表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/230

第15話 いつでもウチに来るといい

「……すっかり寝ちゃってるね」


 ハクを抱えながら帰路につく。


 結局俺達は、昼前にはもうデルフォレストを脱出することができていた。

 運が良かった……と言っていいのかは微妙だな。

 ホントに運がよかったら、ダンジョンアウトに遭遇すらしないだろう。


「でもさー、何て言うか……すごかったね、ハク」


「う、うん、すごかった……」


「ええい、他人(ひと)事みたいに……」


 コイツらの言うすごかったってのは、もちろん、『先祖返り』の強さもあるんだろうが……。まぁ十中八九、ハクのあの様子(・・・・・)のことだろうな。

 

「け、けど……た、確かによく考えたら、そんな片鱗はあったように思う……」


「あー、確かにそうかも」


「そうかぁ?」


 俺にはそんな素振そぶりは見えなかったがなぁ。


「だって最初に『不安だったけど、おじさまになら頑張って見せます』って言ったんだよ?……おっちゃんはマヒしてるかもだけどぱんつ(・・・)だからね? いくら助けてくれた人が相手でも、普通そうはならなくない?」


 た、確かに……。

 つかそれ、お前が言っちゃう?


「わ、わたしみたいに、実際にそういう現場を見てたワケでもないしな……。み、見せるにしても先に、『あの噂は本当ですか』って確認すべきところだ……」

 

 た、確かに……!!


 つーことはあれか? 

 その時点でハクはもう、結構なレベルで俺を慕ってたってことか?

 実感はわかんが、憧れ(・・)ってのはそういうもんなのかもしれん……。

 

 というか……。


「トリア、ネルネ。お前達ひょっとして……女の子の気持ちがわかるのか?」


「おっと、これはボクたち怒ってもいいとこかな?」


「こ、これは今度、いろんなコトに、つ、付き合ってもらわないとな……」





 ――数日後。

 あの後、改めてフラモネの花を採取した俺達は、ハクと共に、シャグヤス家の屋敷の前へとやってきていた。


「……ねぇ、なんでボク達こんなこそこそ見守ってるの?」


「なんて説明すんだよ。ただの冒険者がついてくるってのも不自然な話だし、三十五のおっさん含む三人組が、いきなり『この子の知り合いでーす』なんて言ってきたら……」


「た、確かにそれは……よ、容赦なく怪しいな……」


 だろう?

 そんな話をしていると門が開き、中から人が現れる。


「あ……、おねえさま……」


「……なに? ここには来るなと言われているでしょう?」


 出てきたのは、どうやらハクの姉のようだ。

 ……あまり歓迎している態度じゃなさそうだがな。


「はい、すみません……。でもその、おとうさまが病気だって聞いて……! それで、これを……」


 姉に向かってフラモネの花を差し出すハク。

 なるほど、フラモネの花には万病を打ち消す力がある……と、おとぎ話なんかで良く言われているからな。


「……ふぅん、点数稼ぎかしら? ……まぁいいわ、渡しといてあげるから、よこしなさい」


「あ…………。はい……」


 目に見えて沈んだ表情をするハク。


「あ、あの、おねえさま! その花はハクが、冒険者さんの力を借りて自分で摂りに行ったんです……! せめてそのことを、おとうさまに伝えてもらえますか……?」


「はいはい、伝えといてあげるわよ、それじゃあね」


 おざなりな返事とともに、音を立てて門が閉まる

 ……あんまり、見ていて気分のいい光景じゃあなかったな。




「……ハク、おとうさま達とは別のおうちに住んでるんです」


 屋敷からの帰り道、ハクがぽつりと、こぼすように語りだす。


「おかあさまが死んじゃってから……ううん、それよりもっと前から、ハクはおとうさまに会ったことがありません。……サインもじいやにお願いしたんです」


 クエストの依頼書、保護者のサインのことか。


「みなさんのおかげで、おとうさまにお花を届けられました。それはホントに嬉しくて、とっても感謝してます!……でも本当は、頑張って摂ってきたら、おとうさまが褒めてくれるかもって。ううん、褒めてくれなくても、せめて一目だけ……」


「ハク……」


 ……シャグヤス家が亜人の伴侶を迎えた、なんて話は聞いたことがない。

ならばハクの母親は……、まぁそういうことなのだろう。


 つまりハクは亜人だから疎まれているわけでは無いのだ。

 本質的に言えばな。



『――えっと、その……、おじさまは……、ハクが亜人でも、嫌いにならないでいてくれるんですか……?』



 デルフォレストで、ハクが亜人だと露見したときのことを思い出す。


 あーくそう。大人っつーのはずるくて嫌になるねホント。

 ……自分を棚に上げちまうような、俺自身も含めてな。




「おとうさまに会いたいだなんて、ハクはやっぱりまだ子供なのかな……?」


「……いいじゃねぇか。大人なんて、なりたくないって思っててもいずれはなっちまうもんさ」


「でも、せっかくおじさまに大人の女性(・・・・・)にしてもらえたのに……」


 おっと、また『扱い』が抜けてるぞ?

 気を付けてくれないと、おっさんの社会的信用はそろそろ息をしてないよ?

 ……まぁそれはそれとしてだ。


「なぁハク。寂しいとか、つらいとか、そういう風に思う時があったら、いつでもうちに来るといい」


「え……?」


「うちにはだいたいやかましいのがいるからなぁ。寂しいなんて思ってる暇、無くなっちまうぞ?」


「むー、おっちゃん! やかましいってボクのこと!?」


 お、良く分かってるじゃないか。

 珍しく自己分析ができてるな。

 

「で、でも、ご迷惑じゃ……」


「遠慮すんな。どうせコイツらも入り浸ってるんだ。今さら一人増えたところで変わらんよ」


「そうそう! おっちゃんの部屋はもう、みんなのモノみたいなトコあるからね!」


 ……いやまぁいいけどさぁ。

 それをお前が言うのは、ちょっと違うくない?


「ま、もちろんハクがイヤじゃなければの話だが……」


「イヤだなんてそんなこと……! ハクとっても嬉しいです! あの……たくさん、たくさん行ってもいいんですか!? ま、毎日とか……」


「そりゃ別にかまわんが……学校や友達も大切にしろよ?」


「はい! お勉強もお友達も、ちゃんと大切にします!」


 ま、それなら俺はどうこう言わんさ。

 外に出る時間なんかは、少し考えてやらんといかんかもしれんが……。


「ちなみにおっちゃんがいないときでも大丈夫だよ! ほら!」


 ……ん?


「これって……?」


「あ、合鍵だ、おっちゃんの部屋のな……。わ、わたしも型を取らせてもらったから、き、きっとハクももらえるぞ……」


 …………え?

 おい待て流石にそれは……。


「合鍵……! ホントにいいんですか!? どうしよう……ハク嬉しすぎて……! ぜったい、ぜったい大切にします……!!」


 うわー、すっごいキラキラした目で見つめてくるよ?


 流石にこんな小さな女の子に合鍵を渡すおっさんってのは、マズいを通り越して、最早ヤバいだろ……。

 ちゃんと言わねぇとな。ちゃんと……。


「あーそのだな……」


 ハクはキラキラした目でこちらを見ている。


「その……」


 ハクはすごくキラキラした目でこちらを見つめている。


「…………今もうストック無いから、新しく作るの待っててくれる?」


「はい! えへへ! 嬉しいなぁ……!」


 ……いや言えないよ?

 むしろこの空気で言えるヤツいるのコレ?





「おじさま! 何かお手伝いすることはありますか!?」


「おじさま! 肩を揉みましょうか!?」


「おじさま……、その、お、お背中お流します……!」


「…………」


 あれからハクは、ホントに毎日のように家に遊びに来るようになった。

 もちろん、学校が終わってからだが……。


「はーいおじさま? うごいちゃだめですよー?」


「え、あぁ、はい……」


 俺は今、ハクの膝に頭を乗せて、耳かきをされている。


「……お、おっちゃん。……流石にこの見た目は、ど、どうなんだ……?」


 言うなネルネ。俺だってわかっている。

 だがどうにも、ハクのあの目で見つめられると、断りきることができんのだ。

 

「いいんですネルネさん、これは普段のお礼ですから! ……はい、おじさま、終わりましたよ?」


 ハクはネルネの『どうなんだ?』という言葉を、ちょっと違う意味で解釈したようだ。

 思考は純粋で健全なんだよなぁ……。


「お礼? おっちゃんに?」


「はい! 昨日もソファの上で、『ほら、俺のが入っていくのが分かるか?』って、優しくシてくれて……」


「おっちゃん!!!? 今度こそ!!? 今度こそなの!!?」


「あわわわわわわわわ…………!」


「いやお前たちもいい加減慣れろよ……? 冒険者を目指すっつーからマナ操作の手ほどきをしてやってたんだよ。肉体強化なんかのな」

 

 ハクがマナを完全に使いこなせるのは、まだあの姿の時だけみたいだ。


 他人のマナを体感するのはマナ操作の第一歩、強化(バフ)スキルなんかは、これの応用だったりするしな。

 ……しかしこれは、俺も言葉に気をつけんといかんのか?



「そういえばさ、ハクって何の魔物(モンスター)の亜人なの?」


「え? えっと、確か昔おかあさまに聞いたときは……」


 お、ハクの『魔物血統(ハーフモンスター)』か。

 そういや、まだ聞いたことなかったな。


「……あ、そうです! 確か『ウルトラスーパースペシャルアルティメットゴッドドラゴン』だって言ってました!」


 …………え?


「あ、分かりづらかったですか……? えっと、ウルトラ、スーパー、スペシャル、アルティメット、ゴッドドラゴン、です!」


 いや聞き取りづらかったとか、そういうワケじゃないんだが……。


「あーハク? それはえっと、あの魔王級の……?」


「え、そうなんですか?」


 うんそうだよ?

 そりゃ強いわけだね。


「あ、亜人の……、しかも子供のハクであの強さ……。じ、実際の魔物(モンスター)はどれだけ強いんだろうな……」


「ラーメンにするなんてもってのほかだよ! おっちゃん!」


 いやそれ言ったの俺じゃねぇよ。


「? らーめん、ですか?」


「うん、おっちゃんは勇者を目指すために、『魔王級の魔物(モンスター)だってラーメンにしてやるぜ』って言ってたんだ」


 言ってねぇー!!!! 言ってねぇよそんなこと!?

 お前の記憶回路はホントにアレだな!?


「勇者……! おじさまは勇者を目指してるんですか!?」


「いや、違うぞ」


「あれ!?」


 早めに訂正しとかんと、またあのキラキラおめめがくるからな……。


「うーちょっと残念です……。 ハク、おじさまが勇者になったらすごくかっこいいと思うのにな……」


「いやほら、もうおっさんも無理のきかなくなってくる歳なんでな、だから――」


 ハクの頭を撫でながら、俺はまたもやそのセリフを口にすることになる。



「勇者になるには遅すぎる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「トリア、ネルネ。お前達ひょっとして……女の子の気持ちがわかるのか?」←さすがにこれは失礼www しかし、まさかまたその名前を聞くことになるとは...ウルトラスーパースペシャルアルティメッ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ