表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/230

第11話 私はもう大人です!

「はああぁあぁぁぁ!!!!?」


 冒険者ギルドにこだまする叫び声。

 ……いやまぁ何となく、こんな風になるんじゃねぇかとは思っていたがな。


「あー……おいおい受付のおねーさん? あんまり大きい声出すと周りに迷惑ではないですかね?」


「あっと、し、失礼しました~。 ……ほれイルヴィス! アンタはこっち来い!」


 声の主であるそいつは、大声につられて集まった視線たちにぺこりと一度お辞儀をすると、俺を引っ張るように別室へと連れて行く。



「イルヴィス、アンタなぁ……」


「まぁまぁそう言うなって、フー?」


 フーはここ、冒険者ギルドの受付で働いているハーフリングだ。

 コイツとウリメイラ、それと他のもう二人を合わせて、結構長い付き合いだったりする。


「そら言いたくもなるわ。毎度毎度、『引退します~』言いながらガンガン戦闘力(ステータス)上げて来よってからに……しかも今回は最上級クラスやと?」


「いやホント、手間かけさせてるのは悪く思ってるって……」


 俺も迷惑かけたくてやってるわけじゃないんだよ?

 その辺のことは何とか理解していただけるとありがたいね。


「手間がどうの言ってんのとちゃう! ……アンタなぁ、今、世界に最上級冒険者がどんくらいおるんかわかっとんのか? 十万人にも届かへんのやで?」


「えーっと……結構多いな……?」


「どあほ。 冒険者全体の1%にも満たれへんわ。……さらにその上、『英雄級』となったら数千人、『勇者級』ともなれば、ウチが知る限りでも五人ほどしかおらへん。それやのにアンタってやつは……」


「いやいやまてまて、勇者はもっといるだろ? 今年も勇者検定の年なんだし……」


「はっ! ゆうしゃけんてい~? あんなもん真の勇者とは認められへんなぁ!? せめてマナプール三万まで育てて出直してこいや!」


 おいおい、冒険者ギルド側の人間がそれ言っていいのか……?

 あれは国が定めて、冒険者ギルドが主催してる国際検定だろうに……。


「おっとこれは内緒な? もし喋ったら、『この人に夜道で襲われましたー』って言いふらすからな」


「お前な……」


 なんつう脅迫するんだコイツは。



「……しかし、三万、ねぇ」


「何を他人(ひと)事みたいに……。アンタかて、もうそうなる可能性の一人やんか」


「いやだから俺は……」


「わかっとる。スーパー大器晩成、確かに使いようによっちゃ危険な力や。……けど、ウチはもしアンタがこのまま強なっても、例えば勇者になんかなったりしても、そないに悪いことにはならんと思っとる」


 フーが真面目な顔で俺を見つめてくる。

 コイツがこういう目で嘘をつくような奴じゃないことは知っているが……。


「……買いかぶりすぎだっつの」


 ただのおっさんだぞ? 俺は。


「あーそれとな……その、アンタの噂のことなんやけど……」


「噂? 噂っていうと……」


 ああ、『どれだけレベルが上がっても、荷物持ちしかできない役立たず』ってやつか。まぁ今となってはそう思われてたほうが気楽だがね。

 皮肉なもんだよホント。


「あっいや、ウチは信じとるワケやあらへんよ!? あ、当たり前やん!?」


「え? ああ……ん?」


「け、けどまぁウチもな? どうしても言うんならその、……む、胸ぐらいは好きにさせたるから……あ、あんまり悪い事に手ぇ出したらあかんで!?」


 なんだ? なんか会話が噛み合ってないつーか……。

 …………いやまてまてまて!?


「は!? なにがどうしてそうなるんだよ!?」


「う、うっさい!! もうええから、ほれ! 書類持って帰り!!」


 分厚い書類を押しつけられて、部屋から叩き出される。

 えぇ、どういうことなのこれ……。





 冒険者ギルドから出ようとしたところで、少し立ち止まって振り返る。

 ……いやホント、フーのあれなんだったんだ?

 また変なことになってなきゃいいが……。


 書類も多いし不安も多い。

 憂鬱だよホント。


「……きゃっ!」

「おっと」


 しまった、考え事してたもんだから誰かにぶつかっちまったか。

 

 相手は……子供? 白い髪と白い肌の、ちいさな女の子だ。

 しかしまたなんで冒険者ギルド(こんなところ)に……?


 とりあえず、立たせてやらねぇと……。


「悪かったな、嬢ちゃん? ほら、立てるか? 痛いとこは無いか?」


 そう言いながら手を差し出す。


「……あ、あの! ハク……じゃなくて、私はもう大人です! こ、子ども扱いしないでください!」


 おっとなるほど、そういう年ごろってワケか。

 女の子は成長が早いね。俺たち男とは大違いだよ。


 俺はしゃがみ込んで目線を合わせ、改めて手を差し出す。


「そいつは重ねてすまなかった。なんせ俺は教養が無いからな、女性の扱いってモンを知らなかったんだ」


「あ、その……いえ……あ、ありがとうございます」


 女の子は俺の手につかまって立ち上がると、今度は素直にお礼を言った。

 どうやら悪い子じゃなさそうだな。


「そんで、どうしたんだこんなトコで? あっと、子供扱いしてるワケじゃないぞ? 男として、困ってる女性は見過ごせないってやつだ」


 周りに保護者の姿もない。

 流石に冒険者ギルドに一人で遊びに来ましたってことはないだろう。


「あ、えっと私、これを提出しに来たんですけど、その、ど、どうすればいいのか分からなくて……」


 こいつは……クエストの依頼書か。

 保護者のサインもある、お使いってところなのかね。


 それなら後は受付に行けば、フーのヤツがうまくやってくれるだろ。

 そう思い、女の子を受付の近くまで案内してやる。


「ほら、ソコの受付で依頼書を出せばいろいろと手続きをしてくれるはずだ。あとは大丈夫か?」


「は、はい! ありがとうございます!」


 うん、いい返事だね。

 一緒にいてやってもいいんだが……まぁ見知らぬおっさんが隣にいちゃ、やりにくいこともあるだろう。


 それになんとなく、今はフーと顔を合わせづらいしな……。


「あの……、さっきは良くない態度をとっちゃってすみませんでした! ハク……じゃなくて、私、一人でちゃんとやらなきゃって思って、それで……」


「はは、いいっていいて、こっちこそ子供扱いして悪かったな」


 なんだ、素直ないい子じゃないか。

 ウチのポンコツにも見習わせたいもんだね、ホント。





「……あ、いた! おっちゃーん!」


 再び冒険者ギルドを出たところで、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 トリアと……ネルネも一緒か。


「よ、よかった……入れ違いにならなくて……」


「もー部屋に行ったのにいないんだもん。ホントにちゃんと四六時中ボクのこと考えてくれてるの!?」


「……お前、それで俺が一回でもイエスっつったことあんのかよ?」


「ないから問題なんでしょ! まったく……」


 なんでいつも俺の方が悪いみたいに言えるのコイツ?

 理不尽。


「はぁ、まあいいか。……そんで、今日はなんか用事があったのか?」


「え、ううん別にないよ?」


 コイツは……。


「お、おっちゃんはギルドに何しに来たんだ……? ひょっとしてココに、す、スライム的な何かが……?」


 なワケあるかい。

 コイツもコイツで相変わらずだな。


「これだよこれ、新しい引退の書類を取りに来たんだ」


 この分厚い書類の束をな。


「え!? …………ねぇおっちゃん? それ重いでしょ? ボクがおうちにつくまで持っててあげるよ! だからね? ほら、大人しくそれこっちに渡して?」


「ほぉ、今日は随分と殊勝じゃねぇか。けどなぁ、カワイイカワイイトリアちゃんに、こんな重いモン持たせるわけにはいかんからなぁ? ほら、男として?」


「むー! こんな時ばっかりそんなこと言ってー!」


 そりゃ完全に、お互いさまだろ。

 まったく……。





「ただいまー!」


 いや、ただいまはおかしいだろ。

 ここはお前ん家か。


「た、ただいま……」


 お前もかい。

 ……まぁいいか、今さらだしな。


「今ちょっとごちゃごちゃしてるから、キッチンには入るんじゃねぇぞ」


「はーい。あ! ねぇおっちゃん、合鍵ってどこにあるの? また今日みたいになったら困るから、一つ持ってようかなって」


「持ってようかなってお前な……。それで、『そうだな!はいこれ!』って渡すやつがいたら、そいつの危機意識ってヤツを疑うね俺は」


「えー! なんでー!?」


 なんでじゃあるかい。


「お、おっちゃんおっちゃん……」


 今度はネルネが、服の裾をくいくいと引っ張ってくる。


「わ、わたしはわざわざ合鍵を用意してくれなくても、か、鍵の型をスライムでとらせてくれれば、それで……」


「え!? ネルネのスライムそんなこともできるの!?」


「ま、魔法のかかってない、単純なものに限るけどな……。だ、だからおっちゃんに手間をかけたりしないから、あ、安心してほしい……」


 いや安心できないよ?

 むしろそっちの方が性質(タチ)悪いまであるからね?


「どっちにしろ駄目だっつの。だいたいな、年頃の女の子がいい歳したおっさん家に入り浸ってるってのがもう……」


「……そんなこと言って、ボクのおっぱいだって見たくせに……」


 うっ……。


「わ、わたしも、ぱ、ぱ、ぱんつを見られた……見られた……」


「いやあれはだな……その、不可抗力っつーかなんというか……」


 実際、俺にやましいことはない。

 だが、見てしまったことにもかわりはないワケで……。

 そうやってじーっと見つめられると、こう、罪悪感というかそういうのが……。


「あーもう、分かった、分かったよ。……悪用はすんじゃねぇぞ?」


「うん! やたー!」


「や、約束する……うれしい……」


 まったく、おっさん家の鍵を手に入れて何がそんなに嬉しいんだか。

 上機嫌の二人をよそに、ソファに深く座り込む。


 ……そういや、あの白い髪の女の子。

 あの子のお使いは、ちゃんとうまくいっただろうか。

 ま、フーのヤツがいるし、問題はないと思うがな。


「ねぇおっちゃん? そろそろお昼の時間じゃない?」


「……はぁ、分かったから少し待ってろ。今仕込んでるやつを食わせてやるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ