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第14話 おっさんにはキツイ台詞

「すごい! ホントに先に進んでる感じする!!」


 現在、俺達は恐らく第三階層まで歩を進めていた

 ハクの指差した方向はやはり正しかったってワケだ。


「これならもう階層図必要ないね!! ねぇハク! 次の階層はどっちなの?」


「えっと……、あっちの方だと思います」


「よしゴー!!」


「あ、こら待てトリア!!」


 ハクの言葉を聞いて、はじけるように飛び出すトリア。

 ええい、犬かあいつは。

 そのまま俺の制止も聞かずに走っていき――。



 ――がっつりトラップに引っかかってものすごい勢いで逆さ吊りにされていた。



「わあああぁぁあぁ!!? と、トリアさん!!!?」

 

「あーあ、まったく……」


トラップの存在をすっかり忘とったなコイツは……。




「ひっぐ、えぐ……」


「お前なぁ、慎重さと深刻さは違うっつったろうが……。深刻にはならんでもいいが、慎重さは忘れんなよ?」


 一人だったら魔物(モンスター)のいい的だぞ。

 サンドバックも真っ青だよ。


「あの、トリアさん泣かないでください……もう大丈夫ですよ?」


「ぐしゅ……うん……」


 吊り上げられた時の衝撃が思った以上に大きかったようで、ぐしぐしと泣いているトリアと、それを慰めるハク。


「は、はたしてどっちが年上なのかな……? なんて……」


 言ってやるなネルネ。

 俺も同意見じゃないとは言わんがな。





 デルフォレスト第八階層。

 ……ぐらいだろう、恐らく。


 ここはビジレスハイヴなんかと違って階層が横に広がっているからなぁ。階層の深度が体感しづらい。

 ハクがいなけりゃ最低でも数日、下手をすればもっと彷徨っていたかもしれんねホント。

 

 たき火を起こし、食事の準備をしながらそんなことを考える。


「明日はいよいよ十階層を越える予定だ。きつくなるかもしれんから、しっかり休んどけよ」


「まぁ今回はボクにまかせといてよ! でもこの次はしっかり楽をさせてもらうつもりだから、安心してねおっちゃん!」


 なんだよ安心してってのは。


 というかさせんぞ。

 俺が未だにこんなことをしてんのは、元をたどっていくと、だいたいお前のせいだったりするんだからな。


 背中の一坪(リビングパック)に残っていた、長期保存用の食料をとりだす。

 途中、リトルワーグを仕留められたのは大きかった。

 

 狼の魔物(モンスター)であるワーグより、もう一回り小さいコイツは、血液のかわりに魔素によって体を動かしている。

 つまり血抜きが必要ないわけで、こういう状況ではことさらありがたいね。


 調味料、スパイス、ハーブなんかはある程度常備もしてある。

 深層を目指すのならば、こういったことも必要となってくるからな。


 ……まぁ俺がこういうことを身につけたのは、また別の理由だが――。


「……おじさま?」


「ん? ああいや、なんでもねぇよ。……なんでもな」




 デルフォレスト第十二階層。

 ……なんじゃないかなぁ、多分。


 ハクが『いつもと違う感じがする』という方向に向かって歩を進める。

 そいつが特異点だと良いんだが……。


「あのおじさま、もしも間違ってたら……」


「気にすんな。どっちにしろ、他に当ても――」


 ――そこまで口にした瞬間、がさりと大きな音がした。


 同時に襲い掛かってくる魔物(モンスター)の影。

 俺はソイツからハクを庇うように、胸へと抱き寄せる。


 鷲の上半身と獅子の下半身。

 ……グリフォンか、とうとう出たなランクA+。

 ソイツは大声でひと鳴きすると、ハクが指差した方向に陣取った。


「……おいおい番人でも気取ってんのか? 特異点の信憑性に箔をつけてるようなもんだぜ」


「おお! たしかにね!」


 ハクを庇ったままナイフを構える。

 相手はランクA+、確かに強敵だがこっちはランクSとだって渡り合ったんだ。


 ハクのおかげで大分マナも節約できた。

 最短ルートをたどったおかげか、それほど魔物(モンスター)にも遭遇しなかったしな。


 トリアと俺、サポートにネルネがいる現状、負けることはないだろう。

 もちろん油断は禁物だが……。


「おじさま……! 腕が……!」


 そんな中で、ハクが心配そうに声を出す。


 道中は肉体強化も最小限に抑えていたため、グリフォンの初撃で、結構な傷をつけられたようだ。

 だがこれくらいなら……。


「大丈夫だ、心配しなくていい。……それより今はまだ俺から離れるなよ?」


「お、おっちゃん、ヒールスライムを使うか……? そ、それともまた……、す、す、スライムマンを……!!」


 ええい、興奮すんじゃないよこんなときに。

 よっぽど俺に、あのドロドロになってほしいのかコイツは……。


「おじさま……ハク、ハクは……」


 おっと、それよりも今はハクだ。

 ……随分と気に病んでるのか、それとも高ランクの魔物(モンスター)に怯えてるのか。

 ハクがふるふると震えながら顔をあげる。


 無理もない、なんのと言ってもハクはまだ子供……。



「――あぁ、おじさま……! ハク……、ハク嬉しいです……! おじさまがこんな……、こんな風になってまでハクを護ってくれて……!」



 …………………………んん~?

 あれ、なんか思ってた反応と違うぞこれ。

 

「この傷はハクのための、ハクだけのためのモノ……。ハクは悪い子です……。おじさまが傷ついてるのに、それがハクのためだって思ったら……ふふ……!」


 なんだかうっとり傷口を見つめてるんだが……?


 これはそう、なんというか……あれだ。

 ……ハイライトさんは何処(いずこ)へ? ってやつだ。


「それでもやっぱり、あの魔物(モンスター)さんは許せません……」


 ハクは名残惜しそうに身体を離すと、グリフォンの方へと向き直る。


 ……っていやいや、何をやってんだ俺は!?

 あっけにとられたからって、思わず腕を緩めて……。


「おじさまを傷つけた……おじさまを傷つけた……おじさまを傷つけた……」


「あ、あのハク……? ハクさん……?」


 すごいぶつぶつ言ってる!!

 すっごいぶつぶつ言ってるよコレ!?


「お、おっちゃん……? な、なんだかハクの様子が……お、おかしい……」


「いや、それは俺もわかっとるんだが……」


「そっちもだけどおっちゃん! あたま! あたま!」


 トリアに言われて気が付いた。ハクの頭から、巨大な角が生えていく。

 それだけじゃあない。体のあちこちが魔物(モンスター)のように変わっていって……。


「こいつは……『先祖返り』か……!」


 亜人というのは、遥か昔に、何らかの(すべ)をもって魔物(モンスター)の力を取り込んだヒュームの総称だ。


 今は失われてしまった技術だが、亜人の遺伝子は確率で受け継がれれるため、今でも世界には相当数の亜人が存在している。

 そしてその一部は、今でも魔物(モンスター)の力を行使することができるってワケだ。


「安心してくださいおじさま……。おじさまの(かたき)は……ちゃあんとハクがとりますからね……?」


 そう言い残し、怒涛の勢いでグリフォンへと向かっていくハク。

 その姿を見て俺は思った。


「……いや俺死んでないからね!?」




「……うわー、ハクすごいね、おっちゃん」


「ほんとになぁ」


「い、いいのかおっちゃん……? ただこうして見てるだけで……」


「いやまぁ、良くは無いんだが……」


 ハクは恐らく、初めて『先祖返り』を起こしたのだろう。

 他人との連携など、まるで考えていないような戦い方だ。


 下手に横入りしてリズムが狂えば、ハクの方に危険が及ぶ可能性もある。

 もちろん、いざとなれば即座に動ける体制をとっちゃいるがな。


 ……いやでも互角どころか、ほぼ圧倒してるんじゃねぇのコレ?

 相手ランクA+だよ? 俺らの立つ瀬なくね?

 グリフォンもそれを察したのか、一度空へと退避する。


「逃がしません……!」


 ハクが目を見開き、クワっと口を開ける。

 すると、口元に光が集まっていき……。


 次の瞬間、放たれた閃光に飲まれ、グリフォンは姿を消したのだった。



「ハクお前すごいな……」


 思わずそんな言葉が出る。

 結局子供に任せたまま、俺達の出番はなかったワケだが……。

 いやホント、悪い大人の見本だよコレ?


「まだです……」


「え?」


「おじさまを傷つける魔物(モンスター)さんはまだたくさんいます……それを全部、根絶やしにしなきゃ……」


 おいえらい不穏なこと言っとるぞ!?

 もういいから! おっさんそんなこと望んでないから!


 それに……。


「気持ちは嬉しいがな、流石にこれ以上はもうダメだ」

 

 先祖返りに大きなリスクは無いと聞く。

 だが、流石に子供の体にはそれなりに負担のはずだ。


「……だいじょぶです。ハクはおじさまを守るためならなんだってします。たとえおじさまにだって邪魔はさせません……!」


 ねぇそれ言ってて変だと思わない?

 対象が両方とも俺なんだよ?


「今のハク、きっとすごく強いです。もちろん、ハクはおじさまのことを傷つけたりなんかしませんよ? でも――今のハクに、おじさまはついてこれますか?」


 一瞬にして、ハクが視界から消える。

 確かに早い、グリフォンを圧倒するワケだよコレは。

 だが……。


「……まったく、これ以上はダメだって言ってるだろうがよっと……!」


 俺は肉体強化を駆使すると、即座にハクの目の前へと立ちふさがる。


「お、おじさま……!?」


「悪いなハク? ……こう見えて俺は、お前より結構強いんだ」


 こっちはこっちで最上級冒険者なんだぜ?

 望んでなったわけじゃねぇけどよ。


 ひとまずハクの動きを、抱きしめるような形で封じ止める。


「……あ、おじさま……」


 そしてそのまま……。



「わしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!」


「わひゃあ!!」


 ハクの頭をわしゃわしゃと撫でてやった。

 ほれほれ、どうだどうだー?


「だ、だめですおじさま……! そんなに激しくされたら……ハク、すぐに……」


「いーや、やめんね! ほーらほら、ハク頑張ったなー? えらいぞー?」


 頭だけじゃない。

 猫をあやすように、のど元もころころと撫でてやる。


「あっあっあ……、そんな……! そんなにされたらハク、もう……もう……!!」



「ふにゃぁぁぁ……!」


 可愛らしい声と共に、ハクが元の姿へ戻っていく。

 ……思った通りだ。


 ハクの原動力が、……その、まぁあれだ、……俺への想い? 的な? それだっていうのなら、そいつを満たしてやればいい。


 ……いやホント、こんなん言って許されるのはイケメンだけだろ……。

 おっさんにはキツイ台詞だ。


 ま、実際には大人への憧れ(・・)みたいなもんが大きいんだろう。

 女の子ってのは成長が早いからな。


 腕の中で眠るハクを見ながら、そんな風に思ったりした。

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