番外編 ワールズレコード003:ダンジョンその1
ビジレスハイヴの探索中。
……階層図ってのはホントありがたいね。
あれから少し探したところで、一晩明かすのにちょうどいい場所を見つけた。
「すごい! ベッドがある!」
まぁそう言うことだ。
しかも部屋になっていて扉も一つ。警戒もしやすいときている。
流石にこんなに至れり尽くせりな地形は、ビジレスハイヴ特有のものだがな。
「あれ、おっちゃんそれ何飲んでるの?」
「ん? こいつは『羊除けの小瓶』っつってな。ま、一晩だけなら眠らなくてもよくなる薬だな」
「えぇ!? おっちゃん! いくらカワイイ女の子が二人もいるからって、寝てる間に何するつもりなの!!」
「ふ、二人って……、わ、わたしもか……!? わたしなんてそんな……」
「ちげーよ! お前の頭の中の俺はなんでいつもそんなヤツなんだよ!!」
魔物避けのマジックアイテムは使用するが、それでも見張りが必要なんだっつの。念のためにな。
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ワールズレコード003:ダンジョンその1
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「そう言えばさ、ほとんど他の冒険者には出会わなかったね?」
確かにそうだな。
これだけ潜っていれば、もう少し冒険者と出くわしそうなもんだが……。
「え、ランクSの魔物の噂が出ているからな……。ほ、他の冒険者はきっと、別のダンジョンに向かっているんじゃないか……?」
「まぁ、俺らの住んでるアンリアットの周辺じゃ、そこそこの数のダンジョンが見つかってるからなぁ」
探索には事欠かないってワケだ。
「ホントに多いよね、この辺。ボクの地元になんて、いっこしかなかったのにさー! ずるいよおっちゃん!」
「なんで俺に言うんだよ」
つか、ずるいってなんだ。
「あ、ねぇねぇ! せっかくだからこの辺のダンジョンのこと教えてよ!」
「……お前ね。そんなことしてる暇があるなら、少しでも寝て体を休めとけよ」
「えー、いいじゃん! 寝るまでの間だけ! ね!」
「ったく、ホントに少しだけだぞ……」
「うんうん! やたー!」
子供に絵本を読み聞かせる親ってのはこういう気持なんかね。
……いや、体がデカい分こっちの方が性質が悪いのかもしれんが。
「それじゃまずは……ここ、『ビジレスハイヴ』だな」
俺は天井を指さしながらそう口にする。
「ここ面白いよねー。外見もそうだったけど、中身もお屋敷みたいだし!」
「へ、部屋の大きさや配置なんかは、ず、随分とでたらめだけどな……」
おまけにだだっ広いときたもんだ。
こんなところに住んでたら、心を病んでく自信があるね。
「出てくるのは『ドッペル』属、人型の魔物ばっかりだね」
「ど、ドッペル属ばかりのダンジョンっていうのは、実は珍しいんだ……。ここに出るのは、き、貴族やそれに仕える料理人なんかの姿をした魔物が多いかな……」
「他のダンジョンには、騎士や魔法使いみたいなヤツらもいるが、そいつら冒険者が落とした装備品なんかも拾って使うらしいからなぁ……」
あんまりお目にかかりたくはないもんだね。
「人型といえば、トリア? お前が大好きな『バラバットセメタリー』にも多いよな?」
「うー……。おっちゃんのいじわる……」
「はは、悪い悪い」
けどま、いつもは振り回されてばかりだからな。
たまにはこうして反撃しとくのも悪くない。
「ば、バラバットセメタリー……、あの墓地みたいなところ、だな……」
「ボクあそこヤダ! ゾンビとか、スケルトンとか、そう言うコワイのばっかり出てくるんだもん!」
「『ホラー』属の魔物だな。言っとくけど、アレはあくまでもそれっぽいだけであって、ホントの人間の成れの果てとかじゃねぇんだぞ?」
「それは知ってるけど……怖いものは怖いの!」
まぁ、気持ちは分からんでもないか。
「もー、ソコの話はおしまい! もっとカワイイ魔物が出るとことかないの!?」
「可愛い魔物って、お前な……」
「か、カワイイ魔物か……。わ、わたしはたくさん出るところ知ってるぞ……」
「え!? どこどこ!?」
いや、こいつの言うカワイイはもしかして……。
「ぱ、『パニティンサイド』……。ち、地下水路から行けるダンジョンだ」
「地下水路? それってもしかして……」
「う、うん、あそこは『パラダイム』属の巣窟だからな……。特にスライムがよく出てくる……いい……」
やっぱりか……。
そんなんじゃねぇかと思ったよ。
「へぇー! ねぇ今度一緒に行こ! どんなスライムが好きなのか、教えてくれてもいいよ!」
相変わらず若干上からものを言うね、お前は。
……しかし、意外な反応だな。
「い、一緒にか……? わ、私は嬉しいけど……。トリアは気持ち悪いとか言わないのか……? その、す、スライムとか……」
「そりゃースライムは気持ち悪いよ? でもいいじゃん、気持ち悪いものが好きでも! 何を好きになったって、悪いことなんてないんだからさ!」
「と、トリア……!」
……なるほどな。
コイツのこういうところは、素直に尊敬するね、ホントに。
「だから、ネルネがどんなスライムが好きか、ボクも一緒に見てみたいな!」
「う、うん、行く……。わたしも、トリアと一緒に行きたい……」
「やたー! もちろん、その時はおっちゃんもね!」
「俺もかよ!? ……ま、考えとくよ」
「もー、すぐそういう言い方するー」
悪かったな、こういう性格なんだよ俺は。
……けどまぁ、冒険者じゃなく荷物持ちとしてぐらいなら、一緒に行くのも悪くはない……かもな。
「……ほら、流石にもうそろそろ寝ろよ」
「はーい。あ、おっちゃん、ボク達が寝てる間に変なことしちゃだめだよ?」
「へ、へんなこと……!? す、するのかおっちゃん……!?」
「いやしねぇよ!?」
だからなんでお前らの中の俺はそんなヤツなんだよ。
「おっちゃんも男のヒトだからね! ぱんつとか覗かれないように、ちゃんとお布団かぶっとかないと!」
「ぱ、ぱんつ……!? ぱんつはその……こ、困る……」
「だからしねぇって……」
……俺ってひょっとして信用無いのか?