番外編 ワールズレコード004:スキル
「悪かったな、エルダースライム倒しちまって……」
「う、ううん、人と魔物はどうしたって相いれない……。それはわかっているから大丈夫だ……」
『踵の道標』が魔法陣を描いている間、ネルネは蒸発したエルダースライムのいた場所を見つめていた。
……もちろん、ちゃんとパンツは隠した状態で、だ。
「おっちゃんの方こそ、あ、アイテム使い果たしてしまったんだろ……? わ、わたしのために……ごめん……」
「それこそ気にすんな。アイテムなんてもんは、いざという時に使ってなんぼだ」
まぁ世の中にはアイテムを大事にしすぎて、使わずにそのままやられちまうヤツなんてのもいるらしいけどな。
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ワールズレコード004:スキル
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「そういやネルネ、お前のスライムスキルって、全部自分で作ったのか?」
「う、うん。ほ、ほとんど独学だけど……」
「へぇすごいねぇ! えーと、確か『プログラム』っていうんだっけ? ボクそういうのよくわかんないからさ、『メテオパンチ』も作ってもらったんだよねー」
スキル屋か。
アクティブスキルのプログラミングを専門としてる奴らだな。
トリアの『メテオパンチ』、ネルネの『スライムマン』などなど……。
アクティブスキルは強力な分、自分に合ったものを作るのには手間と時間がかかる。
マナの挙動、身体の動き、発動条件、その他あらゆる要素を考慮して、何をどうしたらどういう効果が出るのかを細かくプログラムしなけりゃならんからな。
スキル屋はそれを代行してくれるってワケだ。
……もちろん、無料とはいかないが。
「ちなみにお前、まさか肉体強化なんかのマナの割り当てまで、他人任せにしちゃいないだろうな……?」
「だいじょーぶ! 流石にそれは何とか自分でやってるよー」
まぁそりゃそうか。
肉体強化なんかは、冒険者には欠かせないアクティブスキルだからな。
下手な割り当てで、戦闘中にマナを使い切るようなことがあれば、低ランクの魔物相手にだっておだぶつだ。
「でもさ、アクティブスキルも恩恵やパッシブスキルみたいに、マナの消費がなくなればいいのになー」
まぁ、それらは女神の加護で大気中のマナを吸収して発動しているわけであって、厳密にはマナの消費が無いわけじゃあ無いんだがな。
「……そう言えばさ、ボク恩恵とパッシブスキルの違いってよくわかんないんだよね」
「お前また……」
「や、なんとなくはわかるんだよ!? でも……」
「じ、じつはわたしも……あ、あんまり詳しくは……」
ネルネもか!?
いや、そうか……。
「そういやその辺、基本学校のスキル学からは大幅に削られたんだったな」
今からだと……確か22年前ぐらいだったか?
『スキル第一主義の崩壊』なんて言われてるアレだな。
「恩恵ってのは知っての通り、戦女神『ガッチャ』から与えられるスキルだ、流石にそれは知ってるよな」
「うんうん」
「対して、パッシブスキルっていうのは戦女神『ラーン』が、一人一人に定めたスキルなんだ」
「さ、定めた……?」
「そうだな……例えばここにとりあちゃんがいるとするだろ?」
魔法薬の空き瓶に、ちょんちょんと顔を書いて……完成っと。
「おお、かわいい子が出てきたね!」
「たとえコイツがひどく怠け者で、ずっとごろごろしていても、時期が来れば恩恵は与えられる」
「ボクそんなんじゃないよ!?」
空き瓶を転がす俺に、トリアが激しく抗議する。
「まぁまぁ、あくまでとりあちゃんの話だ。続きだが、パッシブスキルってのはそうはいかない」
続いて俺は、瓶のふたを開けると、中に水を注ぎながら説明を続ける。
「とりあちゃんが一念発起して行動し、ラーンの定めた様々な水準まで自分を育てないと、獲得はできないってワケだ」
「ああ……、空き瓶のふたが、とれたり戻ったり……」
「す、水準っていうと……れ、レベルとか……?」
「レベルもそうだな。他にも技術だったり、スキルだったり、行動だったり……、まぁそのへんは、個人によって大分違ってくる」
一概にこうだとは言えんワケだ。
「あとは……、両方とも受動的なスキルってのに変わりはないんだが、恩恵は能力に、パッシブスキルは体質に、それぞれ影響を与えるってところか」
「えーっとぉ……?」
「そうだな……。ネルネ、少し冒険者カードを見せてくれるか?」
「え、そ、それは構わないが……。な、なんかこういうタイミングで見せるのは、ちょっと恥ずかしいな……」
「あー、おっちゃんそれセクハラなんじゃないのー?」
「なんでだ」
というかやめろ。
最近はそういうの、結構すぐ問題になるんだぞ。
「とにかく、ネルネの恩恵『夢中工房』は、好きなもの……ネルネの場合はスライムだな、それを精製する能力を底上げするだろ?」
「う、うん」
「対して、パッシブスキルの……例えばこれだ『スライム毒無効』。同じスライムに対する効果でも、こっちはネルネの体質に影響が出てるってワケだ」
「へぇなるほどー」
もちろん能力が体質に、体質が能力に影響を及ぼす場合も多々あるが……。
まぁそういった応用的なことは、自分で気づいたほうが能力の向上につながりやすいらしいしな。
「……ねぇおっちゃん? 勇者になるために、それっぽいスキルを獲得したいなって思ったとするよね? でも、パッシブスキルの水準は、個人によって全然違うんでしょ?」
「そうだな」
「だったら、何をどうすれば良いのか分からなくない? 魔物とたくさん戦ったり? それともお稽古がんばったり? う~ん……」
お、珍しくちゃんと頭を使ってるな。
だが……。
「あぁ、別にいいんだよそれで」
「え?」
つーか、学校で詳しく教えなくなったのもそれが理由だしな。
「そもそも他人と同じことしても同じパッシブスキルを身に着けられるわけじゃないし、恩恵なんてのはもう、くじ引きみたいなもんだ」
「くじ引きか……た、確かにそうかもしれない……」
「『スキルがあるから頑張る』だの『スキルのために頑張る』だの言ってるヤツより、『スキルが無くても頑張る』ってやつの方が、結果的に大きな功績を残したりすることもある」
実際に俺も、そう言うヤツを何人か知っている。
「力を持っていても持っていなくても、やるヤツはやるし、やらないヤツはやらない……。ま、結局、大切なのはそういうトコだろ?」
スキル、効率、そういったものが大事なのは確かだが、けっして一番じゃないと俺は思うね。
盲目的に追い求めすぎると、見えなくなるものがあったりするもんだ。
「まぁ? このとりあちゃんみたいに怠けてばっかの奴じゃ、勇者なんてのは夢のまた夢だろうがな?」
「ふ、ふふ……。 と、とりあちゃんは、もっと頑張らないとな……」
「やめてー! とりあちゃんをいじめないでー!」
トリアがとりあちゃんを抱きしめるようにかばう。
そんなことをしている内に、転送魔法陣が完成したようだ。
さぁ、気絶してる三馬鹿を引きずって、とっとと帰るとしようかね。