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第17話 おっちゃんってひょっとして

 ――ジンドラクラック第六十五階層。

 あれから一週間ほどの時間をかけて、俺たちは目当ての階層へとやってきた。


 本来ならもっと時間がかかるところだったんだろうが……『夢幻の箱庭』の恩恵で、体力や食料の温存をある程度考えなくて済むからな。


 攻略と撤退を繰り返せば、高ランクの魔物(モンスター)に遭遇したとしてもほぼ毎回全力で戦える。おかげでうちの子たちのさらなるレベリングにもつながった。

 あとは……。


「……どうだハク?」


「えっと……はい、感じます……! この先にとっても強い魔物(モンスター)さんがいるのを……!」


「階層図を見るに……やはり情報通りのようだな、イルヴィス」


「あぁ、ここまできて肩透かしだったらどうしようかと思ったぜ」


 ハクも感じている強力な魔物(モンスター)

 奴こそ俺たちがここまで潜ってきた目的(・・)の一つ。


 ――サキュバスアスモディアのネームド(・・・・)、魔王級『マディメア』。

 そいつがまさにこの先にいるってワケだな。


 サキュバスアスモディアはランクSS+、巨大な蝙蝠と人を合わせたような姿した、サキュバス系の最上位魔物(モンスター)だ。

 おまけにマディメア(ヤ ツ)は……。


「も、潜る前に聞いて回った情報だと……は、はじめて発見されたのは確か、に、二十年以上前って話だったな……」


「うむ、数年前にも一度、若い勇者を含むパーティが奴に挑んだらしいのだが……どうやら討伐には至らなかったらしい」


「にゃふふ! おまけにこの先の階層へ続く道はここ一本のみ! 常にぜつみょーなポジションに陣取ってて、隠ぺい系のスキルに長ける地図士たちにもお手上げだったみたいだねー?」


「つまり……こっから先の階層は少なくとも二十年以上は、誰も足を(・・・・)踏み入れ(・・・・)てない(・・・)……ってことだよね!」


 そういうことだ。

 その間もジンドラクラックでのオルハリコン採取解禁は何度かあったらしいが、未だにヤツは健在ときている。



 ――となれば必然的に、採取されていないお宝(・・)が大量に眠っている可能性もあるってワケだ!



「流石にこの深さまで潜りゃあ、不正をしてまでこそこそ横から手柄をかっさらっていこうとするようなヤツらはついてこれないだろう。……ハク、周りに他の魔物(モンスター)は?」


「えっと……大丈夫そうです。居るのはマディメアさん一体だけだと思います」


「うし、そんじゃあ早速ご対面と行こうか。……手筈通り、流石にコイツは俺から仕掛けるからよ、援護を頼むぜ?」


「ふふん、まっかせて!」


 ここまでの道中、トリア達のレベリングのために俺は手を出すのをなるべく控えていたが、相手が『魔王級』となれば話は別だ。

 こっちの全戦力をもって挨拶をかまさねぇと失礼に当たるってもんだぜ。


「そんじゃ、せーのでいくぞ……? せー……のっ!」


 合図とともに、まずは俺が一人で先行する。

 もちろん後ろからはトリア達も戦闘態勢に入っているが――。


「――ギキャアァアァッッ!!」


 ……予想通り、まずは()である俺に的を絞ってきたようだな!


 サキュバス系の魔物(モンスター)は冒険者に……特に男に向かって強力な『魅了』の状態異常を起こす攻撃を仕掛けてくる。

 今まさに口から超音波のように放たれたこの攻撃が恐らくそれ(・・)だろう。


 もちろんそれで自分に陶酔(・・)した冒険者を相手に直接襲い掛かることもあるが……たいていの場合、もっと性格の悪いやり方で仕掛けてくるってのは有名な話だ。


 例えば男だけのパーティが何の対策も無しに出くわした場合。

 『魅了』状態でまともな思考ができなくなった冒険者たちは、まるでそのサキュバスを絶世の美女として取り合うように、仲違い(・・・)をし始める。

 

 やがて泥沼の修羅場と化したパーティは崩壊、仲違いどころか同士討ちに発展し、ヤツはその隙をついてサクッと……てな具合だな。


 他にも、魅了状態にした冒険者を別の仲間にけしかけたり、こっそりリーダー格を魅了してまともな指示を出させないようにしたりと、奴らの底意地の悪さをあげればきりがない。


 当然、マディメア(ヤ ツ)もそういう魂胆だったんだろうが――。


「残念だったな! こちとら普段から美人さんに囲まれてるもんでアンタに目移りしてる余裕はねぇのさ!!」


 ステータスを引き上げ、『バッドステータス無効』を発動さる。

 そうしてヤツの色仕掛けを無効化しながら加速しつつ、そのまま飛びかかるように攻撃に移るが……!


「……〰〰っ!! ――ギキャアァァッ!!」


「ちぃ……!! そりゃ一筋縄ではいかねぇか……!」


 翼で弾かれたとはいえ、こっちは渾身のバッシュクラックを叩き込んだっていうのにまだピンピンしてやがる……!


 たとえ『魅了』攻撃を封じたとしても、素のスペックが他の魔物(モンスター)とはケタ違い……流石は魔王級、といったところか……!


 壊れたオーヴァナイフをクレハに預けている以上、俺は『オーヴァクラック』も『オーヴァボルド』も使えない。


 あげく、サキュバスアスモディアには『アカシックピクチャー』のような分かりやすい弱点(・・)も無いうえ、このスペースじゃあ『ヘブンリーフェニクス』の時のようにブレイブスライムも使えないときている。


 俺がフルで勇者級の力を使えるのは五分……楽々討伐っつうワケにはいかんね、どうにも。

 だが――!


「オジサン離れて! にゃふふ、出し惜しみ無しでいっくよー! ――『ジェネシオン……キャリバー』ッ!!」


「ハクも援護します! ――『ホワイトォ……フレーズ』!!」


 巨大な光の剣と白い閃光が、マディメアへと突き刺さる。

 流石に致命傷とまでははいかねぇが、魔王級を相手に牽制になるだけでも十分すぎるほどだ。


 ――そうだ、こっちは七大魔王との戦いも経験した心強い仲間が五人もいる。


 おまけにいざとなったら切り札(・・・)も無いワケじゃあ無い。

 不測の事態なんてもんが無けりゃあまず負けることは無いはずだ。

 となれば――!!


「ネルネ! ひとまずスライムマンで一気に畳みかける! エテリナとハクは続けて牽制を、トリアとクヨウは――!」





「――……ねぇおっちゃん、ちょっと聞いても良い?」


「……っと、どうしたトリア……!? こんなタイミングで……!」


 マディメアと対峙しながら指示を出していると、ふと足を止めたトリアが小さく問いかけてきた。

 なんだ? どうにも様子が……。


「うん、あのね……? その……おっちゃんってひょっとしてさ……」


 顔を少し背け、もごもごと言いにくそうに口ごもるトリア。

 本当にどうしたっつうんだ……!? ……まさか、事前に打ち合わせたヤツへの対策になにか重大な見落としでも――!!




「……おっちゃんってひょっとして――……ボクのこと好きなの?」


「……………………は?」

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