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番外編 ワールズレコード006:先祖返り

「おっちゃん……」


 グリフォンとの戦闘の後、元の姿に戻って寝息を立てるハク。

 その直後、ハクを支える俺の元にトリアとネルネが近づいてきた。


 ……ん、なんだ?

 なんだか怪訝な顔をしているというか――。


『だ、だめですおじさま……! そんなに激しくされたら……ハク、すぐに……』


『あっあっあ……、そんな……! そんなにされたらハク、もう……もう……!!』


 ……おっとー?

 これはまたおっさんの社会的信用が、悲鳴を上げることになる展開かな?

 つらい。


「おっちゃん……」


「いやまてまてまて! さっきのは変なあれじゃなくてだな……!?」


 本当にやましいことは無いんだが、こういう時ほど、つい否定に力が入ってしまうのはなんでなんだろうね?

 いやしかし、否定しなければそれはそれで問題なワケで……。

 だからその……。


「なんだかハクばっかりずるい! ボクのことなんてぜんぜん甘やかしてくれない癖にー!」


 いやそっちかよ!?

 いやそっちかよって言うツッコミもどうなのって話だけどね?


「ほらボクもー!! もっと褒めて!! なーでーてー!! 甘やかせー!!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ワールズレコード006:先祖返り

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それにしても本当に起きないね? なんだかちょっと心配になってきた……」


 デルフォレストからの帰り道。

 もうすぐ部屋につくってところで、トリアが不安を口にする。

 元の姿に戻ったハクは、あれからもずっと寝息を立てたままだ。


魔物(モンスター)との戦闘に先祖返り。どっちも初めての経験みたいだったしな。……けどまぁ、疲れきって寝ているだけだ。心配はしてやってもいいが、不安にはならなくていいぞ」


 ただでさえ、前日からダンジョンを歩き回っていたんだ。

 亜人とはいえ、まだ小さいハクにとっては結構な消耗だっただろう。


「で、でも……あんなに強いんなら、すっごくマナを消費するはずでしょ?」


「ま、まだ小さいハクが、そ、そんなに大きなマナプールを持っているとは思えない……。な、何か悪い影響が……」


「ん? そうか。お前たちは知らないんだな」


「え?」

「……え?」


 トリアとネルネが不思議そうにこちら見上げてくる。


「『先祖返り』は魔物(モンスター)の力を行使するだろ? つまり言っちまえば、その力の源も魔物(モンスター)と同じ魔素ってワケだ」


「え!? そうなんだ!?」


「せ、先祖返りっていう現象があることは、その、し、知ってたけど……。ま、魔素の話は知らなかった……」


 そのへんは亜人学の中でも、戦闘系第二学校の専攻分野になってくるからな。知らないってのも、別におかしくはない話だ。


 亜人の冒険者とパーティでも組んだりすると、戦闘構成の話し合いなんかでそういった話題も出てくるが……。

 そもそも『先祖返り』をおこせる亜人自体がそれほど多くないらしいからなぁ。


「じゃあさ、あんなに強いのにマナいらないってこと? すごい! 無敵ウーマンじゃん!」


 無敵ウーマンて。

 この語彙力よ。


「いや、そういうワケじゃない。……あー、そうだな、簡単に言えば『魔素による力を、マナによって制御する』とでもいえばいいのか?」


「えっと、肉体強化なんかと同じように、継続的にマナを消費してるってこと?」


「まぁそういうことになるな」


 細かいことを言えばもっと複雑になってくるんだが……。

 それは今は良いだろう。


「それに、魔素を使うってことはだ、逆に言っちまえば魔素が必要不可欠(・・・・・)ってことにもなってくる。基本的に人は体内に魔素を持ってないからな。それを『先祖返り』は、大気中の魔素を使って補うワケだが……」


「ま、魔素って、ダンジョンの外にはほとんど出てこないよな……? で、出てきても、ほぼ低ランクの魔物(モンスター)に変化しちゃうし……。じゃあ……」


「そういうことだ。『先祖返り』はダンジョン内でしか使えない」


 さらに言えば、力に比例して必要な魔素も多くなってくる。

 魔素は基本的に、ダンジョンの奥から流れ出てきて、その濃度なんかが魔物(モンスター)の強さやダンジョンの構造、いわゆる難易度につながったりするわけだ。

 

 デルフォレストレベルの最上級ダンジョンであれば、十階層も過ぎれば十分な魔素が確保できるだろうが……。

 例えばトリアの大好き(・・・)なバラバットセメタリーなら、十や二十潜った程度じゃ、少なくともハクは先祖返りをおこすことができんだろうな。


「む! 今おっちゃん、なんかいじわるなこと考えなかった!?」


 ……たまに見せるコイツのこういう鋭さは何なんだろうね。




「そう言えばおっちゃん、予定はいつにする?」


「予定? 何の話だよ?」


 トリアの唐突な話題に、俺は疑問符を浮かべる。


「さ、さっき言っただろう……? お、『おっちゃんには、いろんなコトにつき合ってもらわないと』って……」


 え゛。

 あれ冗談とかそういうのじゃなかったの?


「ふふん、なにしてもらおっかな~? 最近のおっちゃんはツンデレが過ぎるし、一日中つきっきりで甘やかしてもらおうかな~?」


 それは何というか……、絵面的に俺がキツイ……。

 いやまぁ正直『ブランドの装備品買って?』とか言われるよりは、可愛らしいもんだとも思うんだが……。


「ボクが褒めてって言ったら褒めてくれてー、撫でてって言ったら撫でてくれてー。……うーん、でもこれじゃあおっちゃんにもご褒美になっちゃうかぁ」


「わ、わたしはやっぱり、す、スライム的なことかな……? 新しいスライムの研究につき合ってもらったり……」


 スライム的○○。そろそろその単語にも慣れてきてる俺がいるよ。

 順応って怖いね。


「おっちゃんがいれば、す、スライムマンの改良にも手を出せそうだし……。あぁ、夢がふくらむ……! す、スライムなだけに……」


 こちらを見てドヤ顔になるネルネ。

 悪いけど、それお前が思ってるほどうまくないよ?


「あ、じゃあ二人で一緒に同じことしてもらうのは!? そうすれば……!」


「ふ、二人合わせて、二日分になるってことか……それは、い、良い考えかもしれない……」


 いや、その理論はおかしくない?

 きゃいきゃいと相談をする二人をよそに、俺は深くため息をつきながら、体勢がずれてきたハクを抱え直す。

 

 ――それにしても、ハクの力はすごかった。

 もしかしたらハクの『魔物血統(ハーフモンスター)』はランクSどころかランクSSの魔物(モンスター)だったりするんじゃないか?


 ……いやいや、いくらなんでも流石にそれは無いか。


 それにしてもお二人さん、随分と盛り上がってるようだが……。

 あんまり無茶な要求は勘弁してくれよ。

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