表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/230

第12話 楽しみにしとくよ

「あっ、これ知ってる! 確かラーメンってヤツだよね!」


「お、知ってたか、今ちょっとイーロンの料理に凝っててな。つっても、これはもうちょい東の国、ミヤビのやり方も参考にしているが……。


 いや食文化ってのは奥が深いね。


「す、スープが紅いんだな……透き通ってて、きれいだ……。し、仕込んでたってのはこれのことなのか……?」


「ああそうだ。……驚け? コイツはフルボーンドラゴン(・・・・・・・・・)の骨からスープを作ってあるんだ! さしずめ『竜骨ラーメン』ってところだな!」


「おぉ! なんかすごい!」


 だろう? もっと褒めてもいいんだぞ?



「……ぷは~! おっちゃんの料理はやっぱりおいしいね!」


「う、うん……。 ふ、フルボーンドラゴンの骨がこんなにおいしくなるなんて、おっちゃんはす、すごいな……」


 おいおいよせやい……!

 そんなに褒めても、俺のやる気しか出ねぇんだぜ?


「あ! だったらもっと強い魔物(モンスター)の骨を使ったら、もっとおいしくなるんじゃない!? 例えば……ウルトラスーパースペシャルアルティメットゴッドドラゴンとか!」


「いやお前、そんな攻撃力みたいに……」


 つーかそれ魔王級の魔物(モンスター)じゃねぇか。

 ラーメンのために戦うワケねぇだろ。




 食事も終え、二人には洗い物を手伝ってもらっている。

 トリアの奴は『えー?』なんて言いそうなもんだが、こういう時は結構素直だったりもする、意外にもな。


 さてと、そんじゃあ俺は書類の続きでも……と、そう思った瞬間、玄関の方から呼び鈴の音が響いてきた。


「はーい! だれだろね? こんなところに……」


「いや、はーいじゃねぇよ何ナチュラルに返事しとんだ。……だいたい、そのこんなところに入り浸ってんのは誰なんだって話だよ、まったく」


 ぶつぶつ言いながらドアを開ける。

 すると……。


「……ん? あれ!? さっきの……」


「え!? じゃあここはおじさまの……!?」


 そこには見覚えのある小さな女の子が立っていた。




 ――白い髪に白い肌。

 間違いない。冒険者ギルドにいた、あの小さな女の子だ。


 しかしなんでここに……?


「そ、それじゃあこの子は、お、おっちゃんの知り合いなのか……?」


「その、先程冒険者ギルドで、おじさまに助けていただいたんです」


「へぇそうなんだ! でもおっちゃんに変なことされなかった? このおっちゃんはこう見えて、結構むっつりさんだから……」


 おいやめろ。

 流石にそれはシャレにならんぞ。


「いえ、そんなこと! むしろおじさまは……」


 ほんのり顔を赤らめながら、少しまつげを伏せる女の子。

 なんだ? 俺がどうし――。


「おじさまは、ハク……じゃなくて、私を……大人の女性(・・・・・)にしてくれたんです……!」


「ぶーーーーー!!!!???」


 いやいやいやいや!!

 何言ってんの!?


「うえぇええぇ!!!? おっちゃん!? ボク達だけじゃ飽き足らずに、こんな小さい子にまで何したの!?」


「あわわわわわわわわ……」


「いやお前達にも何もしとらんだろ!? 人聞きの悪いことを言うんじゃねぇ! 『扱い』が抜けてんだ『扱い』が! 大人の女性『扱い』、な!?」


 俺はあわてて訂正を求める。


「あ、はいそうです! す、すみません、言葉が足りなかったみたいで……」


 いや、言葉が足りないことが問題ってわけでもないんだが……。

 ……まぁとりあえずいいか。


「そ、そういうことか……。び、びっくりした……」


「……ううん、まだだよ! もうちょっと詳しく話を聞かないと、判定結果は出せないね!」


 ……疑うねお前も。


「え、えっと……最初は『痛くないか?』って聞かれたんです……。その後は『子ども扱いしない』って言いながらいろいろと優しく……こ、これ以上は恥ずかしくて言えません……!」


「おっちゃん!!!? ねぇおっちゃん!!!?」


「あわわわわわわわわわわわわわわわわ…………!」


「いやいやまてまてまて!! ホントに誤解だから!! 誤解だから!!!!」



 ~説明中~



「すみません、一人でちゃんとできなかったことが恥ずかしくて……」


「お、お話は聞かせていただきました……。そ、それではトリアさん……は、判定を……」


 なんだその喋り方は。


「ん~~…………、グレーー!!!!」


「いやなんでだよ!? ホワイトホワイト!! 完全なる潔白だっただろ!?」


「えー? でもおっちゃん前科があるし……。ボクのおっぱい見たりとか、ネルネのぱんつも見たりとか……」


 いやもうそれずっと言うじゃん……。

 合鍵も渡したんだし、そろそろ許してくれても良くない? ねぇ?

 ……というか、なんか開き直ってないか?


「おっぱい、ぱ、ぱんつ……、や、やっぱりそうなんだ……」


 ……ん?

 この子今、なんかぼそっと呟かなかったか?



「ハクーニャ・シャグヤスです……! あの、ハクと呼んでください……!」

 

 ぺこりと頭を下げる女の子。

 未だかつて、自己紹介までにこんなに疲弊したことがあっただろうか。

 いや無い。


 …………ん?

 シャグヤス……シャグヤス……。


「――シャグヤス!? あの大富豪のか!?」


 おいおいマジかよ……。

 この街じゃ知らねぇ奴の方が少ないぐらいだぞ……。

 

「ふえー……、そんなお金持ちさんがこんなおっちゃんに何の用なの?」


 おいこんなとはなんだ。


「あの、噂を聞いて……」


「う、噂……?」


「はい。……ホントはちょっと不安だったんですけど、おじさまが相手なら私、頑張って見せます……! だから……!」


 見せる? なにをだ?

 ……いやまて、ひょっとしてこの流れは――。


「だから、み、見てください……! ハクの、ハクのぱん(・・)――」


「トリア! ネルネ! ハクの動きを止めろ! 優し目にな! うまくできたら好きなもん食わせてやるぞ!」


「よしきたー!」

「わ、わかった……」


「え? え? えぇ!?」


 トリアとネルネに両側から、むぎゅっと抱きしめられるハク。


 ……危なかった。

 恐らくこの後に待っていたであろう絵面は、犯罪的を通り越して、もはや犯罪の域だったに違いないからな……。




「――クエストの申請が通らなかった?」


「……はい。それで困ってたら『ここにいる人に胸やパンツを見せれば引き受けてくれるかも』って冒険者の方が……」


 二人に挟まれたままのハクが答える。

 オブラートに包んじゃいるが、実際はもっと品の無い言い方だっただろうな。


 ……フーのヤツが言ってた『噂』ってのもこれのことか。

 そんでもって……。


「トリアさん? グリネルネさん? 何か心当たりはありますかな?」


 パンツはともかく、()の件はダンジョン内での出来事だ。

 となれば必然、三人以外に知っているヤツがいるのはおかしくなってくる。

 つまり犯人は……。


「えっとぉ……? ボクはちょっとわかんないかなぁ……?」


「と、トリアと二人でランチに行ったとき、おっちゃんに胸を見られたことを、大きな声で愚痴ってたぞ……」


「わーん! ネルネなんで言っちゃうのー!?」


「ご、ごめんトリア……。で、でもこういうのは、は、早めに謝っといた方がダメージが少ない……」


「けどばれなきゃダメージ0なのにー!」


 コイツはホントに……。

 まぁコイツには、あとできっちりお仕置きをしてやるとしてだ。


 ハクが持っていたクエストの依頼書に目を通す。

 アンリアットの東、ナザリアの森の奥で摂れる『フラモネの花』の採取。


 それ自体はたいして難しいクエストじゃない。

 むしろ超が付くほど初心者向けといってもいいぐらいだ。

 問題は……。


「……ハク、お前これ一番下の項目、保護者のサインもらった後に自分で書き足したな?」


「あ、その……はい……」


 なるほどな、道理で審査が通らんワケだ。


 クエストの依頼書も、引退書類と同じく魔法陣を併用したマジックアイテムだ。

 こういうやり方をしても、すぐにばれる。

 ……いや、仮にそうでなくても――。


「『クエストにはハクーニャ・シャグヤスを同行させること』……か」


「ど、どうしても、自分の手で摂りに行きたかったんです! その……ごめんなさい……」


 ハクの風体は、どう見ても冒険者には見えない。


 まぁ、何か理由があるんだろう。

 遊びや好奇心で、こんなことをする子だとは思えんしな。

 だが……。


「な、なぁおっちゃん……、こ、これくらいなら、引き受けてあげてもいいんじゃないか……?」


「つってもなぁ……」


 確かに、フラモネの花がある場所へは往復で一時間ほど、ハクをつれても二時間もあればといったところだろう。

 ダンジョンでもないため、出てくる魔物(モンスター)もランク無しのヤツらばかりだ。


 ……が、森の中には、ダンジョン『デルフォレスト』への入り口がある。

 万が一のことを考えると……。


「……え、エルダースライムの時もな、お、おっちゃんが引き受けてくれたから、わたしは夢を一つ叶えることができたんだ……。き、きっとハクにも何か事情があるんだと思う……。だから……」


「ネルネ……」


「そうだよおっちゃん! ここで動かなきゃカッコよくないよ!」


 ……まぁどれだけ他人に否定されても、何かを成し遂げたいって気持ちは良く分かる。俺も少し前まではそうだったしな。

 カッコイイかどうかは置いておくとして……ま、仕方がないか。


「……わかったよ。ただし、危険だと判断したら即中止するからな?」


「おじさま……! ありがとうございます……!」


 礼なら、二人に言うといいぞ。

 俺一人の判断だったら、断ってたかもしれんからな。


「あのおじさま……! 私とっても嬉しいです! だから……、あ、もちろんお金は払います! でもそれだけじゃなくて……」


 ハクが頬を染めながら、こちらを見つめてくる。

 そして……。



「その……ハクのはじめて(・・・・)を、もらってくれますか……?」

 


 はいでたー。

 いやホント、これはマジでおっさんの社会的信用をぶち壊す一言だよ?


「…………えええぇえぇ!? は、ハク!? おっちゃん!!?」


「あわわわわわわわわ……! あわわわわわわわわ……!!」


「落ち着けって二人とも……」


 狼狽える二人を前にしても、おっさんは動じないね。

 なぜなら……。


「……なぁハク? はじめての()をくれるんだ?」


「あ、ハク……じゃなくて、私また言葉が足りなくて……。今度授業ではじめて(・・・・)お菓子を作るんです! だから……」


 やっぱりか、そんなことだろうと思ったよ。

 ……そんでもって確信した。多分ハクのヤツは――。


「……あぁそいつは、楽しみにしとくよ」


 ――天然で言動がアレ(・・)なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 適当に言ってるだけかと思ったら、実在するんかウルトラスーパースペシャルアルティメットゴッドドラゴンwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ