第1話 最後のクエスト
気付けば自室のベッドの上で転がりながら天井を見上げていた。
……あの後のことは、正直あまり覚えていない。
「ま、いつものことだよ、いつもの……」
そうだ、こんなことは今までに何度もあった。
原因は分かってる。――俺が、弱いからだ。
この世界の人間はマナが発現する十二歳から十五歳ごろになると、戦女神ガッチャによって一つの恩恵が与えられる。
『スーパー大器晩成』
それが俺、イルヴィス・スコードに与えられた恩恵の名だ。
『道のりは長く、険しく、厳しい。されど、いずれ勇者をも超える存在に至るかもしれない』と、そんな風に言われた時は、随分舞い上がったりもしたもんだ。
両親を早くに亡くし、良いことなんざほとんど無かった俺にも、やっとチャンスが廻ってきたと思った。
強くなって、『勇者』の称号を手に入れれば俺だって……なんて風にな。
そっからはもうがむしゃらだ。
頭も体も、時間も金も、使えるもんは全部……っつーのは言いすぎだが、惜しまず使ったのは間違いない。
人一倍努力した、なんて自分で言うと薄っぺらくなっちまうが、実際結構頑張っていたんじゃないかと思う。
……気付けばもう35歳。
レベルは60目前だ。
年齢+5もあればもてはやされる中での+20以上、上等なもんだろう。
……俺の基本戦闘力が、『駆け出し冒険者よりはマシ』なんて程度でなければ、もっと自慢もできるんだがなぁ。
――スーパー大器晩成。
その効果を本当の意味で理解し始めたのは、冒険者になってからしばらく経ってのことだ。
なにせ同世代の奴がどんどん強い魔物を倒していく中で、俺はと言えば格が二つ三つは落ちる相手に右往左往。
そりゃいくら鈍いやつでも『あれれー?』なんて思ったりもする。
わかりやすく言や、『いつかは信じられないぐらい強くなるがそれまではひくほどにクソザコ』と、そう言うことなんだろう。
……泣けてくるね、ホントに。
やがて個人では限界だと感じた俺は、パーティを組むことを考えた。
……が、自分で言うのも悲しくなるが、はっきり言ってそんな俺を迎え入れてくれるパーティなどありはしない。
なので荷物持ちとして各パーティに随行し、その報酬を装備品にあてることで少しでも効率よく、レベルや戦闘力をあげていくことに努めたわけだ。
マジックアイテム『背中の一坪』。
多量のアイテムが収納できるそれとの適性があったのは幸いだった。
借金をして何とか手に入れることができたのは型落ちの物だったが……おかげで報酬とは別に戦利品なんかのおこぼれをもらうことあったからな。
……プライド? 何それおいしいの?
レベルが30を越えたころだったか、冒険者の中でけっこう大きな噂になったことがあった。
まぁもちろん良い意味じゃない。
『どれだけレベルが上がっても荷物持ちしかできない役立たず』なんてことを、それから何度言われたもんかねホント。
そんな俺を、アルティラたちは快く迎えてくれた。
いつだったっけなぁ『このまま一緒にパーティに入らないか』なんて風に言われたのは。
……いや、何を強がってんだか。
ホントは今でも、あの日のことは忘れられないくせによ。
「はは、未練がましいね。情けない奴だよ、ホントに……」
努力は人を裏切らない、なんて言葉がある。
肯定する奴も否定する奴もいるが、俺はこの世で一番、その言葉を信じていたんじゃないかと思っている。
……いや、縋っていたというべきか。
馬鹿にされようが見下されようが、諦めず、努力して、強くなって、その先にはきっと……きっと報われる日が来ると、そう信じていた。
「……もうやめちまうか。全部、な」
――つい、先ほどまでの話だ。
……………………
…………
……
「あ、イルヴィスさん、おはようございます」
「どうも、リィンさん」
翌日の早朝、俺はなじみの店に顔を出していた。
店主のリィンさんは、俺より十、いや、十五は若く見えるが、俺がガキの時からずっと変わらないままだ。しかも美人。エルフってすごい。
「今日はどうされたんですか? あ、ひょっとして装備品の新調ですか?」
「いや、今日は……」
基本的にこの店は、リィンさんが精製した回復薬なんかのマジックアイテムを扱ってるんだが、商人ギルドにも登録しているため、流通の仲介や武器や装備品なんかの売買なども引き受けてくれる。
つまり……。
「――え!? 装備品を全部……ですか!? だってこれ、結構良いもので、イルヴィスさんすごく頑張って集めてたのに……」
「ええまぁ、いわゆる引退ってやつでして。いろいろ助けてくれたリィンさんには申し訳ないんですけど……」
「いえ、私のことは……。でも……」
俺が今の装備をそろえられたのは、はっきり言ってリィンさんのおかげだ。
彼女が居なければ、蘇生屋に払う金だけで今頃破産していたかもしれんね。
まぁそうなると、今までの俺の経緯も知っているわけで……大分、言葉を選んでいるようにみえるなぁホント。
まいったな、そんな顔をさせたかったワケじゃないんだが……。
「いや、別に悲観ばっかしてるわけでもないんすよ? こう、肩の荷が下りたっつーか……。これからはこの『背中の一坪』を使って、配送業の真似事でもしようかなって感じで……」
「そうですか……。――イルヴィスさん、今までお疲れさまでした」
俺の一言に、リィンさんは少しだけ微笑みながら、小さくぺこりと頭を下げた。
たったそれだけで、なんとなく少しだけ報われたような気分になってしまう。
彼女の優しさのおかげか。それともただ単に俺が単純なだけなのか。
……後者じゃないと思いたいところだね。
「それじゃあ新しい門出のお祝いに、査定にも少し色を付けておきますね?」
「いやいや! そんな悪いっすよ……!」
「ふふ、いいんです。私が発注した小さなクエストを、いつも引き受けてもらってましたし……」
それは俺が弱いからそうだっただけで、むしろ俺の方が助かってたっつーか……。
……ん? クエスト? クエストか……。
「だったら、こいつら売る前に何かクエストとかないですか? もちろん、正式にギルドを通してるわけじゃないんで、報酬はいりませんから」
「えぇ!? そんな、悪いですよ……!」
「いいんすよ、査定のお礼ってことで」
ふと思いついた俺の提案に、リィンさんが遠慮をするように手を振る。
「それに、俺が初めて引き受けたクエストはリィンさんがギルドに依頼したものだったんすよ。最後のクエストが同じ人からってのも、なんだかこう、乙なもんじゃないですか?」
「……ふふ、そうですか? わかりました、それじゃあ――」
思い付きで口にしてみたが、これは結構いいアイデアなんじゃないか?
上等なもんだろう、俺の冒険者生活、最後のクエストとしてはな。
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