表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/230

第9話 信じられるか?

「――おっちゃんあそこ!」


 奥まった廊下の角……確かにドレッシーブラッドとごろつきどもだな。

 追い詰められちゃいるがどうやらまだやられちゃいないらしい。悪運が強いというかなんというか……。


「でもこれ間に合うかな……!?」


「トリアはとりあえずそのまま走れ! ネルネ、悪いがさっき話した通り……」


「わ、わかった……! こ、ここからはわたしも戦闘に参加する……! パ、『パワースライム』……!」


 ネルネの袖から飛び出してくる赤いスライム。

 そいつは俺の襟元へと飛びつくと、背中へずるりと入り込んできた。

 そしてそのまま、筋肉を覆うように広がり始め……。


「おおお、こ、こいつは……」


 ……ネルネには悪いが、これは予想以上に不快感がすごい。

 泣きそう。


 だがまぁ、そうも言ってられん。俺は予備のナイフを一本とりだし、魔物(モンスター)へ投げつけてやる。


 つっても特に何の変哲もない、一般的な対魔物(モンスター)用のナイフだ。もちろん軽々と弾かれてしまう。

 だが……!

 

「こっちを警戒し始めたな……! 十分だ!」


 ただのナイフの投擲だけでもこっちの方が脅威だと感じてくれたんだ。

 スライムの効果はてきめん(・・・・)だな。


 接近中のトリアが一足先に交戦にはいる。

 俺もそれに追従し、別のナイフを構えて距離を詰める。


「油断すんなよ! 目立った弱点が無い分、フルボーンドラゴンより厄介だぞ!」


「うんわかった! おっちゃんもね!」


 ……………………

 …………

 ……



「……ふぅ、思ったほどには手こずらなかったか」


 ドレッシーブラッドはランクA。もっと苦戦もするかと思ったが……。

 まぁ上級クラスが二人いるうえに、ネルネのスライムはあれでなかなか優秀だったからな。

 

「しかし、あの感触だけはなんとかならんもんか……お?」


 手の甲の紋章(レベルクレスト)が熱を持つ。

 レベルアップ、62か。あとでステータスも確認しとかねぇと。


 ……あれ?

 っつーことはこれ、また引退の書類が増えるんじゃ……?



「……っ! イルヴィスてめぇ……どんな手を使いやがった!? ランクAの魔物(モンスター)にあんな……」


 ごろつきAが立ち上がり、不快そうな顔でこちらを見ている。


 ……え、そっち?

 普通『ありがとう』とか言う場面だと思うがねぇ?


「うちのネルネ(バッファー)は有能なんだよ。よかったじゃねぇか、おかげで蘇生屋に払う金が浮いたんだしな」


 一応、嘘は言ってないぞ。

 ただまぁあれこれ面倒なことになるのは御免だからな、『スーパー大器晩成』のことは黙っておいてもいいだろ。


「おっちゃんおっちゃーん! ねぇ早く、早くこっち来て! はやくー!」


「わかったわかったちょっと待ってろっての! ……それとあいつらに感謝しろよ? 俺はバリバリ見捨てるつもりだったんだからな」


 こんなところでつまらんことしてないで、とっとと帰ることをオススメするね。

 そんなことを考えながら奥まった廊下を進んでいくと、吹き抜けになった広めの空間へとたたどり着く。


 回廊のように張り巡らされた廊下から、手すり越しに下を覗いてみると……どうやら一つ下の階層、つまり三十一階層が見えるようだ。

 すると……。


「え、え、え、エルダースライムだ……!! やっと、やっと出会えた……!!」


 そこにいた巨大なスライムをキラキラした目で見つめながら、感極まるようにつぶやくネルネ。


 よっぽど好きなんだねぇホント。

 正直言って、俺にはアレの良さは分からんが……。


 ……ま、この顔を見れたってのは悪くはないね。



「はわー……すっごい、でっかいんだねぇ……。こーんなに大きいスライム初めて見たよー」


「出現したのは三十二階層っつってたが……一つ上の階層まで移動して来てたみたいだな。せっかくだ、もう少し近くで見えるような場所探そうぜ」


「え……? い、いいのか……?」


「良くなかったら言わねぇさ。……おいトリアそこトラップあるから気をつけろよ、また落っこちるぞ」


「うえ!? うひー、あぶないあぶない……」


 現在地を階層図と照らし合わせ、よさげな観光スポットを探してみる。

 これもそこそこの出費だったんだ、ちゃんと有効活用しねぇとな。


 ……うわ、近くに魔物(モンスター)ルームまであんのか。

 気を付けねぇと……。



「――待ちやがれイルヴィス!!」


 ……って、おいおいまだつっかかってくんのかよ。

 勘弁してくれって……。


「なんか用かごろつきA? 地上までのエスコートをってんなら今度はきっちり案内料とるかんな」


「誰がごろつきAだ!! くそ、そうだ……! てめぇみてぇな……てめぇみてぇな役立たずが、あ、あんな風に戦えるわけねぇんだ……!」


「だからそれはうちのバッファーが優秀で……」


「とぼけんな! くそ! くそ! どうせ汚えマネをしやがったに決まってる! 俺がお前より……お前より下なわけがねぇんだよ!!」


 ……あぁこれはあれか。

 見下してたヤツに助けられたのがどうあっても認められないっつーか……小さいヤツだよホントに。


 ……まぁその焦燥感やらなんやらは、まったく分からんわけじゃないが。


「おい、流石にもうやめとけって……」


「うるせぇ! どけ!!」


 仲間の忠告も無視し、興奮気味にこちらへ近づいてくるごろつきA。

 ……ん?  おいちょっと待て……?

 

「ストップ! そこで止まれ! それ以上は……」


「へっへっへ……! その慌て様、さてはなんか隠してやがるな……? 化けの皮を剥いでやるよ! このインチキ野郎!!」


 お仲間の言葉も無視するぐらいだ。

 そりゃあ俺の言葉にも耳を貸さんわな。


 そいつはゆがんだ笑顔を俺に向けながら、ずんずんと距離を詰めて来て……。



 ……そしてそのままバンッと空いた穴に吸い込まれるように落ちていった。



「「ええええええええええ!!!!?」」


 いやそりゃお仲間さんたちもそうなるよ、俺もそうだったもん……。

 だーから来るなっつったのに……。


「ありゃー、コントみたいだねぇ」


 お前がそれ言っちゃう?


 落ちた先は一階層下、まさに今吹き抜けから見えてる場所のようだ。

 つまりエルダースライムの目と鼻の先なワケで……。


「……た、助けてくれぇ! いや、助けてくださいイルヴィスさん!! いやイルヴィス様!!」


 おおう、なんというかこれは……。

 いろんな意味でこう、流石にいたたまれなくなってくるぞ……。


「しかし、そう言われてもな……どうするよこれ……」


 エルダースライムはランクS。

 しかも図鑑によれば、ランクSの中でもそこそこ強い方らしい。


 上級クラスの冒険者が二人だけでは、正直相手にならんだろう。

 どうしたもんか……。



「……! お、おっちゃん、エルダースライムの様子が……!」


「え……? うおおっ!!?」


 ネルネが何かを言い終わらないうちに大きな衝撃が俺たちを襲う。


 エルダースライムか……!!

 自在な身体を四方八方へ槍のように突き伸ばし、こっちにまで攻撃を仕掛けてきやがった……!


 黒く濁ったゼリー状の槍が次々とダンジョン内に突き刺さり、ばかすか(・・・・)とあちこちを破壊していく。


 おいおい嘘だろ……!?

 いやもうこれ攻撃なんてもんじゃねぇよ、災害だよ災害!!


 これがランクS……。

 最上級の冒険者が戦う魔物(モンスター)ってワケか……!!



「うわぁっ!?」


「……っ!? トリア!!」


 クソッ! 崩壊した足場に巻き込まれたのか!?

 崩れた場所を覗き込むと……。


「トリア! 無事か!?」


「だ、だいじょーぶ、なんとか……! で、でも……『今のところは』って言った方がいいのかも……?」


 トリアの目線の先をみる。

 ……エルダースライム、トリアの方へじりじりとにじり寄ってきてるな……!


「わー!? 近づいて来てるよ!! おっちゃん! おっちゃーん!!」


「とりあえず落ち着け! あの三馬鹿どもはどこいった……!?」


 せめて少しでも戦力を補強して……。


「お、おっちゃんあそこ……! と、トリアの後ろで……さ、三人並んで気絶してるな……」


 あ、いた。

 なんだか安らかな顔をしているね。


 ……んっっっっとにダメだなアイツらは!

 囮にして逃げちまえ! ……と言いたいとこだが――!


「トリア! なんとか逃げられるか!?」


「ダメみたい! さっきので通路が塞がっちゃってる!」


 他の通路は……全部エルダースライムの後ろ側か……。


 素直に横を通してくれるとは思えんし、トリアのことだ、気絶している三馬鹿を放ってはおけんだろう。

 くそ、どうする……?

 

 落ち着け、考えろ。

 今の俺がただ下に降りていってったとしても結果は変わらん。

 みんな仲良く全滅だ。


 この状態からとれる最善策は……。

 

「そうだレベル……!」


 俺はさっきの戦闘でレベルが上がったのを思い出し、手の甲の紋章(レベルクレスト)に冒険者カードをかざす。

 今の戦闘力(ステータス)は……。


「ダメだ、足りねぇか……! スーパー大器晩成の力があっても、ランクSと戦うには、せめてあと1レベル……」



 ――――あと、1レベル……?

 そうかそれなら……!


「トリア! 戦わなくていい! 逃げ回って一時間……いや、三十分だけ時間を稼げるか!?」


「え!? わ、わかんない! わかんないけどやってみる!」


「よーしいい子だ! ……ネルネ、いくつかアイテムを置いておく。これとお前のスライムで、できるだけアイツをサポートしてやってくれ。それと……」


「そ、それと……?」


「俺は少しここを離れるが、必ず戻ってくる。――信じられるか?」


 ネルネの肩に手を添え、まっすぐに瞳を見つめながらそうたずねる。

 出会って間もない俺を、それでも信じてくれるかどうか――。


「あ……う、うん、信じる……! お、おっちゃんたちのおかけで、私の夢が一つ叶ったんだ……! だから……!」


「そうか……! ありがとな?」


 俺はネルネの頭をポンとひと撫ですると、立ち上がって走り出した。

 

 階層図を開き、目的の場所(・・・・・)への最短ルートをたどっていく。

 階層図(コイツ)に間違いが無けりゃこの先にある(・・)はずだ。

 奥から二番目の通路の、右から三番目の扉……!



「来たぞ……! 『魔物(モンスター)ルーム』!!」

 FANBOX(https://azitukenori.fanbox.cc/)やってます!

 今後出てくるイルヴィスパーティのキャラ設定なんかも無料公開していますので、『応援してやるぞ!』って思ってくれる方がいらっしゃいましたらフォローだけでもしていただければ一層励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ