第6話 究極のスキル
「おかしい……いくらなんでもおかしすぎる……」
一人で街をぶらつきながら、ついそんな独り言が口をつく。
何がそんなにおかしいのかと言えば……最近ちょっと、そっち系のトラブルが多すぎるんだよなぁ……。
以前からこういうことが全くなかったワケじゃあ無いが、それにしたって最近の遭遇率は異常と言ってもいい。
……思えば引きこもり復帰後の対人戦のころからか?
その夜のウリメイラの部屋でのことも、翌日のねぇちゃんの店でのことも……いや、そんだけじゃあ無ぇ。
他にも――。
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『あれおっちゃん……? ……あそっか、ボクまたおっちゃんのベッドウトウトしてて、って……服? ボクの服がどうし…………うひゃあ!? ……む~、おっちゃんのえっち!! えーっち!!』
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『お、おっちゃん……!? そ、それはスライムじゃなくてわたしの、む、む、むねで……!! ……う、ううんだいじょうぶだ……。わ、わざとじゃないのは分かってるから、き、気にしなくていい……』
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『きゃ!? ご、ごめんなさいおじさま、今日はすごく汗をかいちゃったからシャワーをお借りしようと思って……! ……いえそんな! むしろ鍵をかけ忘れていたのハクの方ですから、えへへ……!』
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『にゃふふ! ほらほらオジサン! エテリナちゃんのー? ぷにぷにやわらか攻撃だよー! 興奮する? 興奮しちゃう? ……にゃーんこわーい! おそわれちゃうー!! にゃふふふふ……!!』
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『……なっ!? た、確かにこれは私の下着だが……ま、紛れ込んでいた? そ、そうか、それはすまなかった…………ん? なぜこれが私のものだと……見覚えがあった!!? お、お前……お前という奴はぁ!!』
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などなどなど、挙げていけばキリがねぇほどだ。
……いや一人確信犯的なヤツがいるなコレ。
ともかく、おかげで最近の俺のヒエラルキーは、地を這うどころか『それ地面に潜り込んでいってるんじゃねえの?』ってレベルまで急降下している気がするね。
いやまぁ完全に俺の不注意が招いた状況もあるってんのは分かってんのよ?
なんなの? おっさんの脳にはもうガタが来ちゃってんの?
このままボケていっちまうってのは勘弁してほしいところだが……。
と、そんなことを考えながら一人とぼとぼ歩いていると……。
「…………」
……まーたつけられてるな、どうにも。
ねぇちゃんの店でも妙な視線を感じたりしたが……。
ま、別に今に始まったことじゃあ無い。
むしろ変に名が広まっちまってからは、こういったことも少なくないからな。
となると……また記者の連中か? いや……。
……そうだな、ここは逆に釣ってみるか。
となると……ここいらで比較的人の少なそうな場所と言えば――。
……………………
…………
……
町の外れ、ナザリアの森の近く。
以前、エータのヤツが暴走したとき暴れてた場所だな。
ここなら人通りも少なく、何か仕掛けてくるには持って来いの環境だろう。
さて――。
「……!」
不意に、地面に大きな影が落ちる。
かと思えば間髪入れず、ズドンと大きな音を立てながら、巨大なにかが目の前に降ってきた……!
コイツは――!!
「グフフ……! 残念ながら、ここは通さないでゴンスよ~!」
巻き上がった土煙の中から現れる、三メートルほどのその巨体。
そいつが大手を広げながら、俺の行く手を阻むように立ち塞がる。
この大きさ、こいつは……ジャイアントか!?
となると……いやまて? こんなでけぇヤツに尾行られててついさっきまで気が付かなかったのかよ俺は。
どんだけアホウなんだ……。
「――フッフッフ……! どうやらアッチ達の思惑通り、お仲間さんには見限られてしまったようデシね!」
「さすがはデシレ様! ほれぼれするほどにみごとな作戦でヤンス!」
「でっしょー? ま、アッチにかかればこんなものデシ!」
……とか思ったのも束の間、大男とは反対方向から別の二人組が現れる。
どうやら尾行てきていたのはこっちの二人で、でっかいのには先回りをされてたらしいな。
俺がニブイわけじゃねぇと判明したのは良かったが……ジャイアントとドワーフの男が二人、それとフェアリーの少女が一人、か。
またえらくアクの強そうな連中だが、とりあえず気になるのは――。
「『見限られた』だぁ? 何の話をしてんのかは分からんが……はじめましてと自己紹介をされるシチュエーションとしちゃあ、いささか穏やかじゃねぇようだが?」
「ふふーん、強がらなくてもいいんデシよ~? ここ最近、おじさんがパーティを組んでる女の子たちから疎まれてるっていうのはしっかりとお見通しデシ!」
ツインテールを揺らしながら、びしっと指をさしてくるその少女。
…………え!? 俺あいつらに疎まれてんの!?
……いやいや、そんなはずは無い。
そりゃ手放しに心酔されているとまでは言わんが、露骨に邪険にされるほど嫌わてるワケじゃあ無いはずだ。
…………え、ないよな?
いやでも確かに最近、そっち系のトラブルが多かったりしたしそれで……。
やーばい、急に不安感が押し寄せてくるぞ……。
「お、随分と顔色が悪いみたいでゴンスね~?」
「これはやはり図星のようでヤンスよデシレ様!」
「フフフ、とうぜんデシ! さー隠していても無駄デシよ! どうせお仲間の女の子たち相手にあーんなことやこーんなことをして、とうとうパーティから追い出されたに決まっているデシ!」
……!
なるほど、そういうことか。
以前、トリア達を手籠めにしてるとかなんとか、根も葉もない噂が立ったことがあったからな。
おそらくコイツらもそれを鵜呑みにしてきたんだろう。
「ったく……。お前らがどんな噂を聞いたのかは知らんがな、俺はあいつらに手を出したことなんざ一度だって……」
「いーや、身に覚えがないとは言わせないデシ!! それがそう……たとえ単なる偶然だったとしても、手を出したことにはかわりないデシからね!!」
「えぇ……?」
いやまぁそこを責められるとおっさんも痛いところがあるのは確かなんだが……。
……いやまて? コイツら今なんつった?
『ここ最近』『たとえ偶然だったとしても』、だと……? そいつはつまり――!
「どうやらやーっと気付いたようデシね!」
「グフフ……! オイたちは知っているでゴンスよイルヴィス・スコード!! 今おんしの身に何が起こっているのか!」
「うひょひょ! 何故ならば……それはミーたちの力によって引き起こされたものでヤンスからねぇ!!」
「そのとーり! アッチら三人の力を結集した究極のスキル……『ピンクルスキャッター』によってね! ……デシ!!」
強気な態度とともに、ババーンと大見えを切る三人組。
それを前にして俺はといえば――。
「……………………えぇ……?」
ただもうこうして困惑するしかなかった。




