハクはおとうさま達に認めてもらえるように勇者さまになりたかったんです。でも……」
ちょこんと隣に座る、まっすぐな瞳のハク。
「でもこれからは……あ、おとうさまを安心させられるようにっていうのはもちろんなんですけど、……ハクみたいな子に勇気を与えられるような、そんな勇者さまになれたらいいなって……!」
「……あぁ、ハクならなれるさ。おっさんが保証するぜ?」
「えへへ……! あ、おじさまもですよ? おじさまも一緒に勇者さまを目指すんですからね?」
「いやいやいや……そこはほれ、いつも言ってるだろ? おっさんもう歳であちこちガタが来ちまってるからよ。……だからまぁなんだ、勇者になるには――」
「――……うんうん、大団円ってヤツだねぇ? これも僕がジャラジャンドラをこの街に呼んであげたおかげで……あぁ別にお礼とかは良いよ、好きでやっただけだからさ」
「――っ!?」
突然の突風とともに現れるその一声。
コイツは……!!
「ヴァシネ……!!」
「おいおいそんな怖い顔してくれるなってルヴィス~。ちょっと最後にプレゼントをしにきただけなんだからさぁ?」
訝しむ俺達を意にも介さないまま、ヴァシネはその指先を俺に向ける。
そしてその瞬間――。
「――痛っ……つ!!?」
「おっちゃん!?」
「おじさま!?」
「よし、と……。見た感じどうやら上手くいったみたいかな?」
「ヴァシネ貴様……!! イルヴィスに一体何をした!?」
「え、こわ……相変わらず礼儀のなってないお人形さんだなぁ……。ま、そのうち分かるよそのうちね。そもそもの話、元々ほつれてきてたみたいだし?」
ほつれてきていた……?
一体何のことを……いや、聞いて答えるようならとっくに答えてるか……。
だったら……!
「ヴァシネ……お前はこの先に何を企んでやがる……!! このままフリゲイトのヤツらと結託して、アイツらの言う『魔王候補』とやらにでもなるつもりなのか……!!」
「うーん、まぁ彼らの目的と僕の利益を考えると、最終的にはそうなるのかなぁ? でも……そうなったらちょっと不自由そうだろう? ほら、僕って他人に縛られるのとか嫌いなんだよねぇ?」
「……っ!!」
ああ知ってるさ……!!
それで親父とおふくろも……!!
「だからもう少しぐらいは自由にやらせてもらおうかなって。まぁそんなワケで――」
「――〰〰っ!? ま、まて!!」
再びごうっと吹き荒れる突風とともに、俺たちの前からヴァシネは姿を消した。
……意図したものなのかそうでないのか、まるで俺にあてつけるかのようなその一言をこの場に残して……。
「――……魔王になるには早すぎる」
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支援者様向けにハクの『先祖返り』の姿を公開しました!