第24話 家族として
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「あくまで血縁的な意味で見ればの話だが……ハクは、私の娘では無いのだ。……もっとも、私自身はそんな風に思ったことなど一度もないがね」
「な……!?」
娘じゃあ無い……?
そんじゃあやっぱり、クリムとやらが知ることすらかなわなかったお腹の中にいた子供、それが……!
「それが……ハク……!?」
「……順を追って説明しようか。我が親友クリムの伴侶……名をシロエと言ってね。私は妻の死後すぐ、残されていた日記帳から彼女が狙われていることと……その理由を知ることとなった」
「理由……『天壌の恩恵』へと繋がる亜人の力……か」
「うむ。彼女は迷惑をかけまいと、クリムと妻以外には話していなかったのだがね」
……なるほどな。
ひょっとしたらクリムとやらが妊娠を知らなかったのも、そういった理由で言いあぐねてたのかもしれん。
「妻の最後の言葉の真意を知った私は、何とかしてシロエ本人からもそれを聞き出すことが出来た。そして……彼女を守るために妻の死を隠匿し、同時にシロエの死をでっちあげたのだ」
「でっちあげたって……あぁそうか、そういうことか……!」
「その通りだよイルヴィス君、私はシロエに変装魔法を施したのだ。……私の妻と、同じ容姿になるように」
……これで合点がいった。
嫌なハナシ、シャグヤス家の奥サマの訃報ともなりゃあ、仮にニュースにならなかったとしても噂の一つや二つ流れそうなもんだと思ったが……。
あくまでも、『死んだのは友人の奥サン』ってことにしちまったってワケだ。
影武者ならぬ影夫人とでも言ったところかね。
「彼女の死を偽装することによって……まぁその分不自由な暮らしをさせてしまったことは否めないが、実際シロエ自身が狙われることは無くなった」
「生前の友人を騙り、『思い出に遺灰や亡骸の一部を譲ってほしい』などと言ってくる輩がいなかった訳ではありませんでしたが……」
「なぁに、そういった連中は逆に分かりやすくて助かったよ、その嘘を理由に金輪際の接触を断つことが出来たからね。……何せこっちには本人がいる、浅い嘘など通じぬというものだ」
まぁそりゃそうだろうな。
それにしたって随分と胸糞の悪い話だが。
「ですが……変装魔法で繕えるのはあくまでも容姿のみ、記憶や人格はどうしようもありません。しかし父がシャグヤスとして商いを行う以上、社交的な場への出席を余儀なくされることもあります……もちろん、母も同じように」
「そこでだ、そういった部分からの綻びが出てしまわないよう、私とシロエは不仲を装い距離を置くこととした……別居という形をとってね」
……変装した奥サンが表に姿を現さずとも、別段おかしくはない状況を作り上げた……ってワケか。
そんでもってそれが、今ハクが暮らしている方の別邸ってことなんだろうな。
随分と大掛かりな別居もあったモンだとは思うがね。
「――そんな中、やがてお腹の子が……ハクが生まれ、私たちは皆一様にそれを喜んだ。だが同時に我々が……なによりもシロエが最も恐れていたことが起きてしまったのだ……」
「……ハクが、亜人として生まれてきちまったんだな」
「その通りだ。……体内に眠る亜人の血は確率で遺伝する。自分でこういうのもなんだが、今のシャグヤス家は名を知られ過ぎてしまった。確かに三、四世代の間を開けて亜人の血が遺伝することもそう珍しい話ではないが……」
……有名になればなるほど、情報の流出ってのは防ぎきれなくなるからな。
どっかの誰かさんがシャグヤス家の過去を調べようと思えば、場合によっちゃそう難しくはないだろう。
そしてそこに亜人の血筋が存在していないとしたら……。
「……我々は再び岐路に立たされた。生まれてきたハクがこの先、またシロエと同じように誰かに狙われながら人生を歩むのか、それとも……それを決定づける、重要な岐路に」
「そこは分かる、だがよ……」
「……お父様の言う通りシャグヤス家は界隈では名を知られ……政略結婚、というと大げさに聞こえてしまうかもしれませんが、そういう目線で我々を調べようとする者も少なくは無いのです」
「結婚って……おいおいハクはまだ11だろ……!? いや、生まれた後ってんならもっと小さくて……!」
「金を稼げる人間というのはねイルヴィス君、したたかでなければならないのだよ。……そしてそのしたたかさは、時に良識とは別のところにあるものだ」
「そうでなくとも我々商人の世界において、情報はお金と同等の価値を持ちます。となれば……」
「クリム夫妻は子を成すことなく逝去した。……と、そういうシナリオでなければならない……ってことか」
これがハクの……いいやハクと、シャグヤス家と、そして……生みの親であるクリム夫妻との真実……。
そして――。
「――ハクがシロエの娘であると……亜人として生まれたとなれば尚のこと、同じように狙われ続けることになるだろう……! そうならぬために、私たちはハクを遠ざけねばならなかった……『あれは不出来な娘』だと吹聴してでもだ」
……あぁそうか。
「出生をひた隠し、更にシャグヤス家からも勘当さながらの扱いをされ……そうして家系や血筋、身分から解放されることによってようやく……! ようやくハクは自由の身となれる……!」
今になってやっとわかった。
「ハクだけでは無い……! 事が露見すれば、ハクがいずれ築くであろうその家族も……子も孫も、その子孫すらも、未来永劫に狙われることになるかもしれんのだ……! その血をもって生まれてきたという、ただそれだけの理由で……!」
それでハクは……。
「そのような理不尽は、ここで断ち切らねばならない……!! 例えハクに恨まれようとも、私が……いいや、我々が、ここで……!!」
ハクはずっと――。
「……話は分かった、だが……だとしたら、今まで冒険者をさせてたのはなんでなんだ? 今になってやめろっつうぐらいなら初めっから……」
「……辛い思いをさせている分、望むことはなるべくやらせてやりたかった……というのが一つ。そして……万が一にも狙われるようなことがあった時、自らの身を守れるように……そういった意図が無いと言えば嘘にはなるだろうね」
「ハクが『先祖返り』を起こしたと聞いた時は驚きましたが……それもダンジョンの中だけならばと目をつむっていたのです。しかし……」
「そうも言ってられなくなってしまいました。なぜなら……ハクが、地上でも『先祖返り』を起こしたそうですね?」
「……!」
オウカでのヴァルハーレとの戦闘……。
ごくごく限定的な条件の元とはいえ、確かにあの時ハクは地上でも先祖返りを起こすことが出来た……それは紛れもない事実だ。
「秘密裏に情報を集めたところ、今回はそれがハクの出生の漏えいに繋がることはなさそうでした。ですがこの先も同じことが起これば……」
「更にはここに来て、『不落の難題』への注目も高まりだしている。そうなれば……いずれ嗅ぎつけられてしまう事だろう。ハクの母親が本当は誰なのかということを……」
そんでもってそうなった時ハクは……。
「改めてお願いだイルヴィス君……! 今のハクにとって、私よりよほど父親らしい存在である君の言葉ならきっとハクも……!」
「……!? そいつは――!」
「君さえ首を縦に振ってくれれば、オルハリコンの件は必ず私が何とかしよう……! 約束する……! いや、君が望むのならばそれとは別に、私が直接『写本』を落札して譲ってもいい……! ハクのためにもどうか……!」
「お願いします、イルヴィスさん……!!」
「どうかハクを……! 私たちの妹を……!!」
三者三様に、だがその誰もがハクのためにと……家族として頭を下げている。
その言葉と光景に俺は――。




